10月3日

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サッカー
◇◆◇日本代表欧州遠征 現地レポート◇◆◇

試合前日、トルシエ監督の会見より

はじめにトルシエ監督より

 今大会はW杯への準備としてまさにふさわしいと思う。このランスというサッカーの伝統的な街でやること、これは非常にいい経験になる。スカウトが大勢来ているだろう。セネガル、ナイジェリアとも私のコネクションがあり、フランス人の監督ということでこの試合が実現した。我々のポリシーの優勝だ。セネガルはW杯を決め、屋内リーグでのモチベーションも高い。ひとつ上の経験を強化できるはずだ。

質疑応答

──日本選手のクオリティのよさは
監督 持論のひとつだが、日本サッカーの発展は日本選手が海外でプレーをすることに寄るものだと思う。これほど早く、大勢の選手が行くことになったのは、本当にうれしい驚きだった。これがこれから10年の日本サッカーを支えるはずだ。欧州の監督やスカウトが来ることになるだろう。我々の本当の力を見極めるだろう。

──今回は守備をベースにした戦いになるのですか
監督 そうですね。セネガルの個人個人の技術を見ると、我々のDFには明日、問題も起きるかもしれない。繰り返しになるが、セネガルはW杯に決まって自信に溢れているし、フランス国内でのモチベーションもある。監督もフランス人で、非常に組織的にサッカーを行なう。明日は親善試合というものではなくて、向こうもいろいろと真剣に試してくるだろう。力関係を把握することだ。比喩にたとえるならば富士山を上るんだったら、ランニングシューズで上ることになるだろう。どういう戦いになるかしっかり(前もって)考えなくてはならない。新しい選手を試すとか、試合の途中で出て来る選手、切り札というような選手をどう使うかを課題にしている。

──中田、森島のいない部分はどうするか
監督 9人でやるしかない。それで負ければいい言い訳になる。中田がいなくて勝てば、日本のプレス(報道陣)は、セネガルは強くなかったから、というだろう。逆にいいんじゃないですか、色々なチャンスが回ってくるし、過去にもそういう選手がいない中で新しい選手が出てきている。確かにケガでいないのは残念だが、私は気にしてない。明日も私は、全体のバランスを考えるだけだ。

──現時点でのベストメンバーか
監督 そうだ。来ている選手に問題がないことは明らかだ。しかし今言われたベストメンバーの定義はどういうものかわからない。チームの組織が問題で、個人個人で見ているわけではない。きちんとチーム、グループの中で生活できる人、どういう人を使えばチームが強くなるか、サッカー的なバランスだけではない。

──2つの大会で日本代表はアフリカに負けている。アフリカとの対戦では、何が重要なポイントになるか
監督 難しい。アフリカのチームといえば当然、黒人のアスリートというイメージがある。アメリカのスポーツ、NBAにしてもトップで選手のジャンプ、スピードもすばらしいものがある。サッカーでは戦術的な理解などもあり、アフリカのチームが2002年に優勝できるのではないか。海外でやることに彼らは慣れている。質問に答えるなら彼らの身体能力というか、オリジナリティ、個人力を抑制することが重要だ。逆に組織としては脅威を感じない。個人技を抑えれば、なんとかなるのではないか。

──W杯の準備の中で、アフリカチームとやる意味の価値は?
監督 FIFAのスペースを使いたかった。最初の理由として、これは大変な幸運で、なぜならアフリカの選手が欧州で大勢プレーしており、試合を組むのも楽だった。私たちのグループにアフリカが入る可能性があった。そのためにも準備をしておくべきだった。

──監督はどのレベルが成功、どのレベルで失敗という考えか
監督 ミニマムの目標でW杯に優勝しなくてはならない。日本にファンがたくさんいるし、メディアからのプレッシャーもある。まあ、グループリーグの突破は我々の仕事になる。すべての試合はこの後、フィフティフィフティとなる。ホームの利点はあるし、そこは意識する。その後は何でも起きる、どういう結果も可能だと思う。

──名波の具合は
監督 日本サッカー協会の問題で、日本サッカー協会のドクターの問題であります。こちらから、ただお大事に、できるだけ早く戻ってきてください、としか言えない。

──個人的なセネガルの力をあげていたが、特に恐れている選手は
監督 もちろんみんながフランスリーグでやっていますから知っています。ランスでやっている3人は、印象深い。ジュフは得点王でもあり絶好調で、すばらしい力がある。多くの選手の情報をもって、明日の準備をしている。明日は親善試合ではなくて、もっとレベルの高いものとして考えている。

(通訳ダバディ氏)


「2日の練習から 〜豊かな表情と、いろいろな顔」

  今回の遠征では、日本代表がこれまで見せてきた表情や顔色、こういったものとはまた一味違った部分を見せてほしい、冷たい雨の中で練習が始まったとき、取材していた誰もがそう思ったのではないか。
 リールでセネガル、サウザンプトンでナイジェリアと続く試合は、トルシエ監督のアフリカ時代のさまざまなコネクションによって実現したといっていいだろう。2002年への残り数少ない海外遠征でもしもテーマと呼べる部分を見つけるとすれば、これまでの代表とは違う、一言で表現すれば「新しさ」だろう。それが生まれてこなければ、テロの危険性は常に世界中変わらないとしても、民間航空機に飛行禁止命令が出るかもしれないような欧州の「空域」に、わざわざ飛び込んで来るような大らかさの価値もなくなってしまう。

 新しい顔と表情を作るのは、無論、海外でプレーする選手たちの存在である。
 イタリアでプレーする中田英寿(パルマ)は足首の負傷のために不参加となったが、17時間かけて到着した廣山 望(セロ・ポルテーニョ)がパラグアイ、高原直泰(ボカ・ジュニアーズ)はアルゼンチン、オランダから小野伸二(フェイエノールト)、「言葉が通じるのはうれしい」と初日の感想を聞かれて笑っていた西澤明訓(ボルトン)、稲本潤一(アーセナル)はイングランドからと、かつて観たことのなかった、ある意味で雑然として光景が、練習後に設定された記者会見で見られた。
 日本語への郷愁は別として、サッカーではおそらく、日本代表のサッカーが懐かしい、などと誰も思っていなかったはずだ。
 キリン杯には呼ばれながらチャンスがなかった廣山は「出番がいつであっても、待つことはできる」と、芯の強さを示すようなコメントをし、パラグアイで自分が生きていくために見出した「スピード」を評価してもらいたい、右でもプレーはできると証明したいと話し、別メニューで調整を行った。
「やっていてわかるのはちょっとの違いがなかなか埋まらないということ。世界との差なんて、平凡な表現ですけれど」
 ただ一人スペイン、イングランドの2か国でプレーを続ける西澤は言う。

 小野の怪我は心配ないようで、練習でも「戸惑いはない」と左サイドをこなしていた。フランスはW杯以来である。「ほんと早いね」とポツンと言ったが、3年後の自分をあの時どうイメージしていたのだろうか。
「オランダのサッカーと違って日本のほうがポンポンつなぐというか、テンポが早いですよね。今日はちょっと最初だけ戸惑った。向こうのサッカーに少しずつ慣れて、また違うサッカーになって、いろんな意味で、外国人との距離は縮まっていると思う」
 アフリカ選手の印象についても、ほとんどがフランスリーグでのプレーをしていることを把握しており、「また違った感覚でのプレーになるんでしょうね」と、思案している様子を見せた。
 さまざまな人種、さまざまな国籍と言語、サッカーのプレースタイルや戦術、これがたったひとつ、たった11人の世界で表現されることは、この競技のとてつもない魅力で、危険にもなる。
 この10月、トルシエ監督が指揮を取って丸3年目を迎える。成熟と安定、信頼といったプラスの要素は実は、スポーツではマンネリと背中合わせである。これまでは、中田、名波 浩(磐田)といった選手がイタリアから帰国しては、その激しいリーグを象徴するようなプレー、正確さといった「新しい表情」を日本代表に与えて来た。
 現時点でセネガルやナイジェリアとの戦いで勝敗を結論としても何の意味もない。しかし、今回、初めて海外からこれだけの人数、しかも違う国々から集結した彼らが、その国のリーグで何を得て、どう変わったのか、安定や成熟とは違う、不安定要素や多少の不調和は、むしろエネルギーの点で大きなプラスになる。それによってこれまでの代表とは違った「表情や顔つき」が今回の遠征で見られるとすれば、これはこれで、遠征の重要な価値になる。

 日本代表は3日、午後6時(日本時間=4日、午前1時)からランス、フェリス・ボレールスタジアムで前日練習を行い、トルシエ監督が会見する。

 なお、この日、背番号が発表され、小野は初めての1桁数字となる「8」、「11」は鈴木隆行(鹿島)が付けることとなった。



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