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■サッカー株式会社
クレイグ・マクギル/著 田辺雅之/訳
2002年1月 文藝春秋 1952円

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評者・増島みどり スポーツライター 2002.2.9 update
イタリアに滞在中、こんなことがあったことを思い出す。
仕事が一段落して、MASUJIMA STADIUMのウェブマスター、田中龍也氏と国際電話でいくつか確認の電話をしていたとき、彼が、「東京で」見ているセリエA、確かインテルとミランだったと思うが、ライブで結果を教えてくれた。
フロントへファックスをピックアップに行ったとき、その「結果」を仲のいいフロントマンに何気なく伝えたところ、彼が「なんであなたが言うのか、宿代を倍取るよ、もう」と、頭を抱えられてしまった。
イタリア国内でもライブはペイビューになっており、自宅にあるか、もしくは街のピザ屋やレストランで見る。そうでなければ、全試合終了後のハイライトを「楽しみに待っている」というわけだ。日本人に、ライブの結果を告げられて怒るのも無理はない。なんだかよくわらず私たちは大笑いしたのだが、田中氏が言うには、「世界中のサッカーが一番詳しく見られるのは、おそらく日本じゃないでしょうか」ということになる。

96年、日本がW杯招致の切り札にした提案をみなさん覚えておられるだろうか。「バーチャルスタジアム」である。試合の映像を、スタジアムと同じように見られる3次元スタジアムを各地に置こうという、まさにハイテクニッポンを象徴するかのような目玉でもあったが、共催になった途端、あっさり立ち消えてしまった。
じつは、それより以前、放映権の問題でこれは無理だと、関係者は首をかしげていた。長く続いたアベランジェ(ブラジル)体制下で、FIFAの数少ないプラスの財産は「赤道以南の国もサッカーを見られたこと」だという皮肉があった。つまり、国営放送を最優先した結果、放映権料は五輪のそれと比較しても、何十分の一にしかならなかった。ビジネスには隙があったが、こうした一種暢気なビジネス感覚のお陰で何十億人が見る、といったキャッチフレーズをW杯の看板に仕立てることもできたのである。
アベランジェ体制の崩壊、すなわち2002年の日韓共催を選択した96年6月の理事会から、FIFAもIOC(国際オリンピック連盟)の悪しき伝統を見習い、放送権料の吊り上げに躍起になることになった。
結果、有料放送がメインとなり、当然のことながらシュートのワンシーンに至るまで「有料」となる。こんな状況下で、どうやって「バーチャル」などやっていられようか。映像の垂れ流しなどもはや不可能なのである。

サッカー界におけるテレビ放映権のあり方は、すでにクラブやリーグの存在そのものを支えているといえよう。膨大な資金がここからもたらされ、その分、影響力は計り知れないものになっている。日韓共催は、サッカーという競技そのものに新たな歴史を刻むものになることは間違いないが、2002年のビジネスが、今後のサッカー界にさまざまな分岐点となることもまた間違いない。良くも、悪くも、である。96年の理事会を取材した者としては、あの時の政治的な、商業主義に対する嫌悪感と同時に、スポーツの楽観的な面、つまりどんな政治も、1本の美しいゴールのもたらす歓喜には勝てないという面を信じたいとも思う。
本書は、こうした状況に、非常にタイムリーに、イングランドのジャーナリストが分析を試みたものである。選手、サポーターから、テレビ放映権、クラブ運営と、サッカービジネスをダイジェスト的にレポートしている。
商業主義とサッカーなどといったテーマをこの時期に読むことはむしろ、サッカーそのものの持つ輝きを際立たせることになるはずだ。
いずれにしても「リプレーは有料です」などと、おかしなことを言われる日に備え、ワンプレーを集中して見なくてはならない時代なのかもしれない。

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