ミルクをよく飲まない(ミルク嫌い)

   哺乳量が少ないという訴えは屡々うける相談であるが,この場合は当然のことながら次のいずれに該当するかを問診,観察して夫々に適した指導を行う必要がある.
1.原因となる疾患のある場含
 発熱,下痢,嘔吐,咳など明らかな他の病状を呈する場合は原因疾患の発見は容易といえるが,口内炎,湿疹,中耳炎など母親の気付かぬ程度の疾患が食欲不振の原因となることもあり,全身の診察は勿論慎重を要する.
2.原因となる身体的疾患のない場合
育児指導に際して問題となるのは食欲不振の原因となる身体的疾 患のない,いわゆるミルク嫌いである.この場合の共通の所見としては,体重増加は普通,またはやや不良程度で,少なくとも減少はみとめられない.気嫌がよく,元気もよいが,授乳しうとする時に限りいやがったり,すぐやめてしまうなどの点があげられよう,
屡々みられる具体例としては次の如きものがある.
(1) 人工乳が濃すぎる場合
 乳児に濃すぎる人工乳が与えつづけられる場合,しばしば食欲不振の原因となる.乳児は腎機能,殊に濃縮力が未熱であるため高蛋白または高電解質の人工乳が与えられた場合,相対的な脱水状態となり,高電解質血症をおこしやすい.その症状として食欲不振,発熱,不気嫌などがあらわれ,その結果更に脱水症状が増悪していくことになる.最近低蛋白,低電解質の調製粉乳が使用されてこのような症例は減少しているが,母親が早く太らせたい,食欲のないのをおぎないたいなどの間違った親心から,基準以上に濃い人工乳を与えがちてあるので,ミルクを飲まないという訴えの時は調製法をよく問いただすことが必要である. 夏季は殊に脱水 をおこしやすいので注意する.対策としてはまず白湯,番茶などを充分に与え,調乳を正しい濃度にもどせばよい.
(2)実際は充分量飲んでいるのだが,母親が不足と思いこんでいる場合
 体重増加は良好 であり,哺乳量を聞きだすと実際は不足していない例で,母親が育児書や粉乳の缶に記載してある月齢相当当の哺乳量にこだわっていたり,他の乳児と比ベて無用の心配をしている場合である.乳児に個人差のあること,食欲にむらのありうることなどを教示すればよい.
(3)強制授乳によるミルク嫌いの場合
 最近,殊に都会で最も多くみられる例である.(1)に記した理由で母親が−定量を無理にでも与えようとする態度 が続くと,乳児は授乳時間を不愉快なものとして哺乳をいやがるようになる.この場合,体重増加は普通ないしやや不良となるが減少することはない.気嫌,元気もよいが,授乳しようとすると哺乳瓶をみて横を向くような様子を示す,眠くてうとうとしている時はよく飲む ,人工乳以外の果汁や番茶,ないし離乳食はよく飲み,食ベる,などが共通した態度といえよう.このような 強制授乳 (forced feeding)によると考えられる時は,母親によく説明して授乳態度をかえさせる以外に対策はない.飲みたがらなければ哺乳瓶をひっこめて無理に与えようとするなと指示するのであるが, 乳児が喜んで飲むようになるには少なくとも1週 間を要する であろうから,母親には充分に指導しないと途中で挫折して矢敗することになる.この場合授乳は 飲んでも飲まなくても4時問毎に与えてみること.飲むベき時間であればねむりかけの時に与えても差し支えない.夜間は起こして飲ませる必要はない.また次項に記すミルクの変更,授乳法の変更などを併せて行ってみてもよい.
 (4)母乳は飲むが人工乳を嫌う場合
 母乳不足のため混合栄養法に移行しようとする場合などに,これ 3もよく経験される. このような場合は次の如き方法のいずれかで効果のあることが多い. @ ゴム乳首を形,硬さのちがったものに変更してみる.
A 果汁用の,ゴム乳首でない瓶を使用してみる.
B 粉乳が母乳より甘いので嫌うことがある.3カ月以後であれば,母乳の不足分として砂糖を入れない牛乳を与えてみる.
C 冷たい人工乳または牛乳を与えてみる.
D 離乳期に入っていれば人工乳または牛乳をスプ−ンで与え,あるいはコップで飲ませはじめてみる.離乳食をよく食ベるようなら注意しながら早目に進行させる.なお母乳がよく出ている場合,授乳を中止する(断乳)のは1年程度をめやすとしても差し支えない.
(5)その他の場合
 乳首の孔が大きすぎると乳児はむせやすく,小さすぎると疲れて満腹する前に飲むのをやめてしまうし,乳汁の減り方のおそいことでもわかる.母親の飲ませ方が下手な場合もあるので,飲みがわるいという訴えの際は医師.保健婦など指導者の前で実際に授乳させてみるのがよい.牛乳アレルギ−によるミルク嫌いというのは極めて稀であって,実際上問題とはならないであろう.