No 86 麻しん(はしか)その1

麻しんには、有効なワク チンがありながら、いまだ に先進諸国・発展途上国の 区別なく、子どもたちを苦 しめています。麻しんが子 どもの病気となるまでは、 長い問、全年齢に及ぶ病気 であったのです。わが国で は、江戸時代後期でも、大人が「はしか除けの呪い」 を受けたり、全快した時の 祝いの行事を描いた風俗絵 が残っています。麻しんが 「命定め」といわれて恐れら れたためでした。明治以降 は人の移動が自由となり、 交通網の発達、都市化が進 むとともに、麻しんに免疫 をもつ人口が蓄積されてき ました。集団の80%以上が 免疫をもつようになった近 年、初めて麻しんが子ども の病気として定着したので す。

感染のしかた麻しんに 免疫のない人が、患者と接 触した場合、発病を免れる 確率はわずか1%にすぎず、 麻しんの感染力の強さを示 しています。麻しんウイル スは、麻しん患者の鼻咽頭、 結膜などで増殖し、患者の せきやくしゃみなどによる 飛沫を吸って感染します。

流行の季節は、予防接種 の導入後、季節差が少なく なりましたが、やはり春先 から初夏(3〜6月)にか けて多発します。好発年齢 は、私共の過去16年間のデ ータをみると、1歳児が毎 年トップで、4歳以下が約 75%を占め、最近は年長児 に増える傾向がみられます。 麻しんば一度かかると終生 免疫が獲得できます。

症状感染後10〜11日の 潜伏期ののち、発熱、せき、 鼻みず、結膜の充血、めや になどかぜと同じような症 状が出現します。(カタル期) この時期に麻しんと診断す るのは困難です。発熱3〜 4日目に口腔内頬粘膜に数 個から数十個の針頭人の白 い小斑点(コプリック斑) が現れます。これは麻しん に特有のものなので、発し んが出る前に麻しんの診断 ができるのです。 ねつは2峰性で、一時 37℃台に下がりますが、再 び39〜40℃に上昇し、発し んが耳の後、項部から出は じめ、顔面→躯幹→上・下 肢の順に拡がっていきます。 発しんは斑状丘しんで一部 融合しますが、健康皮膚面 を残します。せきも強くな り、高熱のため意識が朦朧 としているように見えるこ ともあります。食欲もなく 脱水症状が現れやすい時期 です。合併症がなければ、 高熱は4〜5日でしだいに 下がり、発しんば顔面から 順次消えていきますが、褐 色の色素沈着をしばらく残 します。これも麻しんの特 徴の一つです。