オオクワガタの新分類(仮説) 第3話

 Hero (1998/7/6)

 皆さん、こんちは!
-------< 謝辞 >

 このところ忙しい毎日を過ごしておりまして、なかなか原稿を書く時間が取れません。(^^;

 今回は指名された手前もあり...締め切りも迫ってるぅ〜!てな訳で焦って作りましたので、結構いい加減な内容で矛盾も生じている事と思いますが、なにとぞ御了承願います。m(_,_)m

-------< 本文 >

 今回は「オオクワガタの種分類」第3回目と言う事もあり、徐々に纏まって来た?ようです。では早速、独断と偏見で、個人的意見を書き記したいと思います。

 まず最初に、前作同様「頭部前縁眼上突起」を有しないantaeus種とschenkling種に付いては、ここでは考察しないものとして話しを進めます。> 別途考えましょう。

また、各産地は代表的な地域のみを記しましたので御了承下さい。

 さて、早速ですが、最初に私の考えた仮説の結論を挙げておきます。私の考えでは、大別すると2種で、hopeiとgrandisの第1グループとcurvidensとritsemaeの第2グループに別れ、その中が更に北と南に分かれて、北のhopeiに対する南のgrandis,北のcurvidensに対する南のritsemaeと言う様な結論としました。

《 第1グループ Hopei 》

 【 hopei種 】
  Dorcus (Hopei) hopei hopei ( 原名亜種:中国福建省 )
  Dorcus (Hopei) hopei binodulus
 【 grandis種 】
  Dorcus (Hopei) grandis grandis ( 原名亜種:Laos Xieng Khouang )
  Dorcus (Hopei) grandis formosanus

《 第2グループ Curvidens 》

 【 curvidens種 】
  Dorcus (Curvidens) curvidens curvidens ( 原名亜種:N.India )
  Dorcus (Curvidens) curvidens XX ( N.India以外の個体群 色々 )
 【 ritsemae種 】
  Dorcus (Curvidens) ritsemae ritsemae ( 原名亜種:E.Jawa )
  Dorcus (Curvidens) ritsemae kazuhisai
  Dorcus (Curvidens) ritsemae toraja
  Dorcus (Curvidens) ritsemae volscens
  Dorcus (Curvidens) ritsemae seturoi
  Dorcus (Curvidens) ritsemae curvus

 属と種の間は(亜属)を用いるのが正答のようですが、ここで示している名称は、学名では無く単なる分類記号と言う事で認識して下さい。従って( )内の記号は、同属で同種ではあるが同種と言い切るには少し遠縁に当たると言う事を表現しています。従って3名法よりも長い記号を用いらせて頂きました。

 また、第一グループの(記号)をHopeiにしようかGrandisしようか迷いましたが、取り合えずHopeiとしておきました。( 記号だから、どうでも良い事だけど...。)

 上述の結論よりお判りの通り、大分類としては前々回のSilver Back氏の分類と同じ結果と成ってしまいました。ただし種分類と言う事に成ると、若干違う様な気もします。

-------< その1.地理的考察 >

 そもそも種分けと言うのは、生物学では公知である「ウォーレスの動物地理区」がベースと成って展開されているのだと考えていますが如何でしょう?

 そうなると、原名亜種であるDorcus curvidens curvidens( N.India )とbinodulus( 韓国から日本 )やhopei( 中国 )は、皆同じ「旧北区」に位置していますので、同属同種で亜種関係にあると考えるの事が出来ます。

 また、ThaiやLaos等で産するcurvidens亜種と言われている個体群やDorcus grandis( Laos )及びDorcus formosanus( 台湾 )は、Dorcus parryi parryi( Sulawesi ),volscens( Sumatra ),ritsemae( E.Jawa ),seturoi( Mindanao ),curvus( Palawan )等と同様に「東洋区」に位置しています。つまり、これらも同属同種で亜種関係にあると考える事が出来ます。

 そうすると「北のcurvidens種」に「南のparryi種」と、Dorcus2種の仮説が浮上する訳です。また、月刊「むし」塚脇氏のレポートが効力を持つものであるならば、最新情報から言い換えると「東洋区」に産するDorcus(狭義のオオクワ)属の原名亜種はDorcus ritsemae ritsemae( E.Jawa )と言う事になり、「北のcurvidens種」に「南のritsemae種」と表現出来るかと思います。

 洪積世前期(100万年?だか前)には、地球は超大陸であったと言う話しもありますので、その頃に発祥地( 原名亜種産地 )より移動して、ウルム氷期(2〜3万年?前)以降に、狭い区域に隔離されて、それぞれの地域変異が形成されたと考えるのが自然の成り行きの様に思います。

【 ウォーレスの動物地理区 】

 生物の形態変異を、地理的視野で6区( 旧北区・エチオピア区・東洋区・オーストラリア区・新北区・新熱帯区 )に分け分類している...私が見たのは地図。

-------< その2.地理的考察を踏まえて形態的考察 >

「 旧北区のDorcus 」

 まずは身近な binodulusと、お隣のhopeiですが、その昔、binodulusをhopeiと呼んでいた様に、その特徴は酷似しています。この両種の違いは、雄の大腮形状( 第1内歯の付きかた )にて判断されるのが一般的で、雌の特徴は両種共に前翅点刻列が浅くて広く、前胸背板側縁は張り出していて殆ど区別出来ません。

 ではbinodulusやhopeiと、北インドcurvidensを比べてみましょう。雄を比較すると確かに良く似ています。学者の間でもbinodulusが、hopei種やcurvidens種へ行ったり来たりしている程ですので、この両者は酷似していると言えると思います。ただ、雌を比べてみると、前翅点刻列が前者は上述の如く浅く広いのに対し、北インドcurvidensは深く狭いと言う違いが顕著に見受けられ、前胸背板側縁の張り出し方も前者は強く後者は弱いと言う違いが見受けられます。

 ここで、かなり強引な私的意見を付け加えさせて頂くと、雄の中脚脛節に発現する1本の外刺の位置が前者は脛節中央付近から出ているのに対し、後者は中央よりやや下から出ている(脛節が短いのか?)個体が多い気がします。( 勿論全ての個体がそうでは無く、個体変異によりそう言い切れない個体もあります。)まぁ個人的な意見はさておき、上述の如く、ここでは2種のDorcusが存在する気配です。

「 東洋区のDorcus 」

 次に新名ritsemae種ですが、雄大腮の特徴だけで分類すると toraja( Sulawesi ),volscens( Sumatra ),seturoi( Mindanao )の細長くて直線的な大腮を持つ種 と ritsemae( E.Jawa )の太短く湾曲した大腮を持つ種 と kazuhisai( W.Jawa )のcurvidens的大腮を持つ種 と curvus( Palawan )の細長く湾曲している大腮を持つ種の4種の様にも思えますが、これを雄の頭部前縁眼上突起の特徴で分類すると、toraja( Sulawesi ),volscens( Sumatra )の突起が大きくで間隔が狭い種 と seturoi( Mindanao ),ritsemae( E.Jawa )の突起が小さく間隔が広い種 と kazuhisai( W.Jawa ),curvus( Palawan )のcurvidens的種の3種の様にも思えます。ただ、雌を比較してみると、ritsemae種は全て前翅点刻列が深くて狭い特徴を有し、更に前胸背板側縁の張り出しも、原名亜種以外( ritsemaeのみ強い )は全て弱いと言う特徴が見受けられます。

 また、ThaiやLaosのcurvidens亜種と称されている個体の形態を考察してみますと、これらの個体は雄大腮が太くて湾曲が強く、原名亜種ritsemaeと酷似しています。しかも、雌はritsemae種と同じで、前翅の点刻列は深く狭い特徴があり、前胸背板側縁の張り出しも弱く殆ど区別が付きません。

 ここで再び、強引な私的意見を付け加えさせて頂くと、ritsemae種は雄の中脚脛節の1外刺が弱く消失しかけており、その位置は脛節中央付近に発現する個体が多いのに対し、curvidens種と称されている個体は上述の北インドcurvidensの強引な意見でも述べた様に、やや下から出ている個体が多い様な気がします。従って、ここでは2種のDorcus+?(原名亜種ritsemae)が浮上しました。

 さて、残るはgrandis(Laos)とformosanus(台湾)と言う事に成る訳ですが、この2種は上述した「旧北区」と「東洋区」のそれぞれの特徴を兼ね備えており、例えば、雄の大腮は太短く湾曲の強い「東洋区」のcurvidensや原名亜種ritsemaeの形状に似ているのに対し、雌は前翅点刻列は共に浅く広く、更に、胸部側縁も共に張り出しており、「旧北区」のhopeiやbinodulusの特徴をそのまま有しています。さらに、この2種はそれぞれの特徴が雌雄を問わず酷似しておりますので、同種であると言えると同時に、「東洋区」には、上述の2種+?に加え更にもう1種のDorcusが存在する事になります。

 ここで少し補足ですが、原名亜種curvidensの特徴と、ThaiやLaos等のcurvidens亜種とを比較した場合、大腮の形状に違った点が多々確認出来ます。北インド産の個体は、雄の大腮形状が直線的で長いのに対し、ThaiやLaos等の個体は湾曲が強くて短いと一般的には言われています。従って、後者の個体はcurvidensと言うよりもむしろ原名亜種のritsemaeに近い形態と考えられますが、ここでも強引な私的意見を引っぱり出すと、順当に分類通りとしておくのが無難だと考えます。

-------< その3.生態的考察 >

 以上の種を飼育下で観察し、性格的分類・嗜好的分類・寿命的分類 の3通りの観察をしました。勿論、海外の友人に依頼した観察内容です。また、hopeiとkazuhisaiに付いては、観察出来てませんので言及しない事で御了承願います。

 また、飼育に使用する餌やその他の物が、ここで使用した物と異なる場合は、当然同じ結果に成らないでしょうし、中には異端児が居ますので、ここでの考察は参考程度に考えて下さい。

「性格的分類」

 臆病な性格と攻撃的な性格の個体を分ける事が出来ます。但し、時期的な要素がかなり影響するようで、一概には言い切れない点も多々あるのですが大別すると【臆病】binodulus,grandis,formosanus,curvidens 【攻撃的】全てのritsemae属 と成ります。非常に攻撃的なのはtorajaですか。

「嗜好的分類」

 穿洞性の強さに付いての観察では、【非常に強い】binodulus 【強い】grandis,formosanus,curvidens【普通】全てのritsemae種( 程度的にはSerrognathus程度 )と分類しました。

 判定基準ですが、♂を単独飼育して観察します。飼育に使用するセットは、洞付き餌皿,柔らかい産卵木,埋め込みマットです。判定方法は、♂が好んで住み着く場所を特定して行きます。例えば、洞付き餌皿の洞の中,餌皿の裏,産卵木を囓って穴を空ける,マットへ潜る。etc.この方法も、やはり時期的な要素が影響しますので、最もお盛んな時期がよろしいかと思います。

 ちなみに、洞付き餌皿の洞に住み着いたのはbinodulusだけでした。grandis,formosanus,curvidensは、殆ど餌皿の裏に住み着いていますね。ritsemae種は、餌皿の裏とマット内が半々程度ですか。

「寿命的分類」

 寿命に付いても個体差が有りますので、一概に「これ!」とは言えない部分が多々あります。また、飼育環境がその種に向いていたか否かと言う環境的要素が含まれますので御了承願います。

 ここで観察対象にした個体は、2ヶ月間産卵させた♀を用いました。何故かと言うと、♀の寿命が顕著に違うので判定し易かっただけです。

 結果は、【長い】binodulus 【普通】grandis,formosanus,curvidens 【短い】ritsemae としました。binodulusの場合は皆さん御承知の通り2シーズンは余裕で産卵します。grandis,formosanus,curvidensは産卵したシーズンは元気ですが、次のシーズンにはかなり弱っていてダメな個体が出て来ます。ritsemae種は、産卵したシーズンでダメに成る個体が見受けられ、つぎのシーズンも大丈夫だった経験がありません。

 以上、生態的に分類すると、1.binodulus 2.grandis,formosanus,curvidens 3.ritsemaeの3つのタイプに別れる様な気がしました。

「おまけ : 幼虫の飼育」

 幼虫を飼育する上で一番困るのは、やはり飼育餌です。国産オオクワ同様に菌糸瓶へ投入して大きな個体を羽化させようと考えるのは人情ですが、なかなか大きくならないのも楽しさの一つです。さて、上述の各幼虫達を菌糸瓶へ投入して飼育してみますと、それなりに面白い結果が出ます。雌雄を問わず大きく成るのはgrandisとformosanusで、運が良ければ大きく成ると言うのは御存知binodulusとcurvidensでした。ritsemae種は期待した程大きくは成らず、原名亜種を除いては、♀が極端に小さい様に見受けられました。  また飼育中の~☆~率に付いては、binodulusとformosanus及びcurvidensは殆ど~☆~する事は無いのですが、grandisは原因不明の~☆~が見受けられ、ritsemae種に付いてはかなり厳しい結果と成りました。  ただし、ritsemae種でも原名亜種のritsemae( E.Jawa )とtoraja( Sulawesi ),volscens( Sumatra )幼虫はかなり丈夫で、菌糸瓶飼育が原因だと思われる~☆~は見受けられませんでした。 とにかく弱かったのはseturoi( Mindanao )とcurvus( Palawan )で、育つのがやっとって感じでしょうか。

 幼虫の飼育餌に対する適応に付いては、母虫の育った環境に左右されると言われています。ここで述べた幼虫飼育の元親はgrandisとritsemaeとseturoiがワイルドで、その他は全て累代個体でした。つまり、ここでのデータは参考にも成りませんね。(^^;

-------< 4.結び >

 以上、それぞれの考察でそれぞれの分類と成ってしまい、完全に同じ結果に成る事は有りませんでした。つまり、色々と分類出来ると言う事ですね。ただ最初に記述した通り、上述の各考察を全て纏めてみて、地域的な変異や地理的な変異が絡み合い長い年月を経て現在の多亜種に至っており、元を辿ると、大別して2種ではないか?と思う次第です。この件は、初版(silver back氏)の雑交実験結果が物語っている様な気がします。今度は、curvidens種とritsemae種の雑交実験が必要ですね。

 本来の分類方法ですと、交尾器を取り出して行うのでしょうが、そんな事したら~☆~してしまいますので私には出来ません。それに電子顕微鏡も無いですので、この件に関しましては本職の人に任せておこうと思う次第です。> 医学の人、宜しく!

 次回は、頭部前縁眼上突起の無いschenklingとantaeusの分類でもやりますか!>A.CHIBAさん。(*^^*)

では!


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