しゃあげんの採集紀行(1)

南西諸島への初遠征の思い出


5月上旬、偶然?本誌編集部の K_sugano 氏にお会いした折り、「次号のクワバカで採集
記特集やるんで、南西諸島での採集記を書いてくれへんけ?」 と、依頼を受けてしまった。
ほいほい! と快くお引き受けしたのはいいが、実際、向こうにはけっこう採集に行っていて、
まぁ採れた採集行、ぜんぜんハズした採集行といろいろあったが、どの採集行もたいへん
思い出深いもので、どれにしようかたいへん迷っているうちに、締め切りが迫って来た。

そこで今回は、私が南西諸島の虜になったきっかけとも言うべき、初の採集行について、
思い出しながら書いてみようと思う。


私の南西諸島初遠征は、1987年(だったと思う)の3月だった。当時私は関西の某大学
の農学部 ・ 昆虫学研究室に在籍していた。もちろん生物が好きだったのでそのような研
究室を選んだのであるが、おかげで速攻で虫にハマってしまった。そんな時、その研究室
で知り合い、現在も良き悪友?の あるオトコから、「南西諸島へ採集行かんか?」と誘わ
れた。彼は当時すでにバリバリの虫屋で、生物研究会と言う妖しいサークルにも所属して
いた。すこし迷ったが、行くことにした。オ ・ キ ・ ナ ・ ワと言う言葉に トロピカルなイメー
ジを抱いたのかもしれない。同行者はもう1人、彼の生物研究会の先輩とで計3名。
3月と言うことで、彼らのお目当ては蝶であったが、初心者虫屋の私は、「まぁなんか採れ
たらええわぃ」くらいに思っていた。
日程は三者三様で、まず友人と先輩が石垣入りし、1週間遅れで私が合流。数日3人で
過ごした後、先輩は一足先に帰り、残りを私と友人で過ごすと言うものだった。

さて、先発隊に合流すべく、伊丹から飛行機に乗ったはいいが、なんちゅうかキョーレツに
恐かったのを覚えている。あの時は「もう二度と乗りたくない」と思ったが、あれ以来何回も
乗ってるなぁ(^^;;;

石垣島で彼らと合流してからは、主にバンナ岳やオモト岳で採集をした。
目的も三者三様なので、けっこう別行動も多かった。蝶採集に燃える彼らを尻目に、一人
甲虫を探したなあ。当時はまだまだ荒れてなくて、バンナの林内では倒木を退けるだけで
マルバネの幼虫が出てきたり、オモトの登山道沿いのカシの木の樹液で、サキシマヒラタ
が簡単に採集できた。
石垣での採集はこの日一日のみで、次の日は西表へ渡る予定であった。宿泊は、オモト
岳の麓の集落でお願いして、公民館を使わせてもらった。ただ、公民館と言っても木造の
ボロボロの建物で、夜中に何故かカメムシの大軍の襲来を受け、臭くてまともに寝られな
かった。
朝は朝で地元の子供たちの襲来を受けた。
「にぃにぃ〜っ(兄ちゃん)、どっから来たのさぁ〜」とか
「にぃにぃ〜っ、何しに来たのさぁ〜」なんて、質問攻めだった。 しかし、ひとなつっこい子
達やったな。皆大きくなってるんやろなぁ。

さて、次の日は予定通り西表に渡った。初めて見た石垣→西表航路の海は信じられない
ほどの美しいエメラルドグリーンで、何度見ても感動物である。
西表では二泊の予定だが、もちろん宿なんかは予約していない。テント担いでの気ままな
貧乏旅行なのだ。第1泊目の予定地はカンピラの滝。西表島の二大河川の一つ、浦内川
の源流にある。
まず、浦内川の河口から船に乗って遡上する。 船で行ける限界に船着き場があって、そこ
からは源流沿いの山道である。うっそうと茂る照葉樹や巨大なシダはまさにジャングルと言
う感じで、まずはその雰囲気に圧倒されてしまった。
現在では、カンピラの滝への日帰りツアーなども行われていて、けっこう観光客も多いらしい
が、当時は他人には出会わなかった。
ここの山道に転がっていた倒木の中が赤腐れで、そこからもマルバネの幼虫が出て来た。
同行者の目的は、「リュウキュウウラボシシジミ」と言うシジミチョウで、道沿いの下草をネッ
トの柄で叩いて蝶を飛ばせて採集していた。私もおこぼれを1頭だけ採った。
その夜は滝のそばでテントを張ったが、何事もなく安眠できた。

さて次の日、たしか昼頃までには再び船で川を下って島の周回道路に復帰してたと思う。
てくてく歩いて、適当に飛んでくる蝶を採集しながらその日泊る予定の、確か干立の砂浜
に到着。テントを設営し終えて休憩してると・・・・・・・・
なんでやねん!遠くの方からでっかいイヌ(ボクサー犬)が、こっちにバウバウ吠えながら
向かってくるやんか!!!
おもいっきりうろたえて、友人は丘側へ、私は海側へ走った走った。先輩はその時なぜか
そこにはいなかった。
再び なんでやねん!イヌは私めがけて突進してくるやんけ〜〜シャレナラン。
しかたがないので海に走り込んだのだが、イヌは波打ち際でバウバウ言うとる。
腰まで水につかりながら、イヌが立ち去るのを待つしかなかった。
と、遠くの方から誰やらイヌの名を呼んどるやんか? 飼い主おったんかい!エエカゲンニセェ
イヌは飼い主と共にとっとと行ってしまった。なんやったんや?

ズブ濡れになった下半身。ズボンは替えがあったが、靴は一つしか無い。
乾かすためにたき火をした。で、しばらくたき火を囲んで虫話。そのうち日も暮れてきた。
で、じっとしてるのもなんなので、懐中電灯片手に夜回り開始。ほどなく私が小川の流れ
込みでテナガエビを発見。「こりゃ酒のアテにええがな」と、エビ採り大会になってしまった。
採ってきたエビを先のたき火で焼こうと戻ってみると、私の靴の甲の部分が2つとも溶け
ていた。言うまでもないが、やけ酒を飲んでエビをやけ食いした。
でも、しばらくして酔いもさめてきたので、集落の外灯回りをして、ここでもサキシマヒラタ
が拾えた。石垣でもそうであったが、この時は「3月にクワガタ」って、すごく違和感あった
な。もちろん、あっちは暖かいんだけど。

さて、次の日はバスに乗って大原の港へ。そこから再び石垣へ渡り、次の目的地である
沖縄本島へ向かうため、フェリーに乗った。
乗ったのはいいが、東シナ海って荒れるのね。私は乗り物酔いには強い方なんだけど、
それでもさすがに立ったり座ったりしたらヤバそうなので、終始寝転んでました。しかも、
あっちこっちでゲロゲロ言ってるんで、貰い酔いしそうだった。

なんとか沖縄本島に到着して船を下りると、すごい数の軽1BOXが待ってる。なんと、ぜー
んぶ白タクなのだ。そのうちの一台に乗ってバスターミナルへ。目指すは当然北部国頭村。
辺土名のちょっと手前、与那覇岳麓の比地って所のキャンプ場だ。
目的地行きのバスの時刻を確認してると、そこへ1台のタクシーがやって来た。
「ニーチャンら何処まで行くの?」と声をかけられ、
行く先を話すと、「それなら○○円で行ってあげるよ」とのこと。
(実際いくらだったか忘れてしまったが、めちゃめちゃ安かったのは言うまでも無い) ちよっ
と警戒したが、こっちは3人やし、乗ってみる事にした。
いざ乗ってみると、これがなかなかにファンキーなニーチャンで、荷物がトランクに入りきら
なかったので、半開きのまんま沖縄自動車道を150〜60キロでぶっ飛ばすわ、途中で約
束通り、きっちりメーター倒してくれるし、高速代も取らなかったと言う嘘みたいなハナシ。
スピードはちと恐かったが、ええ人やったな。

比地のキャンプ場に着いた頃はすでに夕方で、小雨がパラついていた。急いでテントを設営
して懐中電灯片手に夜回りに出た。国道との交差点にあった看板の水銀灯がひときわ明る
かったので、何か拾えるのでは! と向かったのだ。
さっき降った雨の影響だろうか、道には本土では見たことも無い黒っぽい肌の中央にストライ
プの入ったおびただしい数のナメクジが、踏み場が無いほど這っている。いちいち避けてられ
ないので、気にしない(つもり)で歩いた。
踏んだ感触は「ブチュッ」ではなく「バリッ」って感じだった。キショクワルカッタ!

灯火では、ナナホシキンカメムシやオキナワオオミズスマシなんかを採集できた。そしてテン
トまでの帰り道、ついに出会ってしまった。3匹のハブと。
まぁ、いずれ会うだろうとは思っていたが。 3匹とも道の真ん中あたりでとぐろを巻いていた。
捕虫網の柄でからかったが、聞きしに勝る獰猛ぶりにはびっくりした。おもしろいのは、一度
本物を見てしまうと、我々のその後の行動にやたら「びびり」が入ってしまったことだ(^^;;;
その夜、テントの出入りに、どれほど気を遣ったことか・・・・・・・・・・・・

次の日は午後までキャンプ場周辺で採集したのだが、またまた私は別行動で、1人林内へ
入った。昨晩のハブの事なんかすっかり忘れていた(^^;;;
沢沿いの朽ち木からオキナワネブトを、林内の倒木からはカブトムシの幼虫を採集した。
実は採った時は「テナガコガネかもしれん!」などと舞い上っていたのでした。

さて、3人での行動もこの日までで、先輩は一足先に帰路につき、私と友人の2人は琉球
大学へ向かった。ここで「昆虫学会」が開催されており、大阪から研究室の師匠もお見え
なので、合流するためである。大学入りしたのはいいが、師匠が来るのは明日である。
そこで、大学関係者に「校内でテント張らしてもらってもいいですか?」と尋ねると、「それ
はダメです。でも、一部屋貸してあげましょう」と、なんと宿泊させてもらえたのだ。しかも
カネがほとんど尽きていたので、学会の待合室にあったお茶菓子の「ちんすこう」を腹いっ
ぱい食った。ほんまによぉけ食った。なんちゅうヤツらぢゃ・・・・・・・
あの時は本当にありがとうございました。

さて、次の日は学会の発表で興味のあるものを聞き、琉球大の校内を一通り歩いてみた。
とにかく、国立の地方大学の広さにド肝を抜かれたのを覚えている。

その日の夕方に問題が生じた。どこに泊ろう?? もう一日大学に泊めてくれとも言いにく
いし、かと言ってここはもう北部の山ん中じゃないからテキトーにテント張るちゅうのもね。
でもカネも無いし・・・・・・  で、賭けにでた。パチンコ屋に入ったのだ。もし勝てれば民宿
である! 風呂に入れる!! 負けたらテキトーに野宿ね。
思いが天に通じたのか、連れの台がフィーバーした! それ以上やらずにそそくさと店を出
て宿を捜す。んで、見つけた見つけた! 素泊まり1.300円!!?
今考えたら、何でもぅちょっとマシなとこにせんかったんやろ?
妖しい宿やったあ。カーテンはピンク。ベッドが一つ、布団も一組。あちこちに長〜い髪の
毛が落ちてる・・・・・
それでも、天国やったな。なんちゅうてもシャワー浴びれたもんね。
で、じゃんけんに負けた私は掛け布団を床に敷いて寝たのでした。

次の日は師匠が借りてくれたレンタカーを私が運転して、であちこち採集した。久しぶりに
自炊以外のメシも食えたし。もちろん師匠のおごり。
ここでも南方系の蝶、シロオビアゲハやツマベニチョウ、そしてイワカワシジミのポイント
も見つける事ができた。なかなかおもしろかったな。
その日の夕方の便で師匠は一足先に大阪へ帰られたが、我々のために次の日の午前中
までレンタカーを残して下さった。ありがたや。

夜はやみくもに車を走らせて、外灯回りをした。市街地って事で、北部ほどの成果はもちろ
んなかったが、タイワンカブトなどがポツポツ採れた。
夜も深けてきたので、適当に路上駐車して車中で一泊して、次の日の午前にレンタカーを
返して昼頃の飛行機で大阪へ帰ったんだ。確か。



以上が私の南西諸島初遠征です。

読んでもらえばお分かり頂けると思いますが、クワガタに的を絞った採集行ではありません
でした。本誌のようなクワガタ専門誌に書くには、ちょっと内容がズレてるかもしれませんね。

実はこの後私は奄美大島に5回、沖縄本島に1回、西表島には2回採集に行っています。
そのほとんどがクワガタを主目的とした採集ですが、どうしても短期集中型の採集行になっ
てしまっています。社会に出てからは経済的には少々のゆとりはできましたが、反面時間的
ゆとりが無くなってしまったからです。それでも懲りずに採集には行ってますが、こんなに気
ままな採集行はこれ以来出来ずにいます。
学生のうちに、思い切って休学でもして、もっともっと行っとくんだったと、何度も思いました。

と言う訳で、私にとって最も思い出深い旅だったので、ズレを覚悟で書かせて頂きました。

奄美他の採集記は、また機会がありましたら。

tatamiya@lint.ne.jp