くわへいの韮崎初体験 



97年10月のある休日ついに韮崎朽ち木割採集の日がやってきた。

この年の夏からおおくわがた飼育をはじめた私は、自分でも採取したいとの思いが日々強まり、前月より虫研に行ってはビデオを購入し、志賀昆虫社へ行っては採取関係書籍を購入し、近所の DIY の店で斧を購入した。
斧の切れ味を試すべく前の週には近くのくぬぎ林に出かけ、なんだかよく分からないくわがたの幼虫をわりだした。
韮崎の5万分の1の地図も購入してビデオと本から取れそうなポイントをチェックし、釣具屋でルアーケースも購入し、韮崎くち木割採集準備は万端ととのったはずであった。



いつもは寝起きの悪い私であるが、この日は朝5時前に目がさめ、5時には埼玉の自宅を7年間乗り続けた愛車で出発できた。
早朝の空いている道をとばし5時半には八王子インターについた。
インターの入り口あたりで車のオイル警告灯がちらっと点滅したが気のせいだということにした。
中央高速も空いていて気持ちよく走れるし気分はもう韮崎であった。
談合坂SA手前でまた車のオイル警告灯がつきだした。
一応SAにはいってオイルの点検をしてみるがオイルの量はおかしくないし車のオイル警告灯が点灯するのはきっと油圧センサーがこわれたのだと思うことにした。
笹子トンネルをぬけたあたりで、車の前の方からカタカタと音がしだし甲府に近づくにつれてエンストするようになってきた。
路肩にとめてエンジンのオイルキャップを開けると、白い煙とオイルの焼けるにおい。
エンジンのプロである私にはなにが起こったかやっと理解できた。
思わず廃車だなとつぶやいたのであった。
車をだましだまし路肩走行で走らせ何とか甲府南インターの出口に近いディラーにたどりついたのはでもまだ朝の7時であった。



出勤してきた営業マンに廃車手続きをお願いし、コーヒーをいただきながら名刺交換した。
営業マンの名刺にこの店に韮崎支店があるのを私は見逃さなかった。
私の名刺をみてその営業マンと私の会話は、

   営業マン 当社の研究所にお勤めなのですか?どんな仕事されているのですか?
  
エンジンの研究です
   営業マン エンジンの研究をされてるかたがこんな壊しかたされたらこまりますねー、オイル交換してなかったでしょう?
  
4年くらいまえにしたような…まーなんと申しますか、医者の無養生とか、傘屋傘なしとか、ぶつぶつ…。
   営業マン オイル警告灯が点灯したらすぐに車を止めて整備しないといけないのご存知ですよね
  
しっとるわいと思ったが)“先を急いでいたもので
   営業マン どちらへ行かれる御予定なのですか?
  
ちょっと韮崎まで、くわがた取りに
   営業マン ???
  
韮崎に支店があるようですが、これから韮崎方面に行かれる方がいらしたら、車に乗せて行ってほしいのですが。
   営業マン 朝礼が終わったら私行きます、同乗してきますか?
  
おねがいします(やったーくわがた採取あきらめずにすむぞー)

  
車のトランクに荷物があるのですが、梱包して自宅に送りたいので大きいダンボール箱いただけませんか
私の車のトランクのところで発酵中のマットの入った衣装ケースや虫網や斧を整理する私をみて、営業マンの一言
   営業マン なななんですかこれ?
  
送料着払いで、発送おねがいします。
   営業マン わわわかりました…



韮崎インターの料金所のところでくぬぎ林が見えたので、営業マンにここで降ろしてください、と頼み、初めて台場くぬぎの前に立ったのは、それでもまだ朝の10時であった。
台場くぬぎの林に感動しつつ権現沢川を沢沿いに上り、宮久保、三つ沢、長久保、上今井、と朽ち木を割りながら約20KM歩いたこの日の私の獲物は、小さいおおくわがたの♀(斧でアゴと前足の一部を欠いてしまいかわいそうなので逃がしてきた)となにか解らないくわがたの幼虫数匹であった。
帰りの特急あずさで飲んだビールが妙にうまかった印象深い、くわ馬鹿な秋の一日であった。