オオクワガタ東ジャワ起源説の提起とオオクワガタの新分類(仮説)

 Fan Lin (1998/6/9)

k-sugano氏から、クワ馬鹿の記事でオオクワガタの分類について個人的見解で好きなことを述べて良いと仰せつかったので月刊「むし」の記事等を引用しながらあくまで個人的見解を述べたいと思います。
なおこの記事は活き虫を扱う立場から考察したもので交尾器、微細構造等の観察をしていないことをご了承下さい。でたらめと思われる方もおいでと思いますが、どんどん反撃して下さいね。

前提
1. 生物の進化から考えたクワガタの形態学的変化

生物が進化する際、進化に伴い種の保存に不必要と思われるような進化を遂げる場合があると思われます。必要以上に角や顎が長くなったり、腕や足が長くなったりするのを過剰適応と考えるヒトもいます(小学館「世界のカブトムシ」P.70-71)。まあ一般的には原始的なクワガタほど小型で顎が短い傾向があると認識して大きく矛盾しないと思われます。また色彩に関しても同じで原始的クワガタほど茶色?黒色と思っていいのではないでしょうか。

2. 東ジャワ、西ジャワパリーの亜種関係について

月刊「むし」No.328, 76-84,1998の塚脇さんの言うところでは、西ジャワに明らかに東ジャワと亜種関係にあるパリーが存在し、その特徴は東ジャワに比較し前胸板側縁の突起の位置、大型個体の内歯の形状変化、♀の点刻の深さに大きな差が認められるということでした。


本論

ジャワ島のオオクワガタは、池田晴夫さんによってクルビデンス属の亜種に分類されることもあったように(フェニックスワールド社「世界のクワガタムシ」)、パリー系オオクワガタの中では外見から判断すると特殊な位置を占めているように見えます。

前提1から考えますとジャワパリーはパリーオオクワの中でも古いタイプとも想像でき、ジャワ>マレー>タイと北へ、ジャワ>スマトラ>セレベス>パラワン>ミンダナオと南へ渡っていったのではなんてことを思ってみたりもします。もともと陸続きだったのでしょうが、どの時代にクワガタの仲間が誕生してどのように広がっていったかはさっぱりわかりません。

ジャワ島には、東南アジアの各地に見られるチタノスヒラタクワガタを産しない代わりにダイオウヒラタクワガタがおり、他にフトヒラタ系のユーリケファルス、ブケッティフタマタ等のジャワ島特産のクワガタが各種見られ、日本における奄美大島のようなミッシングリングなのかもしれないなと思ったりもします。

ご存じの方も多いでしょうが、奄美大島のクワガタは、ノコギリ、ヒラタ、スジブトヒラタ、シカクワガタに至るまで♀の前翔に比較的はっきりした3本の縦走する線状隆起が種を越えて認められ、全体的に点刻もやや深めと思われますが、これらは他地域の同属のクワガタと差別化できると思われます。つまり奄美大島が古くから孤立して古来のクワガタの姿を留めているか、あるいは独自のクワガタの進化を遂げたことを想像させます。

奄美大島のクワガタ♀群は前から非常に面白いなと思っていました。ジャワ島におけるダイオウヒラタの♀の点刻が深くやはり3本の縦走する線状隆起が目立つことは非常に興味深いですね。他のオオヒラタの♀とは明らかに点刻の深さが違うように思われます。なんとなくスジブトヒラタに似てると思われませんか?
(ちょっと言い過ぎかな、。)

話はジャワのオオクワガタに戻しますが、前提2の塚脇さんの記事によると♀の点刻が東ジャワで深く西ジャワでやや浅いということです。ここで前回のsilverback氏の観察に基づく分類を新ためて考察するとオオクワガタ(アンタエウス、シェンクリングを除く)の♀の点刻から、

♀の点刻が浅く同属内で容易に交雑する。

Dorcus grandis属  Dorcus grandis binodulus (日本オオクワ)
Dorcus grandis grandis(グランデス)
Dorcus grandis hopei (中国オオクワ)
Dorcus grandis formosanus (タイワンオオクワ)
♀の点刻が深くgrandis系との交雑は難しい。
Dorcus curvidens属 Dorcus curvidens curvidens (タイ、ラオス、ベトナム、インド等)
Dorcus curvidens parry各種
に分類するという斬新的な分類法が提起されましたが、♀の点刻の深さから西ジャワのオオクワガタがDorcus grandis属の原産と考えるのはおかしいでしょうか?

タイにはクルビデンスとパリーがほぼ同所的に存在しており(月刊「むし」)これがクルビデンス属とパリー属を別種とする根拠の1つとなっているようですが、タイにおけるクルビデンスとパリーはかなり大きな形状変化がみられタイにおいて採集されたパリーオオクワのラベルが確かであれば、タイに北上したオオクワガタは亜種関係から別種に変化して交雑しにくくなったとも考えられます。

またクルビデンス属の♂、♀個体の地域変異を考慮すれば、

Dorcus curvidens属 Dorcus curvidens ritsemae (東ジャワ)
Dorcus curvidens curvidens (北インド、ブータン、ネパール)
Dorcus curvidens -----------(タイ、ラオス、ベトナム、中国)
Dorcus curvidens parryi (マレー、ボルネオ、スマトラ、パラワン、ミンダナオ)
Dorcus grandis属  Dorcus grandis ritsemae (西ジャワ)
Dorcus grandis grandis (タイ、ラオス、ベトナム、中国)
Dorcus grandis formosanus(台湾)
Dorcus grandis binodulus(日本、韓国、北朝鮮、中国)
うーん、ちょっと苦しいかな。これだと♂の歯型、前胸板に注目すると大きく矛盾が生じますね。
タイワンオオ、グランデスは大型個体でも顎は中歯型、前胸板側縁の突起は前方に位置しますが、ジャワパリーにおいては東ジャワの個体で同傾向が観察され、むしろ西ジャワの大型個体では顎は大歯型、前胸板側縁の突起は後方に移動しクルビデンス、パリーオオクワに近い特徴が観察されますし。これは♀の点刻からの関係と逆になっており頭を悩ますところですね。

私の観察によると東ジャワから採取された点刻の深い♀個体より中歯型、大歯型の2種のタイプの♂の大型個体を得ており東ジャワのパリーオオクワが大きく個体変異をすることを見いだしていますし、また一部の飼育家の間からも同様の見解を得ています。これは亜種関係にある東ジャワと西ジャワのオオクワが交雑していることを示しているようにも思われます。

ここで、クルビデンス系、パリー系オオクワの源が東ジャワ付近でそこから各地に広がって行ったというでたらめな仮説を提案したいと思います。

すなわち、

東ジャワ>中歯固定型>クルビデンス系
東ジャワ>東ジャワウエスト歯型>パリー系
東ジャワ>西ジャワ>グランデス系
ちょっと変な気もしますが、あくまで想像ですのであんまり追求しないで下さいね。
最後に点刻の薄い西ジャワパリーの♀個体を入手出来ないので、西ジャワの大型♂成虫における個体変異を観察することができません。もしお持ちの方がいましたら是非、譲って下さいませ。
ということで、次回は、HeroさんかA.CHIBAさんに反撃して頂きたいと思います。(^^;

参考までに
Beetle Breeding Webでオオクワガタの地域変異を写真で公開しておりますので、見てやって下さい。6月中旬頃までにはある程度完成させる予定です。(現在はアンタエウスの地域変異、各地産クルビの標本のみです。)


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