サイエンス講座:昆虫生理学
科学される昆虫たち! by 大外一気
第3回 クワガタ虫の行動と感覚器官


はじめに
皆さん、こん○○は。
大外一気です。

日本全国、既にクワガタ達が行動するのに十分な気候になってきました。 温室飼育をされている方々はいつもクワガタ達は元気に行動していることでしょう。 クワガタビギナーの私はクワガタがプラケース内をあっちこっちうろうろしているだけで嬉しくなります。
昨年はクワガタを入手した時期が遅かったこともあって,すぐに涼しくなってしまい、 そのままあっという間に寒くなりましたから、あまりクワガタのお姿を拝見していないのです。 だから、この時期どんなにちょこっとでもクワガタの姿が見れると嬉しいんです。
こんな思いをされているクワバカさんは私だけではないですよね?

行動って?
さて、冒頭にふれましたように、クワガタ達は元気よく活動しています。 こんなふうに行動するのは何故なんだぁ?といったことが今月以降のお題です。 昆虫達のヘンテコリンなしぐさのわけを知ればもっと愛着がわくかもしれません. 今回は昆虫の行動についてのイントロとして、まず行動の元となる外界の情報を受け取る装置,すなわち感覚器官について考えてみましょう。

動物が生きていくためには行動しなければなりません。 でも、どんな行動であっても,まず考えてから動作に入ります. そうしないと危険だからです。 我々だって、「ついうっかり」というのは、ぼーっとしていたり、あまり先のことを考えずにactionしたときです。 そういうときには怪我をしたり,最悪の場合命を落としかねません. 昆虫だって、我々と同じように頭を使っています。
「考える」とか「頭を使う」ということはすなわち、脳・神経を働かせるということです。 霊長類(人間や猿など)に脳が存在することはみなさん知っておられるでしょう。 イヌ、ネコにも脳があります。 そして脳は昆虫にもあるんです。 多くの人々は「虫なんかに脳があるわけないだろ〜」と思うかもしれません。 しかし、ちゃんとあるんですね。 あの小さな頭は、我々が考えている以上に高度で複雑なコンピュータなのです. 脳は莫大な数の神経細胞から構成されています. 一瞬,皆さんが飼っているクワガタのしぐさを思い起こしてみて下さい。 電気をつけてプラケースをのぞいただけでススっととまり木の裏に隠れたり、 反対に上体をそらし、大顎を広げて威嚇してみたり・・・. これらの行動はクワガタ君の身の回りに,それまでとはなにか違う状況が起こったということを感じ,それに対して反応しているのです. すなわち,これがクワガタ虫が考えると言うことに他なりません.

知覚と運動
脳を働かすためには外界の状況を的確にキャッチしなければなりません。 目で見たり(視覚)、においをかいだり(嗅覚)、おいしかったりまずかったり(味 覚)、体で触れたり(触覚、機械的感覚)などは重要な情報です。
このような情報のことを「感覚刺激」といい,これらの感覚刺激を受け取る装置のことを感覚器官といいます. 昆虫達は,自然界のなかで生活するうちに,これらの感覚器官を非常に精巧に発達させてきました。 一連のクワガタ虫の行動をまとめてみますと,まず,外界にあふれる多くの情報=刺激を感覚器で受け、知覚神経を通って脳に運ばれ,統合・整理・判断された結果、今度は適当な運動をする為に運動神経が興奮し,最終的に筋肉が動くのです。 光を当てて逃げ出すクワガタ虫の行動はこのように脳で情報処理を行った結果なのです.

行動と遺伝子の関係
一般に生物の行動様式のことを生態といいます. オオクワガタとコクワガタではその生態は著しく異なります. つまり,これら2種は同じ状況に置かれても違った行動をとるわけです. それは何故でしょうか? 総ての生物はその種に特有の遺伝子セットをもっています. すなわち,筋肉の動き(行動)も遺伝子の働きによりコントロールされているということができます。 遺伝子とは遺伝情報の構造単位でタンパク質をつくる設計図です.これらの遺伝子はばらばらにあるのではなく染色体として各細胞の核内にまとまって存在します. 体が大きくなるとき(細胞分裂)や親から子へ伝えるとき(受精)には遺伝子は自分自身のコピーをたくさんつくります. これを遺伝子の複製と言います。 (コンピュータの電子ファイルをコピーするのと同じことです) 遺伝子が複製されるとき、ある一定の確率でミスコピーをします。 (文字化けをおこしてしまうのですね,ひどいときはディスクが壊れてファイルが読めなくなります) これを変異といいますが、この変異が行動に関わる大事な遺伝子に起こりかつ生命には問題無いような場合,その行動もおかしい突然変異体を得ることができます。 また、このような変異は薬物を用いて人工的に起こすことも可能です。 逆に正常な個体ではなく突然変異体の中から興味深い行動をとる個体を見つけだし,解析することで遺伝子と昆虫の行動との関係を知るという研究方法があります. この方法により行動に関わる重要な遺伝子がいくつも同定されてきました.
オオクワがなぜこそこそ隠れるのか?ヒラタはなぜ逃げもせずに攻撃的にふるまうのか? そこには根元的な理由が隠されているのです.
感覚器官
話が少しそれました。 今回は感覚器の紹介ですので遺伝子の話をこの辺でやめましょう。 体の外の刺激を受容するに多くの感覚器が備わっています。 例えば、ハエ。 体中に毛が生えています。 細かく観察したことのある方は気がついていることでしょう。 この毛のことを感覚子とよびます。 ハエは感覚子の働きにより、機械的な刺激を関知しています。 ハエは臭いや味のあるところを好みます。 嗅覚は頭部から突き出した小顎鬚(しょうがくしゅ)によるものです。 味覚は口部や足の先(ふ節)にあります。 昆虫で特徴的なのは目でしょう。 大きな複眼のことです。 複眼内には千個近くの個眼があり、さらに個眼は八つの細胞で構成されています。 そして、いろんな波長の光を感じとっているのです。 クワガタもおそらくこれと同じような体つきをしていると考えられます。 ハエほど顕著ではありませんが,全身に毛が生えています。 カブト虫ならよく解るでしょう。 あの毛はべつに寒いから生えているのではありません。 ちゃんと外界からの刺激を受けるためのセンサーなのです・ 嗅覚用の器官は何処なのかよく解りません。 でも、味覚の器官は解りますね。 クワゼリーを吸っているあの口ひげの横には小刻みにふるえる小さなアンテナがありますね. 音を感じる器官は前足の腿節にあります(楕円形でぎらぎら光る部分があるでしょう). もっとも,人間のように音を聞いているのではなく振動を感受するのです. (クワガタ虫に話しかけても聞いちゃくれません) 一見するとクワガタの目は複眼ではないように見えますね。 でもハエと同じで複眼なんですね. あのつぶらな瞳はどう見ても1個の目ではないでしょうか? さあ,確認のために、あなたのクワガタを観察してみて下さい。 ほら早くプラケースを持ってきて。
まとめ
このように,当たり前のことなのですが,虫には沢山の感覚器が備わっています。 機械的感覚、嗅覚、味覚、触覚、視覚. これらはクワガタ虫が行動をする上で必要不可欠な情報であることはお分かりのことでしょう. そしてこれらの感覚刺激と行動を結びつける脳について今回は紹介しました。 また,これらの行動ですら(総てではありませんが)実は遺伝的に決められているのです. 来月はこれらをふまえまして、もう少し変わった話をしていきたいと思います。

今月は時間的猶予があまりないため希薄な内容になり申し訳ございません(いいわけ モード) それでは、また来月。


The key word in this month !
遺伝子
遺伝情報を担う構造単位のこと。
生命の特徴である自己複製は遺伝情報の伝達に他なりません。
遺伝子には蛋白質の情報を持つ構造遺伝子や構造遺伝子を調節する遺伝子などがあり ます。
遺伝子の本体は一般に4種類(アデニン,グアニン,シトシン,チミン)のDNA(デオキシリボ核酸)からなる有機化合物です。

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