徳原ミヌルのクワガタ覚え書き(3)ヒラタクワガタ編(後編)


何度か寺院、矢作川河川敷に通ったが、寺院灯火下でノコギリクワガタ♀、倒木樹皮下よりチビクワガタ多数の採集、矢作川ではコクワガタ♂を採集したのみの成果であった。

この年、豊橋自然史博物館では特別企画展として「クワガタ展」が開催されており、全世界1200種のうち約400種の標本が展示された。この期間中の8月6日に記念講演として月刊むし編集長 藤田 宏氏の講演と京大 新谷 邦雄氏のツヤハダクワガタの餌に関連する講演があった。講演終了後の質問コーナーで私は質問をした。

「ヒラタの採集にはどの様な方法が有効ですか?」 藤田 氏は「バナナトラップが有効」とのご回答を寄せて下さった。

さっそく次の休日、バナナと焼酎を購入し、大蔵大臣より提供いただいたパンストをポケットにしのばせて河川敷へ向かった。パンストの足の部分にバナナを2,3本皮付きのまま詰め込み、その上から手でグニュグニュする。このバナナに焼酎を霧吹きで吹きかけ柳の木の根際や木の股に数箇所くくり付けた。

翌朝5時に現場へ向かった。1本目の仕掛けにはコクワ♀2匹とカブト♀2匹が居た。 数箇所の空振りの後、大きな洞近くにセットしたトラップに、「居た!ヒラタ♂だ。」 この当時、コクワ位しか捕まえたことがなかった自分にとってはずいぶん大きく見えた。

洞に逃げ込まれない様にそっと近づき洞の口を塞ぐ。この瞬間ヒラタは洞に逃げ込もうとしたがすでに遅し、このヒラタは私の手中に。後から、計ったら45mmしかなかった。 この日の収穫はヒラタ♂ 1、コクワ♀ 2、カブト ♀ 2であった。ついでに、バナナトラップをまた 仕掛けて帰ることにした。茂みの中の柳の根際にバナナのはいった白いパンストをくくり つけている時に、大きな犬を連れたおじさんが河川敷に散歩に来た様だ。「うわあ〜。 こんな変な状況を見つけられたら変態に思われちゃうかも。見つかりません様に…」と 体を凍らせてじっとしていた。・・・が、見つかってしまった。

「何をしてるんです?よくこいつ(連れている犬のこと)が吠えなかったなー。」

「いやー。クワガタを捕まえる為にトラップをかけているんです。」と手に持ったケースのクワガタやカブトを見せて納得してもらう。

「ここには夜来ると、柳の木毎にカブトが採れますよ。親戚の子供がきたらよく来るんです。」とおじさんは教えてくれたが、この場所、暗いと結構恐い感じでとても一人で来ようとは思わない。

翌朝、前日45mmヒラタ♂をGETした同じ場所で40mmヒラタ♂をGETした。大きさと個体数の少なさからして、初めてこの地を訪れた時にのがした♂の様な気がした。一本の木で、一度大きな個体を採集すると同じ場所でだんだん小さい個体が順番に採れるというのを聞いたことがあるが、これもその類いだろう。

その後、この河川敷でヒラタ♂を3匹採取したが確かにどんどん個体長は小さくなった。最後に樹皮下から採取した♂は30.8mmで、♀と間違えそうになった位だ。

そのうち、トラップで♀1匹、幹についていた♀1匹の計2匹の♀も採集出来た。トラップで採集した♀は歯が擦り減っており、新成虫ではなさそうだった。幹についていた♀は22.8mmで翌年、30.8mmの♂とのペアで多数産卵し、ビン飼育によって最大64mm♂、36mm♀の個体が得られた。また、♀のうち5匹はわずか、2ヶ月半から3ヶ月で羽化するというスピード成育記録を達成し、月刊「むし」への投稿ネタを提供してくれた。

クワガタのブリードにおいて小さい個体のペアでは大きな個体は得にくいと言われているが、前記のとおりそこそこの結果は得られており、遺伝子による影響よりエサ、温度等による影響の方が大きい結果となった。

ところで、果実トラップにまつわるエピソードを一つ紹介しておこう。月刊「むし」編集長 藤田氏もパンストによるトラップを使用されるそうだが、採集旅行の中で、沢山のトラップを仕掛ける途中に雑貨屋に立ち寄ったところズボンのポケットからパンストがはみでており、店の主人に 変な目で見られた経験があるそうだ。(パンストはバッグに入れましょう) さすがに一般の人から見れば異様な状況には違いない。

さて、最後に本州ヒラタの97迄の月刊「むし」ギネスを紹介しておこう。 ギネス記録は73.2mmである。いつか、まちかねBBSで75mmなにがしの記録報告が報告 されていた様に記憶しているが「むし」に申請されればギネス記録である。 尚、98年版のギネス申請は締め切りが過ぎてしまった。今年からギネスは天然採集とブリードを分けて記録する様な情報もありますが、あなたはいずれのギネスに挑戦しますか?


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