私はこーして馬鹿になった!!
商店街振興組合・本町百店会




この原稿は、かかあ町・本町百店会広報誌96年1月号に(マジで)掲載されたものを加筆、修正したものです。


本町百店会生物事情 −何故本町にオオクワガタがいるのか−

                  本町百店会総務広報部長 磯部哲男(まちかね)



あれはまだ、百店会のイベントがかかあ天下市ではなく、イベントマッチと銘打っていたころ、 (注:商店街で定期的に開催されるイベントで、商店街駐車場を利用してフリーマーケット、 スタンプラリー、ビンゴ大会、焼きそばなどの模擬店などを行う)売り出し会議の席で、イベ ントマッチにおいてクワガタ、カブト虫を販売したらどうか?という意見が出た。クワガタや カブト虫なら安く仕入れられるのではないか・・・と。 そこで意義を唱えたのが現在本町クワガタ研究所長の矢内氏であった。クワガタなんかいっく らでも捕れます、まかしておいてください。」と自信満々に発言したのだ。 その日の会議の後、いつものように飲みに行った席で、矢内氏がぽつりと呟いた。「ちょっと 試しに採りに行って見るか。」それがすべての始まりだった。 真夜中である。酔っぱらっている。だが、そこにいた全員が賛成したのであった。我々はすぐ に矢内氏が子供の頃クワガタを根こそぎ採っていた伝説のポイントに向かった。装備はなにも ないまま、ライターの火が唯一の明かりであった。そして、見事にノコギリクワガタをゲット したのであった。その日、本町百店会売り出しイベント部員による本町クワガタ探検隊が結成 され、我々の「クワガタマタギ」生活が始まったのである。おかげでその夏は飲み代があまり かからなかった記憶がある。なにしろ毎日のようにクワガタを求めて林をさまよっていたのだ から当然ではある。 結局この年は本町には500匹以上のクワガタ&カブトムシが飼われていたのだった。松露庵 (注:矢内氏のお店、和菓子屋)裏にクワガタ飼育用の小屋、通称第1サティアンが完成した のもこの頃である。イベントマッチでのクワガタ販売も盛況に終わったのは言うまでもない。 そんな夏を何年過ごしたろうか・・・・ 我々の興味はやがて、希少価値のクワガタ、ミヤマクワガタやヒラタクワガタに移って行った。 なにしろノコギリクワガタやカブトムシなど、イヤになるほど採れるのである。つまらないの である。そして採集の狙いはヒラタクワガタとミヤマクワガタに絞られるようになった。一応 イベント用にノコギリクワガタやカブトムシも採るには採るが、最初の年と比較するとかなり 気合いの入らない取り組み方であった。もう完全に本来の目的、「商店街イベントでクワガタ」 を忘れて、自分たちの趣味の世界である。その証拠にヒラタクワガタや大きいミヤマクワガタ はイベント会場で売られた事はないのであった。 ヒラタクワガタは数は圧倒的に少ないが伊勢崎でも採れる、しかしミヤマクワガタは伊勢崎に は生息しない。そして栃木県詣でが頻繁に行われるようになった。車で1時間以上はかかるの であったが苦ではなかった。 ここで満足するクワガタ探検隊ではなかった。そう、残る目標はただ一つ、幻のオオクワガタ である。我々がこれまで何千匹とクワガタを採集しても、オオクワガタなど1匹も採れなかっ たし、採れるとも思わなかったシロモノである。 果敢にもそれに挑戦した男がいた。もちろん矢内氏である。オオクワガタは山梨に多く生息す る、という情報を入手して、何人かの隊員とオオクワ捕獲隊を組織し、山梨まで遠征に行った のである。結果は惨敗、オオクワガタが数多く生息すると言われる山梨でも、なんの手がかり もなしでたった1日行っただけで採れる程オオクワガタは甘くないのである。しかし我々商人 には山梨に頻繁に通う程の時間は与えられていないのである。栃木県よりも遙か彼方である。 かくしてオオクワガタの捕獲は断念され、幻は幻のままで終わったのである。もしも山梨がミ ヤマクワガタを採りに行く場所と同じ位の距離であったなら、毎日通っていたであろう・・・ そして2年前のある日、オオクワガタが本町にやってきた。買ったのである。採れなければ買 うしかないのだ。この頃にはオオクワガタもTVなどでも再三紹介され、だいぶメジャーにな ってきており、昆虫の専門誌などにはクワガタの販売業者の広告も目立ち、こういう場所では デパートやペットショップなどよりも安い値段で買えるのである。もちろん我々はただ飼って いるだけでは満足するわけが無いのである。さらに上を目指すのだ。今度はオオクワガタに卵 を産ませ、幼虫を育て、そして大きな成虫を作ることが目的となった。そして本町クワガタ研 究所(注:現在では本町以外にも所員も増えて伊勢崎クワガタ研究所となっている)がスター トした。オオクワガタの成虫&幼虫の飼育方法については、後日矢内氏の論文が発表されるで あろうから、それを期待していただきたい。(注:98年3月現在、まだ発表されていない) そして今年矢内氏の自宅に矢内オオクワ研究棟も完成し、今本町には数十匹のオオクワガタの 幼虫がいる。特に矢内オオクワ研究棟は、興味のある人は一度訪れてみるといいだろう。きっ とオオクワガタが飼いたくなるに違いない。実際本町クワガタ研究所の所員はみな、一度見て しまったがために自分でも買ってしまったと言う愚か?な男達の集まりである。そして今や本 町だけにとどまらず、本町を中心として半径5q以内にはオオクワガタの成虫数十ペアと、数 え切れない幼虫がいるのである。 今年様々な飼育方法を試みているオオクワガタの幼虫達は、来年には成虫となるであろう。そ してオオクワガタ飼育の研究に一区切りがついたときに、研究の成果を矢内所長がこの誌面に て発表する事になっている。(注:されてない) そして来年からは「かかあ町1店に1匹オオクワガタ計画」および「かかあ町オオクワショッ プ」計画がスタートするかもしれない。(してない) なお、本町にはクワガタ研究所だけでなく、魚介類研究所も存在する。それについては本町魚 介類研究所主任研究員の川田氏が後日投稿してくれるであろう。(してくれなかった) 他にも縁日で買ってきた亀を十数年の長きにわたり飼い続けた男や、ロバを飼って、娘を乗せ て本町を散歩させる事を夢見る男、家にシロアリを飼っていた男なども存在する。思えば昔か らこの町には、生物をこよなく愛する人達が住んでいるように思う。 オオクワガタなど、興味の無い人にとってはゴキブリと同等の扱いであろうが、そんな事で、 もしこの町が少しでも有名になるような事があったらば、それはそれで商店街にとってはいい 事かもしれない。

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