サイエンス講座:昆虫生理学

科学される昆虫たち! by 大外一気
第1回 ホルモンと昆虫について その1

どうも、皆さん初めまして!
大外一気です。
アッシのクワガタ魂をいろんな人に見て、そして、
”こんだけイレ込んでいるんだから仲間にしてやろう!”
と思ってほしくって一筆書きました。

題して「科学される昆虫たち!」


観察から得られる現象に理論的な考察を行っている K-sugano 氏やプロのサイエンティストの Erie さんらをさしおいて、少し気が引けますがシリーズものとして綴っていきたいと思います。 しかし、残念ですが、あくまでも昆虫でして、クワガタではないジレンマがあります。 それから、大まかな理解を得るため細かいところでは嘘を書くことがあります。 この2点、ご理解して下さい。 でも、十分にクワガタ飼育の参考になるのでは?と期待しています。

第一回目の今月は”ホルモンと昆虫について その1”

まずは、ホルモンってナンだろう?と思う人のために。 ホルモンとは体のある組織で合成後、血液により目的の組織に運搬され独特の生理活性を示す化学物質を指します。 人間を例に挙げてみましょう。

そうですねぇ、インスリンなんかどうでしょうか。 血糖値が高くなると膵臓はインスリンというホルモンを合成し、血糖値を下げます。 このインスリンによる作用が破綻すると糖尿病に成ることはご存じの通りです。

それから、性ホルモン。 女性の性周期は、黄体ホルモン放出ホルモン、黄体形成ホルモン、プロゲステロン等の いくつかのホルモンにより制御され、生殖能力の獲得、すなわち卵子の発育につなが るわけです。 不思議なことに、黄体は女性に特有のものなのですが、黄体形成ホルモンは男性にも 存在します。 黄体形成ホルモンは下垂体から分泌され精巣を刺激します。 その結果、精巣は男性ホルモンであるアンドロゲンを合成し男性生殖機能を発達させ ます。 つまり、精子を作らせるわけです。 これら性ホルモンの働きにより生物は次世代を残していくのです。

もっとはっきり分かり易いホルモンは成長ホルモンです。 体の大きさを制御しているホルモンです。 このホルモンをより効率的により多く作用させることにより生物は大きくなります。 実際は成長ホルモンただ一つの働きで大きくなったりあまり成長しなかったりということになるのではないのですが、ここは大学の講義室ではないので大ざっぱにいきましょう。

具体例: 大外家の権力の象徴でもある奥さま(ちなみに新婚の様です)は女性ホルモンを オオクワメスに与えてみたいらしい。 理由は簡単。 大規模な繁殖をさせてみたいそうです。 また、オス幼虫を女性ホルモンの添加されたマットで飼育し、雌雄同体をつくらんと 狙っとるらしい。

大外家の奥さまのような考え方は極論ですが、ホルモンは生物機能の中心的位置にあ ります。 どうですか?ホルモンはこういうものを言うんです。

さて、話を昆虫に移しましょう。 上の例で、ホルモンの重要さを理解されたかと思います。 昆虫にとってホルモンは我々人間以上に重要であることをまず認識して下さい。 例えば、インスリンは脊椎動物ではゲノムあたり 1 もしくは 2 コピーしかありませ ん。 しかし、カイコはインスリン様ホルモン(ボンビキシンと呼ばれています:機能はインスリンとは異なります)をゲノムあたり数十コピー所有しています。 一般の人には、この”ゲノム”とか”コピー”という表現が解りにくいかと思いますので簡単な解説を付けます。 ゲノムとは、例えば、人間を人間たらしめる1セットの遺伝情報のことを指します。 つまり、人間はややこしいことが書いてある人間用のファイルを持っているので人間に成るのです。 このファイルのことをゲノムといいます。 ゲノムというファイルの中に、人間はインスリンのページを1ページしか持っていません。
しかし、カイコはインスリン様ホルモン:ボンビキシンを数十ページ以上持っているのです。 このページにあたる言葉がコピーになります。 ゲノムとコピー、イメージできましたか?

人間とカイコにおけるコピー数の 10 倍以上の差の解釈はいろいろあるのですが、少なくともその重要性を表しているとも考えられます。

では何がどう重要なのでしょうか。 それは次号のお楽しみとしてとっておきましょう。 次号ではカイコを中心に昆虫のホルモンについて解説していきたいと思います。 今月号は少し尻切れトンボのようになってしまい申し訳ないです。 しかし、皆さんの理解を深めていただきたく少しずつをモットーにして進めていきたいのです。

それから、”これはどうなっているの?”等のリクエストを募集しています。 リクエストはa603taku@alles.or.jp までどうぞ。 もちろん感想などもどしどし送って下さい。 私は、感想・リクエストからクワガタ飼育の大きなヒントが得られると思っています。

それではまた次号で。


The key word in this month !
ホルモン 体液を循環してそれぞれのホルモンが持つ固有の情報(生理活性)を位置 的に離れた組織に伝える物質のこと。この情報とは新しい能力の獲得(性機能の成熟など)や体の恒常性の維持(血糖値を下げるなど)など、生物が普通の生活を送るために必須のものである。
ゲノム ある種の生物をその種に規定している遺伝子もしくは遺伝情報のこと。 この情報の書かれ方は基本的に全ての生物で統一されている。

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