虫好きの心

A.CHIBA



 ビルの一室に作られた展示即売会場、入り口に整然と並ぶ人の列、あまり喋る人は居ない。何と言うのか、軽い緊張感とでも言うのか!少し張りつめた空気が立ちこめている。ある展示即売会の入場時間前の風景である。並んでいる人達の考えている事は、大抵皆同じで、自分の目指すものがあるか! 手頃な値段だろうか!手に入るかな?・・そんな処である。少し前までは昆虫標本をお金で買う事に嫌悪感(抵抗感)を持っている人達も居たが(標本は金で売り買いするなどとは滅相もないと言う事で、自分で採集するか、交換してもらうと言う事なのだが・・・)この頃は余り見かけなく成り、めでたく絶滅したか非常に稀種に成ってしまったようである。

 「どうぞぉ〜」長い列の先頭の方から声が聞こえた。いよいよ入場である。ゾロゾロと列は動きだし整然と・・・ん?かろうじて整然と会場へと吸い込まれていく。会場に入るとまずみんな自分の目指すものを捜すのだが、これがまた結構大変で、ぼやぼやしてると人に買われてしまうという心理が焦りと成って目を血走らせながら、あちらこちらと会場の中を右往左往している姿は正にイモを洗う如き状況である。この一瞬、正にバ−ゲンセ−ルの時に見る光景と見紛うばかりだが、むさ苦しい男どもが織りなす光景だという事とモノがモノだけに品物の取り合いとかは無い(出来ない!)がこれは一見に値する・・・かな?そのエネルギ−にはいつも敬服するのだが、即売会に来る皆さんの名誉の為に言うと、ホントは少し大袈裟に書いてしまったのだ・・・ム!皆さんホントに紳士でありすこぶる冷静に振る舞っており、乱れる何て事は微塵も無いのである!? もちろん、私も・・・である!
 
  昆虫標本の即売会と言うと有名なのが、東京と大阪で春と秋に行われるインセクト・フェア−であるこのフェア−には毎年沢山の人が(プロ・アマ問わず)店を出し毎回会場は歩くのにも苦労するぐらいとてもにぎわっている。最近ではこの他にも各地で即売会が行われるように成り、それに生き虫を飼育する人達が増えて来た為、生き虫業者やペットショップが主催する生き虫の展示即売会も行われるように成った。標本業者と生き虫業者が一緒に行う事も近頃は有るようで、何度かそのような展示会にも行った事が有るが、生き虫業者の回りはいつも黒山の人だかりで、飼育を趣味とする人達の並々成らぬエネルギ−を感じるのである。(そう言う私も飼育は非常に大好き、楽しんでますょ)虫好きにとっては良い環境に成ってきたと言うべきだろうが? 当然、欲しい虫も並んでいる事が多く成るわけで・・・衝動買いが多くなり?がんばらないと破産してしまう・・・!?                       
 
 モノを集めると言う行為は、人それぞれに思いが有るもので、お金を集める(金儲け)のが趣味で生き甲斐であると言う人もいるし、本人以外は殆ど価値を認めないものを一生、生き甲斐として集め続ける人もいるだろう。この頃はテレビの影響も有るのか、殆どガラクタと思われるものにまで値段を付けて何でもコレクションの対象に成ってしまうようである。元々、少数の人をのぞいてはみんなコレクタ−の素質を持っていると言って過言では無いと思う。カラスだって光るモノを巣に集めるのだ〜!!                     
 それでは昆虫のコレクションと言うのはどうなのだろうか!私なんぞは自分の好きな種ばかり集めて楽しんでいるわけで、殆ど自己満足であるのだが・・・昔から、昆虫はコレクションの対象としては、特異な位置をしめていると思う。昆虫のコレクションの方法(勿論、飼育目的としても)として、まず自分での採集があるが、私が子供の頃は昆虫採集というと、回りの大人は「虫の研究か偉いな!」とたいそう誉めてくれた。昔の人には昆虫採集は立派な研究であると考えていた人が多かった訳で、これは今思うと言った当人達は深く考えていたわけでは無いのだろうが、当時そういう状況に社会が成っていたというのも凄い事である。しかし、近年に成り、“昆虫採集”が自然破壊(生態系)に繋がるなどと言う大人(大抵は虫が嫌い)が何故か突然出現したのだ!これはいかなる理由で出現したものなのか?ある程度は推察出来るのだが・・!この手の無知(昆虫に対する)が自然破壊に繋がる事が怖い!

 採集と言う行為は虫好きにとって非常に心ときめくものであり、子供は虫が好きに成り自然が好きに成る。採集に行き目的の種を首尾良く採る事が出来た時の満足感は何とも言い表せないものであるし、稀種と言われている種など採るとしばらく威張れるのも良い!私も初めてオオクワを捕らえた時なんぞは、毎日ながめて幸せな日々がしばらく続いたものである。62oの個体だったが、大木のウロの中に居るのを見つけた時、なんとデカク見えた事か!この時の記憶は貴重な財産である。
 
 次の方法としては、交換、又は購入するわけだが、昆虫というのは目的のものがすぐ手に入る(始めたばかりの頃は欲しいものばかりだが)と言う事は稀で、(有っても高くて買えないのも多い)標本商やあちこちで開かれる展示即売会に何度も通い目的の虫を見つけるのだが運も相当ものを言うし、これが結構難しいのだが捜す楽しみもある。
 それからご存知の通り昆虫と言うのは、産地において非常に棲息が少なく(稀種で)、又は採集が難しい種と言うのが結構いるのだが、当然その様な虫は値段が高いしなかなか売っていない。ところが昆虫の本質は本来稀種などと言うものはいないと言われ、採集方法や多産地がわかると、いきなり沢山採れたりする事が結構ある。

 日本産のクワガタでこの良い例がヒメオオクワガタで、このヒメオオ、十数年前まではオオクワガタよりも稀種であるとされていて、私など自分で採集出来る事は無いと思っていたほどの種であった。山地にある柳の仲間の枝先に集まるなど生態がわかると産地においては普通に採れる種に成った。こう言う事が虫には間々有り、今まで稀種で目の玉飛び出るほどの値段が付いていた種が突然何十分の一に値下がりしてしまう事があるわけで、これは虫の買い方の難しいところであるし、楽しいところでも有るのだが、買った時より値段が上がる虫と言うのはまず居ないと思って良い。(ホントに好きじゃないと大枚はたいて買えませんな!)しかし、以前より欲しかったあこがれの種を購入出来た(手には入った)時の嬉しさ満足感と言うのもなかなか良いものである。それに昆虫コレクションと言うのは将来学術的価値(100年先でも)が出て少しは貢献出来るかもしれないと言うおまけも付く。なにしろ、昆虫標本は保存状態さえ良ければ、100年、200年は軽く保つ(特に甲虫は)のであるから、累代飼育して寿命が尽きたものも飼育状況を書いたラベル等を付けて残しておくべきである。将来役に立つ事も有るかもしれない。

 何だか展示会の風景から話しが在らぬ方向に行ってしまいぐたぐたと書いて来たが、何しろ、虫好きにも色々な人が居るわけで、この虫好きには何故か個性の強い個体が多くその個体(個性)変異も激しい(♀は非常に稀であるが、なぜか美形が多いと言う・・・!)。昆虫標本には興味が無くて、飼育だけが好きな人。採集は好きだけど、飼育は面倒だから好きになれない人、標本コレクションだけしている人。昆虫に関する事は全部が好きな人(こういう人が一番幸せ!)。等々であるが、みんなに共通して言える事は、殆ど虫にのめり込んでバカに成り!(失礼!利口に成った人もいるかな?)幸せな顔をしている事である。その幸せそうな顔に、虫好きの心を見てしまう。幸せな人達その名は虫好き!懲りない面々。合掌!


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