美しい死体処理方法入門(1) 用具編

k−sugano

 昆虫採集は昔から”King of Hobby”と云われ、かつての植民地時代には英吉利、仏蘭西など西洋の教養人の趣味であった。かれらは貿易商、外交官、軍人、技術者、医師などさまざまな職業で外地へ赴いたが、赴任先で昆虫をはじめとして動植物を採集し本国へ送った。大英博物館などに現存する膨大な収蔵品はこうして集められたものなのである。また、こういった人々から採集品を集めて研究する人もあらわれた。彼らのような人達が次々と新種を記載していったのである。本号に掲載されているA.CHIBA氏の「怪説・世界のクワガタ」でもわかるように、死んでしまった虫たちもあのように標本として残しておけば、産地ごとに比較することにより新たな知見も得られると言うものである。また昆虫の分野においてはアマチュア抜きに学問の進歩は有り得なかった。なぜなら学者先生が世界中で採集する訳にもいかないだろう。アマチュアの採集標本とアマチュアによってもたらされた生態などの知見の上に今の昆虫学は成り立っていると言っても過言ではない。・・・・おお!なんやら難しくなってきた。てなわけで、標本作製講座、別名「美しい死体処理方法入門」その1である。


第1回では、作製に必要な用具を紹介する。最初にFig-1を見てほしい。

Fig-1

このFig-1に示したものがクワガタなど大型甲虫の標本作製に必要な用具のほとんどすべてである。

留針

 展足に使う針はパールピンと呼ばれるもので、ワイシャツを購入したとき襟元などに刺さっているアレである。針の頭が小型の真珠のようになっているのでこの呼び名がある。大量に必要となる。写真では左上の丸いシャーレーに入っている。(1000本:1800円位)

標本針(虫体に刺す針)

 写真で赤い紙袋に入っているのが有名な「シガ有頭針」で、一般にはこの針を使う場合が多い。ステンレス製で小さな頭が針本体から取れることがない大変優れたものである。頭のない「無頭針」もあるが持ちにくく刺しにくいので利用する人は少ない。
 その右の小型の白い袋に入っているのが「通称ナイロンヘッド」と呼ばれる舶来のものでシガ有頭針に比べて大き目の頭がくっついているのがわかるだろうか。この頭は金色に塗装されているので、ちょっとゴージャスな雰囲気がある。標本即売会などではある程度高価な標本に使用されている。シガ針に比べて固いため甲虫の背中に刺すとき、シガ針のように先が曲がるといったことが少ない。高価である。
 針には号数があって数字の大きくなるほど太くなる。近年は細目が好まれるようだ。クワガタの場合2号から5号位までで通常は間に合う。
 (シガ有頭針100本:250円から420円位 号数によって変わる)

ピンセット

 展足、修理などに必要である。写真では用途によって使い分けているため3種示してあるが一番奥の通常のものだけでも間に合う。次回以降で説明する「蒸気による軟化法」を利用するときは先の幅広のものがあった方が良い。(300円から2000円位)

木工ボンド

 ボンドは取れてしまった脚、付節、触角などをくっつける用途のほか、ネブトクワガタやスジブトヒラタクワガタなど泥まみれになりやすく、かつ鞘翅の溝に泥が食い込んで取れにくい場合などに、いわゆる美容顔パックの要領で使用する。

発泡スチロール板と紙

 展足の台とするために必要である。コルク板を使うこともあるが、電気製品などの梱包材として入っている板状の発泡スチロールで代用できる。また足先の爪が引っかかりやすいので、スチロール板の上に紙を置き、四方をパールピンで固定して使用する。

柄付針

 これは良いものはあまり売っていない。箸と標本針で作る事も出来る。写真では先の部分が黒い2本である。


 お湯を含ませて虫体の部分汚れを落とすときなどに使う。

Fig-2

すのこ付きタッパー

 乾燥標本を軟化するために使う。すのこ付きでなくても良い。

次回からは標本作製の実際を写真で示しながら記述してゆくが、使用予定の個体を紹介しよう。

Fig-3

左の5頭(パック入りの3頭とオオクワガタ1頭、オニツヤクワガタ先歯型1頭)はあの有名な小島啓史氏の飼育個体である。比較的展足の容易な形で保存されている。
中央部のひっくり返っているのは脚を曲げたまま固まってしまったスジブトヒラタクワガタである。このように展足困難な形で死んでしまった場合も多いだろう。軟化標本の例として使用予定。
右側のバラバラになったのはオキナワマルバネクワガタの♀である。復元処理の例として使用する。

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