採集の極意(2)

がっちゃん



 皆さん、昆虫採集に行かれたことがありますか? そんなとき、目的とする昆虫の棲息地、環境、発生時期等を参考に行動しますよね? 目的とする昆虫の棲息に関する情報は、多くの場合、図鑑等の専門誌を見て収集するのが一般的です。ところが、時にこの情報が行動範囲を狭めてしまい、結果的によくない固定概念を自分自身に植え付けてしまうことがあります。今回は、この固定概念について考えてみましょう。

 固定概念、これはけっこうありがたく、かつまたやっかいな深層心理で、私自身も初めてオオクワガタを捕まえるまでに、かなり苦労しました。私のことを例にあげますが、最初にオオクワガタを捕まえた時の経験が、今でも採集に行く度に役立っています。

 その当時、私が使っていた図鑑には、「オオクワガタは、サクラの木に集まる。」と書かれてありましたので、私はこのことを念頭に、近畿各地の桜の名所を探し廻りました。しかし、全然採れないのです。そこで、ヒントをもらうべく私の師でもあるY先生を訪ねました。「先生、オオクワガタが採れんわ!」と言いますと、「おまえなぁ、何を根拠にサクラの木を探してんねん。」と逆に聞き返されました。

 そこで、自信を持って「この本や!」と見せますと、いきなり大笑いされ、職員室全体に笑い声が響き渡りました。「何がそんなにおかしいねん!」とくってかかりましたら、「おまえな、いつの時代の本を見てんねん。」と言ってまた笑います。さんざん笑った後、「この本に書かれてあることは、嘘ではないけど内容が古いんや!」、と自分の持っている本を見せて「これは今年出た本で、新しいことが書いてあるんやけど、それでも信じ込んだらあかん。」と念を押すように話されました。そして、さらに「採集をする限りは、棲息する基本情報を自分で見つけて、自分で発見することや。それに、もっとも価値のある情報は、自分自身で新しいものを見つけることかな。」と言って、その日の夜、箕面の山に連れていってくれました。

 その夜、先生は「この林道にオオクワガタがいてるから、1時間ぐらい探したら戻ってこい。」と言い、例によって自分は煙草を吹かしています。私は「念願のオオクワガタや!」とワクワクしながら勇んで探しに出かけました。

 探すこと30分。いました、いました雌が!しかも、サクラの立ち枯れに!この時に、サクラに集まるのはきっと雌が多く、それは産卵行動に関係してるに違いないと直感的に理解しました。すぐさま先生の所に戻り、捕まえたオオクワガタを見せたところ、「わしの言いたいことが解ったみたいやな。」と言って悠然と笑っておりました。その後、さらに雄のオオクワガタをコナラの木で捕まえることができました。帰宅後、先生から借りた図鑑に書いたあったのですが、雌はクヌギ、コナラ、ブナ、サクラに集まり云々......

 先生は、きっと私が図鑑に書かれてある情報で固定概念を持ってしまい、正確な観察が出来ないでいるのを見抜いておられ、それを打破する方法を身を持って解れと教えてくれたのではないでしょうか?そのおかげで、今では基本情報を元に、例外的な棲息場所でさえ見つけられるまでに至っております。

皆さんも、基本情報の固定概念を持っていませんか?もしそうである方は、勇気を持って行動あるのみ!



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