徳原ミヌルのくわがた覚え書き(1) コクワガタ編


1993年4月、自宅から直線距離で100m程の寺院の敷地内でクワガタが採れるという情報を入手した。あまり気持ちのいい場所ではないが、本堂横の墓地のお供え物の果物を吸汁しているというのだ。墓にいるやつを採りたくはないなと思いつつも、どんな所か一度見てみようと、この年のゴールデンウィーク初日に片手にドライバーを持って出掛けた。(決して怪しい者では、ありません。材採集の可能性を考えて携行したのです。)実はこの寺院、この年のプロ野球開幕日(この年はデーゲームだった)のプレイボールからほどない時刻に出火して全焼する火事となっており、採集に行った頃は焼け落ちた建屋が片付けられた時期だった。

現地に着くと、本堂と墓地の間の本堂の影となっていたであろう場所に、直径15〜20cm長さ2m程度の朽ちた倒木が3本と、直径50cm長さ1m程度の朽ち木が3本ころがっているのがさっそくみつかった。まず目についたのは細い方だ。脱出口とおぼしき穴が沢山認められた。その穴の近くにドライバーを突き刺してみる。「ボスッ」という感じで先端が突き刺さった。そのままテコの原理で少し表面をはがしてみる。容易に古い食痕が見つかった。材割りは初体験であったが、食痕は素人にも直ぐに判った。その食痕にそって表面をはがしていく。「幼虫?」と思った瞬間それが抜け殻であることが判った。少なくともこの倒木から発生している事は間違いなさそうだ。

少し別のところにドライバーーを突き刺してみる。いやな感触があった。成虫にヒットだ。小型の♂の大あご(小あごと呼ぶべきか)にドライバーがヒットしてしまった。いきなり材採集第1号にドライバーがヒットしてしまうとは何と言う不運であろうか?クワガタにとってもいい迷惑だろう、折角越冬してこの夏の脱出を心待ちにしていたろうに(するのかな?)。この傷は恐らく致命傷だろう。可哀相だが採集した倒木近くに放置した。更に表面を剥ぎ取っていくと今度は無事に♀の成虫を採集できた。しかし、容器を持って来なかったので(何しに行ったの?)手につかんだまま、片手にクワガタ、片手にドライバーという格好で、更に材を崩していった。

火事の時の放水のおかげか(不謹慎な…)材は程好く湿っており、簡単にドライバー1本で表面から剥ぎ取ることができる。ようやく念願の幼虫を発見した。3齢幼虫の様だ。ご存知だとは思うが、ここで材からの幼虫取り出し時に幼虫を傷付けない方法を一つ紹介しておこう。小枝や草の茎を幼虫に噛ませるのだ。こうして引っ張り出すと、比較的容易に傷付けずに取り出すことが出来る。こうして、この日は1本の朽ち木から4匹の3齢幼虫を採集した。最初に採集した♀成虫は、幼虫採集に夢中になっていたうちに手の中からいなくなっていた。(トホホ・・・)

この日からゴールデンウィークの5連休中毎日のようにここに通い、TOTALで初齢〜3齢幼虫を30〜40匹(すみません。記憶が古くて覚えていません)採集した。ただし、当初は持ち帰り容器がスーパーの袋だったりタッパーだったりしたため、帰るまでの間に初齢幼虫などは3齢幼虫の糞や口から吐き出す茶黒い液体(ギ酸?)にまみれたり噛まれたりで多くが死んでしまった。幼虫採集の場合は朽ち木マットを入れた容器を準備して折角採集した幼虫を殺したりしない様にしなくてはいけない。(当然だろっ!)

ところでコクワガタはかなり細い木でも生育するらしく、直径5cm長さ30cm程度の朽ち木断面に食痕があるのを認めたのでドライバーを突き刺しトントンと衝撃を与えたところ、この細い朽ち木からコクワガタの♀成虫が這い出てきた。直径50cm長さ1mの太い朽ち木の方でも初体験が有った。それはこの木の樹皮を剥がしたところ、樹皮下の茶黒く泥状になった部分に30匹もの小さなクワガタらしき昆虫がうごめいていたのだ。小さなあごだが触角の形からクワガタであることは間違いない。全てを根こそぎ持ち帰り図鑑で調べたところ、どうやらチビクワガタの様である。このチビクワガタの体長は10mm〜20mm位で♂♀の判別は出来なかった。(どなたか外見からの区別方法ご存知ですか?)ところでこのチビクワガタ、ゼリーもリンゴもバナナも食さず、「検索入門クワガタムシ」の記載から「さしみ」も与えてみたが結局食べていない様であった。このままでは全滅させてしまうと思い、1ヶ月後に全てを採集場所の朽ち木近くに放虫した。

7月に入ってコクワ幼虫を根こそぎした倒木から割と大きめのコクワ♀成虫2匹を採集した。2匹とも倒木の地面に接している側についていた。恐らくこの朽ち木に産卵に来た個体だろう。何年かに渡って発生木となっていた朽ち木を荒らしたことで、少々心が痛んだが、これらの朽ち木は火災によって、本堂の影となっていた環境から一転して直射日光にさらされる環境に変化したわけで、夏の間にカラカラに乾燥してしまったことを考えれば、いいタイミングで自分に採集され全滅を免れたとも言えるかな(?)と自分を慰めた。この寺院には椎の木やクヌギが他の場所に数本残っており、この年は結局これらの木の周辺および朽ち木からカナブン、カブトムシ、コカブトムシを採集した。

今回このコクワガタ編を終えるにあたり、「月刊むし」でのコクワガタのギネス記録を紹介しておく。
ギネス記録は54mmで愛知県名古屋市で採集されている。(私がノコギリクワガタでクワガタ熱にかかり始めた頃の住居からわずか2kmの場所だ) ちなみに私のブリードによる記録は46mmである。

オオクワガタのギネス(76.1mm)オーバーがブリードによって業者の手で作出(?)されたことが報告されているが、コクワガタの54mmオーバーというのはかなり難しいのでは?身近なクワガタだけに飼育の対象になりにくいとは思うが、ブリードでどこまで大きくできるかという点で興味はつきない。皆さん、チャレンジされてみてはどうかな?!

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