クワガタ隊 東へ西へ

クワ道の幼虫
  
1995年6月某日 

私が仕事の帰り、飲んだくれおやじのなかじーといつものお食事を済ませて志木駅から歩いて15分の2DKの我が家に帰ってくると、ドアの下に何か黒い3cm程の虫がうごめいていた。「何だ?ゴキブリか?」と思いよく観察してみると、それはクワの小さい♀にも見えるコクワガタの♂であった。約20年ぶりの再会であった。もともとクワガタが子供の頃から好きであった私は、すぐに未使用のタッパに近所の畑より腐葉土をかき集め、バナナを餌として与えてやった。そのコクワガタはバナナの匂いに誘われてうまそうに食い始めた。そして何度も私にお礼をするのであった。(そう見えただけだが…)これがきっかけで今度は自然の林から採りたいと思うのにはそんなに時間はかからなかった。 

なかじーはお友達です。 
  
1995年8月12日〜13日 

実はクワガタが好きであるが、子供の頃にいっぱい嫌になるほど採ったことは無いのであった。そして、その経験をこの日から実践していくのである。私はとてもラッキーであった。飲み友達の某サイトーさんという方が「そんなに採りたければ案内してやるぞっ」と言ってくれたのである。 

場所は山形県某所。河川敷にある雑木林である。お昼過ぎから行動開始。昔の記憶を頼りに林の中を進んでいく。しかし、全然いない。2時間位たって如何にもクワガタがいそうな木を見つけた。そっと木を覗いてみると、 

ブ−−−−−−−ン、プチッ、プチッ、プチッ 

あっというまの出来事であった。足長蜂4匹に頭を刺されてしまった。「何じゃ、サイアクやんけっ。」心にはこんな言葉が浮かんだけれどもすぐ消えた。なぜならば、この林にはクワガタがいるはずだからである。 

それから2時間ほどたち、あたりが夕暮れに差し掛かった。おもむろに20m先程度林に入っていたサイトーさんが叫んだ。 

いたーっ。でけーっ。俺さわれねーよぉっ!!」 

それを聞いた私はあっというまにその場所まで来ていた。そこで目にしたものは当に夢のような光景であった。2m足らずの細い1本の柳の木にノコギリクワガタが鈴なりであった。不思議であった。柳の木などにクワガタがいるということを初めて知った。しかしもうそんな事はどうでも良かった。ひたすら採りまくった。それからは柳の木を重点的に採って採って採りまくった。 

気が付けば、ノコギリクワガタ20匹、カブトムシ20匹ほど採れていた。気分は爽快である。明日朝にもう一度来る事をサイトーさんと約束しその場を後にした。 
帰り道、畑仕事をしていた地元のおばさんに 
「じょんだーっ、じょんだーっ。」と言われたが意味が分からなかったが、とりあえず、笑顔を返しておいた。この頃はもう蜂に刺された所も痛くはなかった。 

サイトーさんの実家に泊めていただいた。小茄子の漬物、芋煮は絶品であった。お土産に漬物をいただいてしまったぐらいである。 
次の日は朝4時から現場に向かった。ここで山形といえばのタケチャンの参加である。なぜかタケチャンはおかんの赤い長靴をはいている。 
…にあわねぇ?…そんなことはどうでもいい事であった。 

さて本題に戻る。目指すはノコギリの木である。(勝手に命名してある。その他にはコクワの木、カブトの木がある。)当然のようにノコギリクワガタがいるのである。採ったクワガタ達は、大人げないがすべて埼玉まで持って帰った。全ては飼育出来ないので近所のクソガキにおしげもなくあげたり、社内の子供持ちにもらっていただいた。みんなの喜ぶ顔が印象的である。最終的にノコギリクワガタ♂♀1匹ずつ、カブトムシ♂♀1匹ずつだけを残しただけであった。しかし彼らは天寿をまっとうして子供らも山ほど残してくれたのであった。 

*某サイトーさん、タケチャンはお友達です。 

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注意) 

会社内でクワガタ隊を勝手に発足させまして 
勝手に理事長などとほざいています。 
採集、飼育に関しては全くの素人ですので 
とても皆様に対して失礼ですが、自己満足の世界ですので 
お許しください。 
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1996年8月10日〜11日 

「やってまいりました第二回山形でクワガタ採集しよう!!」の会を開催した。 
採集参加者を募ったところ、希望者が現れた。徹夜作業の鉄人やーまだぁである。どうしても行きたいと言う人を連れて行かないわけが無い。早速、クワガタ隊隊員1号の称号を与える事にした。(ちなみにサイトーさんはクワガタ隊名誉隊長タケチャンはクワガタ隊山形支部長である) 

目指せっ!ノコギリの木っ!!ひたすら東北道、山形道を走り抜けた。理事長としては採集に向けて体調を調えなければいけない。と、いうことで、運転は隊員1号に託してゆっくり寝ることにした。 

程なく朝10時ごろノコギリの木のあるポイントに着いた。実は山形支部長から「道路工事の為、採れるかどうかわからないですよ」と調査結果を報告されていた。とはいうものの大丈夫だろうとは思っていた。が、山形とはいえども(「ウルセェッ」との非難轟轟が聞こえてきそうだ)開発の波の速さはすさまじい。高さ5m程、幅50m、長さ300mの砂利の道が出来ていた。やばいなぁ〜と皆が思った。が、そこはクワガタ隊である。残った林の中をずんずん進んでいった。 
「いたぁ〜、カブトだぁ〜」 
昆虫が健在である事を確認した。今年も採れるっ!内心うれしかった。後はクワガタを探すだけである。それから数分後、タケチャンの叫ぶ声。 
「ノコ発見、ノコ発見、はやぐぅ〜」 

そこには交尾しまくりノコギリクワガタの宝庫。ひたすら採りまくった。木をゆすってクワガタを拾いまくった。そして採集も絶頂に達したときである。サイトーさんが木を3回蹴った。 
「うりゃっ、うりゃっ、うりゃっ!!! 

その瞬間である。ボトッ!!!チクッ!!!!!ブゥゥ?ン… 

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜」 

サイトーさんの背中にトックリ蜂が落ちてきたと同時に刺したのであった。みるみる刺された所が腫れてきた。いかにも痛そうである。 
しかしタケチャンと隊員1号は笑って(^O^)(^O^)いたと記憶している。 

理事長としては残念であるが、隊員の安全を守る事を優先して負傷者1名でその場を後にする事にした。とっさの機転が利き、この後は誰も名誉の負傷をする者は現れなかった。 
刺されたサイトーさんは2時間ばかし痛がっていたが、こなすの漬物と芋煮と最良の妙薬であるビールを食する事により傷はみるみるうちに治癒していった。しこりだけを残して……その日は温泉ゆららに入り寝る事にした。 

次の日、東北地方では珍しい地震に遭遇した。震度3である。かなり揺れたので目が覚めた。サイトーさん、隊員1号は地震でも起きていなかった。かなり疲れているらしい。疲れているので起きなくてよかったなっ、と、理事長としては思うのであった。おもむろに時計を見た。4時である。………。ん?4時? 

「採集の時間ですよぉ〜、起きないとぉ〜」 

理事長としては時間厳守にうるさいのである。眠い二人をさわやかに起こしてあげると、さぁ採集である。寝起きの二人は始めはいやいやだったが、いざポイントに着くとサッサと林の中へ。しかし、地震の影響であろう。ちっちゃいのが数匹いただけであった。二人の声が心に訴えかけてきた。 

「もっと寝かせろや〜っ、ヤマモトッ」 
「……はい、ごもっともでした。……」 
地震のバカヤロ〜。 

成果 ノコギリクワガタ♂♀で20匹ほど、コクワガタ♂5匹、カブト♂♀で20匹ほど 
今年はほとんど会社、近所に配った。カブト2匹を残して。 
  
  
1996年8月17日 

今日は新規採集場所開拓の日である。やはりクワガタ隊としては山梨県の韮崎市を攻めないわけにはいかないのである。何故かというと……オオクワガタのメッカであるらしいからである。オオクワガタよっ待っていろっ!! 

本日のクワガタ隊メンバーは新規加入を目指している若き二人、バッシーブーチャンである。まだまだ実績の無い二人にとっては今回の働きによって正規隊員になれるかどうかのテストもかねている。多分正規隊員になってくれると期待しながら車は中央道をひたすら走った。 

今回は初めての採集地なので、採集案内地図という物を密かに入手していた。が、それは十数年前のものであり、更にアバウトすぎた。いざ韮崎に着いたのはいいが場所が全くといっていいほど分からない。仕方が無いので地元の衆に聞き込みを始めるが、我々をうさんくさい目で見て全然教えてくれはしない。準隊員の二人もほんとに採れるのかと疑いの目で理事長の方をみている。 

「やばいなぁ〜」 
しかし、私は理事長である。絶対採れるという自信に満ちた姿勢を見せて目に付いた小さな栗林へ突撃していった。嫌嫌な二人も着いてくる。採集開始から5分程度たったとき、ブーチャンが樹液の出ている木を見て叫んだ。 

「いた〜、ゲッ、違ったぁ〜、ゴキブリやぁ〜」 
「どこやぁ?、クワガタはほんまにおらんのかぁ〜」 
「いるわけないですよぉ〜、ゴキだらけですぅ〜」 
そこを理事長自ら確認してみた。確かにゴキブリが多数見られる。しかし木の裂け目に明らかにゴキブリとは違うお尻が見える。おもむろにピンセットを取り出し、引きずり出した。 

「コクワおったでぇ〜」 
「ウソー、どこですか〜、うわっほんまやっ」 
それからが大変だ。急にやる気満タンの二人である。やぶ、がけ、はち、等など…全く関係無しである。しかしその栗林には1匹しかおらずポイントを変えてみた。クヌギがたくさんある林道っぽい道を発見したので歩いていると、あちこちから準隊員の奇声があがる。 

「いた〜コクワッ」 
「またまたコクワ〜」 
延々とコクワが採れつづける。そろそろ止めようかと思っていた時にブーチャンが叫んだ。 

「あっ、あそこっ、でっけぇぇぇ〜」 

バッシーも叫んだ。 

うわっ、ほんまやっ、でっけぇ〜 

理事長も続いた。 

「どこどこどこどこどこっ、どこやねぇ?ん」 
「あそこあそこあそこあそこっ、ほらっ」 
「どこどこどこどこっ、あっ、いたぁ?!木を蹴る用意っ!!!!」 

号令とともに準隊員、もとい!もう正規隊員の二人は足元のやぶを踏み均した。 
バシッ…落ちてこない…バシッ、バシッ 
ブ〜〜〜ン 

「飛んだぞ?追いかけろ〜」 
ボソッ 
「落ちたぞ〜探せぇ〜」「いたっ、捕まえたぞぉ〜」 

優に70mmを超えるノコギリクワガタであった。 
「俺にも持たせてください」等とほざく隊員に戦利品を持たせてやった。優越感に浸れる一瞬である。これは理事長のものやぞっ!と心の中でつぶやいた。 

今日の成果はノコギリクワガタ♂1匹、コクワガタ♂♀多数。そしてバッシークワガタ隊隊長を拝命、ブーチャンクワガタ隊副隊長兼名誉ドライバーを拝命することとなった。 
  
  
1996年8月24日 

今日も新規採集場所の発掘決行である。前々から調査依頼をしていたツルからの報告があった為、青梅に向かう事になった。晴れてツルはクワガタ隊のメンバーに加わることが出来たのである。嬉し涙を浮かべているのがわかったが、そこは気付かない振りをしておいた。 

新規採集場所には朝6時半頃に着いた。そこは立派なクヌギのある公園である。少々遅い時間帯であるが、クワガタ隊はずんずん林の部分を突き進む。理事長は1本のクヌギを蹴った。 

ボトッ 

カブト♂が落ちてきた。この調子でいけばクワガタがいるのでは。気持ちは否応無しに高ぶってくる。 
ツルは捕まえたカブトを「見せてください、見せてください。早くぅ〜」大興奮状態である。うれしそにカブトを眺めている。 
林を進んでいった時、前の方から子供連れがやってくる。「やばいんちゃうのっ」予感は的中である。 

「何か採れましたか?」 
「ええっ、カブトは採れなかったですが種類は分からないがクワガタが採れましたっ!!」 

自慢げに子供に見せられた虫かごの中には6cm程度のヒラタクワガタが入っていた。 
やられたっ。気落ちしている所におやじが続ける。 

「カブトがほしかったんですが、採れないですねぇ?」 
ちくしょーっ。カブトなんかくれてやるーっ。 
「カブト採れましたから、あげますよっ」 

子供が喜んでくれたので気持ちはだいぶ治まってきた。立派なクワガタ好きおやじに育つんだよっと心の中でつぶやいて子供連れとは別れた。その後はさっぱりボウズであった。 

ツル、また行こうなっ!! 



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