3人組の夏物語

じょーじ、H

 
 k-suganoさんからの原稿依頼のメールは、私を奈落の底へ落とすには充分で、どう構成しようかなぁと”締め切り””締め切り””締め切り”の文字が頭の中をぐるぐると回っていました。
 こんな中、この3連休は仕事なのです。よりによって仕事先は大阪。
始発に近い新幹線に乗りこみ、
「う〜ん、わたしはこーして馬鹿になったって?もとからだからなぁ〜果たしてどこから書き出そうか?う〜ん・う〜ん むにゃ〜むにゃGoo〜Goo〜!!」










「おまえ達は浪人なんだろう、こんな夜遅くウロウロしてやがって!盗んだのは、西瓜だけじゃないだろう、ポケットのものを見せて見ろ!」
「それからそこのデブは何もしなくていいから、じっとしていろ!!」
「な・な・なぁんだぁ?これは!クワガタじゃないか?」
「よりによっていい年こいてこんなものを採っていたのかぁ?受験勉強をしなきゃならないんだろう、この大馬鹿者!大馬鹿者!大馬鹿者!」

(ちょっと恐いおまわりさんの説教はこの後しばらく続く・・・・・・)



 大学に落ちた翌年、一人で勉強するのもなんだからと、悪友3人組は集まって週に何回か勉強することに決めていた。
 いつものように渡辺の家(大金持ちで、部屋がとにかく広くほとんどのものが色々有った。おまけにクーラーは効いているし・・・・)に向かい、途中でデブの井出を待ってると、向こうから息を切らせてやってくる。
 よくもまぁ〜これだけのデブを支える自転車があっものだ。サドルが見えない!

「お〜い原ちゃ〜ん!!今そこで見つけたんだけど、でっかいヒラタクワガタだぜ。どうだいいだろう〜懐かしいでしょ?」

 井出の手にあったものは、小学校以来しばらく見ていなかったものだけに、衝撃を覚えた。

「そ〜か、昔は夢中になって採りに行ったもんなぁ〜。こんなのいたっけなぁ〜。渡辺にも見してやるか。・・・・・・・」

 しばらくは渡辺の部屋で、受験勉強そっちのけでクワガタ談義をしていたが、そのうちちょっと見に行ってみるかということになってしまった。・・・・・
 当然に軽装だし採集道具もなく、結局持ち物といえば懐中電灯のみで、虫カゴも持たず出ることになった。但し食い意地のはった井出はポテトチップを忘れず自分用にしっかり持っている。

 早速現地での採集は、”いる!いる!”の大合唱。
そのうち虫カゴがないもんだから、とりあえず大きいのを残してポケットに・・・

「馬鹿にしてたけど、夢中になる何かがあるよなぁ〜気分転換には最高だ!」

(この”気分転換には最高だ!”の一言で、これ以後勉強会の後は昆虫採集がおきまりとなってしまった。)

 だいぶ奥に来ていたものだから、途中西瓜畑を横切って舗装した道に出ると、デブの井出が両脇に何かを抱えている。”西瓜だ!!”

「おまえはど〜して、そういうものをもって来ちゃうわけ??」

 遅れ気味についてくるデブの井出に、渡辺が切れた様に怒る。

「だって、ほとんどはもう取り入れられたみたいだから、残ってるのは大したことないと思ったし、それに美味そうだろぅ?。エサにもなるじゃないか!」

 ゆっくり下っていくと、ポツンとある自販機の明かりだけが煌煌と照っている。
 何でこんな所に自販機があるのかと思えば、何のことはない。”エロ本の自販機”である。
 丁度いいと、さっきつかまえたクワガタを明かりに照らす。

 「どれもこれも大きいなぁ」
 「これなんて言ったけ?」
 「スジだ、スジだ」
 「このメスも大きいよなぁ?」
 「あれぇ?この西瓜裏側にが入っていない。面白いなぁ〜冷やして食べよぉよぉ〜」

 と、まぁ何が悲しくてエロ本の自販機前で、店を広げなければならないのか?相変わらず食い意地の張ったデブの井出は、トンチンカンな事を言っている。

 と、突然赤色灯を点けたパトカーが、こちらめがけてえらいスピードで近寄ってくる。
 何を思ったのか、両脇に後生大事に西瓜を抱えてデブの井出が猛ダッシュ、つられて悪いことをしていないのに(西瓜泥棒?)その場を後に逃げ出す。

 「こらぁ〜待てぇ〜」

 人間とはよくしたもので、追われれば追われるほど逃げたくなる。いつの間にか、デブの井出を二人とも追い抜いて林の近くまで来た。

 「早く来〜い!こっちだこっちだ!!」
 「待ってくれぇ〜、助けてくれぇ〜」

 西瓜を離せばいいのに、暗い中でシルエットだけ見ると、本当に熊がこちらに向かって走って来るようで、その後ろを懐中電灯を持ったお巡りさんが追いかけてくる。

 (こりゃえらいこっちゃ!)

 そのうち、我々の視野からデブの井出が消え、そのすぐ後に、お巡りさんも消えた。

「おい原ちゃん!!よく見えなかったけど消えなかったか?二人とも?・・」
 「確かに消えた?どこ行ったんだ?・・」

 300メートル先のパトカーからも、こちらに向かって懐中電灯の明かりが彼らを捜している様だ・・・・
 林の中の二人と、300メートル先のパトカー、消えた二人。
 得体の知れない緊張感が張り巡る。

 (えらいこっちゃ!神隠しだ!!)

 「う〜ん、ゴボッ!ゲボッ!死ぬぅ〜助けてくけぇ〜」
 「このデブ、本官のベルトをつかむな、こら離せ!」

 間違いない二人の声だ!!でも何か?おかしい。
 井出は”死ぬぅ〜死ぬぅ〜”を連発している。何かあった??

 「しょうがない覚悟を決めて様子を見に行くか」
 「捕まっちゃうぞ!!」
 「悪い事しているわけじゃないだろう。」
 「そうだな」

 声を頼りに近寄ると、なぁなぁなぁんと泥まみれになった二人が・・・・
いや違った!! クソまみれの、この世のものとは思えない物体と化したコエダメにはまった警官とデブが、そこから逃れようと必死にもがいている。

 えらい有様で、おまけに鼻がとれるかと思う臭さ、つかむ場所もなく、二人ともじたばたしているもんだから更にはまっていく。
 パトカーの警官達も、あわてて追いつくが、
「な・な・なんだ?、いったい何なんだこれは?。うぅぅぅ臭〜い臭〜い。そんなとこでじたばたしてないで、早くでなさい!!」
 「すみません、でも出たくとも出れないんです!!こらぁデブ!!だから本官のベルトをつかむな〜

 誰も手を差しだそうとしない、私は近くにあった枝で救いだそうとするが、あわてている警官は手が滑ったり、後少しのところで枝が折れたりして思うようにいかない。
 みんなで枝を持って、コエダメのまわりから、落ちた二人を救っている(釣っている?)
 救っては折れ、救っては折れ(釣っては切れ、釣っては切れ)・・・

 やっとの思いで救け出し、近くにあった畑用の水道で洗い流したが、あまりの臭さと汚さにパトカーに乗ることは許されず、結局コエダメ警官とクソデブと我々二人は、歩いて近くの派出所へ行くこととなった。

 「事件にはならないが、おまえ達の顔は一生忘れない!!・・・・・」
 と、途中このお巡りさんは何度も何度もこぼしていた。・・・・・・

 説教喰らっているときに出したクワガタが、机の上でジタバタしている。
 その有様がさっきのコエダメ地獄絵と重なって、私が思わず吹き出すと、それにつられてみんなも吹き出し大笑い。・・・・・

 受験の不安や何となくもやもやしていた毎日が、この一件でふっと楽になり、デブの井出のおかげで運(ウン?)もつき、三人は翌年希望する大学へめでたく合格。
 このコエダメ・クワガタ採集事件をきっかけに、馬鹿道に一層励むこととなってしまった。・・・・・









 ”ピンポンパポピポ〜ン”

 目が覚めて気がつけば、新幹線の車内放送が、間もなく新大阪に着くことを告げている。ヒザの上にはシーラさんのオーラが付いている大図鑑が開きっぱなしに・・・・・・・・

 「え〜と、k-suganoさんから依頼の原稿の題は何だっけなぁ〜?」・・・・・・・・ 
 
 その後、デブの井出は何を思ったのか警察官に!!・・・・
 今ではベテラン刑事となって、クサイ事件はお手の物?それでもデブは変わりない。
 渡辺は家業の会社を継ぐが不幸な事故で4年前に亡くなる。
 私は”むなしさ偏に馬鹿と書いた”サラリーマンをやっている・・・・

 「さぁ〜て、仕事・仕事・仕事でもすっか!!」


− 了 −


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