思い出しつつの後付け日記 1990 (1)

coelacanth



ちょっと季節外れな感じではあるが、思い出しつつの後付け日記を

手始めに。。。

7月中頃

息子(2才半)と井の頭公園の小さな森にでかける。単なる散歩で、別に何かを取るとか期待して行ったわけではなかった。日曜の午前10時といったところ。昔はこのへんにも沢山のクワガタ・カブトがいて20年前の私は夏になると、毎晩のように取りにきたものだ。今では下草もあまりなく木もまばら、こんな状態ではクワガタなど期待もできないし、第1こんなに朝遅くてはそのへんをウロウロしているはずは。。。

ないはずだったのだがなんと1匹のコクワガタの雄が木の幹をうろついていた。コクワガタにしてはなかなかの大きさ、4cm以上ある。さっそく捕まえて家で飼うことにした。絶滅していなかったことに少し感動。使ってない60cm水槽があったのでこれに木やら腐植土やら入れて飼う。コクワ1匹にはあまりにも贅沢な環境と言えよう。これと前後して、ディスカウントで小さな容器ごと安く売っていた「クワガタセット」なるものを購入。幼虫が1匹入っていて、中で育つのだ。

これが、そもそもの今年の私の虫狂いの始まりだった。

7月終頃

じいちゃん(私の父)が孫(私の息子)を連れて町に遊びに行く。町でカブトムシのつがいを買ってきたという。さっそくコクワガタの水槽に入れてやる。コクワガタにはいい迷惑だろうが、このくらい広いとこでエサもちゃんとやってれば特に困ることもなかろう。カブトムシというのはちょっと臭い。水槽の壁に向かってピッと液状の便(とか書くとえらく汚いなぁ)をひっかけるので、汚れて少し中が見え難くなる。大食漢でもある。息子はたいへん喜んでいてさかんに「クワガタクン見ようよ、カブトクン見ようよ」とねだる。2才くらいでこんなに面白がるとは思ってなかったのだが、やっぱりあの姿はなかなか特徴があり、興味を引くのだろう。が昼間は本来こいつらは寝ているのだ。たまには無理矢理起こして見せてやったりもしたが、できるだけこいつらは夜活動するのだということを教えてやっているとだんだん納得してくれたようだ。

この頃はあまり詳しく文献などを漁ったわけではなかったので、エサについてはスイカだの桃だのの人間様の食い残し、たまには薄めたハチミツを脱脂綿に含ませて与えるくらいであった。本当はどんなエサがいいのかは後で知った。

8月始頃

ちょこっと夏休みを取って、伊豆は下田の友達のとこへ行く。海水浴なんかも適当にやったが、虫もなかなか多そうだったのである日朝4時に起きて友人に案内してもらいながらポイントを回る。始めは誘蛾灯のところだった。ここは結局、雌のカブトの小さいのが1匹だけだった。大量の死体が回りにころがっていて、友人の説明ではこれは明るくなるとカラスが来て食っていくのだという。東京では1匹何百円もするのにもったいない。

次にでかい雑木林に行ってみたが、あまりにも人が入らないところでヤブが深過ぎるのであきらめる。次に田んぼのあぜ道に生えたクヌギの並びにいくと、ここは友人がコクワガタ(と思いこんでいた)1匹(雄)、でかいカミキリ1匹、カ
ブトの雌2匹を捕まえた。私は横の林に向かうとなんとでかいカブトの雄がブンブン飛んでいた。薮に不時着したところを捕まえる。

家に帰るまでの間はせまい入れ物だったので、カミキリや小さなカブトの雌はすっかり弱ってしまっていた。これでとにかく水槽の住民は、カブト雄2匹、雌4匹、コクワガタ2匹、カミキリ1匹となった。伊豆のカブトは元気がよく、夜になると中でブンブン飛ぼうとしてはあちこちにぶつかっていた。買ってきた方のは養殖なんだろうか?おとなしい。

8月中頃

カブト雌2匹は体がずいぶん小さく、だいぶ弱っていたせいか、すぐに死んでしまった。カミキリムシもぜんぜんおちつきがなく、比較的短期間で死んでしまった。水槽の中は更に環境を良くしようと、昆虫マット(落ち葉とかで作ってある
らしい)やらクヌギチップやらをわざわざ買ってきて5cmくらいしきつめた。森で拾ってきてもいいのだが、きれいっぽいのを集めるのは結構骨で、なんか有害そうな虫とかシロアリみたいのもうじゃうじゃついてるのが多いから買った方
が楽だった。まぁ高い(一袋200円とか300円とかだが)と思うなら、拾ってきたのを煮て消毒すりゃいいんだろうがめんどくさい。子供の頃なら1000円の出費なんていったら天文学的に思えたものだが、今フト気がついて見ると自分の経済力は完全に変わっているわけでなんだか嬉しかった。それでも止まり木なんかは適当なのを森で拾ってきて入れておいた。

8月終頃

そろそろ季節も終りに近づき、寿命の短いカブトはどんどん死ぬ。子供の頃飼っていた種類と言えばやはりでかいカブトとノコギリクワガタばかりで、コクワガタなんかバカにして飼ったこともなかったし、寿命も知らなかった。そろそろカブトが卵を生むのではないかと楽しみになり、子供が買うようなカブトやクワガタの漫画本(飼い方とかいろいろ出てる学習漫画みたいの)とかを、ぽちぽち買ってきてみる。ノコギリやカブトは1年で死ぬが、コクワガタは(オオクワガタやヒラタクワガタも)冬越しして3年くらいは生きているということを初めて知った。

すると意外に知らなかったのが、エサとしては水分の多過ぎるスイカなんかはあまりよくないこと、果物ではバナナがいちばん良いことなどである。あんなものばさばさし過ぎてて食えるのだろうか?ブラシみたいな口で汁吸ってるだけのくせに?とか思ったが与えてみると確かにものすごく食いつきがいいようだった。
おまけに2日目からはバナナはすぐにドロドロになり、いかにも吸い易そうな状態ではあった。この頃からエサは主にバナナをひとかけやっては2、3日放っておくというようになった。いろいろやった方がよかろうとは思ったので、ナシを
食ったときは残った皮とかシンをくれてやったり、ハチミツはやはり良いエサだそうなのでたまにはやった。黒砂糖に焼酎なんてのが一番いいそうだが、まぁそこまでせんでもいろいろ食ってりゃ十分だろうと思ってわざわざ買ってきたりは
しなかった。

9月始頃

9月10日、とうとう最後のカブトの雄(暴れ者だった伊豆産の奴)が死んだ。朝見たらナシのシンにつかまってじっとしてたので、夢中で食ってるのだと思っていたら会社から帰ってみると同じ姿勢でくっついてたので、おや?と思って見たらそのままの姿勢で大往生していたのだ。死んでもナシを離さないとはなんとなくかわいげのある奴だ。先月死んだ雌の1体は東急ハンズで買った「エスター」っていう流し込み固め用プラスチックで固めてやった。なかなかきれいだ。雄もやってやろう。

さて、カブトも全滅したので卵を探す。。しくしく。ぜんぜんないではないか!昔、一度だけ産んだことがあったが、近所の悪ガキに全部盗まれてしまった悲しい思い出がある私は、20年ぶりになんだかすごく楽しみだったのでえらくショックだった。何がいけなかったんだろう?後で読んだ本では土は10cmとか、エサは水っぽいのばかりじゃだめとかもっとおちつく環境にとか書いてあるのであれこれ思ったが、まぁ運が悪かったのだろう。実質2つがいくらいじゃ産まないことがあってもしょうがない。運がよければもっと劣悪な環境でもぽこぽこ産んでしまったケースをいくつも聞いた。クワガタほど神経質ではないらしく、おかげで養殖もさかんなのだ。死んだ雌の腹を割ってみたが卵らしいものもない。

9月中頃

卵がなくてなんだかすごく欲求不満に陥った私は、ここへきて急に狂ったようにこだわりが生まれてしまった。20年ぶりに無茶苦茶にまた昆虫に夢中になってしまったのだ。とはいえ今更採集にいくような時期でもない。とりあえずありったけ関連書籍を買い始めた。クワガタ・カブトの本を漫画から図鑑から専門雑誌に至るまで集め、最終的には10冊以上2万円分も買ってしまった。

クワガタは全部まだ健在だったが、そういえば始めに買った「クワガタセット」の幼虫はいつまでたっても成虫が姿を見せず、かといって蛹化の時期にいじるなというので困っていたのだが、どうせ水のやりすぎで腐ったかなんかでダメだったんだろうと思ってあばいてみると、なんとちゃっかり成虫になっていた。ノコギリの雄だがやけに小さく(コクワより小さい)、小歯型、いわゆるオカチメンコ(こんな呼び名はここらだけの方言だろうか?)であった。エサも食わずに大丈夫だったのだろうかと心配したが、本で調べるとなんとノコギリは夏から秋に羽化し、そのまま越冬して次の夏にようやく外へ出るのだそうだ。全然知らなかった。ミヤマクワガタとかオオクワガタなんかもそういう行動をするんだそうだ。そこでこいつの行動もうなずけた。何度エサをやろうとしてもすぐ土にもぐってしまう。来年までほっとくしかあるまい。

9月終頃

昆虫専門店だの、カブトの養殖業者だのにまで電話してみたが、そんな趣味で飼う人にちょろちょろ配る卵だの幼虫だのはないそうで(そりゃそうだろう)、後は自分で採集してくるか友人に聞いてみるくらいしかなくなった。伊豆の友人は植木関連の仕事もしてるので見つけたら送ってくれると言っていた。まぁあまり期待してないで待っていよう。養殖業者は秋にセットするともう春まであけたりしないそうだ。

本をいろいろ読んでかなり詳しくなった。以前、「コクワガタだと思った」奴がどうもアゴの形がコクワっぽくないので図鑑で真剣に見てみたらこれは小さいながらも(おかげで間違えたのだが)正真正銘のヒラタクワガタだということがはっきりした。子供の頃友達が結構でかいヒラタを1匹持っていたのを覚えているがそれ以外で生きたのを見たのはこれが初めてということになる。関東では比較的少ない種類なのでなんだかすごく嬉しくなった。いい大人がつまらんことで一喜一憂しているものである。

クワガタってのは飼育・観察にはなかなか適していると思う。結構ずぼらに飼え るし手間もかからない。私は毎日散歩だエサだなんだかんだと要求の多い、大型 の生物(ほ乳類、鳥類など)はめんどくさくてとても飼う気が起こらない。クワガタ は小さくて飼い易い割にはエサ食ってるとこを覗くと、ドタドタと不器用に 逃げたりしてかわいい。捕まえようとしたときにクワっと大アゴを広げて威嚇の ポーズを取るときなども笑える。捕まえてよく見ると小さなダニがいっぱいつい ている。飼育下のものにはどうしてもつきやすいそうだ。歯ブラシで取ってやる。

10月始頃

なんと伊豆の友人は幼虫3匹とコクワガタ雄1匹を見つけ、送ってきてくれた。 残念ながら幼虫1匹は小さく、郵送途中でつぶれて死んでいた。他の2匹は結構 大きいので多分カブト虫の幼虫であろう。大事に飼う。これでなんだか気分がと てもおちついた。これで総勢、カブト幼虫2、コクワガタ雄2、ヒラタクワガタ 雄1、ノコギリクワガタ雄1(ただし冬眠中)ということになった。自然界では 雌が多いらしいのに、そろいもそろってクワガタは雄ばかりだ。

ちょっと寒い日が続くと全然姿を現さない。さすがに冬眠したかと思ったら、暖 かい日にはちゃっかり出てきてバナナを食っている。子供の頃はコクワやヒラタ を飼ったことがなかったので知らないが、ひょっとしたらこいつらは暖かい日で あればいつまででも出てくるのではないかと思えてきた。そういう意味では夏だけのカブトやノコギリ・ミヤマよりずっと面白い。
 

− 続く −



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