2CV生誕50周年記念ミーティング

2EV-Uフランスの旅 1998.5.21-24


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はじめに

 昨年(1997)のイギリス、オランダに続き生まれ故郷のフランスでのシトロエン2CV生誕50周年記念ミーティングという晴れの場でまたもEVを走らせることになった。今回は日本からのクルマ持ち込みでなく、イギリスのサセックス2CVにモータなどの部品を送って現地で組み立てることにした。2EV1号車に仮組みして動作確認の後送り出したのが4月中旬。先行して現地入りしているS氏の手で準備はすべておわっているとのFAXを受け取り、5月16日、我々はまずロンドンに向けて旅立った。横内代表は我々と別にサセックス2CVのあるブライトンに直行し、最後の準備にあたった。イギリス製の2号車は2EV-Uと命名された。


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5月19日、パリ到着、喧騒と活気

 5月19日、とうとうパリに来てしまった。シャルル・ドゴール空港に着き、外に出たとたんロンドンとは違う町に来たことがわかった。クラクションが聞こえたのである。少し古い車はルノーであろうとメルセデスのSクラスであろうと例外なくボコボコにへこんでいて、買ってから洗ったことがないような汚さである。隙間に鼻先を突っ込んで行きたい方に行くというラテン的な交通ルールが車体に向こう傷を作るのである。たとえば凱旋門の周りの巨大なロータリー、車線など引いていない広いロータリーにいっせいにクルマがなだれ込み、クラクションを鳴らして他のクルマをかき分けるように外に出て行く。クルマ同士の隙間が10cm位になることも珍しくない(私は見なかったがこれが0cmになるとクルマがへこむのだろう)。一応時間を守らなければならない路線バスの運転はこれに輪をかけて大胆である。その隙間をバイクがすり抜け、歩行者がスタスタ横断する。観光バスの2階から見ていて、ここでは運転できないと思った。なぜシトロエンがクイックなステアリング、強力なブレーキを備えているかは、この運転を見ればすぐ理解できる。

 路上駐車するときに間隔をあけて止めると怒られるというのは事実である。パリ市内のドライバーの縦列駐車の腕前は見事というしかない。前後1mもない隙間に1発で入れてしまう。出るときはというと、ぶつけて押しのけるわけではないがバンパーに当てるまで下がって切り返して出るのである。ちなみに迷惑にならない限り2重駐車や交差点内の駐車も問題無いようである(規則では違反だと思うけど)。

 こう書くと実にいいかげんなようだが、お互いのいいかげんさを認めてしまっているところが面白い。要領よく割り込めば素直に入れてくれるようだし、歩行者が信号無視で横断歩道を渡っていても車は危険なタイミングでない限り別に怒ることもなく止まってくれる。ようは自己責任とマイペースということのようである。


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5月20日、ミーティング会場入り

会場風景 "50th Anniversary of the 2CV 6th National Meeting"
 これが今回参加したミーティングの正式名称である。通常はフランスの全国ミーティングだが50周年記念にあたる今年、本国で開催されるミーティングとして国際ミーティングとしたものである。会場はパリ郊外のベルサイユ宮殿に近い公営キャンプ場で、昨年のオランダの国際ミーティングと同じようなスタイルのミーティングである。ゆったりとしたキャンプ場で全体にのんびりしたムードが漂う。
会場風景その2  しかし、集まってくる車は普通じゃない代物ばかりである。太いタイヤを履き、GSの4気筒を押し込み、派手にボディを改造したチューニング・カー、すごいのはフォードのV6をフロントミッドシップに積んだレーサーや、V8,5.8リッターのジープ・ワゴニア4×4のシャーシに2CV風のボディを載せたモンスター、ロータスエスプリのフロアの上に2CVバンのボディを載せた世界最速の2CV(と言えるのかどうか??)まで来ている。また、日本ではまずお目にかかれない50年代のA型もきれいにレストアされたものから良く走ってこられたというものまでたくさんある。お祭り仕様的なカラーリングや装飾を施した車など、実に個性的な表現が披露され、見ていて飽きることがない。メイン会場の大テントで夜中まで大騒ぎが続くのはオランダと同じ。参加台数はなんと2600台を超えたということである。

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5月22日、シャンゼリゼ占領

シャンゼリゼを埋めた2CVの列  このイベントの企画の1つに"trip to Paris"というのがあり、一つの目玉になっている。イベントに参加する約3、000台!!の2CVでパリに乗り込み、シャンゼリゼからエッフェル塔まで走ろうというのである。それも休日の谷間とはいえ金曜日の夕方に、である。観光バスでシャンゼリゼを通ってみてその交通量を見てしまうととても正気の沙汰とは思えない。

 シャンゼリゼ宮殿の前からタクシーに乗る。会場に着いてみると2CVがどんどん走り出してくる。オフィシャルの話では会場を閉めて全員でパリに行くとのこと。慌てて降りたばかりのタクシーに引き返し、パリまで追いかける。高速道路の一番右の車線は2CVの列に占領されている。遅いA型を先頭に集団ができて70キロくらいで走っている。それにたまに止まってボンネットを開けているやつがいる。こちらは新車同様のベンツである。150キロ以上の速度で2CVの列を追い越して先を急ぐ、が、パリ市内に近づいたところで大渋滞になった。原因の半分は2CVである。はじの2列を占領し、渋滞の中で車から降りて盛り上がっている。派手な改造車が多く、箱乗りして旗を立て、ミュージックホーンを盛大にならしている。暴れるわけではないがノリは大晦日の中央高速にそっくりである。

 高速を下りたところでいよいよ車が進まなくなり、タクシーを降りた。ちょうどシャンゼリゼと反対側のフォッシ通りのはじ、ポート・ドーフィーヌのあたりである。遠くに凱旋門が見えるがはるか向こうまで2CVの列が続いている。2CVの鳴らすクラクションに答えて周囲の車やバスもクラクションを鳴らすため、異様な盛り上がりである。2CVの列を見ながら凱旋門に向かって歩いていく。こんな事が許可されるわけはないと思うが警官が出て交通整理している。50年に一度ということで黙認したのだろう。
 1キロ歩いて凱旋門にたどり着く。2CVがロータリーになだれ込んでくる。一般車もそれをかき分けて強引に突進してくる。その騒ぎを沿道では観光客が鈴なりになって見物している。気の毒なことにイギリスから来たらしいロールス・ロイスがこの混乱に巻き込まれて右往左往していた。世界の高級車も3、000台の2CVの洪水にはかなわない。

 シャンゼリゼに繰り出した2CVの列はコンコルド広場までつながった。シャンゼリゼ通りにはシトロエン社のショールームがある。この前に来るとパレード参加者のテンションは最高潮に達し、クラクションがより高く鳴り響く。みんな屋根をあけてシートの上に立ちあがり、大騒ぎである。この大騒ぎを私を含む観光客や通行人も大いに楽しんでいた。
 さて、われらが2EV-Uはまだ来ない。さしものパレードも終わりに近づいてきた。コンコルド広場に移動してしばらく待つ。…来ない…。そこに我々に同行して取材しているジャーナリストN氏のルノーがやってきた。どうやら2EV-Uは充電不足のため近道をしてエッフェル塔に向かったとのことである。我々もパレードのコースにしたがってエッフェル塔を目指す。パレードは既に終わっているが道路脇には2CVの姿がやけに目立つ。彼らは一晩中パリで過ごすつもりらしい。

夕暮れのエッフェル塔前で  緯度が高いため7時を過ぎてようやく日が傾きかけた頃、エッフェル塔の下に到着、2EV-Uは塔の正面の良い場所に止められていた。周りは2CVで埋め尽くされている。本来この場所は定期観光バスの駐車スペースなのだが今日はバスを止める余地は全くない。ここでやっと仲間と会うことができた。記念撮影のためトレーラを止めてある塔の反対側に移動する。我々が写真を撮っているとドイツナンバーのルノー16が隣に止まった。下りてきたドライバーは我々と同じようにエッフェル塔をバックに写真を撮り、去っていった。どこの国でもフランス車乗りの考えることはいっしょらしい。空が夕焼けに染まった頃、EVをトレーラに積んでパリを後にした。こうして念願のパリ市内ドライブが実現した。


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5月23日、コンバートの実演

コンバート実演中の2EV-U  翌23日、会場で当初のもう1つの目標であるEVへの改造の実演を開始した。本来はエンジンをおろすところからやるのが筋なのだがここは少し手抜きをして午前中にモーターを取り外してエンジンと並べて展示し、昼食の後に組み付けて走らせるという筋書きである。作業している我々の周りには人垣ができ、盛んにカメラが向けられる。1時間もかからずに元どおり組みあがり、静かに走り出すとギャラリー?から拍手がわいた。
会場を走る2EV-U
 会場内をチラシを配りながらゆっくりと走る。こうゆう用途にはEVは最適である(このようなところでしか実用にならないとも言える)。会場内ではどこでも温かく迎えられ、関心の的になり、多くの質問を浴びせられた。フランス語が良く分からないため十分にこたえられなかったのが残念である。

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おわりに

 イベント会場でさまざまな個性豊かな2CVとそれに負けずに個性的なオーナー達に接し、これだけの人を引き付けてしまう2CVという車の存在の大きさを感じないわけにはいかなかった。
 会場で車椅子に乗った身障者の参加者が多いのが印象的だった。日本の野外の車のイベントではほとんど見られない光景である。なんでもないキャンプ場のようだがちゃんとバリア・フリーになっているのである。ハンディを持った人も含めて誰でも気軽に楽しめる車趣味、そしてイベント。私は翌日、最終日を待たずに帰国したが、会場で買い込んだ部品やお土産以上に大切なものを持ち帰れたように思う。


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