おやきについて考える

おやきは好きな人も多いのですが、嫌いな人も多い。基本的には、野菜や山菜などの汁気の少ない煮物を、小麦粉を練って作った皮で包み、蒸すあるいは焼くなどしたもので、割と原始的な食べ物です。文献では、文政11年(1828)鈴木牧之著「秋山紀行」に、それらしいものが出てくるらしいが、もっとずっと歴史は古いと考えられます。原始的でシンプルな食べ物だからおやきはもちろん長野だけの食べ物ではないと思い、調べてみました。するとやはり全国各地に、多くは焼餅という名前で昔からあったようだ。しかしおやきは質素で古い田舎の食べ物で、あるいはそう考える人が多いため、飽食の時代の今日、長野以外の地域ではあまり食べられることはなくなってきたようなのです。

ではどうして長野では現在もわりと一般的で、お店も沢山あり、昔からの家であれば、自分の家でもよく作って食べられているのだろうか。
私は長野県人が、田舎を楽しんで、これを売りにしているように思えるのです。ファッションほどではないにしろ、食べ物にも流行というものがあると思うのですが、おやきのような昔風で、これといって味にも特長のない、言ってみればダサイ食べ物は、普通の人にとってはどうでもいい食べ物であるに違いありません。しかし長野県人はこのシンプルな食べ物の中に他にはない美味さを見出し、これを受け継いでいるのだと思えます。悪くいえば流行に疎く、頑固で柔軟性がないともいえるでしょうか。
私の考えは別として、現在の長野でのおやきの地位を確立した直接の原因は、昭和50年頃、間口一間程の小さな「市川のおやき」というおやきの店がいくつかできて、これが当たったことによるらしいのです。現在のファーストフードの走りだったのではないかと思われます。しかし現在このおやきやを見ることはできません。どこに行ってしまったのか、個人的にはそこのおやきを食べてみたいと思っていたら、実はこのおやき身近なところにあったのです。以下におやきの市川を主催された市川武邦様からメールをいただきましたのでその一部をそのままご紹介いたします。


==============================================================

おやきの店市川チェーンは昭和44年4月、長野市真島町1291番地に1号店を出店してから昭和49年に東和田町のあおぞら市場の西側に2号店を出して以来昭和54年までの5年間で北信地方一帯に18店舗の店舗展開をしました。
あまりにも狭い地域に多数の店を出したものですから、仲間同志で過当競争に陥り、しかも第1次のおやきブームも沈静化したこともあって、ほとんどの店がおやきの専門店から弁当屋や菓子屋に変わり、現在では信濃郷土食事業協同組合として、22組合員が長野市周辺で頑張って営業しております。ただ、あれから30年近い年月が流れてオーナーの高齢化が進み、最近、ボツボツ閉店する店が出始めて寂しい限りです。
なお、おやきの市川を主催した私こと市川武邦は昭和56年、会社の名前をおやきや総本家と改め、長野市小島田町749-3番地、国道18号バイパス沿いに本社を新築して、おやきと手打ちそばの店を営業しております。
(平成13年6月市川武邦様からのメールより)

==============================================================

みなさんも是非食べてみたらいかがでしょうか。
一口におやきといっても、その名前自体にも、種類にも幾つかのバリエーションがあります。まず名称ですが、「おやき」のほかに「あっぽ」とか「灰っころばし」「焼餅」などともよばれているようです。また小麦粉で作る皮の種類として、シンプルに小麦粉だけを練って、いるものの他に、ふくらし粉をいれて、温泉まんじゅうや、肉まん、あんまんのように膨らましてあるものがあります。昔は、ふくらし粉を入れたものは、特別な場合のごちそうとしての意味を持っていたらしいのですが、今ではもちろんそんな意味はありません。また加熱のしかたにも、灰に入れて焼くものや、油で焼くものや、蒸すもの、蒸して焼くものなどあります。次におやきの中身であるが、これには特に何かを使わなければならないという決まりはありません。しかし、ほぼ暗黙の了解のように野菜類がほとんどである。味付けも味噌、醤油、塩といったごくシンプルなものであることが多い。変わったところとして、下伊那郡南信濃村上村では塩サンマを使うものもあるらしいです。

おやきを通して、私が面白いと気づいたのは、日本人は包むことが好きだという事だ。もちろん外国の食べ物にも包むものはあるだろう。たとえば、パイとか。しかし、日本人程包むことはしないように思われます。パンを考えてみても、外国のパンはあまり包まない、せいぜい挟むという感じではないでしょうか。日本人はアンパンをはじめとして、結構いろんなものを包んでしまう。また、ご飯のような難しいものもおにぎりにして、おかずを包む形にしてしまう。これは何か日本人の民族性を考える上で、一つの面白い資料となるような気がします。


参考となる情報を寄せていただければうれしいです。メールをお送り下さい。


ホームへ