天皇を「虫垂突起」や「親不知」とは何だ
まず、最初にお断りしておきましょう。わたしは、今上を虫垂突起のようなものだとか、親不知歯のようなものだと書いたのではありません。憲法論議をしているのですから、その場面で「天皇」といえば、「天皇の地位」のことに決まっています。ところが、ことが「天皇」のこととなると、前後関係も忘れて感情的になる人たちがいらっしゃるのですね。そういう方は、こういう論議には向かないのですから、関わらないことをお勧めします。人間、向かないことに首を突っ込んでも不幸になるだけです。
さて、それでも、「天皇を『虫垂突起』や『親不知』に例えるのは不穏当だ」という方もおいでかもしれません。
そうおっしゃる方に、ひとつ質問。「天皇はこの国の頭脳だから」とか「心臓だから」とか表現したら、いかがでしょうか? 「不穏当」とはおっしゃらないのではありませんか?
そうだとしたら、もうひとつ質問。「頭脳と心臓ではどちらが優れているのでしょうか?」あるいは「肝臓と腎臓ではどちらが偉いのでしょうか?」
そうですね、これは質問が悪いのですね。
頭脳と心臓、これらはどちらも欠くことができない重要な器官ですもの、優劣などつけられるはずがないのでした。肝臓と腎臓、いずれも異なる機能を果たしている重要な臓器ですから、これまた、偉いとか偉くないなどという設問自体がばかばかしいのでした。
虫垂突起も、親不知も人体にビルトインされた器官(歯は器官とはいわないかな?)ですね。その点では頭脳、心臓、肝臓、腎臓と対等ですね。ということは、天皇を虫垂突起になぞらえても不当に貶めたことにはならないと了解していただけるのではないでしょうか。
たしかに、虫垂突起も親不知も、進化の過程ではなんらかの意味を持っていたかもしれないが、現在はその機能目的が明確でない器官です。
しかし、積極的な機能目的が不明だからといって、手術などでみだらに切除することは避けるべきでしょう。なんといっても、わたしたちが生を受ける際に受け取ってきたものですから・・・。
もちろん、これらが化膿してわたしたちの生命や生活を脅かすとなれば、話は違ってきます。そういう場合にはすみやかに切って捨てなければならなくなるでしょう。本体たるわたしたちの生命や生活を守るために。
ね、天皇によく似ているでしょ、虫垂突起や親不知って。
あらずもがなの脚注) 器官、英語では、organ、もう一度和訳すると、機関
追記)ある書評からの書き写し
・・・盲腸とその先端の虫垂は、祖先の哺乳類では重要な消化器官だったが、人間では退化器官である。従来の医学は、虫垂炎の原因が細菌感染であることを突きとめ、適切な治療法を確立してきた。一方、進化医学は、虫垂炎の究極要因を検討する。炎症がおこると虫垂への血流が増加する。細菌感染に対する生体の防御反応である。だが虫垂が小さいほど、炎症で腫れると血流がはばまれ、炎症の悪化で虫垂が破裂する可能性が高い。したがって自然淘汰は、虫垂のこれ以上の退化を阻止すると予想される。過去の遺産である虫垂と虫垂炎は、将来もなくならないということだ。・・・
ネシー/ウィリアムズ 「病気はなぜ、あるのか」 新曜社 に対する書評
新妻昭夫(恵泉女学園大教授) 2001.7.1朝日新聞書評欄から