公園の手品師

雲が流れる公園の イチョウは 手品師 老いたピエロ
口上はいわないけれど 慣れた手つきで
ラララン ラララン ラララン カードを撒くよ

 一夏を越えて秋。
 柔らかな日射しが心地よい。
 寝転がってみる空には雲が流れている。

§

 「いい天気」
 「そうだねぇ」

いくぶん前のめりになってヨチヨチ歩く児が、
落ち葉を拾っては投げている。

同じくらいの歳なのだろうか、
あの写真立ての児と。
 「どうしたの?」
 「(不意をつかれて)んーん、なにも」
風が吹き、枝からは新しい落ち葉。
さらりと乾いた風。冷たくはない。
  ・・・(雰囲気、少し、変わった)・・・

  ・・・(なんだろ)・・・

 「・・・退屈?」
 「ンンん、そんなこと、ない」

  ・・・(なにか、悪いこと、したっけ)・・・

  ・・・(見ちゃいけなかったよね、伏せてあった写真立て)・・・
・・・
いい季節だ。
この時季が一番好きだ。

深呼吸して、
ちょうど息を吐ききったとき、
 「お見合い、・・・」

  ・・・(「エッ?」、声にはならなかった)・・・

 「してみようかと思って。言ってよこしたの、親戚が。同い年の児がいるんだって、むこうにも」

  ・・・(ずいぶん、早口だなぁ)・・・
遠くの一団からどっと笑う声が聞こえた。
 「いいんじゃない」(なに言ってんだ、オレ)

 「そォ」、・・・・・、「ありがと」  

§

 悠然と流れる雲。

 もし、・・・、もしも、ちょうど息を吸い込んだときだったなら、違う人生があった? ない、・・・、ないさ。 


風が冷たい公園の イチョウは 手品師 老いたピエロ
何もかも聞いていながら 知らん顔して
ラララン ラララン ラララン すましているよ
<この項終わり>

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