明日があるさ

 久方ぶりの同期会は三次会に流れてカラオケバーへ。

 誰かが「あしたがある」をリクエストしたらしい。

 「なつかしいね」
 「おお、なつかしいな」

いつもの駅でいつもあう
セーラー服のお下げ髪

 「心当たり、あるだろ」
 「そうだねぇ」

濡れてるあの娘コウモリへ
さそってあげよと待っている

 「坂本九?」
 「そうだ、・・・御巣鷹の日航事故で死んだ」

きょうこそはと待ち受けて
後ろ姿をつけてゆく

 「いい時代だったよな〜、いまなら、りっぱなストーカーだ」
 「ハハ、一回ぐらい、やったろ」
 「一回どこじゃない」

思い切ってダイヤルを
震える指で・・・

 「祈るんだよな、彼女が出ますように、って」
 「オレ、経験ないから、知らな〜い」
 「またァ」

    ・・・(歌は続く)・・・

 「この歌、面白いね、あしただ、あしただって言いながら
  最後は、ちゃっかり、一緒にサテンまで、行くんだ・・・」
 「お前、あいかわらず、浅いね」
 「エッ、どういうこと?」
 「これはさ、な〜んにも進んでないんだよ、思ってるだけで。
  頭の中で、あしたはこうして、そのあしたはああして、
  そのまたあしたはこうなっちゃう、とは思ってんだけど、
  現実は、ずっといつもの駅でみかけるだけなんだ」

 と、そこへ、いまはえらくつきあいがよくなったマドンナが
 「なにか、面白い話?」などと、まるで店のママさんみたいな顔と声音で割り込んできた。

 「な、でも、結局、こうなるんだよ」
 「・・・どういう、なりゆきがあっても・・・かい」
 「やーね、どうせ太ったわよ」
 「違う、違う、そういう、話をしてたんじゃない」

 そうか、いつかきっと分かってくれる相手は、お下げ髪のセーラー服のよく似合う彼女ではなく、人生の黄昏にさしかかった自分、分かってもらうはずの内容は、たったひとこと言えなかった言葉ではなく、恋が実ろうと実るまいと結果はさして変わらなかったろうという諦念のことだったのか。

 コトリ、グラスの中の氷が、ひとつとけた。

あしたがある、あしたがある、あしたがあるさ
<この項終わり>

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