医者の目記者の目57
支え合いインターネット
(医者のち記者ときどき患者・朝日2/1掲載分)
食道がんで手術を受けた夫の看病に悩み、メーリングリスト(以下ML。インターネット上で会員が相互に電子メールを公開しあうことにより会議や集会のような機能をもつ)に参加した四十台の女性Fさんの、その後である。
夫の手術からは、半年以上が過ぎていた。食事のこと。落ち込みから立ち直れない夫の精神的ケアのこと。痛みや咳など症状に関する不安。Fさんは次々に発信した。
返信は、素早かった。麻酔科医、外科医、放射線科医、そして同じ病気の父親を抱える、自分より年下の女性からも。日本各地だけでなく、アメリカやカナダに出張中の医師からのメールもあった。医療不信の中で孤独な戦いを強いられていたFさんにとって、これほど心強い支えはなかった。
しかし、夫の病状は予想を超える進展をみせた。再発。主治医は再度の化学療法を勧めた。本人は拒否。他に方法はないのか。MLの医師たちの、複数の意見を参考に、結局、体力を温存して自宅療養に努め、最期は症状緩和を目的とする病棟に入院する方針を決めた。そのための転院に、夫も同意し、紹介状をもらい、受診の手はずを進めていた。最期にもう一度、新婚時代のような静かな日々を、自宅で過ごせたら・・。
その矢先、下痢と脱水、血圧低下で、予定外の病院に緊急入院。三日目、あっけなく、夫は逝った。
こんなはずではない。そんな思いにさいなまれ続けた一年だった。未だに心の整理はつかない。それでもFさんは、MLの仲間たちへの報告には、こう書いた。
「皆様には、本当に、本当に、感謝の気持ちで一杯です。持って行き場のない感情をぶつけさせていただき、そして温かく受けとめて頂いて、どれほど勇気づけられたか・・」
このMLがなかったら、Fさん夫婦の闘病は、もっと悲惨で救いのない、破壊的な心の傷を長く残すものになったろうと思う。
がんのように刻々と進行する難病について、治療のセカンドオピニオン(主治医以外の医師の意見)を適切な時期に得たり、同病の患者や家族が精神的サポートを提供し合うようなことは、容易ではなかった。しかしインターネットは、これを可能にしつつある。
重い病気や障害を抱える可能性がある中高年、その家族にとって、インターネットは今後ますます力強い武器や護身具になるだろう。使いこなす力を、ぜひ身につけて欲しい。「使いこなす」中には、情報の上手な発信、自己責任での判断、そんな能力も、もちろん含めて言うのだが。