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2009.06.15. 掲載
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目次
1.水の都
2.Google Earthで見る大阪とベニス
3.この建築展の中心テーマ
4.安藤忠雄氏の作品の感想
先日「安藤忠雄建築展 2009 対決。水の都 大阪VSベニス」を見に行った。そこで知ったこと、感じたこと、調べたことなどを、記憶のうすれない間に書き留めておくことにする。図1はその案内のチラシで、上下に大阪とベニスの航空写真が使われている。
川、湖、海などがその都市の景観に役立っている場合に「水の都」と呼ばれているようだ。「水の都」の代表はイタリアのヴェネツィアであり、「北のヴェネツィア」と称されるロシアのサンクトペテルブルク、「北欧のヴェネツィア」とされるスウェーデンのストックホルム、オランダのアムステルダム、 「東洋のヴェネツィア」と呼ばれる中国の蘇州市などが名高い。なお、「ベニス」はイタリヤ語の「Venetia」の英語名「Venice」の日本語読みで、「Venetia」の日本語読み「ヴェネツィア」もかなり普及している。
大阪は江戸時代より川が多く「八百八橋」と歌われ、「水の都」と呼ばれてきた。しかし、ヴェネツィアと対決するほど、水が景観に大きな役割を果たしているのか、ちょっと疑わしい気もする。そこで、現在の大阪が「水の都」と呼ばれるのふさわしいか、検証してみた。今度の展覧会で取り上げられている川は、淀川の支流である「大川」とそれが分かれて、「堂島川」と「土佐堀川」となり、再び合流して「安治川」となるまでである。
この川の周辺、特に中之島は、江戸時代から経済と文化の中心であった。現在も、大川、堂島川、土佐堀川周辺には、中之島を中心に大阪を代表する施設や建造物が集中している。これらの川に架かる橋の名も江戸時代から続くものが多く、地名にもなっている。そこで、この橋を目印にして、川の流れの順に、公共的なものを中心に数えてみた。
図2の右上で大川に架かる橋は「桜宮橋」で、橋の色から「銀橋」とも呼ばれ、国道1号線が通っている。大川の西岸には通り抜けで有名な●「造幣局」がある。
「大阪城」の横を流れる寝屋川が大川に注ぎ込む合流点の手前に「京橋」がある。ここは大阪城の北の玄関口として重要な橋だった。この橋の周辺には、●「大阪城」、●「大阪府庁」、●「府警本部」がある。
堂島川と土佐堀川に分かれる直前で、天神橋の手前の大川北岸に●「大阪天満宮」がある。日本三大祭の一つである「天神祭」はこの神社の祭で、船渡御は天神橋のたもとから出航して大川を遡り、飛翔橋上流で折り返して下る。
土佐堀川南岸の「難波橋」南詰東側には●「大阪証券取引所」があり、堂島川北岸の「難波橋」から「大江橋」の間には●「大阪高等裁判所」がある。
大川が堂島川と土佐堀川に分かれて作られた中州が「中之島」で、「難波橋」を挟んで東西に●「中之島公園」がある。この橋から、御堂筋の通る「淀屋橋」「大江橋」までの間には、●「大阪中央公会堂」●「府立中央図書館」●「大阪市役所」がある。御堂筋を越えた西側には●「日本銀行大阪支店」があり、さらに、西へ進んで「渡辺橋」・「肥後橋」を通る「四つ橋筋」の東側に●「フェスティバルホール」、西側に●「朝日新聞社」が向き合っている。
御堂筋を北に上ると梅田地区があり、●「JR大阪駅、阪急、阪神、地下鉄(3線)」のターミナルがある。
土佐堀川南岸の「淀屋橋」から「肥後橋」まで間には、●「三井住友銀行本店」がある。ここは旧住友銀行の本店だった。堂島川北岸の「田蓑橋」北詰の西側に●「大阪高等検察庁」、「玉江橋」北詰の東側に●「ABC朝日放送」の社屋がある。
中之島に戻ると、「筑前橋」北詰西側に●「国立国際美術館」と●「市立科学館」があり、「堂島大橋」南詰東側に●「大阪国際会議場」がある。「堂島大橋」を通り「あみだ池筋」を南に下って行くと●「靱(うつぼ)公園」がある。
このように見てくると、確かにこの大川、堂島川、土佐堀川の周辺には、中之島を中心に大阪の主要な公共的施設や建物が集中している。このような場所はわが国では他にない。この地区があるから、大阪を「水の都」と呼ぶのも許されるのではないかと思った。
大阪を水の都と呼んでも良さそうだということは納得できたが、「大阪VSベニス」という場合、土地の広さが大きく違えば、対決とは言い難い。ベニスをGoogle Earth地上5,000メートルの航空写真で見ると図3のように、ほぼ全体が写っている。
同じ地上5,000メートルの高度で、今回の水の都 大阪の該当地区をみると、図4のように、土地の広さはベニスとほぼ同じであることが分る。これなら「大阪VSベニス」と書いてもよさそうだ。
中之島を中心に水都大阪の復活を目ざしたプロジェクトを提案する安藤氏は、水の都の本家本元ベニスで、2006年完成の「パラッツォ・グラッシ」と本年6月に完成の「プンタ・デラ・ドガーナ」という二つの再生プロジェクトを担当している。彼はベニスの再生プロジェクトで得たものを、水都大阪復活のプロジェクトに生かそうとしているのかもしれない。
安藤氏は事務所を開いた1969年に「大阪駅前プロジェクト」、1980年の「中之島プロジェクトI」、そして現在の「中之島プロジェクトX」と、40年もの長きに亘って大阪都市提案をし続けている。仕事の9割が東京で、海外でも25カ国で仕事をしているが、事務所は今も大阪にある。それは、学歴のない自分にチャンスをくれた街への恩返しであり、大阪の街を愛しているからだ、と語る安藤氏の生き方に感動する。同時に、創造し構築することが何よりも喜びと感じる者にとって、この上なく幸せな人だとも思う。
この展覧会のタイトルが「対決。水の都 大阪VSベニス」とあるからには、「水の都大阪」と「水の都ベニス」の再生プロジェクトの対比の展示のはずだが、対比はあまり表には出ず、並列展示に近かった。
会場は5階と4階に分れていて、テーマに関係する展示は5階(図5)で行なわれていた。
「水の都大阪」に関する展示は(2)の場所で行なわれていた。
(2)では「中之島プロジェクトX 2004年〜」として、以下の項目が、模型、動画、スケッチなどで展示されていた。
桜の会・平成の通り抜け
中之島・壁面緑化
水景を楽しむ。人道橋
水上のプール
船着場の再生
水都のシンボル。大噴水
水上のテラス
地中の再開発
ここにあるタツノオトシゴのような図形は、今回の水の都 大阪の該当地区(大川、堂島川、土佐堀川周辺の中之島を中心とした地区)を、300分の1の縮尺で作った都市模型で、約20m×10mもある。この精巧さ、巨大さにはただただ圧倒されただけでなく、この地区の構造がよく理解できた。例えば、フェスティバルホールと朝日新聞の社屋がツインビルビルとして再建されることは新聞報道などで知っていたが、関電ビルを越える高層ビルであることをこの模型で始めて知った。ここには中之島地区に対する安藤氏のプロジェクトが、過去のものから現在のものまで埋め込まれていて、分かりやすい。
写真撮影は禁止されているので、展示会場で購入した「対決。水の都 大阪vsベニス」というサントリーミュージアム[天保山]発行の小冊子に挟まれていた写真を使って、この模型がどれほど大きいかを紹介する。なお、この小冊子は会場の展示では分らなかったものも多く示されていて参考になるところが多かった。
この模型は安藤設計事務所が作ったのだと思い込んでいたが、調べてみると、大阪大学工学部の学生を中心としたボランティアによる作品のようだ。安藤氏のプロジェクトの良さと、知名度、人間的魅力が学生ボランティアを制作に駆り立てたのだろう。
この模型のほか、巨大画面のハイビジョン映像による説明も、分かりやすく、説得力があった。
「水の都 ベニス」に関する展示は(5)と(6)で行なわれていた。 (5)は「プンタ・デラ・ドガーナ再生計画 2009年」 (6)は「パラッツォ・グラッシ再生計画 2006年」
こちらの模型は縮尺が大阪よりも大きく、木製の本格的な作品で、それ自体が美しかった。映像、ドローイングによる説明も大阪と同様分かりやすい。この二つのプロジェクトの場所をGoogle Earth地上1,000メートルの航空写真で示すと、図8.の左上の●が(6)のパラッツォ・グラッシ、右下の●が(5)のプンタ・デラ・ドガーナで、その右斜め上にはサン・マルコ広場とサン・マルコ寺院が見える。
この「水の都 大阪VSベニス」をまとめるためにWeb検索をしていて、YouTube に(5)の「プンタ・デラ・ドガーナ」の施工プロセスが投稿されているのを知り、見てみるとビデオカメラの定点設置によって撮影された映像で、非常に面白い。これは今回の展覧会では見ることのできなかったものなので、リンクを張って置いた。
安藤忠雄による「プンタ・デラ・ドガーナ」の施工プロセス
Time Lapses - Punta della Dogana and Tadao Ando
4階では、「水」をテーマにした作品を中心とする安藤忠雄氏の作品が紹介されている。その中にはほれぼれする作品が多くあった。たとえば、ホンブロイッヒ/ランゲン美術館、ベネトンアートスクール、成羽美術館、水の教会、南岳山光明寺などまことに美しい。これほど見事に「水」を建築に取り込むことができるのは、水の都に生まれ育ち、その地を愛し続けているからかも分らない。
しかし、残念ながら打放しのコンクリートはどうしても好きになれない。それは、ここサントリーミュージアムとか、先日訪れた兵庫県立美術館でも感じたことだ。また、川沿いの建物の壁面にツタを這わせ、川からみる風景を緑に染めていくというプロジェクトも好きになれない。このことは、安藤忠雄氏の作品やプロジェクトの素晴しさを否定するものでは決してなく、好みの問題である。
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