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2007.03.02. 掲載
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目次
はじめに
1.前立腺炎で緊急入院
1)経過のあらまし
2)経過の詳細記録
3)経過の感想と医学的説明
4)急性前立腺炎とは
2.前立腺肥大症の手術で再入院
1)経過のあらまし
2)経過の詳細記録
3)経過の感想と医学的説明
4)手術後の注意
5)退院後の経過
6)前立腺肥大症とは
3.入院した病院に関すること
4.入院生活で重宝した道具
5.入院と心の情景
索 引
私は70歳になるまで入院の経験がなく、また、手術を受けたこともなかった。ところが2006年の年末に、急性前立腺炎による尿閉のために緊急入院し、翌年早々、前立腺肥大症の手術を受けるために再入院をした。
この体験を詳細な記録として残すことにしたのは、1)自分にとって、生まれて初めての貴重な体験で、学んだことが多くあったこと、2)医師としての目で見たこの種の記録は少なく、3)同じ病気で入院される方にとって、参考になるところがあるのではないかと思ったことが関係している。
ただし、このような膨大な記録から、必要な部分を探し出すのは困難なので、詳細な目次と索引をつけ、ここから約170件の該当記事にリンクを張っておいた。文中の青色文字の部分をクリックすると、瞬時に該当する記事へジャンプすることができるので、不要な箇所は読み飛ばしていただきたい。
12月の20日の昼過ぎ、湯布院の温泉から出た後から尿の出が悪くなり、排尿の直前に身震いするような不快感を必ず伴うようになった。私は41歳と52歳に、2回前立腺炎に罹って苦しんだ経験があるので、これは前立腺炎であるとすぐに分かり、クラビットとボルタレンを服用した。
しかし、その夜には一時的に尿がほとんど出なくなることもあり、今回は前立腺炎だけでなく前立腺肥大症も基礎にあると考え、21日に帰宅するとハルナールを追加服用した。しかし、翌22日になっても尿量は少なく、残尿感があるため、息子が以前勤めていた病院の泌尿器科へ紹介してもらった。
泌尿器科外来で診察を受けると、急性前立腺炎で緊急入院となり、抗生剤パンスポリンの点滴を朝夕2回5日間、その後はクラビット1日3錠内服の治療を受けた。入院した際には自然排尿を試みたが、膀胱の緊満が強く、身動きできぬ状態となり、翌23日バルーンカテーテルを留置してもらうと、900ml貯まっていた。
カテーテルを留置された状態は気持の良いものではなく、座ると会陰部に不快感があり、その姿を他人に見られるのも苦痛だった。しかし、この処置のお陰で膀胱を意識することがなくなり、腹部の膨張感は消え、たちまち食欲が戻った。3日目にこれを抜去してもらった時には、解放された喜びが心の底からこみ上げてきた。その時自然と「Unchained Melody」の曲が頭に流れてきたのは、この留置カテーテルが自分をしばりつける鎖と思って来たのだろう。
その後の経過も順調で28日に退院したが、回復著しく排尿状態は完全に元に戻った。しかし、エコー検査で中等度の前立腺肥大症のあることが判明したので、年明け早々これに対する手術を受けることにした。
項目 [尿]:尿データ [水]:摂取水分 [便]:大便 [食]:食事 [症]:症状 [検]:検査 [診]:診察 [処]:処置 [薬]:薬剤 [雑]:そのた 12月22日(金) 泌尿器科受診し緊急入院 *01 07:45 [尿]排尿前に身震いする痛みが局所から背中へ走り、尿量少ない 08:15 [食]朝食が不味く、倦怠感強い 08:30 [症]立っていると残便感あり *02 [尿]一度座って少量の排便をした後でないと排尿できない 10:00 [雑]息子に電話で紹介を依頼 10:40 [雑]息子より保険証の記号番号の問い合わせあり 10:50 [雑]家を出てタクシーで病院へ向かう *03 11:05 [雑]病院着、病診連携室に行き、泌尿器科外来に案内してもらう 11:30 [雑]息子より紹介状のFAXが病診連携室に届き、泌尿器科外来へ届けられる 11:40 [検]診察券を渡され、コップで尿を採るよう指示される 12:30 [診]第ニ診察室で診察医に症状を説明 *04 13:00 [検]排尿後のエコー検査で中等度前立腺肥大あり、残尿は50mlだった [薬]パンスポリン皮内反応検査を受ける *05 [診]急性前立腺炎で入院指示あり 14:00 [食]昼食食堂で蕎麦を食べるも食欲なし 14:30 [雑]入院818号室、縁起の良い数字に妻喜ぶ。入院のオリエンテーションを受ける 15:15 [尿]100ml 16:05 [尿]50ml 17:00 [尿]50ml [検]170/80 [水]茶500ml *06 17:30 [薬]パンスポリン点滴100ml開始 18:00 [尿]50ml 18:30 [雑]婦長来室 18:45 [薬]点滴終了 19:00 [尿]25ml *07 [食]夕食まったく摂らず 19:10 [診]主治医来室 *08 19:15 [薬]インテバン坐剤50挿入 19:40 [尿]10ml [水]マンゴJ280ml 19:50 [検]140/80 20:00 [便]母指頭大2個 20:15 [尿]80ml [検]140/80 20:21 [便]インテバン坐剤50の殻排出のみ 20:22 [薬]坐剤無効 *09 20:30 [薬]ハルナール1、ボルタレン1、ムコスタ1 [水]ポッカレモンJ280ml(合計1160) 21:00 [尿]100ml [便]ガス少量 21:10 [便]ガス少量 21:25 [尿]75ml 21:46 [便]ガス少量 22:00 [尿]40ml(合計580) *10 22:05 [症]尿意を催すが、尿量わずかで下腹部が張り、体を動かすと響いて痛む [雑]息子夫婦来室 22:30 [尿]75ml 23:30 [尿]150ml 12月23日(土) 01:10 [尿]150ml 03:40 [尿]100ml 04:10 [尿]90ml 06:00 [尿]10ml 06:05 [尿]15ml 07:05 [尿]50ml 07:35 [尿]20ml 07:45 [症]少しからだを動かすと下腹に響き、手を腹に置けない [水]茶200ml *11 07:47 [雑]尿が出ない苦痛より、悩みや怒りを発散できない苦痛を思う 08:00 [尿]80ml 08:15 [食]朝食0% [水]朝までにレモンJ500ml、サイダー500ml(合計2360ml) 08:40 [尿]60ml(合計1380ml) 尿道バルーンカテーテル留置 *12 09:20 [処]主治医がバルーンカテーテルを留置、灼熱感あり、900ml排尿 09:41 [症]留置後緊満感減り、食欲回復、バルーンカテの異物感持続、直後から冷汗 10:28 [検]140/88 36.5 10:30 [薬]パンスポリン点滴100ml開始 冷汗持続、体位変換で増す [薬]インテバン坐剤50mg挿入 10:37 [水]アップルジュース280ml *13 [症]冷汗は反射的なものと思う、30分間持続 11:25 [薬]点滴終了(点滴の間熟睡) 13:06 [症]尿道部の痛み灼熱感は1時間後も続いた *14 13:40 [食]昼食(ご飯、ソーメン吸い物)95%、シャーベット1 [薬]ボルタレン1、ムコスタ1 14:10 [便]母指頭大数個、ガス少量 17:40 [水]アップルJ280ml 19:00 [食]夕食100% *15 19:15 [薬]ボルタレン1、ムコスタ1、メルビン2 [水]茶300ml 20:00 [薬]パンスポリン点滴100ml開始 21:05 [薬]点滴終了 21:15 [水]桃J300ml+リンゴJ300ml 21:49 [便]母指頭大2個 22:00 [尿]600ml [薬]ハルナール1 [水]ポカリJ100ml [雑]消灯で妻帰る *16 22:12 [症]肩凝り増強 *17 22:14 [症]残便感消失 12月24日(日) 06:30 [尿]650ml [水]レモンJ280ml、茶500ml 09:30 [水]コーラ50ml 10:06 [薬]パンスポリン点滴100ml開始 10:57 [薬]点滴終了 [検]114/68 36.5 11:00 [薬]インテバン坐剤挿入 11:50 [便]軟便中等量 12:15 [食]昼食(親子丼、松茸風味の吸い物、のり)100% [薬]ボルタ1、ムコスタ1 *18 13:15 [処]頭髪シャンプー [水]茶100ml *19 13:35 [処]陰部尿道洗浄 14:20 [尿]600ml 16:10 [雑]息子来室 *20 16:39 [雑]ICレコーダーの録音モードを、モノラル、L、指向性に変えた 16:43 [処]腹痛冷汗減る 18:10 [食]夕食(ご飯、リンゴ、酢豚、さざえ)100% [薬]ボルタ1、ムコスタ1、ハルナール1、メルビン2 19:00 [便]少量 19:10 [薬]パンスポリン点滴100ml開始 20:30 [薬]点滴終了 20:45 [水]マンゴJ280ml 12月25日(月) 00:00 [尿]量1200ml 06:00 [検]採血、手技非常に上手 06:15 [尿]量400ml、不快感強い、坐薬を断る 06:49 [雑]うるさい冷蔵庫のコンプレッサーの作動時間は300秒(5分) *21 06:49 [雑]枕、小さく伸縮自在、煎餅布団ようで使い勝手が良い 08:50 [便]少量 [処]頭髪シャンプー [水]コーラ100ml 09:15 [薬]パンスポリン点滴100ml開始 10:20 [薬]点滴終了 11:00 [処]詰所横の処置室で排尿し、その後50mlの注射器で生食500mlを注入 *22 この量に耐えられることを確認した上でカテーテルを抜去 *23 [検]排尿しながら尿流量測定を行い、エコー検査で残尿0mlだった 12:10 [食]昼食100% *24 13:50 [雑]携帯でこの病院のHPを訪問して、泌尿器科の情報を入手した 14:00 [尿]180ml、黄色、排尿前不快感なし、排尿中の尿道の軽い痛みあり 14:16 [雑]カテーテル留置から右を下にして寝てきたが、左下に戻る。 14:50 [尿]180ml、勢い良く、排尿時の痛み消失。180mlが尿意を感じる最低量のよう 16:20 [尿]220ml [薬]インテバン坐剤 17:10 [尿]200ml *25 17:15 [診]主治医来室、前立腺肥大症の手術を1月2〜3週に行なう予定 18:00 [食]夕食(ご飯、鳥、ソーセージ、サラダ)100% 18:50 [尿]100ml 19:00 [薬]ボルタ1、ムコスタ1、ハルナール1 20:00 [薬]パンスポリン点滴100ml開始 20:30 [尿]50ml [便]軟便中等量 21:14 [薬]点滴終了 21:55 [尿]100ml 12月26日(火) 01:05 [尿]200ml 06:56 [尿]210ml 07:10 [診]主治医来室 07:15 [検]詰所横の部屋でエコー検査(残尿10ml) [尿]50ml [診]点滴は本日で終了。明日から抗菌薬の内服。プロスタールの内服。 07:30 [食]朝食(ご飯、鮭、味噌汁、サラダ)100% *26 [薬]プロスタール2 08:40 [尿]80ml 10:00 [検]114/60、36.6 [薬]パンスポリン点滴100ml開始、留置針を抜き翼状針に変更 [尿]点滴8割で尿意を感じ、点滴終了時の排尿量は200ml 11:00 [薬]点滴終了 11:01 [尿]200ml 12:00 [尿]100ml(合計1970ml) [便]中等量 12:10 [食]昼食(ご飯半分、茶碗蒸し、おかず、ハム1枚)100% 13:45 [尿]120ml 14:21 [症]肩凝り、全身倦怠感強い。横になるとつい寝てしまう。 15:00 [尿]180ml 15:53 [雑]グーグルで「前立腺炎」を検索 16:00 [尿]240ml 17:25 [尿]250ml 17:40 [診]主治医来室、明日尿意が一杯の時に排尿をせずに外来で尿流量測定をする 18:10 [食]夕食(ご飯、煮合せ、おしたし、リンゴ)100% 18:40 [尿]150ml 19:46 [尿]100ml 20:15 [薬]パンスポリン点滴100ml開始 20:55 [薬]点滴終了 21:00 [尿]180ml 12月27日(水) 03:00 [尿]350ml 05:00 [尿]250ml 06:30 [尿]240ml 07:36 [尿]100ml 07:40 [食]朝食100% [薬]プロスタール2、クラビット1 08:10 [尿]50ml [便]中等量 10:40 [検]エコー検査、排尿で尿流量測定、残尿41ml [尿]340ml 11:30 [尿]200ml(合計2750ml) 11:53 [検]36.0 12:00 [食]昼食(ご飯、豚、青菜、かまぼこ、みかん)100% 12:38 [尿]200ml 13:00 [処]頭髪シャンプー 14:15 [尿]220ml 14:45 [尿]50ml [便]中等量 15:20 [尿]150ml 16:30 [尿]210ml *27 16:50 [診]主治医来室、過去のPSA値を尋ねられる 17:49 [尿]180ml 18:00 [食]夕食(ご飯、鴨、海老フライ、サラダ)100% 18:45 [薬]ハルナール1、クラビット1 18:55 [尿]130ml 19:55 [尿]110ml 21:40 [尿]300ml 22:30 [尿]100ml 23:30 [尿]200ml 12月28日(木) 00:30 [尿]220ml 02:00 [尿]400ml 04:35 [尿]430ml 06:10 [検]採血、採血右→左2回採血は最初の経験 06:15 [尿]150ml 07:30 [食]朝食100% [薬]プロスタール2、クラビット1、ムコスタ1 07:40 [診]主治医来室 1/9入院と検査、1/10手術 08:30 [尿]200ml 08:42 [便]中等量 09:34 [尿]70ml *28 10:00 [検]術前検査 10:58 [尿]100ml 12:15 [尿]100ml(合計3520ml) 12:45 [便]中等量 15:00 [検]止血検査 15:50 退院
12月22日(金)
*01 排尿前に身震いする痛み
私は41歳と52歳に急性前立腺炎に罹ったが、いずれも排尿直前に形容できないほどの不快な痛みがあり、それを辛抱してきばらなければ、排尿できなかった。その痛みは、会陰部の奥から始まり、背中に放散する。今回も同じ種類の痛みがあり、急性前立腺炎に罹ったことを覚った。
医学書を調べると、急性前立腺炎の症状として「排尿時痛」とだけ書かれていて、この特徴的な痛みに触れているものは見つからなかった。前立腺は膀胱の直下にあって、これに接し、尿道の始まりの部分にある。尿は排尿の最初にまず前立腺尿道を通るため、そこが炎症で腫れあがって通過障害を起していれば、ここを無理に通ろうと圧力をかけて拡げようとする時に、男性のデリケートな臓器である前立腺が悲鳴を上げて、身震いするような痛みを起すのではないだろうか?
この痛みが背部に放散する(突き抜けるように走る)理由は、反射的なものではないかと考えた。というのは、前立腺肥大症の手術を受けたあと、排尿途中から排尿が終るまで、会陰部痛のほかに、胸にキュンと響く痛みが続いたが、これは自律神経を介した反射と考えるべきだろう。青春のころ経験したのとまったく同じ種類の胸キュンだが、違うのは一瞬ではなく、それが何十秒も続くことで、こうなると苦痛以外の何ものでもない。
主治医に尋ねてみたところ、急性前立腺炎で前立腺の腫れがひどいため、排尿しようと膀胱を収縮しても前に進まず、左右尿管を逆流して、左右の腎盂が拡張するために、背中に放散するのではないかとの説明を受けた。メカニズムとして分かりやすくて面白いが、一瞬の速さであることを考えると、やはり反射説を採りたく思う。
急性前立腺炎の症状は、このほかにも高熱、全身倦怠感、頻尿などもあるが、それは、
*02 病診連携室
大きな病院で診療を受けるには、個人が直接受診するのではなく、診療所からの紹介状を持って受診するのが望ましいとされ、厚労省はそれに対して健康保険の診療報酬面でメリットを与えている。そのこともあって、大きな病院は病院診療所連携室(略して病診連携室)を設け、紹介患者が円滑に診療を受けられるように、サービスをしている。今回は、私の住居の近くにあり、私の医院を引継ぐまで、息子が勤務していた病院に、病診連携を通して紹介してもらった。
*03 一度座って少量の排便をした後でないと排尿できない
これには二つの理由が考えられる。その一つは、排便をするときには、随意筋である外肛門括約筋を緩めるが、この筋肉と外尿道括約筋は、ともに会陰筋の一部で、8の字状に交差していて、外肛門括約筋が緩むと、一緒に外尿道括約筋も緩む。
2つ目は、急性前立腺炎では前立腺は通常の2〜3倍にまで腫張し、隣接する直腸壁を背中側へ圧排している。そこに糞便が溜まると、圧排された直腸壁を腹側へ戻すように力が働き、その結果、前立腺内を貫通している尿道が余計に圧迫され、排尿が妨げられることになる。この糞便が排出されると、前立腺への直腸側からの圧迫がなくなるため、前立腺内の尿道の圧迫が緩和され、排尿しやすくなる。
*04 エコー検査で中等度前立腺肥大あり、残尿は50ml
今回と次回の入院で、検査を受けた回数の一番多かったのが腹部エコー検査(超音波検査)だった。これは痛みがなく、X線のような人体に対する障害もなく、リアルタイムで簡単に検査をくり返すことができ、比較的安価に検査できるメリットがある。
今回は下腹部(膀胱の上)にプローブを縦、横2方向に当て、前立腺の大きさと残尿量の測定が行なわれた。初診時の検査では、前立腺の大きさは約70g、中等度の前立腺肥大症と診断された。それから20日後の前立腺肥大症の手術時には50gに縮小していた。主治医の説明では、急性前立腺炎で前立腺が2〜3倍に腫大することは、よくあるとのことだ。
手術時に切除した前立腺の切片の病理組織診断で、「炎症強い」のコメントが付けられていた。20日後でも、まだ前立腺炎の影響が残っているのかと、主治医に尋ねたところ、炎症の影響が2〜3ヶ月残ることはよくある、との説明を受けた。
ということは、初診時70gの前立腺肥大症と診断されたが、これは急性前立腺炎の影響が大きく、本来は4〜50g程度であったのかもしれないと思った。
「残尿」は排尿が終わった後に膀胱内に残っている尿で、正常は0mlである。今回の入院の初診時の残尿量は50mlで、バルーンカテーテル抜去時は0ml、退院前は41mlだった。最初の2回は主治医による検査、最後は検査技師による検査だった。この41mlの値には少しショックを受けたが、これについては、計測ミスだろうと思うことにした。
*05 急性前立腺炎で入院指示
乏尿、頻尿、尿閉があり、尿検査で膿尿、エコー検査で前立腺肥大と残尿があり、急性前立腺炎の診断で、緊急入院の指示を受けた。発熱がなかったのは、抗菌剤のクラビットと消炎鎮痛剤のボルタレンを、2日前から服用していたためだと思われる。過去2回の前立腺炎では、悪寒戦慄を伴っていたのを覚えている。
*06 パンスポリン
今日の治療指針を見ると、05年、06年版のいずれも、急性細菌性前立腺炎に対して、注射用セフェム系抗生物質を急性症状消失まで使用し、その後は経口ニューキノロン系抗菌薬を用い、合計4週間投与する、と書かれている。
処方例として、1)パンスポリン1回1g 1日2回の点滴静注を急性症状消失まで投与した後、2)クラビット(100mg)1日3錠 分3で投与し、合計4週間の例が記載されている。つまり、これが急性前立腺炎に対する、急性期の標準的治療のようだ。入院の手続きが終わるまでの時間を利用して、パンスポリンに対する皮内反応を調べられたのは、この治療を行なうためだったことが分かる。
抗菌薬によるアレルギーを調べるための皮内テストは、右の前腕に皮内反応バイアルの液体を皮内注射し、対照(コントロール)として、左の前腕に生理食塩水を皮内注射して、15〜30分後の発赤と膨疹の有無で判定する。これが陰性だとしても、この薬剤にアレルギーがないとは必ずしも言い切れないが、もしも、治療の段階でアレルギー反応が現れた時に、その責任に対する免罪符的な意味はある。
*07 夕食をまったく摂らず
私は365日、食欲の無い日をほとんど知らない人間だが、過去2回の前立腺炎では、珍しく食欲がなかったのを覚えている。それは今回も同じで、入院当日の朝から食欲がなかった。尿量が減って腹が張ってくる前からそうだったので、これは前立腺炎のためと思われる。しかし、この夕食を食べる気が起らなかったのは、下腹が張っていることも大いに関係しているのだろう。
*08 インテバン坐剤50
この病院の泌尿器科の消炎鎮痛剤の標準処方は、インテバン坐剤50のようだ。2回の入院で、いろいろな痛みに対して、看護師の判断で、これを肛門より挿入することが認められているのではないかと思った。インテバンは、現在使われている消炎鎮痛剤の中で、最も歴史が古く、30数年前より使われている。内容はインドメサシンで、鎮痛作用はボルタレンより劣るが、消炎作用はこちらの方が強い。しかし、前立腺炎の腹部膨満感に対して、この坐薬は無効だった。
*09 ハルナール
ハルナールは、前立腺肥大症による排尿障害に対して、尿道と前立腺部のα1受容体を遮断することにより、排尿障害を改善する薬である。前立腺肥大症が見つかったので、服用してきたが、効果はなかった。それは前立腺炎による前立腺の腫大が高度だったため、と考えられる。
もっとも、今回の前立腺炎に罹るまでは、排尿障害はまったくなく、国際前立腺症状スコア(I-PSS)では0だったので、私は幸い前立腺肥大症から免れている、と思い込んでいたが、エコー検査でこれを発見されたのは、将来のことを考えるとラッキーだった。
*10 尿意を催すが、尿量わずかで、下腹部が張り、体を動かすと響いて痛む
これは急性尿閉の症状で、膀胱内に大量の尿が貯留しているが、排尿できない状態である。入院して、この時点までの摂取水分量を合計すると、1160mlであるのに対して、排尿量は580mlで、差し引き580mlとなる。不感蒸泄と代謝水の差を考慮すると、もう少し減るとは思われるが、500ml近い尿が、膀胱に溜まっている勘定になる。
12月23日(土)
*11 尿が出ない苦痛より、悩みや怒りを発散できない苦痛
腹が張って身動きをしても苦しく、下腹部に響く状態をこらえ続けた。この状態で頭に浮かんで、ずっと離れなかったのが、怒りや悲しみ、苦悩を発散できない場合、それは例えようもないほど苦しいだろうということだった。このことについては、入院と心の情景2.排出できない苦悩に詳しく記載した。
*12 バルーンカテーテルを留置
尿が出ず下腹部が張り、耐えられなくなって、バルーンカテーテルを留置してもらったら、900ml排尿があった。この時までの水分摂取量は2360mlで、尿量は1380ml、差し引き980mlとなる。不感蒸泄と代謝水の差が80mlだったということだろうか?
過去2回の前立腺炎の経験から、水分を充分にとることの重要性が頭にこびりついていて、尿がなんとか出ているので、合計量を考えずに、せっせと水分摂取を行なった結果、900mlの尿を貯めて苦しむことになったのだ!
早くから、バルーンカテーテルを留置してもらえば、このように苦しむことはなかったのだが、男性の最もデリケートな部分に、管を突き通されることの心理的抵抗は大きく、できることなら過去2回の前立腺炎の時のように、自然排尿で済ませることを期待したのだった。
カテーテル挿入時に、経験したことのない焼けるような痛みを尿道に感じたが、それを顔に出さずに抑えることはできたと思う。
バルーンカテーテルとは尿道カテーテルの1種で、カテーテルの先端近くに球形に拡張するバルーンがついていて、膀胱にカテーテル挿入した後、滅菌蒸留水を注入してそれを膨らませ、自然抜去を防ぐ留置型のカテーテルである。多くはシリコン製で、普通は直径が16Frサイズ(5.3mm)が使われるが、1サイズ小さい14Frサイズ(4.7mm)もよく使われる(1Fr≒0.33mm)。また、バルーンの大きさは、10ml注入型のものが普通使われる。
*13 冷汗は反射による?
カテーテル挿入直後から、30分以上冷汗が続き、顔や首筋は汗まみれとなった。これは尿道、特に前立腺部尿道が刺激されたことに対する自律神経を介した反射だろうと思う。
*14 昼食(ご飯、ソーメン吸い物)95%
バルーンカテーテル留置による導尿で、膀胱の膨満感がなくなったためか、給食のソーメンの吸い物を口にすると、塩味が効いていて美味い。米飯も少し柔らかめだが、米の質が良く、95%を平らげてしまった。前立腺炎に罹ると食欲が落ちると *07 夕食を摂らず で書いたが、抗生剤の点滴が効いて炎症が改善されたためか、膀胱が空になったからか、食欲はすっかり元に戻ってしまった。
*15 メルビン
私は数年前から軽い糖尿病があり、ビグアナイド系の血糖降下剤である「メルビン」を2年前から夕食後に2錠を服用してきた。食欲が戻ったので、この服用を再開した。この薬の血糖降下作用は、末梢での糖利用促進、肝での糖新生抑制、腸管からのグルコース吸収抑制による、とされている。
*16 肩凝り増強
私はこれまで肩凝りというものを知らなかったが、昨年ごろから、寝ていても肩を凝らすようになった。その一番大きな原因は、死亡想定時期である70歳の間に、済ませておきたいことを完了するための緊張感や焦りだと思う。その緊張する癖や習慣が、すっかり身についてしまったらしい。この入院では、身動きをしても腹に響くので、全身を硬くして、動かないようにしていたため、肩凝りはますます強くなってしまった。
*17 残便感消失
導尿によって膀胱が空になってから、それまで2〜3日間続いていた残便感がすっかり無くなり、お尻に団子を挟んだような不快感はなくなった。これは、膀胱にたくさんの尿が溜まって、前立腺炎や前立腺肥大症で大きく腫れあがった前立腺を、直腸壁に押し付けたため、直腸が背中側に圧排され、大便が残っている錯覚を与えていたのだと思う。
12月24日(日)
*18 頭髪シャンプー
この病院の病室は非常に使い勝手が良い。その一つが、ベッドのすぐ左にある洗面台で、洗面するだけでなく、簡単に洗髪してもらうことができる。私は毎日頭を洗わないと、ベタベタして気持が悪い性分だが、この洗面台のおかげで、毎日すがすがしい気分になれた。
*19 陰部尿道洗浄
バルーンカテーテルを留置されるデメリットは、1)管の通っている尿道部に、痛みないし不快感があり、管をゆする操作で不快感が増す、2)男の繊細な部分が、管によって蓄尿バッグに繋がれ、歩く時には、そのバッグを紙袋に入れて持ち運ばなければならないのが、屈辱的であり、そのほかに、3)感染予防のためということで、1日1回看護師によって陰部尿道洗浄をされる。これは便器に座ると、いとも簡単に行なわれるのだが、何とも恥ずかしい。年をとっても、プライドはあるのだ。
*20 ICレコーダー
生まれてはじめての入院なので、記録はできるだけ詳細に残そうと思った。ノートにメモを取るとか、PCに入力できれば一番良いが、恐らくそのような状況はないだろうと想像し、最も簡単で確実なのは、口述することだと考えた。
いつか使うことがあるだろうと購入しておいた、SONYのICレコーダーを探し出して、病院へ出かける前に、これをポケットへ入れたのは正解だった。15x25x120mmの小さな魔法のスティックは、ベッドでの私の口述を、忠実に記録してくれた。その成果が、経過の詳細記録として残されている。最初はデフォルトの設定で使用したが、この時点から「モノラル、LP、指向性」に変更した。
12月25日(月)
*21 枕
この病院の枕は、小さく伸縮自在で、好きなように折りたため、大きさを変えることができる。だから、項を支えることもできて、冷えたところを項に当てると気持が良い。どうも、私は庶民的なものが合うようだ。
*22 カテーテルを抜去
留置された尿道カテーテルを通して、生理食塩水が500ml膀胱に注入され、膀胱がこの液体量を許容できることを確認の上、カテーテルが抜去された。抜去に際して痛みは少なかった。
*23 尿流量測定
尿流量測定器は、ミニトイレのような尿の受け口に排尿すると、時間の経過に伴う尿量が記録される検査機器である。1秒当たりの最大の排尿量(最大排尿率)は、排尿の勢いを客観的に示す指標で、正常は20ml/秒以上とされ、10ml/秒以下では排尿障害と診断される。
*24 携帯でこの病院のHPを訪問
携帯電話を使ってWeb検索ができるので、これによって、PCとほぼ同じ程度の情報を入手することができる。この病院の泌尿器科の専門医は5名、指導医3名、主治医はトップ3で指導医であること、年間手術件数が400件以上、前立腺肥大症 87件のすべてが、内視鏡による経尿道的手術で、輸血は1件もなし。入院期間は10〜14日。などの情報をベッドの上で知った。
そのほか、前立腺炎の情報、前立腺肥大症の情報を、この携帯から得ることができたほか、PCメールの転送機能で、すべてのメールの送受信ができた。これだけのことができるとなると、携帯電話はもうミニPCである。電話器としても、部屋に備え付けのものより使い勝手が良く、個室では携帯電話の使用が許されているので、色々な点で、携帯電話は何よりも有用な必需品である。
*25 前立腺肥大症の手術
過去2回の急性前立腺炎の時と違って、今回は抗生剤の内服だけでは治らず、尿閉にまで至った。それは、前立腺肥大症を伴っていたため、前立腺の腫大がこれまでよりも大きく、そのため排尿障害がより高度になったと考えられる。
これから前立腺炎に罹らないように注意するとしても、罹らないという保証はない。その場合、今回よりも排尿障害は強いと予想される。今回のような苦しみは、もう二度と味わいたくないので、この機会に、前立腺肥大症の手術を受けておこう、それもできるだけ早い時期に、と思った。
そのことを主治医にお願いした結果、年明け早々に手術をして下さることになった。この病院の泌尿器科は、Web検索の結果からも安心できるが、それよりも、主治医の人柄に惚れこんでしまったので、この方にお任せしようと心から思った。
12月26日(火)
*26 プロスタール
主治医の説明では、現在前立腺炎の炎症が残っているので、柔らかくて出血しやすい状態にある。そこで、前立腺肥大症の根本的治療薬であるプロスタールという薬を使い、前立腺を固くしておいてから手術をする、との説明を受けた。
12月27日(水)
*27 PSA値
PSA(Prostate Specific Antigen)は、日本語で前立腺特異抗原と呼ばれ、前立腺で作られるタンパクで、本来は精液の中に分泌され、重要な働きをしている。血液の中にもPSAは少量存在しているが、前立腺がんでは、この血液中のPSAが上昇することが多いため、腫瘍マーカーとして早期診断に広く利用されている。
正常値は4ng/ml以下、4から10ng/mlをグレイゾーンとされ、この範囲の値であると、前立腺がんの可能性は25%程度と言われている。PSAが10ng/ml以上になると、前立腺がんは50%以上でみられるとのことだ。
今回の入院での検査結果は、80ng/mlだった。そのために、過去のPSA値を尋ねられたが、本年4月のPSA値が、1.9ng/mlであったと報告すると、主治医は「今回の異常値は、前立腺炎の影響であり、癌の心配はない、癌では短期間に急増加することはない」と言われた。そして、前立腺肥大症の手術後の組織検査で、そのことは証明された。
このように、前立腺炎や前立腺肥大症などの他の前立腺の病気でも、PSAはしばしば上昇するので、PSA高値=前立腺がん、ではないことに注意が必要であるが、そのことに触れた医学書は少ない。
12月28日(木)退院
*28 術前検査
1月9日に入院し、1月10日に前立腺肥大症の手術を受けることになったので、退院の日に、一般血液検査、心電図検査、胸部XP検査、腹部XP検査(仰臥位)、止血検査を受けた。腹部エコー検査と尿流量測定検査は、退院の前日の12月27日に受けている。
●前立腺の解剖
前立腺は昔は摂護腺と呼ばれていたが、膀胱の前に立っているという解剖学的な位置から、「前立腺」と名付けられらしい。英語では「prostate」というが、これもギリシャ語の「prostatos」から来ていて、pro=before statos=standing という意味だという。しかし、膀胱の「前」というよりは、膀胱の「直下」というべきだろう。ちょうど会陰部の内部にあるとも言える。
正常では、横4cm、縦3cmくらいのクルミ大の器官で、男性のみに存在し、標準は15g〜20g。この中心を尿道の起始部が貫通している。前立腺の背面は直腸に接していて、肛門から指を入れれば直接ふれることができる(直腸指診)。
前立腺の位置を、膀胱、尿道、直腸、肛門、会陰部に関係付けておくことが、前立腺炎を理解する上で重要になるので、模式図を載せて置く。
●病態
急性前立腺炎は、細菌感染による急性炎症性疾患で、炎症は前立腺だけでなく、尿道後部から膀胱内にまで及ぶ場合が多い。炎症のための発熱、前立腺腫張による排尿困難、残尿感、頻尿、排尿時痛が生じ、腫張が高度の場合は尿閉もあり得る。前立腺の腫張は、正常時の2〜3倍になることもあるという。
●原因
大腸菌などのグラム陰性桿菌類による感染で、尿路感染症に続発する場合と、血行性やリンパ行性に感染する場合があるが、感染経路のはっきりしない場合が多い。
●誘因
1.長時間の座位作業:骨盤内(肛門会陰部)のうっ血により、細菌に対する抵抗力を下げる
2.水分摂取不足:尿量が減り、細菌の濃度を高める
3.排尿回数不足:細菌の繁殖時間を長くし、増殖を助ける
4.下腹部を冷やす:下腹部への血液の流れを悪くし、細菌に対する抵抗力を下げる
5.外陰部を不潔にする:尿道からの細菌の侵入量を増やす
●症状
悪寒を伴う高熱、全身倦怠感、排尿時痛、排尿困難、会陰部痛(会陰部とは肛門と外陰部の間を言う)が、医学書に書かれている。私の3回の急性前立腺炎の経験では、排尿直前に、身震いするほどの苦痛が、会陰部から背部へ放散するのが特徴的だった。また、排尿時痛よりも、排尿後痛の方が強く、排尿直前と排尿後の痛みが前立腺疾患に特有だと自分では思っている。
●検査
1.尿検査
尿の中に、原因になる細菌と炎症性細胞である白血球が認められる(尿沈渣、〒ステープ)。
2.直腸指診
肛門から指を入れて腹側を調べると、前立腺は著明に腫大し、強い圧痛がある。主治医に、急性前立腺炎の際の前立腺の腫大の程度を尋ねたところ、健常時の2〜3倍にまで腫れることがあるとの説明を受けた。また、会陰部を押すか、椅子に腰掛けて会陰部を圧迫することで、強い圧痛〜不快感があれば、前立腺疾患を推定することができる。
3.血液検査
細菌感染による末梢白血球数の増多と、CRPの亢進を認める。また、急性細菌性前立腺炎では、前立腺がんの腫瘍マーカー(PSA:前立腺特異抗原)が異常な高値を示す。今回の私のケースでは80ng/mlだった。10ng/ml以上になると、前立腺がんは50%以上で見られるとされているが、8ヶ月前の検査では、1.9ng/mlだったことから、主治医は、この異常高値を急性前立腺炎によるものと判断された。それが正しかったことは、前立腺肥大症の手術後の切除切片の組織検査で証明された。
●治療
急性症状が強い時には、これに有効な注射用セフェム系抗生物質を点滴し、急性症状が消えてからは、前立腺組織への薬物の移行が良好な、ニューキノロン系抗菌薬の内服する。慢性化を防ぐために、長期の抗菌薬服用が必要で、両方を合計して4週間以上治療を続ける。処方例として、1)パンスポリン注 1回1g 1日2回 点滴静注、2)クラビット錠(100mg) 3錠 分3が標準的。
20年ほど前まで、急性前立腺炎に効く抗菌薬は、ST合剤であるバクタしかなく、この病気の治療に必須の薬だった。現在では、有効なニューキノロンやセフェム系抗生物質が存在することと、バクタに、血液障害などの副作用があることが判明したので、使われることが少なくなった。
急性前立腺炎の誘因として、前立腺肥大症を持っている場合が多いので、その時は前立腺肥大症の治療に用いられるアルファ1ブロッカー(ハルナールなど)を併用する。この薬は前立腺の筋肉の緊張を和らげて症状を軽くする効果がある。
また、排便時の強い努責は、前立腺の痛みを強めるため、便秘薬を服用して、自然な排便にすることも効果があり、消炎鎮痛薬は痛みと腫れを和らげる効果がある。
水分を充分に補給し、排尿量を充分に維持することは、前立腺炎の治療にも有用である。尿閉となった場合、バルーンカテーテルを留置することもある。
●予防
1.長時間の座位作業を避ける
骨盤内(肛門会陰部)のうっ血を避け、細菌に対する抵抗力を下げないようにする
2.水分を充分に摂取する
充分な尿量で、侵入した細菌の濃度を下げ、細菌の繁殖を抑える
3.排尿を我慢しない
充分の回数で排尿することにより、細菌を洗い流し、繁殖時間を短くして細菌の繁殖を抑える
4.下腹部を冷やさない
下腹部への血液の流れを良くし、細菌に対する抵抗力を高める
5.外陰部を清潔にする
尿道からの細菌の侵入量を減らす
6.便秘を避ける
便秘になると、直腸にたまった糞便が尿道を圧迫するので、これを避ける
排便時の過度の努責によって、骨盤内がうっ血するのを避け、抵抗力を落とさない
●過去の経験(既往歴)
私が最初に急性前立腺炎を知ったのは、30年ばかり前だった。自転車で全国を廻っている途中に、高熱に襲われた弟が、開業したばかりの私のところへ、転がり込んで来た。肺炎や扁桃炎などの呼吸器の病気はなく、髄膜炎の心配もなかったが、排尿時に不快感があり、尿を調べると白血球が増え、細菌尿だった。この時に、急性前立腺炎という病気があることを、初めて知った。
次は、自分がこの病気に罹った41歳の夏のこと。開業をしてから4年間、日曜日の午前中診療をし、木曜日を全日休診するという診療形態をとってきた。ところが、当時小学生だった息子は、普通の人並みに日曜日を過ごせないのが不満で「僕は医者にならない、子どもが可哀そうだから」と宣言したのだった。
可愛い息子にそう言われて困惑し、9月から日曜日を休診にして、木曜日の午前中診療をすることに変更したが、そのような重大な変更は、掲示するだけでなく、患者さん全員に郵送してお知らせするべきだと考えた。しかし、妻や職員は、そのような手間をかけることに反対をした。仕方がないので、診療を終えた後、ひとり診療室でクーラーを掛けっ放しにして、何日も宛名書きを続けた。
数日後、全身倦怠感、食欲不振に続いて悪寒戦慄、高熱が出た。その時に排尿直前の痛みと排尿後の不快感があり、尿を調べて、弟が罹ったのと同じ急性前立腺炎であると、自己診断をした。当時の医学書(今日の治療指針)によると、前立腺への抗菌薬の移行は非常に悪く、ST合剤のバクタという薬が唯一有効であることを知り、これを服用し、比較的早く症状は軽快した。
しかし、急性前立腺炎は完治するのに時間がかかり、抗菌薬を長期に服用する必要があること、しばしば慢性化し、その場合は完治せず何年にも亘って排尿痛、会陰部痛〜不快感に悩まされ、前立腺ノイローゼになることもあるとも書かれていた。
それでは困るので、その時の急性前立腺炎罹患の原因を分析し、1)長時間にわたって座位作業を続けたこと、2)その間下腹部をクーラーで冷やしっぱなしだったこと、3)水分をとらず、ほとんどトイレにも行かなかったことだと判断し、以後特に水分を充分に摂り、排尿回数を増やすことを心がけた。恐らく世間の人の2倍くらいはトイレに通ったと思う。
当時は、この病気は一般には余り知られていなくて、前立腺炎と前立腺肥大症とを混同する者が多く、若いのに前立腺肥大症?と好奇の目で見られるので、ちょっと恥ずかしい思いをした。しかし、自分が体験したお陰で、この病気を早く見つけ、自信を持って治療することができたという効用はあった。
その次に、この病気に罹ったのは52歳の冬だった。私は49歳からパソコンを始めていて、その頃も長時間これに向かっていた。息子の受験にはまったく関心がなく、専らパソコンに熱中している私に対して、妻は冷たく批判的だった。それにも構わず、私はパソコンに夢中だった。
ところが、センター試験を終えて枚方駅に着く息子を車で迎えに行くようにと、妻に命じられた時、悪寒戦慄に襲われ、排尿前の不快感も現れた。急性前立腺炎にまたやられたのだった。とは言え、この状況でそんなことを言えば、どんな結果が帰ってくるかは、容易に想像できる。そこで、セファメジン500mgとメチロン1Aを混ぜて、自分で殿部に筋注をして、震えながら息子を迎えにいった。その状況を今も鮮明に覚えている。
このことがあってから、初心に戻り、充分な水分摂取と長時間の座作業を避けるように心がけ、20年間近く、この病気に罹らずに済んできたのだった。
今回の発病の原因は、1)転居したころから水分摂取が少なくなった、2)引退して時間があるので長時間PCに向かうことが多くなった。特に、オマケの人生に入る前に仕上げておきたいことがたくさんあり、それに熱中したことが関係していると思われる。尿閉にまで進んだのは、前立腺肥大症があったからだろう。
間もなくオマケの人生に入るので、そうなれば、今ほどPCに集中することもなくなるだろうし、幸い前立腺肥大症の手術も受けたので、これからは、急性前立腺炎に罹る可能性は少ないのではなかろうか、と期待している。
昨年末に、急性前立腺炎による尿閉のため、緊急入院をした。その際に見つかった、前立腺肥大症に対する手術を受けるため、2007年1月9日に再入院し、翌10日に、経尿道的前立腺切除術を受けた。手術は脊椎麻酔で行なわれ、予定より20分早く終り、正味手術時間は40分だった。
今回の入院で一番苦しかったのは、術後4時間目くらいから始まった腰痛で、翌朝まで脚を動かすことを禁じられたために、体位変換ができず、腰痛は耐えられないほどだった。これは出血防止のため、留置バルーンカテーテルを左大腿に牽引固定されていたためで、翌朝これが緩められると、かなり楽になった。
2日目朝、留置カテーテルが抜去された後、排尿後激痛と血の滴や血塊が出たが、6回目より血尿はなくなり、痛みも最初は6分間続いたのが4分になった。以後術後5日目ころから痛みの持続は3分、8日目の退院時には2分になっていた。退院時、残尿はなかったが、排尿の勢いはまだ弱い状態だった。
術後経過は良好だが、前立腺の切除した部分が完全に粘膜で覆われ治癒するには、2〜3ヶ月を要するとの説明を受け、それまでは、腹圧をかけること、長時間の座作業、アルコール摂取、温泉入浴を控えるように、との指示を受けた。
退院後の経過を、尿を中心に追って書いていくと、術後2週間目くらいまでは、排尿の最初に薄いピンク色の血尿があり、軽い排尿時痛と2分程度続く排尿後痛と会陰部不快感があった。時おり、尿から3mm〜5mm程度の凝血塊や異物が飛び出してきて驚いた。最も大きかったのは、およそ10mmあり、子ねずみが飛び出したのかと一瞬思ったほどだった。尿の勢いは、術前の95%くらいまで回復した。
術後3週間目くらいから、時おり凝血塊のほかに、濃いサーモンピンク色の血尿が出たりしたが、排尿後痛の持続は1分になり、術後5週目くらいから、排尿後痛は10秒程度続くだけで、尿の勢いは術前と同じまでに回復した。術後7週間目で排尿後痛もなくなり、正常に戻った。
尿の異常を除いては、体調は極めて良く、座る時は必ず円座を当ててきた。
項目 [尿]:尿データ [水]:摂取水分 [便]:大便 [食]:食事 [症]:症状 [検]:検査 [診]:診察 [処]:処置 [薬]:薬剤 [雑]:そのた 1月 9日(火) 08:15 [雑]駐車場余裕あり [食]朝食可、いずみで和風定食 美味い 11:00 [雑]病室816号、コンセント多い2.2.1.2.計4箇所7個、洗面が左手 11:10 [雑]オリエンテーション、薬剤師の服薬指導、排尿チェック表 12:00 [検]140/68 36.4 12:07 [尿]160ml [水]コーラ200ml 12:37 [尿]70ml *01 12:50 [検]膀胱尿道造影 バルンカテ挿入 痛い 右下斜位と正面から撮影 13:05 [水]コーラ100ml マンゴ280ml 14:23 [薬]パンスポリン点滴100ml開始 14:45 [薬]点滴終了 15:10 [水]レモンJ300ml *02 15:30 [検]単純CTに続いて造影剤を注入して造影CT検査 *03 16:20 [診]麻酔科部長の診察と説明、同意書に署名 16:30 [尿]300ml [水]牛乳300ml *04 16:40 [診]詰所横の部屋で主治医から手術の説明、同意書に署名 *05 17:20 [診]看護師からクリニカルパスをもらい手術の説明を受ける *06 17:30 [処]剃毛用具を使いトイレで剃毛、看護師の点検でOK 18:10 [食]夕食 18:40 [尿]250ml [便]中等量 19:50 [尿]200ml 20:00 [処]全身シャワー [水]茶150ml *07 20:50 [薬]プルゼニド2、下剤初体験 リスミーは断る [水]牛乳200ml、茶100ml 20:59 [尿]200ml 21:00 [雑]妻帰宅 *08 21:26 [雑]パソコンにクリニカルパスの術後1日までを記入。その後PCは時計代わり 1月10日(水) 03:38 [尿]400ml 05:45 [尿]100ml 07:16 [便]中等量 [診]主治医、吉岡部長、麻酔科医師、立川麻酔科部長の4名が来室 *09 09:07 [処]生まれて初めての浣腸 09:10 [雑]トイレ直行、排便中等量 [尿]160ml *10 09:35 [薬]ラクテック500ml点滴開始 11:35 [薬]点滴終了 *11 12:00 [雑]まな板の鯉ではない、自然体、あるがまま、なるがままの心境 12:21 [尿]100ml [便]少量 *12 12:35 [検]139/89 36.6 前投薬ドロレプタン筋注 12:45 [処]うがい 12:50 [雑]うつら、うつら状態 *13 12:55 [雑]「時間を書いとけよ!」と言って部屋を出て手術室へ 13:00 [雑]手術室到着 13:30 [雑]手術開始 14:18 [雑]看護師より手術終了の連絡 14:28 [雑]帰室 *14 14:43 [診]主治医来室、切除した前立腺の小片群の入った瓶を見せてもらう 14:50 [検]130/80 35.8 15:18 [検]120/72 35.9 16:05 [検]112/74 37.2 16:20 [雑]息子より電話 16:30 [診]主治医来室 16:35 [雑]「夕焼け雲がきれい」と話す 17:11 [検]134/70 36.5 *15 17:21 [症]右足は背面側と足蹠側の両方に曲げられる。左足はわずかに動く *16 18:20 [診]主治医来室、造影CT検査の所見を届けて下さる 18:25 [診]婦長来室 *17 18:30 [症]足で布団を蹴り、右膝を立てる。腰痛非常に強い 19:00 [検]134/80 36.7 *18 19:05 [薬]腰痛に対してインテバン坐剤挿入 20:05 [便]放屁3発 *19 20:19 [症]右下肢しびれ完全消失、左側は少ししびれあり、インテバン坐剤無効 20:30 [検]140/84 36.9 [薬]点滴にパンスポリン追加 [水]茶50ml [処]歯みがき 21:00 [雑]息子夫婦来室 [薬]パンスポリン終了、新にラクテック500ml点滴開始 21:20 [雑]妻ら3人が帰る *20 21:30 [薬]ペンタジン15mg筋注 21:32 [雑]消灯して眠る 22:03 [雑]目が覚め、また眠る 1月11日(木) *21 03:00 [症]カテーテルの通っている尿道会陰部の痛さで目が覚めた *22 06:00 [検]採血 [雑]留置カテーテルには膀胱洗浄用の生理食塩水が、手に輸液がつながれていた *23 このような不自然な状態で死にたくないと思った 06:30 [処]歯みがき、顔を拭く 07:00 [検]36.8 07:30 [食]朝食全部食べる *24 [薬]フロモックス1、ムコスタ1 *25 07:40 [診]主治医来室、バルーンカテの固定の位置を変える 08:00 [診]泌尿器科部長来室 08:20 [診]麻酔科部長と医員来室 09:28 [検]134/72 36.9 *26 09:30 [処]膀胱洗浄用の管を抜去 [水]コーラ200ml 09:40 [症]ベッドから降りて起立してみると会陰部が痛い 10:10 [水]牛乳150ml 10:30 [処]清拭、着替え、陰部尿道洗浄 10:50 [水]茶200ml 11:53 [水]茶100ml 12:20 [食]昼食カボチャ以外全部食べる、昼食中、手紙が病室に届く 12:30 [処]頭髪シャンプー 15:00 [尿]蓄尿8L *27 15:30 [診]主治医来室、血液データ正常 前立腺は手術時50gで10g切除した 16:28 [雑]今日の窓から見える雲も美しい 18:00 [食]夕食すべて食べる [薬]フロモックス1、ムコスタ1 18:30 [水]牛乳200ml 20:30 [雑]息子来室 [検]160/72 36.7 21:12 [雑]「大外科医ザウエルブルッフの悲劇」をなぜか思い出していた *28 21:26 [症]寝腰、尿道痛の次は、大腿部の筋肉痛、下腿部の痛みと脱力感 21:28 [雑]消灯すると雲が美しい *29 22:16 [症]尿道カテーテルが繋がっていることで、尿道部に不快感〜痛みがある 1月12日(金) *30 07:15 [診]主治医が詰所横の部屋でエコー検査を行なった後、バルーンカテ抜去 08:00 [食]朝食 牛乳300ml [薬]フロモックス1、ムコスタ1 [診]泌尿器科部長来室 08:15 [診]麻酔科部長来室 08:50 [便]便意あるも放屁のみ *31 [尿]50ml尿(カテ抜去後1回目)排尿後痛が強く、血が2滴出た [処]T字帯が局所をカバーできていないのでパンツに交換 [水]茶50ml 10:00 [検]142/84 36.9 [水]茶250ml 11:00 [便]大量 *32 [尿]250ml+50ml尿(カテ抜去後2回目)血塊が1個、色は薄い 11:16 [水]コーラ50ml、茶100ml [処]寝巻きは不便なので、パジャマに着替える 11:30 [水]茶100ml 12:10 [食]昼食全部 [水]茶100ml *33 12:45 [尿]200ml尿(カテ抜去後3回目)排尿後痛が増え、血が混じる [症]パンツ汚れる *34 14:00 [尿]300ml尿(カテ抜去後4回目)排尿後痛2分、黄色 *35 [雑]尿が出たあと When I fall in love が頭の中で聞こえてきた 14:15 [水]茶150ml 14:48 [診]主治医来室、4回目からきれいな色、勢い良い、尿のもれなしと報告 *36 15:00 [尿]250ml尿(5回目)、出はじめと、最後搾り出す時に血が垂れる [水]茶100ml 15:19 [尿]終わってもしばらく会陰部に痛みがあるので、しぼり出さない方がよさそう *37 16:10 [尿]100ml尿(カテ抜去後6回目)黄色、勢いは強くはない 16:15 [水]茶125ml 17:30 [尿]300ml、排尿後痛少し、勢いかなりある [雑]鼻歌で、When I fall in love を唄う 17:35 [水]茶125ml 17:40 [診]主治医来室、排尿後痛少なく、最初と終りに会陰部痛、パンツ汚れなしと報告 18:00 [食]夕食全部 [薬]フロモックス1、ムコスタ1 *38 18:45 [尿]200ml尿(カテ抜去後7回目)小さい血塊が、排尿の始めに1個出た 20:05 [尿]250ml 20:30 [検]134/68 36.4 21:00 [尿]220ml、黄色、排尿後痛少し 21:30 [水]茶125ml 21:31 [尿]180ml、黄色 22:50 [尿]200ml、黄色、排尿後痛少し 23:00 [水]茶125ml 1月13日(土) 01:05 [尿]280ml、黄色、排尿後痛少し 04:45 [尿]450ml、黄色、排尿後痛少し 04:46 [水]茶125ml 07:15 [尿]200ml、黄色、排尿後痛少し 07:30 [食]朝食 [薬]フロモックス1、ムコスタ1 [水]コーラ200ml 08:30 [診]主治医来室 *39 09:28 [尿]200ml、会陰部の排尿後痛の強さを持続時間で定量して6分だった 10:20 [尿]100ml、茶100ml 10:27 [検]123/61 36.0 11:03 [尿]100ml 12:00 [尿]100ml [水]牛乳400ml 12:10 [食]昼食全部 [水]茶250ml 12:25 [水]牛乳200ml *40 12:45 [便]大量排便(新聞を読みながら) 13:00 [処]頭髪シャンプー 13:11 [水]茶125ml 14:14 [尿]200ml(1日合計2630ml) 14:15 [水]茶150ml *41 14:48 [尿]排尿後痛は6分くらい続く、計測すると6分だった *42 14:49 [雑]前立腺関連の自覚痛について考えてみた 15:15 [尿]200ml、排尿後痛5分 15:20 [水]茶125ml 16:30 [水]茶125ml 16:50 [尿]220ml、排尿後痛5分 18:15 [食]夕食全部 [水]牛乳200ml [薬]フロモックス1、ムコスタ1 18:40 [尿]180ml、排尿後痛5分 19:40 [尿]150ml、排尿後痛5分 [水]茶250ml [薬]プルゼニド2 20:00 [水]牛乳200ml 20:55 [尿]260ml、排尿後痛3分 21:04 [尿]今朝から排尿の最後より切られるような痛みあり、痛みに波がある 22:20 [尿]260ml、排尿後痛2分 22:29 [水]茶125ml 22:39 [雑]When I Fall In Love の歌が聞こえてきて、尿と便が出た。痛みも軽い 22:41 [雑]空の3つ雲が薄いピンク色で美しい 23:56 [尿]200ml、排尿後痛2分 23:59 [水]茶125ml 1月14日(日) *43 00:30 [雑]窓から見える深夜の雲をデジカメで撮影 *44 02:57 [雑]雲の変化から無常、無常の法則、流転の法則を感じた 02:30 [尿]200ml、排尿後痛2分 05:50 [尿]400ml、排尿後痛2分 05:52 [水]茶250ml 07:05 [尿]150ml、排尿後痛2分 07:07 [水]牛乳400ml 07:30 [食]朝食全部 [水]牛乳200ml [薬]フロモックス1、ムコスタ1 08:50 [尿]200ml、排尿後痛3分 10:00 [尿]200ml、排尿後痛3分 [便]水様便大量 10:15 [水]茶125ml 11:20 [検]137/83 36.5 11:26 [尿]200ml、排尿後痛3分 11:28 [水]茶125ml 12:00 [食]昼食全部 [水]牛乳200ml 12:45 [尿]180ml、排尿後痛3分 13:10 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23:39 [雑]窓から見える、無数の星、子どもの頃にみた夏の夜の光景である 1月16日(火) 01:15 [尿]300ml、排尿後痛1分 01:17 [水]茶125ml 05:05 [尿]300ml、排尿後痛2分 05:10 [水]茶125ml 07:15 [尿]200ml、排尿後痛2分 07:30 [水]茶150ml 07:50 [食]朝食全部、 *47 [薬]クラビット1 [水]茶125ml 09:10 [尿]200ml、排尿後痛2分 10:34 [尿]280ml、排尿後痛2分 [水]コーラ 10:45 [検]138/74 36.8 11:43 [尿]210ml、排尿後痛2分 12:00 [食]昼食全部 [薬]クラビット1 12:40 [水]牛乳200ml 12:47 [尿]100ml [便]大便中等量 13:10 [処]全身シャワー [水]茶125ml 14:20 [尿]250ml(1日分合計:3290ml) [水]茶125ml 15:20 [尿]150ml [水]茶125ml 17:00 [尿]200ml *48 17:30 [診]主治医来室 組織標本の所見では、悪性所見なく、炎症強し 17:40 [水]牛乳500ml 18:00 [食]夕食全部 [薬]クラビット1 18:43 [尿]100ml 19:40 [尿]100ml [便]中等量 19:53 [薬]プルゼニド2 [水]茶100ml 21:50 [尿]260ml 23:22 [尿]400ml 1月17日(水)術後1週間目 03:00 [尿]400ml [水]茶125ml 06:00 [尿]200ml [検]採血 [雑]手紙 07:00 [尿]100ml [水]茶125ml、牛乳200ml 07:30 [食]朝食、 [水]牛乳200ml [診]主治医来室、 [薬]クラビット1 08:24 [尿]100ml 08:44 [水]茶200ml 09:43 [検]106/72 36.9 10:10 [尿]300ml、 [検]尿流量測定検査:尿の勢いはまだ弱い、エコー検査:残尿=0ml 10:18 [水]コーラ100ml、茶200ml 10:30 [水]牛乳200ml 10:44 [尿]50ml [便]大便大量 12:00 [尿]180ml [水]茶200ml 13:05 [尿]260ml 14:00 [尿]100ml 15:30 [尿]250ml [水]茶100ml 16:23 [雑]絶えず、眠っている。開放感のため? 16:30 [尿]260ml 17:10 [診]主治医来室 17:44 [尿]150ml 18:10 [食]夕食全部 [薬]メルビン2、クラビット1 19:15 [尿]150ml、最初に糸くずよう物2個 20:03 [薬]プルゼニド1、 [水]茶150ml 20:05 [尿]100ml、出始めに糸くず 21:20 [尿]200ml、出始めにうすい血尿少し [水]茶125ml 23:30 [尿]200ml、出始めに糸くず1個 1月18日(木)退院 03:30 [尿]200ml、出始めに糸くず、うすい血尿少し、排尿後痛3分 [水]茶125ml 07:00 [尿]200ml、出始めに糸くず 07:19 [薬]クラビット1 08:45 [尿]100ml、排尿後痛3分、2mmの凝血塊 09:20 [便]大便大量
1月9日(火)
*01 膀胱尿道造影
「膀胱尿道造影」は「逆行性膀胱尿道造影」とも呼ばれ、尿道からカテーテルを挿入し、カテーテルから膀胱内へ造影剤を注入して、排尿時の像を右下斜位と正面の2方向から撮影する。これによって、尿道狭窄では狭窄部位とその長さが描かれ、前立腺の腫大があれば、前立腺部尿道の延長や変形、膀胱底の挙上を知ることができる。
この検査は下腹部スッポンポンで、亀頭にガーゼを当てるだけで行なわれた。カテーテルを挿入する時はかなり痛く、カテーテル抜去後、尿道口よりポトポト数滴鮮血がこぼれ落ちるのをガーゼで覆って止めた。その後、排尿をすると、オナラのようなボコボコという音がして驚いた。これは膀胱の中に、造影剤のほかに空気も入れたので、それが排出する際の音だという。愉快になって、トイレの中から「これオナラと違うぞ!小便したら、こんな音がするんや!」と叫んでいた。
*02 造影CT検査
「造影CT検査」は、右腕の静脈から造影剤を注入した後、CT撮影が行われた。殿部が少し暖かくなる感じがするが、それ以外は異常を感じない。造影剤を入れることで、脈管と脈管外構造の区別を明らかにしたり、腫瘤状の病変の血管支配を調べることができるとのことだ。
私が、これまで一度も検診を受けたことがなく、受けようとしないので心配だ、と妻が主治医に訴えたのに応えて、手術前に胸部と腹部の造影CT検査を指示して下さった。ここに来て意地を張るわけにもいかず、術前検査の一つだと思って受けたのだった。
その結果、甲状腺と左腎について、エコー検査の指示があったが、エコーでは異常なく、総合的に見て大きな異常はないとのことで妻は安心し、主治医に心から感謝していた。
*03 麻酔科部長の診察と説明、同意書に署名
麻酔科部長室で、手術時の麻酔についての説明と診察を受け、「麻酔についての説明と同意書」に署名捺印をした。その際の雑談で、この病院の泌尿器科は、大阪府下では成人病センターに次いで手術数が多く、優れていると教えていただいた。
*04 手術の説明、同意書に署名
妻と二人で主治医から「経尿道的前立腺切除術の説明文書」に基づいて、手術の説明を受け、手術に関する同意書に二人が署名捺印をした。説明は懇切丁寧で、私も妻も主治医を心から尊敬し信頼しているので、ためらうことは何もなかった。
*05 クリニカルパスをもらい、手術の説明を受ける
病院の説明文では、「クリニカルパスとは、ある病気に対して必要な検査、治療などをスケジュールにまとめ、それを基準として治療計画を進める方法です。言い換えると、医師、看護師、そのほかの医療スタッフ、患者様が治療経過の情報を共有し、必要な治療や看護を適時に患者様に提供するための基準経過表のことです。」とある。
「クリニカルパス」というのは、もとは「ケアマップ」から発展したもので、「クリティカル・パス」とも言われるが、現在では「クリニカルパス」という名前が定着している。
看護師からいただいたのは、「経尿道的前立腺切除術を受けられる方へ」というタイトルの「クリニカルパス」で、手術前日、当日術前、当日術後、手術翌日、手術2日目、手術3〜4日目、手術7日目、手術8〜9日目について、安静、食事、検査、処置、観察、注射、その他の項目が表示されていて確かに分かりやすい。
手術の具体的なことでは、「明日午後1時から手術開始、明日9時まで水分摂取は構わない、術後翌朝まで足を動かしてはいけない、T字帯3枚、和式寝巻き2枚を用意するように」と言われた。T字帯と寝巻きは売店で購入した。
*06 剃毛
昔ながらの剃刀を使って、看護師の手で剃毛されるのではないか、と恐れていたが、電気シェーバーのもみあげを刈るタイプの器具を使い、便器に座って自分で行なって良いと分かって、一安心した。これなら、危険もなく簡単に剃毛ができる。看護師の点検を受けるとOKで、一件落着。
*07 下剤初体験
私はこれまで快眠快便で、下剤を使ったことがない。しかし、今回は、腸の内容物をすっかり排除しておく必要があるということで、生まれて初めて下剤を服用した。眠れないということは考えられないので、就眠剤の服用は断ったが、もちろん、熟睡できた。
*08 パソコンにクリニカルパスの術後1日までを記入
今回は病室にパソコンを持ち込んだ。術後しばらくは座れなくて、パソコンを使えないだろうから、クリニカルパスを参考にして、術後1日までの必要項目などを入力しておいた。
1月10日(水)
*09 浣腸
ほとんど毎日が快便なので、「浣腸」ももちろん生まれて初めて。患者さんに浣腸をする時は、浣腸をしたあと、「できるだけ我慢して!」と言ってきたが、我がこととなると、1分くらいでこらえきれず、トイレへ直行し、中等量の排便があった。
*10 ラクテック
午前9時から飲水を禁じられているので、水分補給として500mlの補液が行なわれた。「ラクテック」というのは、大塚製薬製の乳酸リンゲル液で、リンゲル液に含まれる塩分を減らし、代わりに乳酸ナトリウムを配合した製剤である。手術時などで循環血液量や組織間液が減少する時に、細胞外液の補給に用いる。乳酸ナトリウムは、体内で代謝されて「HCO3-」となり、代謝性アシドーシスを補正する効果もある。
*11 まな板の鯉ではない、自然体、あるがまま、なるがままの心境
これは手術前に妻に話していたことで、手術前の心境は、まな板の鯉でもなく、ファイト!でもなく自然体だった。あるがまま、なるがままというのが正直な気持だった。
「まな板の鯉」には意図的に構えているとか、どうでもしてくれというふてくされた感じがする。また、「ファイト!」という、自分を鼓舞しようという気持もまったく起らなかった。と言って、不安もまったくなかった。考えても仕方がないことは考えない、シャーナイことはシャーナイ、なるようになる、それだけだった。
*12 前投薬ドロレプタン筋注
「ドロレプタン」は麻酔薬の1種で、今回は脊椎麻酔の前投薬として、1時間前に筋注された。15分後には、うつらうつら状態になったそうだ。
*13 「時間を書いとけよ!」
ドロレプタン筋注20分後、部屋を出て手術場へ向かう際に、「時間を書いとけよ!」と妻に言ったそうだ。もうろう状態でも、記録を残して置くことに執着しているのが、私らしくて面白い。
*14 切除した前立腺の小片群の入った瓶を見せてもらう
手術中のことは断片的にしか覚えていないが、麻酔科部長が傍に来られて、「予定より20分早く終わりました、手術はうまく行きましたよ」と耳元で話されたのは覚えている。
病室に帰ってから、主治医が来室し、切除した前立腺が数ミリの小片となって多数浮遊するガラス瓶を見せて下さり、悪性を思わせる箇所はなかったが、組織検査に提出しておく、と説明された。思っていた通りで嬉しく丁重にお礼申上げた。
*15 右足は背面側と足蹠側の両方に曲げられる。左足はわずかに動く
脊椎麻酔を受けて1時間20分後に、右足が曲げられるようになったが、左足はまだ麻酔が効いていて、わずかしか動かすことができない。これは、左側を下にして脊椎麻酔が行なわれたので、麻酔薬が左半身により多く沈降したためだと考えられる。
*16 造影CT検査の所見
妻が気にしていた「造影CT検査」の所見を、主治医が届けて下さり、ほぼ異常なしとのことで、妻は大喜びしていた。私は要らぬものが見つからず、面倒なことにならなかったので、予想はしていたとは言え、ホットした。
*17 足で布団を蹴り、右膝を立てる。腰痛非常に強い
主治医も看護師も麻酔科医師も、術前に来られた人の誰もが、「手術の後は、翌朝まで脚を動かしてはいけない」と言われた。それなのに、私が右足で布団を蹴りあげたので、妻は血相を変えて「あなたは何をするか分からないから、帰らずに残る」という。
そこで、動かしてはいけないのは、カテーテルを固定している左脚の方であることを見せて、留置しているバルーンカテーテルのバルーンで、前立腺の切除した部分を圧迫して止血をしているから、動かしてはいけないのだということを説明した。左脚を動かしてはいけないが、右脚は構わないということが分かって妻は納得した。
*18 腰痛に対してインテバン坐剤挿入
左脚を動かすことができないということが、これほど苦しく辛いものであるとは思ってもいなかった。いわゆる「寝腰」だが、腰に手を入れてもらったり、タオルを咬まして浮かしてもらったりするが、あまり効果はない。そう話すと、看護師がインテバン坐剤50を挿入してくれた。この坐薬は看護師の判断で使えることになっているようだ。
*19 右下肢のしびれは完全消失、左側は少ししびれあり、インテバン坐剤無効
脊椎麻酔後6時間20分目で右下肢のしびれは完全消失したが、左側はややしびれが残っている。寝腰に対してインテバン坐剤はまったく効かなかった。この薬は消炎効果は強いが、鎮痛効果はそれほど強くはないので、仕方がない。
*20 ペンタジン15mg筋注
「ペンタジン」は化学名をペンタゾシンと言い、中枢神経系の刺激伝道を抑制することで、鎮痛効果を発揮する。麻薬に近い強力な鎮痛作用があり、登場して35年以上になるが、これによって使用手続きの面倒な麻薬を使わずに済むので、医師は重宝している。あまりにも私の腰痛が激しく、インテバン坐剤が無効だったので、この鎮痛剤を筋注してもらったら、間もなく眠ってしまった。
1月11日(木)
*21 尿道会陰部の痛さで目が覚めた
午前3時に、尿道会陰部が痛く、目が覚めた。この部分には、カテーテルが通っている。ペンタジンで腰痛がとれて眠ってしまったが、ここがこれだけ痛いということは、知らない間に左脚を動かしたのかもしれないと思った。もしそうだとすると、切除した前立腺を圧迫しているバルーンカテーテルも動かしたかもしれない。その結果、大量出血している可能性がある、と不安になった。
ちょうどその時、点滴の交換に看護師が入室してきたので、尋ねてみたら、出血していないとのことで、安心してまた眠った。
*22 採血
午前6時に採血があった。その結果はほぼ正常で問題はなかった
*23 このような不自然な状態で死にたくない
朝目が覚めると、留置バルーンカテーテルには、膀胱洗浄用の生理食塩水のボトルが繋がれ、左手に、輸液と抗生剤の点滴が繋がっていた。それを見た瞬間、「このような不自然な状態で死にたくない」と思った。このくらいはましな方で、普通なら、この上に、人工呼吸器、鼻孔栄養、心電図やいろいろのモニターも繋がれるだろう。このような形で死にたくはない!
私はこれまでは、「どう生きるか」を考え、自分としては何とかそれを見つけて生きてきた。しかし、間もなくオマケの人生に入る。「このような不自然な状態で死にたくない」という願望を果たすために、どう対処したら良いのだろうか?
とりあえずは、自分の死期を覚ることができるなら、昔の高僧が行なったように、まず、食を断ち、最後は水も断って、枯れるように死ぬのが良いのではないかと思う。それ以外については、これからの課題としよう。いずれにしても、できるだけ入院しないで済む方法、入院しても、苦痛をとるだけの治療をしてもらう方法を、考えることになるだろう。
*24 フロモックス
「フロモックス」は第三世代の経口セフエム系抗生物質で、化学名はセフカペンピボキシルという。前回の急性前立腺炎の入院では、経口抗菌薬としてニューキノロンのクラビットが使われたが、今回の前立腺肥大症の手術では、第三世代セフエム系の「フロモックス」に変わっているが、その理由は分からない。抗菌薬の点滴は、どちらの場合も「パンスポリン」だった。
*25 バルーンカテーテルの固定の位置を変える
経尿道的前立腺切除術の後で使う、バルーンカテーテルのバルーンは、前立腺の切除した部分を圧迫して止血するため、滅菌蒸留水で膨らせるバルーンのサイズが、通常の10mlではなく30mlのものが使われる。
また、出血した血液が膀胱内に溜まって凝血し、これが尿道を塞いで尿閉を起すことがないように、膀胱を洗浄する生理食塩水を膀胱に注入する管が、カテーテルの中に通っている。これは3wayカテーテルと呼ばれ、これに対して、普通のバルーンカテーテルは、2wayカテーテルと呼ばれる。
バルーンカテーテルの固定の位置を変えて、下へ牽引する力を緩めたのは、血尿がほとんどなかったから、バルーンでの圧迫を緩めたとのだろう思っていたが、クリニカルパスを見ると、この日のところで「牽引固定を緩める」と書かれてあり、その時期だったようだ。これによって、左下肢をかなり動かせるようになり、腰痛も軽減した。
*26 膀胱洗浄用の管を抜去
先に今回のカテーテルを、3wayカテーテルとして説明したが、この膀胱を洗う点滴も、クリニカルパスに書かれている通り、この日の朝に除去された。これでぶら下がった生理食塩水の瓶がなくなり、少しはスッキリした。
*27 血液データ正常、前立腺は手術時は約50gで、10gを切除した
手術の翌朝採血した血液データは、ほぼ正常だった。また、急性前立腺炎で緊急入院した際には、前立腺の大きさはエコー検査で70gあったが、手術時は約50gだったそうだ。
手術では、前立腺の内腺部分を10g切除した。これ以上切除すると外腺を破る危険があり、必要充分な切除量だったとの説明を受けた。切除して瓶に収められたのは8gだが、出血している部分の視野を確保をするため、水で洗いながら手術を行なうので、その水で洗い流されたのが2g程度あり、合計すると10gになるということだった。
また、手術中肉眼では悪性変化は認められなかったが、8g全部を病理組織検査に提出しているとの説明を受けた。
*28 大腿部の筋肉痛、下腿部の痛みと脱力感
術後まず寝腰に悩まされ、次は尿道痛に変わったが、その後には大腿部の筋肉痛、下腿部の痛みと脱力感が続いた。これも、今まで経験したことのない苦痛で、妻にマッサージをしてもらった。原因は脚を動かせない状態が続いて、両下肢の緊張が持続したためだろうと思う。脚を動かし始めると、この苦痛は消失した。
*29 尿道部に不快感〜痛みがある
同じバルーンカテーテル留置でも、前回入院の時とはかなり違い、少し動いても尿道部に不快感〜痛みがある。座る時も尻を片一方を持ち上げるか、肛門より後で座らないと、圧迫されて気持が悪い。これは、バルーンが大きく、3wayカテーテルなのでカテーテルのサイズが太いことや、前立腺を内側から削り、その削った表面がむき出しになっていることも、関係しているのだろう。
1月12日(金)
*30 バルーンカテーテル抜去
主治医が詰所横の控室でエコー検査を行い、膀胱洗浄を行なった後、バルーンカテーテルを抜去した。痛みはかなり強かった。クリニカルパスに書かれたているよりも、カテーテル抜去は1日早かったが、これは手術がうまく行ったので、経過が順調なのだろうと推測し、嬉しかった。
事実、その後来室のあった泌尿器科部長、麻酔科部長、看護師のいずれもが、もう抜去か、とちょっと驚いたように見えた。
*31 尿(カテ抜去後1回目)痛みが強く、血が2滴出た
カテーテル抜去1時間半で、第1回目の排尿があり、尿量は50mlで痛みが強く、鮮血が2滴出た。今まで使ったことのないT字帯は、すっかりヨレヨレになっていて、覆うべきところを覆っていない。これでは無意味なので、パンツに戻した。
*32 尿(カテ抜去後2回目)血塊が1個、色は薄く、痛み3分持続
カテーテル抜去のおよそ4時間後に、2回目の排尿があり、同時に大量の排便があった。尿量は300mlで、尿の出始めに凝血塊が1個出た。排尿後痛は3分続いた。パンツは血液と尿で汚れていた。
*33 尿(カテ抜去後3回目)痛みが4分に増え、きばると血が混じった
3回目の排尿は尿量200mlで、排尿後痛の持続が4分に増え、排尿の最後にきばると、鮮血が混じった。パンツは2回目と同じ程度に汚れていた。
*34 尿(カテ抜去後4回目)痛み2分、黄色
4回目の排尿は尿量300mlで、排尿後痛は2分に減り、尿の色は普通の黄色になった。
*35 When I fall in love
4回目の排尿の前に、なぜか気分が爽快となり、「 When I fall in love 」という歌が頭の中に聴こえてきた。なぜこの歌なのかはよく分からないのだが、入院中も退院後も、絶えず鼻歌で唄っている。私に幸せをもたらしてくれた歌として、この歌を忘れることはないだろう。
*36 尿(カテ抜去後5回目)出はじめと、最後の搾り出す時に血が垂れる
カテーテル抜去約8時間後に、5回目の排尿があり、尿量は250mlだった。排尿のはじめと、最後に搾り出す時、ポトポトと鮮血が垂れる。最後に搾り出すのを止め、自然に終わるようにして、パンツ内に垂れるようにすると、血尿の程度もそれで定量できるだろう。そう考えて、最後にきばるのをこの後から止めた。
*37 尿(カテ抜去後6回目)黄色、勢いは強くはない、痛みは残る
6回目の排尿は100mlで、尿の色は黄色。きばることをやめたので、尿の勢いは強くない。それでも排尿後痛は残る。
*38 尿(カテ抜去後7回目)小さい血塊が、排尿の始めに1個出た
これまでは、排尿の最初と最後に尿の変化が認められたが、この時から尿の変化は排尿のはじめに限定されるようになった。しかし、痛みが排尿の最後から続くのは変わらない。
1月13日(土)
*39 会陰部の排尿後痛の強さを、持続時間で定量すると6分だった
痛みの程度を定量的に表すのに、例えば、0 1+ 2+ 3+ とか、- + ++ +++ とよく表記するが、主観的になるのは致し方ない。
しかし、排尿後痛の場合は、その持続時間で表現すれば、かなり客観的な評価となり得る。今回の手術後の排尿痛は、ほとんどが排尿後痛なので、今後はこれで表現することに決めた。最初のころは、時計で正確に測定したが、暫くすると数を数えて代用することにした。
私はかなり以前から(恐らく10数年前から)、よく数を数えて時間を計ってきた。それをするのは決まって排尿時で、これによって、その時の尿量を概算するのが、無念無想で排尿している時の暇つぶしに都合が良かった。もちろん、尿量を正確に計量し、それを数えた数で割って、1数当たりの尿量を算出しておけば、絶対的な尿量は分かるが、そこまではせず、相対的な尿量で満足してきた。
この数を数えて時間を計るのは、子どものころのかくれんぼと同じで、あるリズムで数えるとかなり時間は一定化してくる。私も1秒1数のリズムを自然と身につけたようで、かなり正確に1分を数えられるようになり、1分=60±3程度になっている。
*40 大量排便(新聞を読みながら)
排便で強い腹圧をかけると、前立腺に悪影響が出るので、前立腺の手術後は、努責や強い腹圧は望ましくないと言われている。しかし、そのことを意識すると、うまく排便できない。これまで快便で過ごしてきたので、自分が排便できないことに驚愕し、焦ってしまった。
そこで、読み物を持ち込み、排便を意識せずに読みふけっていると、便意を催し、自然に排便できることを学んだ。そこから、排便という非常に簡単な生理機能が、単に腹圧をかければよいというものではなく、自律神経も関与した微妙なバランスの上で成立していることを改めて知り、人体の神秘を垣間見た思いがした。
*41 排尿後の痛みは6分くらい続く
排尿後痛の程度を表すのに、排尿後の痛みの持続時間を使うことにしたと書いたが、時計を使って正確に測ってみると、数を数えて概算したのとほぼ同じで6分だった。それを知って妻は驚いたが、タネを明かせば、これまで何度も排尿する時に数えてきたので、慣れているだけのことだ。
*42 前立腺関連の自覚痛について考えてみた
実際に、前立腺炎と経尿道的前立腺切除術の両方を経験した結果、医学書に書かれている前立腺関連の自覚痛は、少し違うように思える。そこで、自分の体験した自覚痛をまとめてみた。
前立腺炎
排尿直前に、身震いするような背中を締め付ける感じがあり、それをこらえてきばると、普通にスムースに排尿できて痛みはなく、排尿後痛もない。
尿閉で留置したバルーンカテーテルを抜去した後
1回目の排尿時は、排尿途中でヒリヒリと痛むが、排尿後痛はなし。2回目の排尿時には、痛みは半減し、3回目で消失した。この場合は細いカテーテルだったようで、カテーテルを留置中も、尿道会陰部の痛みというよりは不快感程度だった。
前立腺手術で留置したバルーンカテーテルを抜去した後
1回目の排尿時はかなり痛く、2回目で少し楽になったが、3回目も同じ痛みで血が混じった。痛みは排尿途中から強くなり、排尿直後が最高で、その後すこしづつ減り、6分後→4分→3と徐々に短くなって行った。
こちらは太いカテーテルだったようで、留置中は尿道会陰部の痛みや強い不快感があり、直接座ることができず、肛門の後で座るとか、片尻を浮かすようにして座った。これまでのように、何も考えずにお尻から座ることができないとなると、どうも弱気になってしまう。
もう一つの前立腺に関連した排尿痛として、排尿途中から排尿が終わるまで、胸にキュンと響く痛みを経験したが、これは、5)退院後の経過のところに、「排尿途中の胸キュンの痛み」として書いておいた。
1月14日(日)
*43 窓から見える深夜の雲をデジカメで撮影
消灯時間とともに、全部の灯りを消すと気分が落ち着く。病室の南側の大部分は、1枚板のガラスが入った窓で、ベッドで横になると、空だけが見える。深夜の雲がこれほど美しいということを、今まで知らなかった。また、室内に少しでも灯りがあると、ガラスが反射して、空が良く見えないこともこの時に知った。
この美しい光景を、記憶だけに留めておくのが惜しくて、デジカメで撮影してみた。そうすると実物には及ばないが、思い出すよすがになる程度の映像として記録できた。よし、それならと、マニュアル操作でより上手く撮影できる工夫を考えて、翌日それを試してみたら、それ相応の効果はあった。
*44 雲の変化から無常の法則、流転の法則
深夜の美しい雲を眺めていると、雲は絶えず形を変え、同じ姿を見ることがない。この時、無常の法則、流転の法則が頭に浮かんだ。そして古の賢人を思った。
ベッドから見えるのは、窓ガラスが許す範囲の空だけである。絶えずベッドで横になっているので、夜もよく目が覚め、空を眺める時間が非常に長い。このような経験をしたことは、これまで一だ度も無かった。そのお陰で、こんなに美しい雲を知り、無常を実感できたのだから、入院もしてみるだけの価値はあると思った。
1月日15(月)
*45 甲状腺エコー検査
胸部腹部造影CT検査で指示された、甲状腺のエコー検査を受けたが、異常はないとのことだった。
*46 整形外科受診
私の左肩の痛みが1年以上続いて心配だと、妻が主治医に訴えたところ、整形外科に紹介して下さり、肩の単純XP検査と診察を受けたが、想定通り、肩関節周囲炎(40肩50肩)との診断だった。
1月16日(火)
*47 クラビット
抗菌類の内服は術後5日間で終了したが、前立腺炎予防のため、自己判断でしばらく手持ちのクラビットを服用することにした。
*48 組織標本の所見では、悪性所見なく、炎症強し
経尿道的前立腺切除術で切除した、前立腺の切片8gの組織診最終報告書では、「主として腺成分の過形成を見るが、悪性変化を認めない。炎症強い。」とある。
主治医に、組織標本で「炎症強い」とあるが、それほど前立腺炎は続くのかと尋ねたところ、2ヶ月くらい続くが、抗生剤は飲まなくてよい。自然に治まると言われた。しかし、急性前立腺炎恐怖症気味なので、クラビットの服用を続けることにした。
前回の緊急入院の際のPSA値は80ng/mlであったが、これは急性前立腺炎による異常高値であると主治医は判断された。悪性変化を認めないとの報告はそれを裏付けたことになる。
経尿道的前立腺切除術を受けた者に対する注意を、主治医と看護師から受けたが、その要点と私の感想をまとめてみた。
●全治に2〜3ヶ月かかる
経尿道的前立腺切除術では、内側から削り取った前立腺の切除面を、縫うことはできないので、傷口はむき出しの状態のままで放置され、そこを痂皮(かさぶた)が覆う。この傷口を新しい粘膜が被って、尿道ができあがるまでには、2〜3ヶ月かかる。
このことを主治医から知らされるまでは、縫合された傷は2週間で完治するという普通の外科手術と同じように思っていた。しかし、縫合するのでなく傷口を開放したまま放置し、表面を粘膜が被うまで待つのだと知って、長期戦になることが納得できた。排尿の度に、その傷口の上を濃度の高い尿が通過するのだから、痛みがあっても、血尿が出ても不思議ではない。この根本的なことを、最初に患者に理解させることが重要だと思った。
●排尿痛の続くことがある
排尿痛は1〜2ヶ月続くことがあるが、必ずとれる。
排尿痛というが、本当は排尿の終りごろから続く痛みで、排尿後痛というべきだと思う。傷口が開放されたままで、そこを痂皮(かさぶた)が被っている状態であれば、排尿時に痛みがあることは理解できるし、全治に2〜3ヶ月かかるのであれば、排尿痛が1〜2ヶ月続くことがあるというのも納得できる。会陰部の鈍痛〜不快感が続くことも、同じ理由で理解できる。これらは必ずとれると言ってもらうと、それまで辛抱しようという気持になる。
●血尿、凝血塊の出ることがある
手術後1ヶ月目でも突然血尿が出ることがあるが、一時的なことが多い。その場合は安静にして水分を多めにとり、血の塊が詰まって尿閉を起さないようにする。もしも、それが2〜3日続くようであれば、医師と相談するように。
手術後2ヶ月くらいは、切除した部分はかさぶた(痂皮)で覆われていて、それが前立腺への圧迫や衝撃で剥がれ落ちることがあり、その際に出血したり、凝血塊が出たり、排尿痛があるということも理解できる。
●尿失禁の起きることがある
ある程度以上に排尿をがまんすると、突然尿が漏れたりすることがある。
膀胱と尿道の一時的なアンバランスが原因で、尿失禁の起ることがあると、2度ばかり主治医に言われたが、結局は一度もそのようなことは起らなかった。排尿のメカニズムはかなり複雑で、内外尿道括約筋、自律神経、体性神経が緊密に連携して行なわれている。その連携作業が一時的にうまく行かず、尿失禁を起す場合もあり得るだろうということも理解できる。
●逆行性射精の起きることがある
通常、精液は射精の瞬間に尿道を経由し、ペニスの先端から、体外へ射出される。この時のメカニズムは、内尿道筋を閉じて膀胱への逆流を防ぎ、外尿道筋を開いて、前立腺内の筋肉を収縮させることによって行なわれる。
これに対し、膀胱方向へ射出される場合を「逆行性射精」と言う。これは、手術によって内尿道括約筋が傷つき、膀胱の出口が閉じなくなった場合に起こり、不妊症の原因になるが、もう私には関係はないことだ。
●長時間の座作業を避ける
長時間の座作業、長時間の運転を避け、冷たいところ、堅いところには座らない。
長時間の座作業が良くないのは、前立腺などの骨盤臓器のうっ血を招いて血行を悪くするため、治癒力・回復力・抵抗力を弱めるからであろう。長時間の座作業が、痔核を悪化させることは、経験的によく知られている。私の場合、急性前立腺炎の誘因になったし、今回の手術の後、座作業を長く続けると、会陰部の鈍痛ないし不快感は増し、横になったり入浴すると軽くなることを実感した。
そこで、座るときは円座を敷き、1〜2時間で一旦休憩をとるようにと心がけてはいるが、この制限が一番守り難く、数時間連続でパソコンに向っていることもしばしばある。
●会陰部への振動を避ける
会陰部を強く振動させる自転車やバイクへの乗車、激しい運動は避ける。
自転車やバイクには乗らないし、激しい運動もしないので、これは問題ない。歩行は少しの距離から始め、血尿排尿痛を参考に、徐々に増やして行くようにとの指示を受けたが、億劫になってあまり歩いていない。
●腹圧をかけない
重い荷物を持ち上げたり、排便時に極端に腹圧をかけたりしない。
強い腹圧をかけると前立腺にその圧力が及び、無理にかさぶたをはがしてしまう可能性がある、ということだろう。そのことを意識し過ぎると、排便がうまくいかず、本などを読んで排便を意識しないでいると、自然に排便できることを学んだ。
●アルコールと香辛料を控える
アルコールと香辛料は2ヶ月控える
アルコールや強い香辛料は骨盤臓器の血行を良くし、経尿道的前立腺切除術で切除した部分からの出血を助長するので、控えるようにということだろう。実際、アルコールを飲みすぎた場合に、肛門や陰嚢表面から出血することは、これまで何度か経験しているので、これは理解できる。しかし、香辛料については、そのような経験はないので、あまり気にしていない。
●入浴に注意する
入浴はさっとつかる程度、温泉は2〜3ヵ月後から
入浴も血行を良くし、出血しやすくするので注意するように、ということだと思う。なぜ温泉は2〜3ヶ月後からなのかは理解し難いが、特に温泉に入らなければならないこともないので、問題はない。家庭での入浴は、元々長風呂ではないので、これも問題なし。
退院後の経過として、尿の異常や変化を中心に、排尿痛、会陰部痛の経過を記載した。
1月 22日(月) 20:00 5ミリの小片2個排尿と同時に排出。排尿途中に胸キュンの痛みあり。排尿後痛2分 23日(火) 12:00 3ミリの小片が最初に出た。排尿後痛1分程度 17:40 出始めにうすい血尿。胸キュン痛あり。排尿後痛2分 20:00 出始めに濃い血尿少し。胸キュン痛あり。排尿後痛2分 21:30 出始めにうすい血尿。胸キュン痛あり。排尿後痛2分 23:00 普通尿。排尿後痛2分 24日(水)術後2週間目 20:00 出始めにうすい血尿。胸キュン痛あり。排尿後痛2分 23:00 出始めにうすい血尿。胸キュン痛あり。排尿後痛2分 24:00 普通尿。胸キュン痛あり。排尿後痛2分 25日(木) 08:00 出始めに8ミリ凝血塊が出た。胸キュン痛あり。排尿後痛2分 20:00 出始めにうすい血尿。胸キュン痛あり。排尿後痛2分 23:00 出始めにうすい血尿。胸キュン痛あり。排尿後痛2分 26日(金)退院後第1回目の再診日 08:00 普通尿。胸キュン痛あり。排尿後痛2分 27日(土) 00:20 出始めに5mmと3mm血塊2個出てうすい血尿。排尿後痛2分 08:00 普通尿。胸キュン痛あり。排尿後痛2分 29日(月) 18:00 出始めに10mm凝血塊が飛び出た。胸キュン痛あり。排尿後痛2分 30日(火) 18:40 出始めに濃い血尿。胸キュン痛あり。排尿後痛1分 21:20 出始めに濃い血尿が多量。胸キュン痛あり。排尿後痛1分。 11:55 出始めに濃い血尿が多量。胸キュン痛あり。排尿後痛1分。 31日(水)術後3週間目 06:50 普通尿。胸キュン痛あり。排尿後痛1分。尿の勢い90%。 2月 1日(木) 18:30 出始めに濃い血尿(濃いサーモンピンク)。胸キュン痛あり。排尿後痛1分。 20:10 出始めに濃い血尿。途中と終りにうすい血尿。胸キュン痛あり。排尿後痛1分。 21:50 出始めに3mmの凝血塊。最初は濃い血尿で最後もうすい血尿。排尿後痛1分。 2日(金) 00:25 出始めに3〜5mmの血塊数個。うすい血尿わずか。排尿後痛1分。 05:30 普通尿。胸キュン痛あり。排尿後痛1分。 7日(水)術後4週間目 08:00 普通尿。胸キュン痛あり。排尿後痛10秒。尿の勢い:95% 9日(金)退院後第2回目の再診日 14日(水)術後5週間目 08:00 普通尿。胸キュン痛あり。排尿後痛10秒。尿の勢い100%。会陰部痛あり。 21日(水)術後6週間目 28日(水)術後7週目 08:00 普通尿。胸キュン痛なし。排尿後痛1秒。尿の勢い100%。会陰部痛なし。 3月 2日(金)退院後第3回目の再診日 08:00 普通尿。胸キュン痛なし。排尿後痛1秒。尿の勢い100%。会陰部痛なし。 本日の再診では、尿所見が非常に改善され、日常生活はすべてOKとのこと。
退院後の経過で、排尿の際に「凝血塊」が飛び出てきて驚いたことはあるが、それは「経尿道的前立腺切除術」の結果として起りうることがよく理解できた。
それに対して、排尿痛には理解し難いところがあった。というのは、排尿途中から排尿が終るまで、胸にキュンと響く痛みが続くのだ。この「排尿途中の胸キュンの痛み」は、青春のころ経験したのとまったく同じ種類の胸キュンだが、違うのは一瞬ではなくて30秒近く続く。排尿の度にこの胸キュンに襲われるのは、かなり不快なものだった。おそらく、これは自律神経を介した反射によるものだろう。
この胸キュンが終わったあと、入院中から経験した排尿後痛が続くが、これは退院直後は2分間、術後3週目ころから1分間、術後4週目ころから10秒間と、日を追うごとに軽くなった。そして術後7週目からこの排尿後痛はなくなった。
もう一つの嫌なことは、排尿とは関係なく、会陰部の鈍痛〜不快感が続いたことで、その程度に変動はあったが、まったく感じないという日はなかったと思う。パソコンに向かって長時間の座作業を続けてしまうので、これは仕方がないことかもしれないが、少々憂鬱だった。しかし、これも術後7週目から無くなった。
●前立腺の解剖
前立腺は昔は摂護腺と呼ばれていたが、膀胱の前に立っているという解剖学的な位置から、「前立腺」と名付けられらしい。英語では「prostate」というが、これもギリシャ語の「prostatos」から来ていて、pro=before statos=standing という意味だという。しかし、膀胱の「前」というよりは、膀胱の「直下」というべきだろう。ちょうど会陰部の内部にあるとも言える。
正常では、横4cm、縦3cmくらいのクルミ大の器官で、男性のみに存在し、標準は15g〜20g。この中心を尿道の起始部が貫通している。前立腺の背面は直腸に接していて、肛門から指を入れれば直接ふれることができる(直腸指診)。
前立腺の位置を、膀胱、尿道、直腸、肛門、会陰部に関係付けておくことが、前立腺肥大症を理解する上でも重要になるので、前立腺炎のところに掲載した模式図を再度載せて置く。
●排尿の生理
前立腺肥大症は排尿と密接に結びついているので、この病気をよく知るためには、排尿の生理も理解しておく必要がある。排尿に関係する臓器と神経支配を模式図で表してみた。
尿は腎臓で作られ、尿管を通って膀胱に貯められる。普通は500mlくらいが限度で、その80%くらいが溜まると、大脳に信号が送られ、尿意を感じる。
尿が貯まると外尿道括約筋、内尿道括約筋は神経反射によって収縮し、無意識に尿をもらさず貯めるようにする。たくさん尿が貯まって強い尿意が出てきた時は、外尿道括約筋を自分の意思で収縮させ、意識的に尿をもらさないよう調整することができる。
排尿する時には、排尿反射で内・外尿道括約筋がゆるみ、膀胱排尿筋が収縮して、膀胱内が空になるまで続く。1回の排尿量は約250〜300mlで、排尿時間は約20秒以内、最大排尿率は15ml/秒以上である。排尿回数は昼間が約7〜8回、夜間は0〜1回、多くても1〜2回である。
膀胱排尿筋は膀胱の壁の中にあり、不随意筋で、自律神経の一つである副交感神経の刺激で収縮し、もう一つの自律神経である交感神経のβ作用で弛緩する。
尿道は膀胱から体外に尿を運び出す管で、男性の尿道は、「前立腺部尿道」「膜様部尿道」「尿道海綿体部」とに分かれる。また、「膜様部尿道」と「前立腺部尿道」を含めて「後部尿道」と呼び、「膜様部尿道」より遠位部を「前部尿道」とも呼ぶこともある。
「前立腺部尿道」の入口は膀胱壁の筋肉の一部が尿道の周囲を取り巻き内尿道括約筋となっている。この内尿道括約筋も不随意筋で、交感神経のα作用で収縮する。
この内尿道括約筋に続いて「前立腺部尿道」が始まり、それが終ったところに外尿道括約筋がある。これは、前立腺などの骨盤臓器を載せている会陰筋という筋肉のグループの一つで、その他に、肛門挙筋、外肛門括約筋、などが含まれている。この部分の尿道を「膜様部尿道」という。
この外尿道括約筋は随意筋で、体性神経に支配され、自分の意思でこれを刺激することによって、筋肉を収縮させることができる。
外尿道括約筋に続く外尿道口までの尿道を「前部尿道」と呼ぶが、前立腺肥大症ではこの部分はほとんど問題とならない。
●病態
前立腺は内腺と外腺から構成されている。内腺はミカンの実の部分、外腺は皮の部分に例えられる。その内腺が加齢とともに腫大し、尿道を圧迫することで排尿障害が生じる良性疾患が前立腺肥大症である。最近では、1)前立腺の良性腫大があり、2)前立腺尿道の排尿障害が証明され、3)排尿障害の症状がある、という3つの条件を伴ったものとして、前立腺肥大症は捉えられている。
●原因
ホルモンと年齢が関係していることは確かだが、定説はない。50歳以降に年齢とともに増え、60歳を超えると50%近くに前立腺肥大症の症状がみられる。
●症状
第1期(刺激症状期)では、尿道や会陰部の不快感や頻尿、特に夜間頻尿がある。第2期(残尿発生期)では、いきみながら排尿をするようになり、50〜150mlまでの残尿が発生する。第3期(慢性尿閉期)では、1回の排尿量が少なくなるとともに、残尿が多くなり、尿失禁も起きる。
排尿障害に伴うこれらの症状を点数化し、より客観的に重症度の判定や、治療効果の評価に役立てる目的で「国際前立腺症状スコア−International Prostate Symptom Score(I-PSS)」が作られ、世界中で広く使われている。1〜7の項目のスコアの合計点で判定する。
最近の排尿について | な し | 5回に 1回未満 |
2回に 1回未満 |
2回に 1回位 |
2回に 1回以上 |
ほとんど いつも |
スコア | |
1 | 排尿後、尿がまだ残っている感じがありましたか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 点 |
2 | 排尿後2時間以内に、またトイレに行きたくなった事がありましたか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 点 |
3 | 排尿の途中で尿が途切れる事がありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 点 |
4 | 排尿を我慢するのが辛い事がありましたか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 点 |
5 | 尿の勢いが弱いことがありましたか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 点 |
6 | 排尿開始時にいきむ必要がありましたか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 点 |
7 | 夜寝てから朝起きるまで、何回トイレに行きましたか? | 0回 0 |
1回 1 |
2回 2 |
3回 3 |
4回 4 |
5回以上 5 |
点 |
【 合計点と評価 】 7点以下:軽度症状 7〜19点:中等度症状 20点以上:重度症状
●検査
1.直腸指診
直腸指診とは、肛門から直腸に指を入れて、直腸壁の腹側から前立腺に触れ、前立腺の形や硬さ、痛みの有無を調べる。正常の前立腺は、クルミや栗のような形と大きさで、前立腺が腫大すると、大きなものでは、ミカン大ぐらいにまでなることがある。この検査は、簡単で、安全、精度もかなり高いため、ほとんどの前立腺疾患について行なわれている。
正常では、表面が滑らかで、弾力性があり、境界が明らかな栗の大きさである。非常に大きい場合は前立腺肥大症を、表面が凸凹していたり、非常に硬い場合は前立腺がんを、圧痛が強い場合は前立腺炎を疑う。図1:前立腺と他の臓器との位置関係を参照のこと。
2.腹部超音波断層検査(腹部エコー検査)
これは痛みがなく、X線のような人体に対する障害もなく、リアルタイムで簡単に検査をくり返すことができ、比較的安価に検査できるメリットがある。通常下腹部(膀胱の上)にプローブを縦、横2方向に当て、前立腺の大きさと残尿量の測定が行なわれる。ただし、前立腺の大きさと排尿障害の程度は相関しない。残尿量は病期が進むにつれて増加する。
前立腺体積の簡易測定法は、前立腺を楕円球と仮定して、横断面最大像での縦径(Xcm)と横径(Ycm)と、縦断面での内尿道口と前立腺尖部との距離(Zcm)から、0.52XYZcm3で算定する。正常の前立腺の体積は20ml未満である。残尿量の簡易測定法も、前立腺の体積の測定法と同じで、正常は0mlで、100ml 以上は治療を要する。
3.尿流量測定検査
ミニトイレのような尿の受け口に排尿すると、時間の経過に伴う尿量が記録される。横軸に時間、縦軸にスピードが記録され、尿の勢いが強いほど高い曲線を描き、勢いが弱い場合は、低くて横に長い曲線となる。この検査は苦痛がなく、その時点での排尿状況を、客観的に評価できる点で優れている。
1秒当たりの最大排尿率は、排尿の勢いを客観的に示す指標で、正常は20ml/秒以上とされ、軽症で15ml/秒以下、中等症で10ml/秒以下、重症で5ml/秒以下といわれている。
4.膀胱尿道造影検査
膀胱カテーテルから造影剤を注入して撮影する。尿道造影は排尿時にX線撮影を行なう。この検査は、尿道狭窄の疑われる患者や、手術を予定している患者が対象となる。尿道狭窄では、狭窄部位とその長さが描出され、前立腺の腫大があれば、前立腺部尿道の延長や変形および膀胱底の挙上がみられる。
5.前立腺特異抗原 Prostate Specific Antigen (PSA)
これは、前立腺の上皮細胞だけでつくられる糖蛋白であり、精液中に前立腺液として分泌され、その一部が血液中にも流れ出て、体内を循環している。
前立腺がんが存在すると、血中濃度が上昇するため、前立腺がんの早期発見には、欠くことのできない腫瘍マーカーであるが、前立腺肥大症や前立腺炎といった良性疾患でも上昇するので、結果の解釈には充分な考慮が必要となる。
正常値は4ng/ml以下とされ、4から10ng/mlをグレイゾーンといい、前立腺がんの可能性は25%くらいになると言われている。PSAが10ng/ml以上になると、前立腺がんは50%以上でみられるという。
●治療
前立腺肥大症は良性疾患で、症状がなければ治療の適応ではないことに留意する必要がある。
1.α1ブロッカー
アルファ・ワン(α1)ブロッカーは、膀胱の出口部や前立腺に多く含まれるα1受容体を遮断することで、交感神経の働きを抑え、内尿道括約筋や前立腺内の筋肉の緊張を緩め、前立腺部尿道を開かせる薬剤である。肥大した前立腺を縮小させる効果はないが、良く効き、即効性があり、副作用が少ない点が優れている。
2.経尿道的前立腺切除術
経尿道的前立腺切除術は、Trans Urethral Resection of the Prostate(TURP)の日本名である。米国で約70年前から、日本では約40年前に始められた手術方法で、ある程度以上に進行した前立腺肥大症の治療として、現在最も確実で有効な治療法と考えられている。
成人男性の尿道の直径は普通10mmあり、脊椎麻酔の下、この尿道内に直径約8mmの細い内視鏡を挿入し、これを経由して先端がループ状の電気メスを使って、肥大した部分の前立腺組織を削り取るという方法で、手術時間は普通1時間、輸血は不要である。
その手術の方法を図4:経尿道的前立腺切除術の模式図で示した。この図で分かるように、前立腺の内側から削り取った切除面を縫うことはできないので、傷口はむき出しの状態ままで放置され、そこを痂皮(かさぶた)が覆う。この傷口に新しい粘膜が被って、尿道ができあがるまでには、2〜3ヶ月かかるということをよく認識しておく必要がある。
TURPの適応は、第2期以上の症状がある、残尿が50ml以上ある、尿閉がある、出血がある、国際前立腺症状スコア(IPSS)が13点以上ある場合などとされている。
大阪大学医学部泌尿器科の初代教授楠隆光が著した「小泌尿器科学」1955年刊の中に、TURP のことが書かれていて、トンネルの中側から削る手術方法という発想が面白いと、学生のころに感心したのを覚えている。
●予防
前立腺肥大症の原因やメカニズムが不明なので、予防法も確立されていない。しかし、症状の発現の頻度を減らしたり、症状を悪化させないために注意すべきことはある。
1.長時間の座作業を避ける
長時間座っていると、骨盤内がうっ血し、前立腺が腫れて、排尿障害を起す
2.下半身を冷やさない
骨盤臓器の血行を悪くし、前立腺をうっ血させ、排尿障害を起す
3.排尿をがまんしない
尿を膀胱にため過ぎると、膀胱の筋肉が伸びきって、排尿ができなくなる(尿閉)ことがある
4.アルコールをとり過ぎない
前立腺を充血させ、尿の出を悪くする。また、利尿作用があり、飲んだ水分以上に尿が排泄されるため、トイレの回数が増え頻尿の原因になる
5.刺激のある食べ物をとり過ぎない
前立腺をうっ血させ、排尿障害を起す。また、交感神経を刺激して、尿道を締め付ける
6.便秘を解消する
前立腺をうっ血させ、排尿障害を起す
7.適度な運動をする
全身の血行を良くし、前立腺のうっ血を解消する
8.ぬるめの湯にゆっくり入る
自律神経系の緊張を和らげ、血行を良くし、前立腺のうっ血を防ぐ
1)病院
家の近くにある大きな病院であり、息子に医院を引継ぐまで、彼が勤務していた病院であることから、病診連携室を通して、息子にここへ紹介してもらった。数年前に新築された新病院のため、建物や設備が新しく、機能的で、これまで私が抱いていた病院のイメージと異なるところが多々見られた。ここは家から車で約15分の地にあり、周りの環境も良く、都心でありながら静かなことは驚くほどで、立地条件に恵まれている。
2)医師
泌尿器科と麻酔科、整形外科の医師しか知らないが、誰も患者に優しく、充分な説明があった。中でも主治医は、入院中1日最低2回以上病室を訪問し、必要な情報の提供とともに、適切な処置をされるので、私も妻も来室をいつも心待ちにしていた。
3)看護師
若くて美人が多いと思ったのは、自分が古希老人であるせいかもしれない。泌尿器科の病室では、病状が急変する場合が少ないためか、意外と、慌しく動いていない印象を受けた。また、個々の看護師にはそれぞれ個性があり、バラツキがあるのは致し方ないと思うが、全体としては、そつが無いという印象を受けた。
4)受付事務員
常に優しく、笑顔を絶やさず、テキパキとこまめに対応している姿をみていると、昔の大学病院の受付事務員の対極にあると思った。病院では患者に対してすべて「様」づけで話すように変わってきたと聞いて、口先だけでの敬語に意味があるのかと思っていたが、ここではそれがごく自然に感じられたので、これも驚いたことの一つだ。
5)その他の医療関係者
放射線技師、臨床検査技師、薬剤師、栄養士のいずれもが、勤務態度、ことば遣いについて不満な点はなかった。
6)病室
個室は清潔さ、設備、眺めともに申し分なかった。設備の中では、1)洗面がベッドのすぐ左手にあり、洗髪が簡単にできて、毎日洗髪しなければ気持の悪い私は、これで気分が爽快になれた、2)電源コンセントが多くて、4箇所に7個あり、不自由することがなかった、3)空調の音が分からないほど静かだった、4)部屋の南面の大部分が、1枚板のガラス窓で構成されいて、圧迫感がなくて眺望が良く、気密性が高くて防音効果が優れていた、5)病院が新しいためか、部屋の内装が明るく清潔だった。
7)給食
病院の給食は不味いものと思い込んできたが、この病院の給食は美味しくて、ほとんどの場合100%を食べてしまった。もちろん、米飯は私の固め好みからすれば少し柔らかいが、病人が食べるのであれば、このくらいがちょうど良いのだろうと思う。味は案外塩味が利き、あっさりしているのが多く、私の嫌いな肉の脂身は全く無かった。
その上、献立にはAメニューとBメニューがあって、2週間分について、毎日の献立をAかBか選んでおくことができるのだ。あまりにもこの病院の給食が美味しかったので、自分は本当に庶民的だ、と思わざるを得なかった。
1)携帯電話
携帯電話でWeb検索ができるので、これによってPCとほぼ同じ程度の情報を入手できる。この病院の泌尿器科の検索、前立腺炎の情報、前立腺肥大症の情報を、この携帯から得た。また、PCメールの転送機能で、すべてのメールの送受信ができた。これはもうミニPCと言える。電話も部屋に備え付けのものより使い勝手が良く、個室では携帯電話の使用を許されるので、携帯電話は何にも増して有用な必需品である。
2)ICレコーダー
入院の記録を残す場合、ノートにメモを取るとかPCに入力できれば一番良いが、そのようなことができない場合は、ICレコーダーに口述するのが最も簡単だろうと思う。15x25x120mmの小さな魔法のスティックが、ベッドの上での私の口述を忠実に記録してくれた。
3)デジタルカメラ
病室内の風景を撮影したり、給食の献立を撮影したり、書類の接写に使ったり、窓から見える景色を撮影したりでずいぶん役に立った。
4)パソコン
文章を書くにはやはりパソコンが便利だが、この度の入院では座作業があまりできず、ベッドで横になっていることが多かったので、使いこなせたとは言いがたい。
5)電子辞書
電子辞書を活用するようになると、こんな便利なものはないと思えてくる。15×10×1cmばかりの小さな金属製ノートに、2〜30冊もの辞書の類が入っているのだから、魔法の玉手箱だ。分からないことをこれで調べてずいぶん重宝した。もしこれを持っていて、使い慣れているなら、入院の準必需品だと思う。
この箇所は入院と心の情景のタイトルで、2007年1月26日にWebに掲載済みである。青色文字の部分をクリックすると、この記事へジャンプすることができる。
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