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征服されたことのない国 日本

2007.11.25. 掲載
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私たち夫婦は、今年世界一周クルーズに参加し、100日間という短い期間で、20ヶ国29寄港地を訪れた。そして、その国々や寄港地での印象と感想、あるいは映像を 飛鳥U世界一周2007 世界の写真飛鳥U世界一周2007DVD などにまとめてきた。

しかし、そのような個々のことがらではなく、世界一周クルーズで知ることができた本質的なことがあった筈だ。それは何かとふり返ってみたとき、不思議なことに、思い浮かんだのは日本という国だった。外国に行くと、あるいは外国で暮らすと、日本の良さが分かるという話を聞いたり読んだりする。たしかに、それはある。帰国して日本が良い、大阪が良い、我が家が良いと思ったのは間違いではない。しかし、世界一周クルーズの総括としての「日本」は、そのような個人的な感情ではない。

今から15年前、銀婚の記念として、はじめて海外旅行をした。選んだのはためらうことなくイタリアだった。そこでカルチャーショックと言えるほどの素晴しい感動を数多く経験し、帰国してから突貫作業で、ナレーション、BGM、イラストなどを付けた「君よ知るや南の国 イタリア」というタイトルのVHSビデオを作って、その感動を記録に残した。

たしかに、イアリアでは風物の魅力に圧倒されたが、それ以上に衝撃的だったのは、ポンペイ遺跡を訪れた時、2000年前の文化や人間の営みが、私たちのそれと大差ないことを知ったことだった。それからは、海外旅行をする度に、そのような目で見るようになり、アクロポリス時代のギリシャ文明、3500年前のクノッソス宮殿遺跡のミノア文明、そして、今回の5000年以上も前の古代エジプト文明に、心底感動した。

今から5年前に、 心に生きることば という私の人生哲学を書いたが、その 第6章:思考 で、人間の可能性について、「人間の知能は数千年では進化しない」と書いた。

それについて

人類の進化というものが、1000年のような単位ではなくて、もっと遅々たるものであり、自分の一生は、その流れの中のほんの僅かの期間に過ぎないことに感慨を覚える。何千年も昔から変わることなく、人は生まれ、喜び、悲しみ、愛し、子を育て、争い、そして死んで行った。この2〜3000年前の人を、タイムカプセルに乗せて現在に連れてきたとしたら、この現代社会で私たちと同じようにコンピュータを駆使し、私たちと何ら変わらない生活を営むことができるだろうと思う。

現在の私たちの文明は、人類の過去の遺産の集大成として成り立っているのであり、人間自身が進化したことによるのではない。技術が進歩し、知識がどれほど増大しても、それを使う人間自身はほとんど進化していない。人間自身の進化は遅々たるものであるが、文明の伝承という他の生物にない能力を持ったことが、現在の高度な文明社会を築き上げることになったと考えて間違いはないだろう。

と説明した。古代エジプト文明を知った今は、5000年前の人間の知能も現代人とほとんど変わらないだろうと思う。

前置きが長くなってしまったが、今回の世界一周クルーズの総括は、「日本は2000年以上に亘って、他国に征服されることがなかった唯一の文明国である」という発見だった。

そのきっかけとなったのは、カイロ大学卒のエジプト人ガイドが、「エジプトは2100年間植民地であった」と漏らしたことばである。そのことばに私は衝撃を受けた。これまで、そのような視点からの話を聞いたことがなかった。しかし、調べてみると3000年続いた古代エジプトの諸王朝が、紀元前525年にペルシアに支配されて以来、エジプトは、いずれかの国の支配下に置かれてきた。エジプトが独立するのは1922年である。彼の言うことは正しかったのだ。

だから、現在のエジプト人は古代エジプト人の系統以外に、イラン系、トルコ系など他民族が混在していることになる。それを知ってからは、中東、ヨーロッパと寄港する度に、その地の歴史を調べた。そして、少なくとも過去2000年間で、現在の文明国はすべて他国に征服され、その植民地となった歴史を持っていることを知った。その唯一の例外が日本であることに気付くと、そのことが良かった悪かったというのではなく、日本という国の存在自体が、人類にとって貴重な実験であるということに思い至った。

人種のるつぼといわれるアメリカのニューヨークとサン・フランシスコを訪れてみて、ここは人類の叡智の一つの形態だと思った。多くの人種が混在し、混血し、共生する、まさに人類の大実験場である。そこから、これまでと違った文明が生まれる可能性があり、現に生まれている。アメリカ合衆国、その中でも、ニューヨークは、その最たるものであるが、多くの文明国は、現在その方向に向っていると言えよう。

その中で、2000年以上に亘って、他民族に征服されたことがなく、混血が非常に少なかった日本という国は、人類にとって稀有で貴重な存在と言えるだろう。このような国の人間が、他の国の人間とどのように違うのかということは非常に興味がある問題であり、こちらもまた、人類の大実験に値すると思えるのだ。この問題に取り組んでいる人はいないのだろうか?

日本が征服されなかったのは、地理的な理由が最も大きいが、そのほかにも運が関わっていると考えられる。太平洋戦争に敗れて米国に占領された時も、日本人全体からみると混血の割合は非常に少なかった。それが良かった悪かったという問題ではなく、そのような運命が、この国の人間にどのように作用してきたか、また、これからどう作用するのかということが問題である。

私は血のつながりよりも、他人とのつながりの方により価値を認めてきた。親兄弟やこどもという血縁関係よりも、夫婦という関係の方が人間的であると思っている。異なる国の人間が夫婦となり、幸せな人生を過ごすなら、それは素晴しいことだと思う。日本人は、これからをどのように生きていくのだろうか?

最初の海外旅行で「人間の知能は数千年では進化しない」というキーワードを得た。それは人類の過去に対する私のまとめだった。最初の世界一周クルーズで得たキーワードは「征服されたことのない国 日本」だった。これは、人類の未来に対する私のまとめで、人種の混在、混血、共生という問題である。この問題の解決については興味津々ではあるが、残念ながら、自分の年齢を考えると、それを知ることはあきらめなければならないだろう。

海外旅行で、人類の過去と未来についてのキーワードを得るということは、まったく予期していなかった。私が海外旅行で一番関心があるのは、人間に関係した風物で、美しいだけ、珍しいだけというものには、それほど興味が湧かない。そのことが、これらのキーワード取得に関係しているのかも分からない。


<2007.11.25.>

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