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2004.07.12. 掲載
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目次
1.はじめに
2.後発薬品に対する医療界の最近の傾向
3.後発医薬品を推奨する理由への疑問
1)先発薬品と後発薬品は同じ成分で同じ効き目と信じられるか?
2)後発薬品は価格が安く、患者の負担が少いというが、どの程度か?
3)先発品での長期使用実績があり、効き目や安全性が確認されているか?
4.同時発売で同一成分の二つの先発薬品(ベンザリンとネルボン)の違い
5.「野村医院二十年史」に書いた後発薬品を使わない理由
6.今もなお後発薬品を使う気持になれない理由
最近、「後発薬品」の新聞広告をよく見かけるようになり、新薬と効き目が同じで費用が安いという話をマスコミが話題にするようになりました。しかし、私は開業以来「後発薬品」を一度も使わずに、31年間診療を続けて来ましたので、その正否を含めて、「後発薬品」についてまとめてみました。
「後発薬品」を医療関係者は昔から「ゾロ品」と呼んできました。その名の由来は、先発メーカーの特許が切れると、中小医薬品メーカーから、ゾロゾロと同効薬品が作られるからです。
02年4月の健康保険点数改定で、「後発医薬品」を含む場合の処方箋料が、2点高くなりました。これは、医療費抑制の目的で、厚生労働省が「後発品誘導政策」をとり始めたことを意味します。
それに呼応するかのように、最近「後発薬品」製造メーカーのPRを、よく目にするようになりました。また、医師の団体の中にも、「後発医薬品」の使用を推奨しているところもあります。つまるところ、厚生労働省、製造メーカー、一部の医師団体の3者が手を結んで、「後発薬品」の使用を推進しようとしているように思えます。
そのためか、これまで「ゾロ品」と呼ばれていた「後発薬品」を、「ジェネリック」と呼び変えようとしているようです。商品名が「先発薬品」と違っていても、中身を表す一般名(generic name)は、同じだということを強調したいからでしょう。
それらの人たちが、「後発医薬品」を推奨する理由を調べてみますと、以下のようにまとめられます。
1)先発品の特許が切れた後に厚生労働省の承認を得て発売される薬で、同じ成分、同じ効き目である。
2)同じ成分、同じ効き目であるが、価格が安いので、患者の負担が少なくて済む。
3)先発品の特許が切れるまでに、長期間の使用実績があり、効き目や安全性が確認されている
1.「後発薬品」は「先発薬品」と同じ成分か?
一つの先発薬品に対して、数社から20社以上の「後発薬品」が販売されています。一つの会社の製造薬品について、同じ有効成分が規定量含まれているかどうかのチェックだけでも容易ではないのに、これほど多くの会社の製造薬品について、正しくチェックすることは不可能に近いのではないかと思ってしまいます。
薬には有効成分のほかに、不純物がある程度含まれている可能性がありますが、このチェックとなると、更に難しくなるでしょう。不純物ということを強く思うのは、同じ先発品であっても、昔と今の製品では、アレルギー反応や、そのほかの副反応の出現する頻度が、目に見えて少なくなっていることを経験しているからです。例えば、かって、あれほど多発したペニシリンアレルギーが、今では激減しています。これは、製造工程で混入される不純物が減ったことと、関係があるだろうと思っています。
2.「後発薬品」と「先発薬品」の添加物は同じか?
薬の有効成分だけでは量が非常に少なく、調剤することが困難なため、乳糖・白糖などの糖類や、小麦・とうもろこし・馬鈴薯などのデンプン類が、<増量剤>として添加されます。この<増量剤>は、粉薬・錠剤・カプセル・シロップなどあらゆる剤形に含まれています。
また、細菌類の繁殖を抑え、薬が腐らないように、<保存剤>が添加されます。これは、シロップ剤に含まれることが多く、パラベンや安息香酸ナトリウム、ソルビン酸などがよく使用されています。
そのほか、味をよくして薬を飲みやすくするために、<味付け剤><香料><甘味料>などが小児用シロップ剤、ドライシロップ剤などに添加され、糖類(乳糖、白糖、ブドウ糖)や、サッカリン、デキストリンなどが使用されます。 また、他の薬と区別するために、<着色剤>もよく使用されます。これには、合成あるいは天然着色剤が使われます。
このようにほとんどの薬には添加物が加えられています。中にはその大部分が添加物であるという薬剤も珍しくはありません。ところが、この添加物については規定がなく、それぞれの会社でバラバラです。添加物の種類、量、割合が同じ薬剤は、実際問題として存在しないでしょう。
そうなると、薬の有効成分が同じであるとしても、吸収され易さ、吸収される速度、服用のし易さなどが違ってきて、薬の効き目が変わることは十分に考えられます。
3.「後発薬品」と「先発薬品」の製造法は同じか?
薬の有効成分の量と純度と添加物が全く同じだとしても、製造法が異なれば、微妙に違う薬剤となる可能性はあります。特に、製法特許の技術を使っている場合は、その違いが歴然とするかも分かりません。
特に、薬剤の吸収がゆっくり行われるように工夫された薬剤「(徐放性製剤)の場合は、同一成分であっても、製造会社が違えば、臨床上は異なる医薬品であると認識する必要がある」という良く知られている事実を指摘しておきます。
4.「後発薬品」と「先発薬品」の剤形は同じか?
これは、一番真似し易いかも分かりません。多くの「後発薬品」は「先発薬品」似せてあり、名前は違っても、何の「後発薬品」であるか見当をつけることができ易いように思います。
1.〜3.の理由で「後発薬品」が「先発薬品」と同じ成分、同じ効き目であるとは信じ難いのです。
高血圧症の治療薬として、一般名「ニフェジピン」の場合
「先発薬品」 ●アダラートL錠20mgは薬価が38.10円 で、通常1日2錠服用します。
「後発薬品」は14.5円(1)、10.3円(2)、 8.20円(12)、 6.8円(5)の合計20社から発売されています。
高脂血症の治療薬として、一般名「プラバスタチンナトリウム」の場合
「先発薬品」 ●メバロチン錠10は薬価が145.5円で、通常1日1錠服用します。
「後発薬品」は111.9円(3)、 100.4円(4)、88.0円(7)、78.9円(5)、68.4円(3)の22社から発売
胃・十二指腸潰瘍の治療薬として、一般名「ファモチジン」の場合、
「先発薬品」 ●ガスター錠20mgは薬価が68.0円で、通常1日2錠服用します。
「後発薬品」は49.40円(4)、37.9円(4)、32.6円(6)の14社から発売されています。
「先発薬品」と「後発薬品」で30日分投薬した場合どのくらい患者の窓口負担額に差があるかを、実際に計算してみました。ただし、「後発薬品」は、数種類の価格帯がある中の一番高いものを選びました。それは、価格の高い方が安心に思えるからです。保険点数は1点10円で計算します。なお、計算は平成16年4月改訂の薬価と保険点数に基づいて行いました。
<30日分投薬の場合の 先発薬品と後発薬品の窓口負担額の差異>
先発薬品 後発薬品 差額 割合% 再診料 73 73 0(点) 100 外来管理加算 52 52 0(点) 100 特定疾患療養指導料(診療所) 225 225 0(点) 100 長期投薬加算(処方料) 45 45 0(点) 100 内服・頓服調剤料(外来) 9 9 0(点) 100 外来処方料(6種類以下) 42 42 0(点) 100 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 薬剤料に関係しない点数 446 446 0(点) 100 ●アダラートL20 2錠 30日分 240 90 150(点) 38 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 薬剤料を加えた合計点数 686 536 150(点) 78 窓口負担額(3割) 2060 1610 450(円) 78 ●メバロチン10mg 1錠 30日分 450 330 120(点) 73 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 薬剤料を加えた合計点数 896 776 120(点) 87 窓口負担額(3割) 2690 2330 360(円) 87 ●ガスター20mg 2錠 30日分 420 300 120(点) 71 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 薬剤料を加えた合計点数 866 746 120(点) 86 窓口負担額(3割) 2600 2240 260(円) 86
この試算の結果からお分かりのように、高血圧症や高脂血症、胃・十二指腸潰瘍などの慢性疾患に30日分薬剤投薬した場合、薬剤料以外の診療費は一定で446点(4460円)、これに薬剤料を加えたものが全診療費になります。窓口負担3割として、1340円となります。
高血圧症の場合、「先発薬品」で30日分の窓口負担3割の場合は2060円、「後発薬品」を使うとこれより450円安くなり、高脂血症の場合、窓口負担3割の場合は2690円、「後発薬品」を使うとこれより360円安くなり、胃・十二指腸潰瘍の場合、窓口負担3割の場合は2600円、「後発薬品」を使うとこれより260円安くなります。
「後発薬品」を使って30日分で450円〜260円程度安くなることを望む患者さんが多いとは考え難いと思うのですが、いかがでしょう?
もちろん、有効成分が同じで、効き目が同じということが信じられるのであれば、安いに越したことはありません。しかし、これについては疑問が多いことを先に説明致しました。
これは当たり前のこと、「先発薬品」の替わりに「後発薬品」を使う方が良いという理由にはなりません。
わが国の製薬メーカーのトップクラス2社が、同時に発売した、同一有効成分の薬剤があります。有効成分含有量の同じ錠剤が、メーカーによってどのように違うかを、それぞれの能書の記載と実測値、外観写真を使って説明します。その薬剤は、一般名が「ニトラゼパム」という睡眠剤で、塩野義製薬から「ベンザリン」、三共製薬から「ネルボン」の名前で、1967年3月に販売開始されています。
その内の「ベンザリン錠5」と「ネルボン錠5mg」は、有効成分として「ニトラゼパム」が1錠中にいずれも5mg含まれています。添加物については、「ベンザリン錠5」には記載がなく、「ネルボン錠5mg」には、乳糖、トウモロコシデンプン、D−マンニトール、ポピドン、タルク、ステアリン酸マグネシウムが書かれています。
外観は下図のように「ベンザリン錠5」は小さな楕円形で、実測すると短径x長径が5x9mm、重量0.15g、「ネルボン錠5mg」は大きな円形で、直径11mm、重量0.45gです。
これでお分かりのように、有効成分の含有量が同じで、同時発売された先発薬品が、形、大きさ、重さのいずれの点でも異なる場合があるのです。というよりは、有効成分の含有量以外には、規定がないのだから、製造メーカーによって、薬剤の形、大きさ、重さ、添加物が異なって当然と言えましょう。
この「ベンザリン錠5」と「ネルボン錠5mg」を開業以来31年間使ってきましたが、効き目が微妙に違います。もちろん、睡眠薬という性質から暗示効果も大きいとは考えられますが、有効成分が同一量であるにも関わらず、効き目の違いから、一方の薬を求める患者さんは、もう一方の薬への変更を希望されません。
私がここで言いたいのは、同時発売の一流薬品メーカーの「先発薬品」であっても、これほどの違いがあるのだから、20社も30社もある「後発薬品」メーカーの製品には大きなバラツキがあり、効き目にも大きな差があると考えるのが普通ではないかということです。
私が「後発薬品」を使って来なかったことに関しては、今から11年前に「野村医院二十年史」で以下のように書きました。
開業以来続けてきた方針の一つが後発メーカーの薬剤、いわゆるゾロ品は使わないことでした。その理由の最大のものは後発品を使うよりも先発品を使う方が自信を持って患者さんに投薬できるからです。
開業する少し前だったと覚えています。日本でも薬効判定に二重盲検法をとりいれるべきだとの意見が唱えられ始めた頃でした。アメリカではこの Double Blind Testを実施する場合に、処方した医師もそれがプラセボ(偽薬)であるかどうか知らされていないという話を読みました。そのわけは、医師がもしプラセボであることを知って処方した場合には、知らない場合と比べて治療効果に差が現れるからということでした。
私はこの話に衝撃を受けました。自分のような感情を隠すことの下手な人間は、信頼の持てない薬を使えば信頼が無い分だけ薬効は劣るだろう、だから自分が信頼できない薬は使うまい、それが身のほどを知るということだと考えました。
それを行った結果は私の場合には正解だったと思っています。診療で薬剤の質については不安が少なく、薬の副作用が現れた時にも、心に余裕を持って説明や対応ができました。私が20年間かなり自信を持って診療できたのは、これによるところが大きかったと思っています。
もちろん有能な臨床医は薬などにとらわれないのでしょうが、凡庸な医師には薬は非常に重要な治療の道具です。
後発品を使わなかったもう一つの理由はプライドだったかもしれません。当院の薬の耳(薬の名前の書いてある部分)を切ることをしなかったのは、たとえ何処に持って行かれても恥ずかしくない薬であると思っていたからですが、またそのために職員が割く時間も無駄だと考えました。
私は開業31年間を通じて一度もゾロ品を使うことがなかったのですが、その理由として11年前に「野村医院二十年史」に書いた文章を再掲いたしました。また、最近の「後発薬品」を推奨する意見に対しては、III.後発医薬品を推奨する理由への疑問で、問題点を指摘しました。
最近、ある事情から「後発薬品」を持参して来院され、投薬を求める患者さんが多くなり、その経験から、今まで思っていたほかにも「後発薬品」の問題があることを痛切に感じています。
第1は、「後発薬品」の名前から、それが「先発薬品」のどれに相当するのかを調べるのに時間がかかることで、数種類の「後発薬品を」調べるだけで、かなりの時間を要します。
第2は、そのような患者さんが持ってこられる「後発薬品」は、バラの状態で数種類が一緒に分包されていて、錠剤やカプセルに書かれた細かい文字や記号から、その薬の名前を判別しなければならず、これにはほとほと困惑してしまいます。
第3は、そのような薬剤の中に、まったく無印の錠剤が含まれている場合が多いということで、無印の錠剤は成分分析をしなければ、判別がつきません。同じことが、分包された粉末にも言えます。
第4は、この「後発薬品」を調べている過程で知って驚いたのですが、一つの先発薬品に対して、20前後の「後発薬品」があり、その価格帯も、3〜4段階のランクがあるということでした。「一般名」が同じ薬剤に、20もの異なる名前があるのは混乱と間違いのもとである上、価格にも3〜4段階のランクあり、その中からいったいどのようにして使用する「後発薬品」を選択するのか、私には理解できません。
厚生労働省が、医療費に占める薬剤の費用の削減を本気で考えているのであれば、特許が切れた「先発薬品」の薬価をもっと大幅に下げることと、「後発薬品」メーカーを精選して、医師が不安なく使用できるように対策を講じることが先決でしょう。
特許の切れた「先発薬品」の薬価に対しては、「薬価差益」をわずかにしながら高値で固定しておいて、「後発薬品」には、充分な「薬価差益」を認め、さらに「後発薬品」を処方すれば、処方料の点数を上げるなどという、医師を馬鹿にした、姑息な利益誘導策を行うべきではないと思います。
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