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けなげなシクラメン

2004.12.28. 掲載
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12月に入ると、野村医院玄関口にある花壇の花は、ハイビスカスから真紅のシクラメンに入れ替わり、翌年5月のはじめには、再びハイビスカスに戻る。それは20年以上も続き恒例となっている。

夏の日に咲き誇っていたハイビスカスの花が点在するだけとなり、濃緑の葉で埋められているところでの交代は、毎年見る者の眼に新鮮な喜びをもたらす。シクラメンの花の色には白もピンクもあるが、私たち夫婦が好むのは赤だけ、他の色を買うことはない。花壇に前後2列で16個の鉢植えが並ぶと、それは華麗でこころ楽しくなる。

はじめてシクラメンを花壇に並べたときには、道行く人が立ち止まり、そばに近づき、しげしげと見入っていくのを医院の受付のドア越しに眺めることが多かった。中には写真に焼いてお持ち下さった方もいる。時には、知らない間にどこかへ姿を隠し、補充を余儀なくされたこともあったが、最近はこの花も珍しくなくなったのか、交代の日まで安泰である。

この16株のシクラメンは、冬の寒い朝の8時から夜の7時半まで、来院される患者さんをお迎えし、受付で働く職員の目を和ませてくれる。花壇は医院の建物の北側にあるので、ほとんど日が当たらず、駐車場と広い田んぼから寒風が容赦なく吹きつけてくる。しかし、凛としてそれに耐えているシクラメンたちを眺めるとき、「けなげだなぁ〜、精一杯生きているなぁ〜、良いなぁ〜」と胸が熱くなる。生きとし生けるものにとって、命のある限り精一杯生きることが価値の根本であることをこの花も示しているようだ。

夜の診療が終わると、花を花壇から玄関ドアの中に運び込み、夜の外の寒気から守るほかは特別に保温のための配慮をしていない。しかし、冬から春までの間、真っ赤な花が途切れることなく咲き続けている。夏のハイビスカスは地植えであり、温度の心配もなく、自由奔放に咲き誇っているので、可哀そうとも、けなげだとも思うことはないが、シクラメンには胸打たれ、愛しくなってしまう。

「シクラメンの花ことば」をWeb検索してみると「内気、はにかみ、恥ずかしがり屋、遠慮、純潔」などが書かれている。それを読んで「内気、はにかみ、恥ずかしがり屋ではあるが、本当は燃え上がる炎のように情熱的で強靭なこころとからだを持っている」と私は解釈をした。

シクラメンのフランス語の意味は「豚のマンジュウ」だと教えてもらって驚き、「シクラメンの名前」についてもWeb検索で調べてみた。

学名:Cyclamen persicum
和名:カガリビバナ、ブタノマンジュウ
英名:cyclamen

学名の「Cyclamen persicum」は、ギリシア語キクロス(丸いの意)をもとに、生物学者のリンネが命名した。また、和名「カガリビバナ」は、反り返った花弁の形がかがり火の炎のように見えるから、牧野富太郎博士が命名した。

「ブタノマンジュウ」は、この花が明治の中頃に初めて渡来したときの英名が「sow-bread(雌豚のパン)」で、当時日本には「パン」がなかったので、それに近い「マンジュウ」にした。英名はその後「cyclamen」となり、わが国でも「シクラメン」と呼ばれるようになったとのことだ。

「カガリビバナ」という名前ならなるほどと思えるが、「雌豚のパン」「ブタノマンジュウ」はちょっと納得できない。当院の冬の玄関を20年以上も清廉華麗に演出し飾ってくれたシクラメンたちには不似合いだ。

最後にシクラメンの関係した思い出の歌についても触れておきたい。布施 明の唄った「シクラメンのかおり」という曲がある。私の愛唱歌の一つだが、それ以外にこれを聞いたり唄ったり、この曲について話したりすると必ず思い出し、頬がゆるむ思い出がある。

この曲が流行ったのは1975年、息子圭は小学1年生で可愛さ一杯だった。圭も当時は私に似て良く家の中で唄っていたが、この曲の唄い方がとても面白くて、耳に残っている。それは、「疲れを知らないこどものように」「疲れを知らない」のようなフレーズの前半に、無茶苦茶に力を入れるのだ。前年に流行った西條秀樹の「傷だらけのローラ」が好きで、真似をして振りをつけてよく唄っていたが、その唄い方の名残りだろう。

以上、当院の「けなげなシクラメン」とそれに関連したことがらを書いてきたが、このシクラメンを毎日見るのも今冬が最後となった。来年は息子に医院を引継ぐので、花が変わるかもしれない。そこで最後のシクラメンをご披露しようと思う。写真はすべて本日の撮影、私がこの花に抱く気持をいくらかでもお分かりいただければ嬉しいのだが、、、



写真1.医院玄関前の遠景


写真2.医院玄関前の近景


写真3.医院受付窓口からの遠景


写真4.医院受付窓口からの近景


写真5.夜の診療後に玄関内に移動


<2004.12.28.>

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