病理組織学的抗酸菌染色法の検討

                  広島大学医学部附属病院病理部

                 ○小川 勝成・尾田 三世・金子 佳恵

 

[はじめに]

 病理組織学的な結核菌の証明には抗酸菌染色であるチール・ネルゼン (Ziehl-Neelsen) 染色法が一般的に実施されている。自施設においては、数年前より明らかな結核病巣を呈しているにもかかわらず、抗酸菌染色において菌の検出がされないことが多く問題視されていた。

 今回我々は、チール・ネルゼン染色法において、

1)脱パラフィン剤の検討 2)分別液の検討 3)染色法の検討

4)BCG抗体を用いた免疫染色の比較検討を実施したところ抗酸菌の検出の向上をみたので報告する。

[材料と方法]

 材料は、剖検時に得られた結核肺組織と非定型抗酸菌症の腸管組織及び手術摘出時の肺組織、リンパ節組織34症例を用いた。方法はパラフィン包埋した組織を3μmに薄切し、石炭酸フクシン液(武藤化学)で37度、30分染色した。

1)脱パラフィン剤の検討:脱パラフィンにおいてはキシレン、ひまし油・キシレン(1:2の割合)、ベンゼンの3種類を用いて比較検討した。

2)分別液の検討:分別液として70%エタノール、0.5%、1%、1.5%、2%塩酸加70%エタノール及び10%酢酸水を用いて脱色について比較検討した。

3)染色法としてはチール・ネルゼン染色法(原法とファイト法及びベンゼン法)、過ヨーソ酸酸化石炭酸フクシン法について検討した。

4)抗酸菌染色において陽性であった20症例について免疫染色と比較検討した。

[結果]

 脱パラフィンにおける検討では、ベンゼンを用いた方法が菌の検出率が高く、次にひまし油・キシレン、キシレンの順であった。

 分別液の検討では、10%酢酸水が最も良く菌体も鮮明に染色された。次に1%及び0.5%塩酸加70%エタノールであった。

 染色法としては脱パラフィンにベンゼンを用いたチール・ネルゼン染色法が陽性率は80%であり、次に過ヨーソ酸酸化石炭酸フクシン法が65%、ファイト法が60%、原法は40%であった。尚、BCG抗体を用いた酵素抗体法では陽性率は100%であった。

写真:染色法における比較

ファイト法(強拡大)に比較してベンゼン法(強拡大)では、多数の明瞭な抗酸菌が観察された。一方、BCG染色(弱拡大)では、顆粒状に多量に陽性像が観察された。

 

[まとめ]

 今回のチール・ネルゼン染色法の検討では、脱パラフィンにベンゼンを用い、分別には10%酢酸水を用いた方法が簡単で、再現性にも優れていた。また、菌体の確認にはBCG抗体を用いた酵素抗体法を併用する事が重要と思われた。


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