inサッポロ(6月7-12日)
1.「The Ballad of Little Roger Mead 」(Mark Carter監督)(Cプログラム) |
2.「Seraglio」(Gail Lerner & Collin Campbell監督)(Aプログラム) |
3.「Delusions in Modern Primitivism」(Daniel Loflin監督)(Bプログラム) |
4.「LAST REQUEST」(Tom Hodges監督)(Dプログラム) |
5.「George Lucas in Love 」(Joe Nussbaum監督)(Eプログラム) |
6.「In God We Trust」(Jason Reitman監督)(Dプログラム) |
7.「Boundaries」(Greg Durbin監督)(Eプログラム) |
8.「12 x 12」(Maja Zimmerman監督)(Dプログラム) |
9.「Pillowfight」(Scott Rice監督)(Eプログラム) |
10.「The Fool」(Jon Farhat監督)(Aプログラム) |
第2回アメリカン・ショート・ショート・フィルム フェスティバル2000inサッポロのオープニングレセプションが、6月7日夜、イベントスペースEDITで行われた。実行委員長の別所哲也さんは「ショート・フィルムの面白さを北海道中に広めていただきたい」とあいさつした。上映作品のダイジェスト紹介、トークライブの紹介に続き、第54回カンヌ国際映画祭で、短編映画部門のパルムドール賞を受賞したアメリカ映画「おはぎ(ビーン・ケーキ)」(デイビッド・グリーンスパン監督、12分20秒)の上映も行った。「おはぎ」を見る前に皆でおはぎを食べるという札幌らしい粋な試みも。「おはぎ(ビーン・ケーキ)」は、戦時中の日本の学校を舞台にした作品で全編日本語。軍国主義教育の下、建て前が重んじられた時代だ。そんな中でも率直な感性を失わない子供がいた。転校生の少年を宮川竜一が好演、彼に好意を持つ少女を波多野沙也加が爽やかに演じている。時代考証に支えられながら、全体に素朴な味わいが素晴らしい。観終ってほのぼのとした感動が広がる。
私にとって特別プログラム、最大の収穫は新海誠監督のアニメとの出会い。1973年生まれで、新進気鋭。「彼女と彼女の猫」(4分46秒)は、一人暮らしの女性と拾われた猫のほわっとした日常を描いている。省略のセンスが抜群で、心地よい時間を過ごさせてくれる。2000年のSKIPクリエイティブヒューマン大賞、第12回DoGA CGアニメコンテストグランプリを受賞している。製作中の「ほしのこえ」は、予告編を公開。スーパー遠距離恋愛、アクションSFといった内容。女性が国連宇宙群のパイロットに選ばれるというのが、いかにも現代的。「私たちは、たぶん宇宙と地上にひきさかれる恋人の、最初の世代だ」というコピーが、新鮮だ。胸の中に染みてくる音楽は、ともに天門の担当。名コンビと言って良い。
札幌ショート作品として「monumentに話し掛ける男」(吉澤智之監督、10分)も上映された。吉澤監督は、マルチ集団 「COMPAS」を主宰している。見ようによっては哲学的なテーマを軽くポップに描いているといえるが、おちゃらけスレスレの危うさもある。堂々と作品化した姿勢は立派。今後に期待しよう。北海道開発局の看板が取り上げられているので、いくらでも深読みができる。
ジャパン・ショート・ショート「侍スター」(花見正樹監督)は、集金人の逆襲を描いたもの。凝ったショットは認めるとして、寄せ集め的で個性が見えにくかった。 「This Guy Is Falling」(Michael Horowitz & Gareth Smith監督)は、無重力コメディ。スケールががあんなに大きくなるとは思わなかった。12分ではもったいない。 「CHUCK」(Alex Turner監督)は、狂気に陥り訪問者を惨殺するセールスマン・チャックを不気味なまでに静かに描いた作品。後味の悪さは一級。「Me and My Old Man 」(Georgie Roland監督)は、長年連れ添った妻に逃げられた男が父親を訪ねてきて、衝撃の事実に気付くせつなすぎるドラマ。辛い。
カンヌ映画祭でも注目された「Seraglio」(Gail Lerner & Collin Campbell監督)は、日常に退屈していた中年主婦がキャベツ畑で自分宛てのラブレターを見つけたことで、生活が一変する。テンポ良く男女の心の機微を描いた。「TITLER」(Jonathan Bekemeier監督)は、ヒトラーを笑いのめしたブラツクコメディ。下品きわまりない替え歌が笑える。「Sunday Afternoon 」(Paul Charney監督)は、「不誠実な返答」などト書きそのままによる会話というアイデア小品。 「The Fool」(Jon Farhat監督)は、「未知との遭遇」のパロディ。男のおバカぶりとブラックな結末に、思わずニヤリとした。 「Vincent」(1982年、Tim Burton監督、6分15秒)は、何度も観ているが、何度観ても飽きない。恐怖の世界に憧れる早熟な少年の妄想を見事に映像化している。
ジャパン・ショート・ショートは 「Too Much」(野川みゆ樹監督)、「サイの芽 」(アラキ マサヒト監督)の2作品。ともに2分台で、一気に話を進める。「Delusions in Modern Primitivism」(Daniel Loflin監督)は、今年のアワード受賞作。ドキュメンタリーの面白さと結末の衝撃が評価されたのだろう。「The Ride Home」(Sam Hoffman監督)は、アルツハイマー病の悲しさと家族の絆を描いた寡黙な作品。 「Soul Collectors」(Rebecca Rodriguez監督)は、ショートショートにありがちなオチの典型。
「That Creepy Old Doll」(Beck Underwood監督)は、アニメーションの技術的な面白さはあるが、もう少し物語を膨らませてほしかった。平凡な結末。「Seven Hours to Burn 」(Shanti Thakur監督)は、過酷な民族と宗教の歴史をたどる。「Zen and the Art of Landscaping 」(David Kartch監督)は、若い庭師が仕事先の家の家族のとんでもない関係に巻き込まれる物語。「Voy」 (Casey Thomson監督)は、ストーカーの実態に迫ったやりきれない作品。 「Girl Go Boom 」(Mark Tiederman監督)は、女性を口説く青年に待ち構えている驚愕の結末が凄まじい。
ジャパン・ショート・ショート2作品。「取毛男」(高掛智朗&前田賢次朗監督)。抜いた鼻毛がくじ引きだったらというコミックCG作。着眼点は素晴らしかったが、ひねりが足りなかった。残念。「Elle etait si jollie 」(Marc Rigaudis監督)は、在日のフランス人によるもの。いじめによる自殺を描いている。最後の長々とした説明がなければ、もっと胸に迫ったはず。「The Ballad of Little Roger Mead 」(Mark Carter監督)は、とんでもない作品。芸能コンテストに参加した12歳の少年の特技は、歌いながらゲロを空中に吐き、それをまだ飲み込むというもの。観客は皆気分が悪くなって、父親にも勘当されてしまう。ゲロ吐きが印象的な映画としては、『トレインスポッティング』(ダニー・ボイル監督)や『チューブ・テイルズ6・マウス』(アーマンド・イアヌッチ監督)、日本では『ピノキオ ルート964』(福居ジョウジン監督)などがあるが、独創性ではこの作品が一番かもしれない。
「NO IDEA」(Dan McLaughlin監督)は、1分間のアニメ。ファスナーなどの発明品を思い浮かべている原始人が登場する。「Oregon」(Rafael Fernandez監督)は、近未来の冷酷な管理社会を冷徹に描いているように見えて、その滑稽さも表現している。 「The Last Real Cowboys」(Jeff Lester監督)も、カウボーイの定義をめぐる男たちの物語。温かさと冷たさの両面を備えた作品。「The Box 」(Stefan Gronsky監督)は、優れたCG技術を見せてくれる。「Frankenweenie」(Tim Burton監督)は、『シザーハンズ』の原型と言われるストーリーだが、まだ習作といった方がいい。センスの良さは感じるが。
ジャパン・ショート・ショートは2作品。「Hands」(島田英二監督)は、メッセージ性を乗せたスピード感のある映像。ほのかなユーモアも見逃せない。「若い二人(Too Young)」(合志知子監督)は、フルCGによるブラックなコメディ。はつらつとした笑いの下に隠された暴力性をえがいている。のかな。「12 x 12」(Maja Zimmerman監督)は、シリアスな独房もの。政治犯がゴキブリと心を通わせる場面から、痛々しい孤独が伝わってくる。緊迫感のある展開が、ラストでそがれたのが惜しまれる。16分のドラマを見事にまとめた「LAST REQUEST」(Tom Hodges監督)は、ギャングたちのやりとりが抜群に面白い。長編の余韻さえ残す味わいだ。「Alien Song 」(Victor Navone監督)は、CGによる1分間のお遊び。
地獄行きが決まった主人公は、善行を積んで天国へ行けるのか。「In God We Trust」(Jason Reitman監督)も、16分を目一杯使ってドラマを楽しませてくれる。計算される善悪の価値観がめちゃくちゃで笑わせる。「Rick & Steve: The Happiest Gay Couple in All the World 」( Q.Allan Brocka監督)は、レゴを使ったアニメ。超危ない会話も、可愛いレゴ人形によって救われている。「Invisible」(Mollie Jones監督)は、ドラッグ中毒のアーティストの物語。ストーリーよりも映像の美しさに引き込まれた。グラスドームをめぐるラブストーリー「The Indescribable Nth」 (Oscar Moore監督)は、セルアニメの自在さを生かして、心温まる世界を作り上げた。
ジャパン・ショート・ショートは、さわやかな感動を運んでくる「並木道」(小野寺圭介監督)。リリシズムの表現力は将来性十分。 「The Hook-Armed Man」(Greg Chwerchak監督)は、殺人鬼「フック腕」が、社会に溶け込もうとするが、再び殺人を繰り返してしまうまでを、皮肉な視線で描いている。 「Better Life 」(Atsuko Kubota監督)は、タッチがユニークなアニメ。日常を淡々と描写するという狙いは分るが、あまりにも当たり前すぎる。「New Apartment」(AlexanderRose監督) は、前任者の忘れ物をテーマにしたクスクス笑いの小品。
「The Great Upsidedown」(Brian Klugman監督)は、盗みを働いて逆さ吊りにされた3人の若者の会話劇。コントとシテ楽しめる。会場を笑いが包んだ「Pillowfight」(Scott Rice監督)は、リアルで愛情に満ちたコメディ。監督が奥さんに捧げたというクレジットと、最後の放屁がさらに笑いを盛り上げた。「Boundaries」(Greg Durbin監督)は、20分近いドラマ。無口のトロンボーン奏者に24時間こづかれているという患者が、その悲惨さを医師に訴える。俳優の演技のうまさと見事な結末に感心した。「George Lucas in Love 」(Joe Nussbaum監督)は、アメショーにふさわしい心温まる作品。笑った回数は、この作品が一番多い。
このプログラムは、アメリカ以外の国の作品。「Flowergirl」(Cate Shortland監督)は、オーストラリア。日本人ダイスケは、帰国を前にして、友人たちとの関係など、さまざまな思いに浸る。ラストのビデオが素敵だ。ニュージーランドの「Infection 」(James Cunningham監督)は、コンピューターウィルスをテーマにしたCGアニメ。少し不気味。 ドイツの「Kleingeld 」(Marc-Andreas Bochert監督)は、ホームレスとビジネスマンの関係を描いて、なかなか考えさせられる。
「Walking on the Wild Side 」(ベルギー、Dominique Able & Fiona Gordon監督)は、Hでハッピーなコメディ。大いなる勘違いがドタバタ劇に発展し嬉しくなる。 イランの「Alone with the Land」(Vahid Mousaian監督)とシンガポールの「Sons」(Royston Tan監督)は、父と子をめぐるストーリーが心にしみる。「Cycling is Essential」(Soko Kaukoranta監督)は、フィンランドの冬の風景を生かしたほのぼの作品。