座談会〜谷尻先生を囲んで
谷尻詩宣(Solo Cl)× 峯島乃理子(Moz. Concert Mistress Vn)× 室住淳一(Cl)

■谷尻先生にとってのモーツァルト
室住 モーツァルトについてどのような印象をお持ちですか?
谷尻 僕のモーツァルトのイメージが何だったかというと、映画の『アマデウス』に共感できるんだよね。本当にモーツァルトの音楽って美しく、ストレスがある中では出てこないような音楽だと思う。それから彼は、どうやって周りを楽しませようかということもずっと考えていたと思う。勿論モーツァルト自身が音楽が好きでやりたいからやっているんだけれど、みんなを愛しながら曲を作っていた、それがモーツァルトだと思うね。
峯島 クラリット協奏曲への印象はいかがですか?
谷尻 この曲は、学生時代に徹底的にやった思い出深い曲なんだよ。ドイツに留学中(ミュンヘン音楽大学)の頃、シュタルケ先生(元バイエルン放送首席奏者)からクラリネットをするならこの曲はできるだけやっておくように、と言われたんだ。どうしてかというと、卒業後、プロオーケストラの入団オーディションを受ける機会があると、必ずこの曲を吹かなければならないんだよ。ドイツの音大っていうのは、自分の弟子をどれだけオーケストラに就職させることができるかを目的にしている職業訓練校みたいなところがあって、先生も非常に厳しいし生徒間の競争も激しいんだ。だから正直に言って、その頃はモーツァルトをあまりロマンティックに捉えることはできなかった。でも自分が教える側にまわってから、そういう意識じゃダメだ、と思った。師匠を否定するわけじゃないけれど、一度そこから離れて自分のイメージでやらないと、と。これは余談だけど、この曲はオリジナルのスコアがなかったり、クラリネットのパート譜にもアーティキュレーションが書いてなかったりで、結構謎の多い曲でもあるんだよ。だから演奏者の立場でいうと、楽譜に縛られずに自分のモーツァルト観を表すこともできると思う。
■TAO との競演について
室住 今回TAO でこの曲を合わせてみて、どのように思われましたか?
谷尻 何と言っても、何度も合わせられるのがいいよね。指揮者のいるプロオケだと、普通1回合わせて、はい、本番、でしょ。TAO は練習で3回と、ゲネプロが1回あるので合計で4回も合わせられる。それと指揮者がいない分、オケと直接お互いにすり合わせができるというのも面白い経験だった。
峯島 そうなんです、まずは先生の素敵な音色を皆に聴いて欲しくて、オーケストラ側もまだ1度しか合わせていないような段階で無理に言って来ていただいて・・・。
谷尻 で、1回目は結構合わなかったじゃない?(笑)でも、2回目からは、それを踏まえてからかお互いに探りあいながらだったけど、次第に合わせていくと全然変わったよね。みんながこちらをよく聞いて演奏しているのが良く分かったので吹いていて心地よかったよ。
これは生意気かもしれないけど、TAO とのセッションでは、「いわゆる(一般的)なモーツァルト」じゃないものを作りたいと思った。アマチュアオケだからこそ、冒険をしてほしい。お客さんを何人も泣かせるくらいのつもりでいたいね。勿論一人よがりはダメだけど、オケ全体が「悦」を感じながら演奏しないとお客さんはつまらない。
室住 アマチュアオケだからこその妥協とは言いたくないけれど、安全運転はしなくていい、というところはありますよね。
谷尻 プロオケのアプローチは、まず大前提として、事故はもちろん、傷ひとつつけてはいけない演奏水準を基に音楽を作り上げていくのだけれど、TAO はまずやりたい音楽があって、そこからいかに演奏品質をあげていくかというアプローチの方が楽しいし、きっといい音楽ができると思うよ。そうそう、安全運転といえば、管のセクション練を見始めた頃、そういう雰囲気を少し感じたね。変なプロっぽさがあって、こぎれいにまとまってしまう。それをつついて壊してやりたいと思っていた。それで実際にいじってみたら、色々なものが出てきた。やっぱり皆やりたいことを持ってるんだよね。
峯島 以前と変わってきた点としては、弦・管の連携が良くなったことも挙げられると思います。以前は二つの集団(弦と管)のセッションという感じだったかも。
室住 例としては弦は弓を置いて弾けばすぐに音が出るけれど、管楽器は息を入れてから音になるまでに、コンマ何秒かのタイムラグがある、あと、タンギング(舌つき)の速さの限界点があったりとか、そういうところが、弦の人たちになかなか伝わらなくて、管は管で「もうちょっと、こっちの都合を・・・」というようなことを言っていた時もあったね。これらのことは指揮者がいれば、あまり問題にならないんだけれど、TAO は指揮者がいないのだから、お互いの得手・不得手や楽器特性の理解もしないといけないということに気づき、ではどうやったらいい表現ができるかということも一緒に考えなければいけないという気持ちになってきているように思う。
峯島 普段、弦楽器にとっての管楽器は、自分たちの後ろに並んでいるため、息遣いを目の当たりにしながら演奏することはできないので、谷尻先生との競演で感じた‘ブレスひとつで表情がかわる繊細な音楽’ に衝撃を受けたようです。この経験は、今後のTAO にとって貴重な財産になることでしょう。
■今回の演奏会での聴きどころ
室住 最後にお客様にむけて谷尻先生から今回の聴きどころなどをアピールお願いします。
谷尻 練習を通じて、TAO がパッションのあるオーケストラだということが分かってよかったです。楽しんでいる感じがとてもいいので、その雰囲気の中でオーケストラとクラリネットが絶妙に絡み合っているところを是非聴いていただきたいです。それがお客様に伝われば、まずは成功ですね。もっと欲を言えば、音楽による対話によって、お客様がTAOが演奏するとか谷尻が演奏するとかを超えて、「美しいモーツァルトだった」と感じていただければ最高の幸せです。
(記録・構成:長崎Fg)
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