未知とのランデヴー−ファーストコンタクト、侵略SF

 大野万紀

 早川書房「SFが読みたい! 2008年版」掲載
 2008年2月10日発行


 わが国の防衛大臣がUFOやゴジラへの対策を語る今日この頃。宇宙人を見つけたらどこへ連絡したら良いかという真面目な会議が開かれたり、このテーマへの関心はもはや一般的なものとなっているようです。

『空の中』有川浩(メディアワークス)
 本書でのファーストコンタクトの相手は、2万メートル上空を浮遊する巨大な円盤のような知的生物「白鯨」。高知に住む高校生の主人公はその片割れと携帯電話でのコミュニケーションを果たす。ローカル色溢れる青春物語と、怪獣を相手に戦う自衛隊の物語の幸福なミックス。日本を襲う怪獣が知的生物だった場合、それは災害出動なのか、侵略への防衛なのか。現代の怪獣ものは、日常性と地続きのところにあるのだ。

『月の裏側』恩田陸(幻冬舎文庫)
 日常性を重視すると、本書のようにホラー味が強くなる。町の中の人間が未知の存在に取り込まれてしまう「盗まれた町」タイプの作品。取り込まれて一つになってしまった側をあまり敵視していないのが特徴だ。このような集合意識になって行ってしまう新人類と残される旧人類という話は『幼年期の終わり』から『ブラッド・ミュージック』まで、SFの王道といってもいい。侵略が水の姿をして静かに人々を浸食していく、美しい作品だ。

《戦闘妖精・雪風》神林長平(ハヤカワ文庫JA)
 うって変わって未知の侵略者との激しい戦闘を描くのが、おなじみ《戦闘妖精・雪風》シリーズ。とはいえ、このシリーズのメインテーマはコミュニケーションの問題だ。ジャムと呼ばれる異星の侵略者と、雪風のような機械知性、さらには搭乗員である深井さえもが、互いにどのように認識するのか。冷たく迫真的な戦闘シーンと、SF的なテーマが深く溶け合った傑作シリーズである。侵略はコミュニケーションの一手段でもあるのだ。

『AΩ 超空想科学怪奇譚』小林泰三(角川ホラー文庫)
 怪獣と戦うのが、自衛隊ではなくウルトラマンだった場合、日常性とはかなりギャップが生じる。主人公は宇宙から来たプラズマ生命体「ガ」と接触し、死から蘇った超人となって敵と戦う。テレビでは楽しく見られるウルトラマンと怪獣の戦いも、実際にはきっとこんなグロテスクなものなのだろう。敵は人間を人間もどきに変身させて行き、ここに恐るべき黙示録的世界が現出する。超ハードSFホラーの惹句は伊達ではない。

『星の、バベル(上・下)』新城カズマ(ハルキ文庫)
 先ほど侵略はコミュニケーションの一手段と書いたが、本書は地球外生命体による侵略を、言語をテーマとして描いた作品である。ただし舞台は、南太平洋の小さな島国。その狭いロケーションの中で、民族問題やテロリズム、滅び行く言語、そして発現した異星からのウィルス生命体といった物語を、言語にからめてユニークに展開した力作だ。ライトノベルの文体ではあるが、おじさん・おばさんたちにも読んで欲しいSFだ。

『イリーガル・エイリアン』ロバート・J・ソウヤー(ハヤカワ文庫SF)
 未知の知性体とは意思疎通できないとする話が多いが、本書にはぐっと人間的な異星人が登場する。何しろファーストコンタクトしたエイリアンが殺人事件の容疑者として裁判にかけられてしまうのだ。ファーストコンタクトと法廷ミステリという結びつかない要素がユーモラスに結びつき、異星生物学による謎解きと、殺人の動機がまさにSFという大きな謎につながっていて、さすがはソウヤーだわいと脱帽する。こういうのもありですね。

『パンドラ(全4巻)』谷甲州(ハヤカワ文庫JA)
 とはいえ、やはりコミュニケーション不可能な未知の存在による侵略というテーマこそ、SFでは主流である。その侵略は徹底的で容赦がない。本書でも人間的なコミュニケーションが不可能な異星生物による地球環境の改変と、それと戦う人間たちの地味で困難な闘いが描かれる。意思の疎通ができないファーストコンタクト。だが宇宙空間での壮絶な戦いも、ほとんどは人間どうしの戦いとなる。人類滅亡がかかっていても国家のエゴは変わらない。

『太陽の簒奪者』野尻抱介(ハヤカワ文庫JA)
 人類とは異質な知性による太陽の簒奪。こんな相手には侵略という言葉も意味をなさない。本書は太陽系を舞台に、科学的正確さと文明や知性に関する深い思弁がまさにSFを読む醍醐味を味あわせてくれる傑作である。何より主人公の科学への眼差しと、異星人の構造物の視覚的インパクト溢れる描写がすばらしい。高度な技術を持ちながら意思疎通のできない異星人との困難なファーストコンタクトが、抑制のきいた筆致で感動的に描かれている。

『ストリンガーの沈黙』林譲治(Jコレクション)
 ファーストコンタクトのような人類全体に関わる事態に対しても、人間どうし、国家や組織のエゴが優先してしまうのは、本書でも『パンドラ』と同様である。ここでは宇宙に適応した組織と、硬直した地球の組織との対立の中で、ストリンガーと名付けられた未知の知的生命とのファーストコンタクトが描かれる。さらに、ネットワーク内に現れる主観と客観の区別のない非実存的知性とストリンガーの関係など、アイデアがたっぷりのハードSFだ。

『クリスタルサイレンス(上・下)』藤崎慎吾(ハヤカワ文庫JA)
 しかしネットワーク上に現れる人工知能との邂逅もファーストコンタクトといえるのか? 本書では火星で発見された異星生物の死骸から話が始まり、国際紛争、火星での激しい戦闘、そしてナノマシン、クリスタルフラワーとSFガジェットのてんこもり。特に未来の電脳空間に生息する様々なものたちの描写には力が入っており、月並みなサイバースペースものを越えたリアリティがある。でもベースにあるのはラブストーリーなのだ。

 2008年1月


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