アルゴノートの冒険




「アルゴノートの冒険」は日本アイ・ビー・エムのユーザー会のひとつであるNASUC(旧ASユーザークラブ)の機関紙である、「ASSET」に掲載されているものです。ほぼ掲載されたまま、バックナンバーとして、ホームページに掲載することとしました。

[プロローグ]

 私がパソコンを初めて購入したのは1982年の秋のことでした。初めて買ったパソコンはIBMの・・・ ではなくて、シャープの「MZ−2000」でした。その頃IBMのパソコンは日本では存在していなかったと思います。「MZ−2000」の名前を聞いて『ああ。あの・・・』と思うか、『聞いたことないなー』と思うかで世代が分かりそうですが、あの伝説の超古代マシン「APPLE II」よりは新しいのです。その頃より少し前からパソコン御三家の時代だったのです。パソコン御三家とは「NEC、日立、シャープ」だったのです。そういえば日立さんはパソコンの世界ではどうなってしまったのでしょうね。あの人は今という感じで、栄枯盛衰を感じさせます。(だから時代の動きを読むSISが必要なのだと、ここでちょっとコマーシャル。SISは戦略情報システムという意味ですが、90年代はStrategic Information Systemでは物足らないことになるでしょう。Strategic Intelligence Serviceぐらいに高度化しないと物の役には立たないでしょう。intelligenceとは諜報のことですが、ここでは整理された重要な情報という意味です。ユーザーにとってはシステムではなくサービスだと思うぐらい使い勝手も良くないといけません。戦略高度情報サービスとでもいったものになる必要があるでしょう。)このしばらく後、富士通さんがCPUはザイログのZ80系全盛の時代にモトローラの68系のFMシリーズで敢然と殴り込みをかけてきたのです。(あの頃の富士通は偉かったと思う。)
 その後のことはまた後に触れることにしまして、とにかく私は御三家の中の一つを選んだわけです。要するに決してマイナーなものを選んだわけではないと強調したいのです。その後、私がいかなる理由で、パソコン界の恐るべきマイナーな裏街道を歩むはめになったかは、おいおい明らかになるでしょう。(誰だ?!お前が変人だからだと言った奴は!)
 その頃からシャープのMZシリーズではコンピューティング(単にコンピューターを使うというよりは、コンピューターを使った知的で創造的な活動という感じのある言葉です。)を無限の可能性という海を行く船の航海にたとえてMZシリーズのシンボルにアルゴ号を使っていたのです。アルゴ号というのはギリシア神話に出てくる人類最初の船のことです。ギリシアの英雄イアソンが国家の繁栄を保証する黄金の羊の皮を手に入れるために東方への航海に使用した船です。イアソンはその東方の異国でその国の王女であり、かつ巫女でもあるメディアの協力で無事に黄金の羊の皮を手に入れます。おまけに自国を裏切ったメディアをほったらかして行くわけにいかないのでギリシアに連れて帰ってしまいます。メディアはイアソンと対立するギリシアの国王を得意の魔力で呪い殺し、イアソンを王座に付けます。そして二人は結婚します。そしてめでたしめでたしとはならなかったわけですが、これ以上はギリシア神話にゆずることにして話を元にもどしますと、MZシリーズのシンボルであるアルゴ号の乗組員がアルゴノート(Argonaut)です。わたしのペンネームの由来というわけです。
 ArgonautをウエブスターのNew World Dictionaryで引いてみると3つの意味があって、一つ目はアルゴ号の乗組員、二つ目は1848年から翌年までのカリフォルニアのゴールドラッシュに加わった人間、三つ目はPAPER NAUTILUSと同じとなっています。PAPER NAUTILUSとは何かというと「タコフネ」のことです。タコフネとは何かというと頭足類に属する軟体動物の一種です。ここまで来ても「何のことか。じれったい。」と思われる向きにはもう少し、コンピューターの初心者のエンドユーザーと同様我慢していただいて話を続けますと、タコフネは原始的なタコやイカの類で殻を持っているのです。オーム貝に非常に近い動物で、オーム貝共々あのアンモナイトの末裔です。アンモナイトといえばあの中生代に全世界の海で繁栄した知らない人などない種族です。しかし、その末裔のオーム貝や、ましてタコフネなど見たこともない人がほとんどでしょう。ここでも栄枯盛衰を感じさせます。
 まあアンモナイトがSISを使えないのは無理からぬところですが。しかし実はSISを使うことなくアンモナイトは見事な変身を成し遂げたのです。環境の変化(この場合はより高機動力を持つ天敵の出現や気候変動と考えられる)に気付いたアンモナイトたちは殻を脱ぎ捨てることによってイカやタコとなって、依然として全世界の海に君臨しているのです。かたくなに殻を守ったオーム貝やタコフネは現在では「生きている化石」という不名誉なタイトルを与えられています。もっと遥か前の古生代から何ら変身することなく全世界に君臨し「生きている化石」などとは決して呼ばれないゴキブリと対照的です。ゴキブリの生物学的設計は非常に完成度が高いのでしょう。
 えーと何の話をしていたのかな。そうそうArgonautの話でしたっけね。それでタコフネは英語ではPAPER NAUTILUSと呼ばれオーム貝はNAUTILUSと呼ばれているのです。ノーチラスといえば人類史上初めて北極の横断潜行を成し遂げた、かの米国最初の原子力潜水艦の名前ではないかとお気付きの方もいらっしゃるでしょう。そうなのです。
 実はその前年1957年10月にソ連が人類最初の人工衛星スプートニクを打ち上げたのです。米国の受けたショックは想像を絶するものだったでしょう。スプートニクはビープビープという信号音を出しながら地球を回っているけれども、米国のペンタゴン(国防総省)の上を通る時だけは突然信号音がハッハッハッに変わるというジョークができたほどです。
 米国の威信を取り返すために一日も早く米国も人工衛星を軌道に載せねばならなかったのです。米国も何もしていなかったわけではなく、海軍が後押しするバンガードと空軍が後押しし、あのフォン・ブラウンが推進するエクスプローラの2つの計画が進行中でした。しかし上層部は計画の重要性を理解せず、予算は十分なものではありませんでした。功をあせった海軍は科学者や技術者の自信がないにもかかわらず、慌ててバンガードを打ち上げることにしたのです。バンガードは全世界の耳目が集中する中でロケット発射台で木っ端微塵に吹き飛びました。空軍とフォン・ブラウンは賢明にもエクスプローラの打ち上げを先に延ばし成功するのですが、どうしようもなく地に落ちた米国の(それにもまして海軍の)威信をわずかでも取り戻したいという強い要望のもと、ノーチラス号は1958年7月28日に真珠湾を出港し北極海の氷の下をくぐり抜け8月3日に北極点に到達し、苦難の航海の末に英国にたどり着いたのです。
 さて、この殊勲艦の名前は言うまでもなく19世紀のフランスのSF作家ジュール・ベルヌの名作「海底2万マイル」のネモ艦長ひきいるスーパー潜水艦の名前から由来しています。ところが、この小説の潜水艦の名前は「アルゴノート」であるべきなのです。ジュール・ベルヌのフランス語の原典では「アルゴノート」となっています。ジュール・ベルヌがこの現在では原子力潜水艦を連想させるスーパーサブマリンにギリシア神話に出てくる人類最初の船の名前を付けたことは容易に想像されます。しかし、英語に翻訳するときに「アルゴノート」はタコフネ(PAPER NAUTILUS)と誤訳された上にPAPERを取ってしまうという二重の過ちを犯したのです。
 こういう誤訳は昔から良くあることで、シンデレラのガラスの靴も誤訳であると言われています。原典では毛皮の靴になっているそうです。だいたいファインセラミックスの技術もない時代にガラスなんかで靴を作ればたちまち壊れてしまうのは常識と言えるのですが、この場合はガラスの靴という新鮮で異様な発想がこのお伽話に不思議にマッチしていて名誤訳になっています。たまには間違わないと良いものを作れないという好例です。
 それでネモ艦長ひきいるスーパーサブマリンは日本語でも「ノーチラス号」と訳されていますが、これは正しくは「アルゴノート号」と訳されるべきなのです。このアルゴノート号をひきいるネモ艦長は一種の世捨て人なのです。祖国で政治的迫害を受けた後、偏狭なナショナリズムに凝り固まった人々に嫌気がさし、ネモ艦長は祖国を捨てたのです。普通、世捨て人といえば隠遁し、愚痴をうだうだこぼしているというイメージですが、ネモ艦長は少し違っていて、国籍の如何を問わず志を同じくする人々(要するに同志ですな)を結集し、アルゴノート号を建造して世界の海に乗り出したのです。ネモ艦長は大変なお金持ちでかつ天才科学者なのです。当時のフランスの全国債を一発で償還できるほどの財力があったのです。そんなお金持ちならカリブ海かハワイあたりでノンビリ暮らせば良さそうなのですが、ネモ艦長は安穏とした生活には飽き足らず、北極海から南洋さらには南極まで7つの海を航海し、科学的調査や冒険的航海を行い、偏狭なナショナリズムで世界の虐られた人々を迫害する帝国主義各国の軍艦を見つけては撃沈して回り、グローバルな活動をしていたのでした。
 世が世ならばネモ艦長はIBMのような超多国籍企業を設立していたでしょうね。このネモ艦長の生き方に共感した私はこのスーパーサブマリンの名前をペンネームに拝借させていただいたというわけです。さらにシャープがアルゴ号をMZシリーズのシンボルに選んだ理由の一つにアルゴリズムと引っ掛けてあるのかも知れないと思います。英語ではARGOとALGORITHMですので、残念ながらスペルが違うのですが、日本語では同じです。それで私のペンネームはMZシリーズのシンボルから由来したのですが、ギリシア神話の冒険物語、ネモ艦長のグローバル活動とアルゴリズムを追求するものの意味を持たせてあります。
これから自伝的パソコン文化論を展開させていただきたいと思います。実際のところは言いたい放題のエッセーにしかならないとは思いますが、ご意見、ご感想、ご批判、意味不明の文章等なんなりとお寄せいただければ幸いです。



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