『SEXのすべて』失われたエピソード2

「ポルノとはどのようなものか?」



1.八番街のポルノ映画館エロスワンでのプレミア上映会
  さくの向こうには、様々な低階層の人々。

2.サーチライトが光り、マイクを持った男が立っている。
  まるでハリウッドのプレミア上映のようだが、
  違うのは、これがポルノ映画であることだ。
デーブ「(マイクを持ちながら)皆さん、我々はここ
 八番街のエロスワン・シネマから、ポルノ界の新たな
 最低作品と評判の『王女と子馬』のワールドプレミアの
 模様をお届けしています。とてもたくさんの人が
 います。ロリコン、ホモ、サディスト、マゾヒスト、
 両刀使いなど、たくさんの性倒錯者でいっぱいです。
 お待ち下さい!車が一台停まりました。外見から
 判断すると、誰か重要な人物のようです。ポンコツの
 車です。止まった車から出てきたのは、プロデューサーの
 ジョー・ラルストンです。この映画のプロデューサーの
 ジョー・ラルストンです。彼はこれまでにも
 『リタと郵便配達夫』『ポリー、鞭を買う』『5000万の
 ビーバー(訳注:女性器周辺の陰毛部)は間違わない』等の
 名作を製作しています。こんにちは、ラルストンさん」
ラルストン「(犯罪者のようにキョロキョロしながら)
 ああ、どうも・・・」
デーブ「今度の新作はとても評判になってます」
ラルストン「こいつはすごい映画だ、受けあうよ。
 考えられる限りのことをやっている。まるで
 スウェーデンの売春婦みたいだ」
デーブ「映画はどこで撮影されたのですか?」
ラルストン「ジャクソンホテルだ」
デーブ「なるほど、予算はどれくらいでしたか?」
ラルストン「65ドル」
デーブ「それはかなりの大作ですね」
ラルストン「冗談だろ?俺が鞭を買うだけでいくら
 使ってると思ってるんだ?」
デーブ「そろそろ中に入った方がよさそうですね」
ラルストン「サツの奴らが来る前にな・・・」
デーブ「幸運を祈ります。どうもありがとう。
 さて、また別の車が来ました。どうやら、映画に
 出演したスターのようです!」

3.止まった車からグレートデーンが出てくる。
デーブ「そうです、グレートデーンのラグスです。
 今や世界中のポルノファンの大のお気に入りに
 なりました。(犬が入り口に入っていくのを見て)
 残念ながらラグスにはインタビューできません。
 彼の演技を楽しみにしましょう。また別の車が
 やってきました。ロッド・ルボゥとアン・ウィーラー
 の二人のスターです」

4.ロッドとアンの二人が1930年代のスターの
 ように出てくると、群集がどよめく。ただ1930年代の
 スターと違うのは、男優は下着に黒のソックスと
 サングラス、女優はパンティーとブラしか着けてない
 ということである。
 二人は群集の拍手や歓声に感謝の意を表わす。
デーブ「やあ、ロッド、アン。君たちの新作の公開に
 街中の変態が集まったよ。君たちには実に大勢の
 ファンがいるね」
ロッド「今度の映画は私にとっても本当にチャレンジ
 だったよ。新しい体位を数多く使う機会に恵まれた。
 いつものロッド・ルボゥ式も使ったがね。両足を
 上げて、頭をそらせて、女性が北の方を向くという
 やつだ」
デーブ「あなたは『ポリーのメロン』ですでにピーターを
 授賞していますね」
ロッド「ああ、ピーターを授賞できて誇りに思うよ。
 家の暖炉の上に飾ってある」
デーブ「どうだい、アン?君は言わば、一夜でスターに
 なったようなものだけど」
アン「ええ、その通りよ。私、ポルノ以外の仕事と
 いったら、トランプのスペードの2に私のヌードが
 使われたことぐらいだわ」
デーブ「ああ、そうだ。覚えているよ。素敵なスペード
 の2だったね・・・」
アン「そしてもちろん、ロッドと一緒に仕事ができて、
 興奮したわ」
ロッド「彼女と交わるのは楽しかったね」
アン「この仕事を見つけてくれたエージェントの
 ウィリアム・モリス・エージェンシーに感謝するわ」
デーブ「いつもこうではなかったんでしょう、ロッド?
 つまり、今はトップスターになったけど、その・・・」
ロッド「言いたいことはわかるよ。その通り、ポルノ映画界
 ナンバーワンのヒット男優になるのは、厳しい道のりだった。
 すべてが始まった日のことを、私は覚えているよ」
				(オーバーラップ)

5.過去
  安ホテルの一室で、ポルノ映画の撮影が行われている。
  監督がベッドの中の男女に演技を指導している。
  カチンコがパシッと鳴る。
監督「アクション!・・・いいぞ・・・もっと動いて!
 さあ、いけ!思い出せ、彼女は処女だ、そして歯医者と
 やるのはこれが初めてなんだ。そうだ!もっと感情を
 こめて!だめだ、カット!よくない。もう一回いこう」
男優「おい、そんなに何回もできっこないだろう?」
監督「もう一回だ、もう一回」
男優「やれやれ」
  ロッドがコーヒーの出前に来る。
ロッド「コーヒーを注文したのは誰だい?」
監督「俺だ。そこに置いといてくれ」
ロッド「へえ、映画の撮影をしてるのかい?」
監督「何をしてるように見えるってんだ?」
ロッド「見ててもいいかい?」
監督「だめだ。何だと思ってるんだ?」
ロッド「ぼく、前から映画スターになりたかったんだ」
カメラマン「いいから見させてやれよ」
監督「わかったよ。さあ始めよう。このままじゃ時間の無駄だ」
  カチンコを持つ男。
男「テイク6・・・」
  カチンコを叩く。と、

6.男優
 「あ〜〜〜〜」と悲痛な叫びに、我々は何が起こったか知る。
  運び去られる男優。
ロッドの声「不幸な事故により、主役がいなくなってしまった。
 私はかつて少しばかり演技のレッスンを受けたことがあった・・・」
  ロッド、役を演じることに同意し、服を脱ぐ。
ロッドの声「はじめは少し恥ずかしかったが、若い俳優は
 そうわがままを言うわけにもいかない」

7.硬くならずに演技をするロッド
ロッドの声「私は人物にちょっとしたニュアンスと陰影を与えようと
 した。監督は役の動機付けを私には教えてくれなかったが・・・」

8.ロッドの顔・クローズアップ
  エクスタシー。

9.画面の粗い白黒のポルノ映画が上映されている
ロッドの声「映画はたちまちヒットした」
  カメラが後退すると、映画を見ているのは観客席いっぱいの
  大学生たち。
ロッドの声「映画はほとんどの大学で上映され、とりわけ
 アイヴィーリーグの大学ではヒットした。私はたちまち
 センセーションをよんだ」

10.人々に手をふり、サインをするロッド
ロッドの声「黒い靴下が私のトレードマークだった。
 なぜそれらを着けたままなのかは聞かないでほしい。
 それはバレンチノのもみあげみたいなものだ。
 それから私はいくつもの映画に出演した」

11.画面の粗い白黒のポルノ映画
  着ている服をドラマチックに引き裂くロッド。
  別の映画では、二人の女性を相手にするロッド。
  次は、ロッドと女性からカメラがパンするとヤギがいる。
  そして、何人もの女性とドイツ軍兵士の格好をしたロッド。
ロッドの声「いろいろな役があったが、どれもプロットは
 似通っていた。誰もが私の演技をほめてくれた。ロッド・
 ルボゥはいつもエクスタシーの象徴だった」

12.ロッドの顔(クローズアップ)
  様々なエクスタシーの表情。
  その度にファンの歓声が聞こえる。
ロッドの声(2年も過ぎた頃には、私はアメリカでもっとも
 ダーティーな男になっていた。ブルックリンの安ホテルに
 一室を持ち、召し使いを大勢かかえるようになった)

13.みすぼらしい部屋で、着飾った召し使いに仕えられるロッド
ロッドの声「どこの高級ナイトクラブでも、私の車はすぐに
 見つけることができた」

14.走っている車
  オンボロのビュイックのフードに、おなじみのビュイックの
  マークの代わりに銀でできた69の数字。
ロッドの声「1970年には『ハローヌーキー(訳注:ヌーキーとは
 肉体関係のこと。このタイトルは『ハロードーリー』のもじり)』
 の卓越した演技で私はピーターを受賞した」

(15、16欠落?)

17.受賞晩餐会のロッド
  巨大な男根の像を受け取る。
  晩餐会はブロードウェーのカフェテリアで行われており、
  食事は粗末な代物である。
ロッド「(受賞スピーチで)『ハローヌーキー』の関係者の
 みんなに感謝します。特にメイク係は素晴らしい仕事を
 してくれました。スタントのジョージ・ホリスはにも感謝
 します。彼は望遠撮影シーンでは、私に代わってもっと変態な
 演技をしてくれました。・・・にわとりのヘンリーにも
 感謝します。彼はとても長い間もちこたえてくれました。
 みんなありがとう。・・・」
  拍手。
ロッドの声「そう、すべてはうまくいっていた。あの日、
 撮影の後で置き忘れたタバコを取りにセットに戻るまでは」

18.若者
  コーヒーを手に、セットでスターになった自分を夢想している。
ロッド「おい、何をしてるんだ?」
若者「ロッド・ルボゥさんですか?あなたの映画は全部観ましたよ」
ロッド「本当かい?」
若者「ええ、いつかぼくもポルノスターになりたいんです。
 今はコーヒーの出前ボーイだけど」
ロッド「私もはじめはそうだった」
若者「知ってます」
  会話を続ける二人。(ボリューム下がる。)
ロッド「彼は好青年だった。何かエキストラの役がないかと私に
 聞き、私はあると言った。そして次の撮影の時だ・・・」

19.映画の撮影
  若者、小さな役で出演している。
ロッドの声「私は『イスラエルの近親相姦』で私の弟の役を
 彼に与えた。ところが、いよいよという時になって、私は
 突然不能になってしまった」
周りの人々、やじる。
ロッド声「何とも恥ずかしいことだった。初めて、私は
 興奮することができなかった」
監督「何か他のことを考えてみろ」
女優「他のことを考えろとは何よ?私をレバーの切り身か
 なんかと思ってるの?」
監督「このままじゃ撮影を中止しなきゃならない。
 この映画はもうスケジュールを超過してるんだ。
 1時間で撮り終えなきゃならないってのに、もう
 2時間半もかかってる」
ロッドの声「我々はごまかすことにした。・・・あたかも
 本当にやっているかのように偽装したのだ。映画が公開
 されると、その結果はたちまち明らかになった」

20.プレミア会場
  画面の粗いポルノ。
  ウソのセックスは演技のまずさもあって、全然
  リアリティがない。

21.ブーイングをする観客

22.観客の中のロッドと監督
  立ち去る二人。

23.セットでのロッド
  依然として不能のままである。
ロッドの声「まるでだめだった。どうしてもできないのだ。
 私生活ではできるのだが、撮影になるとどうしても
 だめだった」

24.ロッドの代わりを務める若者
  憮然とするロッド。
ロッドの声「私の地位に付いたのは、あの若者だった。
 彼は何の問題もなかった」

25.エージェントのオフィスにいるロッド
ロッドの声「それ以降、私には仕事が来なくなった。
 たまにちょっとした変態の役がまわってはきたが、
 ノーマルセックスでなければ金は稼げない。
 マニア受けするだけではだめなのだ」

26.新人の若者が出演するポルノ映画
ロッドの声「一方、あの若者はどんどん売れっ子になっていった。
 大衆は彼を愛した。彼の演技には説得力があり、可能性を
 感じさせた。彼には何かアメリカ的なものがあった。
 彼はまるで隣に住む普通の堕落した青年のようだった。
 私は家の電話のそばで仕事の依頼を待ち続けたが、
 何も来なかった」

27.孤独な元スター
ロッドの声「ある時、セットをぶらついていると、私は突然
 あの懐かしい興奮が甦ってくるのを感じた」

28.ロッド
  その顔には、いつもと違う何かがある。
ロッド「CB、パワーがみなぎるのを感じるんだ。理由は
 わからないけど、今度はできそうな気がする。
 チャンスをくれないか・・・」
監督「時間がないんだ、ロッド」
ロッド「頼む、今度こそできるから」
監督「ここはハリウッドじゃないんだ。おれたちには
 数フィートしかフィルムがないんだよ」
ロッド「頼むよ、私は・・・」
監督「わかった、わかったよ、だがもしだめだったら・・・」
ロッドの声「私は服を脱ごうとした。すると、あの若者が
 隅の方へ忍び寄って、ポケットから何かを出して、私の
 コーヒーに入れようとしているのに気づいた」

29.ロッド、若者の手をつかむ
ロッド「何をしている!」
若者「何でもない!本当だよ!」
ロッド「そいつをよこせ!ははあ!こいつは硝石だ!」
監督「何だって?」
ロッド「これで、こいつが来てから、セットで私がだめに
 なった理由がわかった。この小ねずみ野郎は、私の食べ物に
 硝石を混ぜてたんだ」
女優「硝石って何なの?」
ロッド「聞いたことがあるはずだ。兵隊や囚人に与えて、
 性欲をなくさせるものだ」
女優「本当だわ。私、ちゃんとあれができるサービスマン
 (訳注:ラジオ等の修理人のことだが、軍人の意味もある)
 て、見たことないもの」
若者「自分で何をしているのかわからなかったんだ。・・・
 ぼくはスターになりたかったんだ・・・」
ロッド「お前はポルノスターになりたかったのだろうが、
 結局何にもなれなかった。これでお前は終わりだ。
 今からは、私がカムバックだ!」
  撮影が始まる。
				(オーバーラップ)

30.現代
  プレミア会場でインタビューされるロッド。
ロッド「と、いうのが、私の物語さ」
デーブ「心温まる話ですね」
ロッド「さて、もう行かなくては。そろそろ映画の始まる時間だ」
デーブ「それで、その若者はどうなったんです?
 彼はポルノ界で成功したんですか?」
ロッド「いや、彼はそれから政治の世界に転向した。そして
 合衆国の副大統領になったんだ。それじゃ失礼」
  ファンに手をふりながら、去っていくロッド。
				(フェードアウト)

				−終わり−


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99年4月1日作成