『愛と死』幻のセリフ集


『愛と死』は75年6月に公開されたウディ7番目の監督作品である。78年のインタビューでウディは「『愛と死』は私のお気に入りの映画だ。『アニーホール』よりも気に入っている」とアカデミー受賞作以上の思い入れを語っている。作品についての細かい説明は省くけど、これは私も好きな作品だったので、94年にハリウッドに行った際にシナリオ専門書店 BOOK CITY COLLECTABLES でシナリオを買ってきた。(この時発音が悪かったせいか、"Love and Death" と注文したのにはじめ店員がもってきたのはデビッド・ボーイの『ラビリンス』だった。)シナリオの日付は「74年8月11日改訂」となっている。

 映画のテンポを速めるためだろう、シナリオから削られたセリフやギャグがけっこう多い。とりあえずウディのギャグを楽しんでいただくために、映画に残ったセリフも併せて抜粋した。映画に残っているものは(映)と表記した。中には多少映画と表現の違うものがあるかもしれない。人名は分かりやすくするために「ウディ」「ダイアン」と書いている。拙訳でニュアンスが伝わらない点が多いことをおわびします。興味のある方はご連絡頂ければ原文をお送りします。


≪シナリオ抜粋@ はじめ〜少年時代≫

(映)
ウディ「(独白)どうしてこんなことになってしまったのだろう。まったく信じられない。犯してもいない罪のために処刑されるとは。しかし人はみな誰も同じではないのか。誰もがみな犯していない罪のためにやがては死ななければならないのではないか?ただ他の人はやがてそのうちの話だが、私の場合はそれが明朝6時なのだ。5時に処刑されるはずだったが、腕のいい弁護士のおかげで恩赦を受けたのだ」

ウディ「(独白)人生最後の食事が終わってしまった。私が注文したのは、サワークリーム付きキャビア、肉、スープ、茹でたポテト、黒パン、チーズ、ワインとカスタードだった。残念ながら茹でたポテト以外は品切れだった」

ウディ「(独白)明日のこの時間には私はもう死んで、存在しなくなっている。週の残りもそうだろう。実のところ永遠にそうだろう」

ウディ「(回想)それから、すみで編み物をしているカーチャ」
 ウディの回想。ロックチェアで編み物をしている老婦人のカーチャ。
ウディ「夏も冬も彼女はそうしていた。そのうち彼女はもうろくして、巨大な靴下を編み始めた。彼女はそれをサーシャおじさんにクリスマスプレゼントとしてあげた。いったいおじさんは15フィートの靴下をもらってどうしたのだろう。しかも2つである」

ウディ「(回想)ソーニャはいつも美しかった。私は彼女に摘んだ花をプレゼントした」
 小さなウディがソーニャに花束をあげている。
ウディ「彼女は深く感動してくれた」
 プレゼントのつまらなさに花束をポイと投げ捨て、別の遊びをするソーニャ。

(映)
ウディ「(回想)奇妙なことに、グレゴリーの息子の息子はグレゴリー本人よりも年をとっていた。どうしてそうなったのか、だれも知らなかった」

ウディ「(回想)そしてネコのレオ。レオは楽しいネコだったが、そのうち記憶喪失症になり、過去のことを忘れてしまい、自分がネコであることも忘れてしまった」

ウディ「(回想)毎年夏は夏用の別荘ですごし、冬は冬用の別荘ですごした。やがてそれを逆にして、冬を夏用の別荘ですごし、夏を冬用の別荘ですごした。ある時、冬用の別荘が火事で焼けてしまい、それを建て直した。すると夏用の別荘が火事で焼けてしまい、冬用の別荘を再び建て直した。最後には夏用の別荘を新しく建てて、冬用の別荘を2つとも燃やしてしまった」

 棺の周りを囲む人々。ウディも両親と一緒にいる。
ウディ「ネハムキンじいさんはどこに行ったの?」
「旅に出たのよ」
ウディ「いつになったら戻ってくるの?」
「もう2度と戻ってこないわ」
ウディ「2度と?・・・嫌な旅だな」

 夏用の別荘の書斎。
ウディ「(回想)思春期のころ、兄たちが遊んでいる間に私は勉強した」
 少年のウディとずらりと並んだ本。スピノザ、プラトン、聖アウグスチヌス、シェークスピア、ホッブス、そして「女の子を自分の思い通りにする方法」

(映)
ウディ「(回想)私がよく話をしたニコライ神父はいつも黒い着物に黒いひげだった。しばらくの間、彼のことをイタリア人の未亡人だとばかり思っていた」

(映)
子供のウディ「ユダヤ人て何?」
神父「ユダヤ人を知らんのか?ほら。絵を見せてあげよう。これがユダヤ人だ」
子供のウディ「うそ。ユダヤ人はみんなこんな風に角がはえてるの?」
神父「いいや。これはロシアのユダヤ人じゃ。ドイツのユダヤ人は縞模様が入っている」

ウディ「それはネコのレオが死んだ時だった。彼は池に身を投げたのだ。遺書は残していなかった」

(映)
ウディ「私は海辺を歩きながら、キリストのことを考えていた。もし彼が大工だったのなら、本棚をいくらで請け負ったのだろうかと」

死神「仕立て屋のヴェスコフの家はどこだ?」
少年のウディ「どうして?」
死神「もう85才だからお迎えに来たのだ」
少年のウディ「えーっと、引っ越したよ、トルコ(Turkey)に住んでいるんだ。いや七面鳥(turkey)と暮らしてるんだ。もう死んだよ。遅かったね」
死神「嘘をついているな」
少年のウディ「あ、ああ、ヴェスコフ、ヴェニスに引っ越したんだ。母親を訪ねてね。道を横断していて溺れちゃったんだよ」
死神「ヴェスコフを連れていくか、おまえを連れていくかだ」
少年のウディ「じゃ、ぼくを連れてって!」
 死神、黒マントを不吉に広げる。
少年のウディ「仕立て屋のヴェスコフだって?彼の家は右手の2軒目だよ。今日は休みだから家にいるはずだ」
死神「面白い子だ。また会おう」
少年のウディ「かまわないでくれよ」
死神「そうはいかん」
少年のウディ「死んだ後はどうなるの?地獄はあるの?神は存在するの?来世はあるの?どこに行くの?歯ブラシは持っていった方がいいの?答えてよ!よし。大切な質問をひとつさせてよ。女の子はいるの?」
 死神、行ってしまう。


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97年1月1日作成