戯曲紹介 『セントラルパーク・ウェスト』

原 題:Central Park West
出版社:Samuel French, Inc.("Death Defying Acts"に収録)
価 格:$10程度
ISBN :0-573-69539-3
出版年:1996

 ウディ・アレンが脚本家で劇作家であるデイヴィッド・マメット、エレイン・メイと組んで発表した三部作『死をも恐れぬ劇(Death Defying Acts)』における、アレンの執筆した一幕物の戯曲。95年に開幕したオフブロードウェイ劇としては一番のロングランヒットとなった。

≪登場人物≫
フィリス 精神科医
キャロル フィリスの友人
ハワード キャロルの夫、教師
サム フィリスの夫、弁護士
ジュリエト サムの愛人、フィリスの患者

 舞台はニューヨークのセントラルパーク・ウェストのアパート。中年の女性キャロルは友人で精神科医のフィリスから、「大変なことになった。すぐに来てほしい」とのメッセージを受け、彼女のアパートに来る。駆けつけたキャロルは、酔ったフィリスから夫のサムが好きな女性が出来たために家を出ていってしまったと伝えられる。キャロルは彼女をなぐさめるが、フィリスはサムの浮気相手がキャロルではないかと疑っている。問い詰められたキャロルはサムと関係を持っていたことを告白する。二人は偽名でアパートも借りていたという。フィリスの怒りの火に油が注がれたときに、キャロルの夫ハワードが来る。ハワードはかつて作家を目指したが失敗し、今ではしがない教師をしている。フィリスからキャロルの浮気を聞かされても意気消沈して怒る気力もない。そんなハワードにキャロルはうんざりしたと言い、サム以外の相手との浮気もぺらぺらとしゃべる。フィリスは二人に出ていってほしいと言ってトイレに行く。ハワードは自殺しようと祖父の戦争中の拳銃を取り出すが、キャロルを道連れにしようとして部屋を追いまわす。だが引き金を引いても弾は出ず、再び挫折感にさいなまれる。トイレから戻ったフィリスが、拳銃の弾が出ないのは単に安全装置がかかっていたからだと言っても、再び銃を手に取る気力もない。そこへ問題のサムが忘れ物を取りに現れる。だが意外なことにサムが家を出た理由はキャロルではなかった。「きみのためにぼくがフィリスを捨てると思うかね」。サムの言葉にキャロルは呆然とし、サムに怒りの言葉を向ける。混乱が頂点に達した時、若い女ジュリエットがサムを迎えに来る。身体にピッタリした赤いドレスにハイヒールをはいた美人の彼女こそ、サムがフィリスと別れて結婚を決意した女性だった。だが彼女はフィリスの患者だった。「あなた、私の患者と寝たの?!」フィリスの気持ちはおさまらない。男性恐怖症だったジュリエットはフィリスの治療のおかげで男性ともつきあうことができるようになったと言う。ジュリエットが脚本家志望と聞いて、ハワードも「自分にはハリウッド俳優とのつてがある」と彼女の気をひこうとする。怒ったサムとハワードは取っ組合いになり、けんかをおさめようとジュリエットは置いてあったハワードの拳銃を発射する。弾はサムの尻に当たり、動転したキャロルとハワードはアパートを後にする。世の中の男性がサムだけでないことを悟ったジュリエットも、翌週のフィリスとの治療時間のアポを確認すると、サムの懇願も空しく、アパートを出ていく。そんなサムにフィリスは「精神学的には『拒絶』と呼ばれる行為よ」と勝ち誇ったように宣言する。

 妹に電話したフィリスの「私があんたの夫と寝てるかって? 古典的フロイド学者となんか寝るわけないでしょ!」など、全編アレンのギャグに満ちたセリフが大いに笑わせる。また「Fuck」「Bull-shit」などと登場人物達の罵詈雑言と罵り合いのオンパレードもすごい。さながら『夫たち、妻たち』のジュディ・デイビスを思わせる。また夫が精神科医である妻の患者と寝るというシチュエーションは、『地球は女でまわっている』でアレンが演じたどうしようもない夫を思い出させる。長年のパートナーだったミア・ファローとの泥沼の係争の最中である95年頃に書かれた作品だが、「結婚は希望の終わりよ」などというシニカルなセリフも考えさせる。登場人物の「私たちは宇宙で孤独な存在だ(We're alone in cosmos.)」「ここは宇宙じゃないわ。セントラルパーク・ウェストよ(We're not in cosmos. We're in Central Park West.)」のセリフにもウディの現実的な哲学がうかがえる。

 三部作の他の作品も簡単に紹介しておこう。

 デヴィッド・マメットの『インタビュー(Interview)』は、家主を殺して埋めた弁護士と尋問官の取調風景。口八丁にやりぬけようとする弁護士と、どこか抜けていて頭の回転の遅い尋問官のちぐはぐなやりとりが笑える。「何でそんなことを言う?」「質問されたからだ」「どの質問だ?」のようなベケット風な会話が不条理。最後に、この取調べがあの世での裁きを決めるためのものと明らかにされ、弁護士は地獄で重労働に課される。

 エレイン・メイの『ホットライン(Hotline)』は、自殺を思いとどまらせるためのホットラインに勤務する男ケンの物語。孤独な売春婦ドロシーからの電話を受け、同僚の冷たい視線にもめげず、警察などに電話して彼女の居場所を必死に探そうとする様子をコメディ・タッチで描く。最後にようやくドロシーの居場所を見つけ、「きみを見つけたよ!(I found you!)」と叫ぶラストは感動的。ホットラインを主題にしたポワチエ映画が物語の鍵になっているが、何の映画だろう。


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2002年8月11日作成