【米国時代のフリッツ・ラング】

『外套と短剣』
CLOAK AND DAGGER


『マンハント』『死刑執行人もまた死す』『恐怖省』に続く反ナチスパイ物という、ラング得意の分野だが、ナチスの壊滅と第二次大戦終了を受けて、内容は反ナチ・プロパガンダ的な色彩よりも、冒険とサスペンスの要素をより強調した娯楽作品になっている。作品の質も高く、ラングの娯楽作品としても一級の出来といえる。

第二次大戦末期。フランス国境付近からのスパイの報告で、ナチスによる原爆実験が進行中と知ったアメリカの諜報組織は、原爆製造の進行状況を調べるために、アメリカの核物理学者であるアルヴァ・ジャスパー教授(ゲーリー・クーパー)に協力を要請する。ジャスパーはドイツ人医師を装って中立国スイスに行き、入院中のドイツの核物理学者キャサリン・ロダー博士を訪ねる。ナチスは博士がドイツの核開発に協力しないと、罪のない市民を投獄して処刑すると脅迫していたのだ。だがゲシュタポは、空港でジャスパーをアメリカのスパイと見抜いており、彼が博士に接触したのを知ると、博士を誘拐する。ジャスパーはホテルで接触してきた女スパイを脅迫し、博士の居所を聞き出す。味方のエージェントと共に、博士が閉じ込められている山奥の隠れ家に行くが、ジャスパーらの侵入を知ったゲシュタポは博士を射殺してしまう。手掛かりは切れるが、博士が協力していたというイタリアの科学者ポルダ(ウラジミール・ソコロフ)が新たな手掛かりとして浮かぶ。ジャスパーらは雨の夜に密かにイタリアに上陸。現地エージェントのピンキー(ロバート・アルダ)やジーナ(リリー・パルマー)らの協力で、ポルダに会いに行く。ゲシュタポの監視下にあるポルダは何かに怯えた様子で、ジャスパーがアメリカ人と知るや屋敷内のゲシュタポを呼ぶ。だがジャスパーが単なるエージェントではなく、以前コンタクトしたことがある物理学者だと知り、口実を設けてゲシュタポを追い返す。だがジャスパーの協力要請にポルダは、娘がドイツ国内で人質同様になっているとして、断る。ジャスパーはポルダの娘の救出を約束。ピンキーが仲間達とドイツに潜入する。残ったジャスパーはジーナのアパートに隠れているが、アパートの住人に姿を見られたため、別の隠れ家へ移る。が、そこもゲシュタポと疑わしき尼僧に目撃されたため、空襲で廃墟となった建物に隠れる。逃亡を続けるうちに、ジャスパーとジーナの絆は深まり、固く愛し合うようになる。ピンキーからの暗号で、ポルダの娘の救出に成功したことを知ったジャスパーは、ポルダと密かに落ち合う。だがゲシュタポの尾行が邪魔しようとしたため、ジャスパーは格闘の末にこれを殺してしまう。ジャスパーとポルダ、ジーナの3人は指定された山奥の隠れ家へ行き、ピンキーらと再会する。が、ポルダの娘はゲシュタポが化けた偽者で、本物の娘はすでに6ヶ月前に死んでおり、娘の手紙もゲシュタポが偽装したものと説明する。隠れ家は兵隊によって囲まれたいる。ジーナは降伏を要求する娘の偽者を撃ち、兵隊とエージェントで激しい銃撃戦が始まる。ピンキーの指示で、ジャスパーはジーナとポルダを連れて、地下の秘密の通路から井戸を通って外へ脱出する。ピンキーらは最後まで戦い、兵隊の手榴弾で爆死する。隠れ家の近くの山間にアメリカ軍の飛行機が着陸して、出迎えの現地エージェントと共にジャスパーらの到着を待っている。もう待てないとなった瞬間、ジャスパーらは飛行機にたどりつく。ジャスパーは残るジーナに「必ず帰って来る」と言い残すと飛行機に乗り、大空へ去っていく。

激しい銃撃戦と切ないラブロマンスで盛りあがっていただけに、ゲーリー・クーパーの乗った飛行機が飛んでいってしまうラストは、いささかあっけない印象もある。実は映画には続きがあったのだが、ラングによれば、会社側は特に説明もないままにここから後をカットし、飛行機が去ったところでエンディングにしてしまったのだという。では、続きはどうなるのか?遺された脚本を元に紹介しよう。

飛行機の中、銃撃で傷ついていたポルダは、ナチスの4箇所の核開発施設の場所をジャスパーに告げるが、4つ目の名前を言う前に息絶えてしまう。残された手掛かりは博士と娘が写っている山と湖の写真だった。ロンドンの組織支部で写真を検討するジャスパーは、ヒトラーがラジオ演説で「世界を破壊できる兵器を開発した」と語るのを聞く。もはや猶予はならない。ようやく4箇所目の場所が分かり、ジャスパーは兵隊と共にパラシュートで施設に突入する。だが洞窟の中に作られた施設はすでに破棄され、設備は外国へ持ち去られた後だった。人類の未来を悲観する英軍士官に対し、ジャスパーは人間が破滅を回避できるはずだとの希望を語る。洞窟の外では兵隊達が、じき戦争が終われば、故郷に戻って女友達に会えるだろうと話している。ジャスパーもジーナを思い出しながら、それにうなずく。

話の中心になっている、核開発の問題は、広島や長崎へ原爆が投下された後で、非常にタイムリーなトピックではあったが、ヒッチコックの「マクガフィン」と同じで、スパイ物のプロットには直接は関係ない。

46米/監督フリッツ・ラング/脚本アルバート・モルツ、リング・ラードナーJr/音楽マックス・スタイナー/撮影ソル・ポリート/出演ゲーリー・クーパー、リリー・パルマー、ロバート・アルダ、ウラジミール・ソコロフ、J・エドワード・ブロムバーグ/106分/白黒


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2002年8月6日作成