映画音楽 『デイジー・ベル』又は『二人乗りの自転車』


映画:「2001年宇宙の旅」
"2001: A Space Odyssey"
曲名:"Daisy Bell" or "A Bicycle Built for Two"

<解説>
 SF映画の金字塔にして、キューブリックの代表作でもある『2001年宇宙の旅』。この映画は「人類の夜明け」「月面」「木星への旅」「星々の彼方」の4つのエピソードからなる。人類の進化や宇宙旅行、人工知能、神の概念など様々なテーマを含んでおり、また極端に説明を排したストーリー展開のため、謎の多い作品としても知られている。この歌が出てくるのは「木星への旅」のエピソードの終盤近くである。

 人類初の木星探査船ディスカバリー号のコンピューターHAL2000は、故障をおこしたことから2人の船員にスイッチを切られそうになる。自我を持つHALは、死を恐れて船員を殺害しようとするが、ただ一人ボーマン船長は生き延びて、HALの回線を切断する。遠のく意識の中でHALが歌うのがこの歌。HALがその開発者にして教育係だった人物に教えられた歌だが、不器用な田舎者の恋を扱ったいささか泥臭い歌詞であり、最先端のコンピュータが歌うにしてはミスマッチの妙を楽しめる。歌の中の「僕は気が狂いそう」は、正気を失って船員を殺害するHAL自身を思い起こさせる。HALの「人間らしさ」を強調するシーンであり、実際HALほどに進歩したコンピューターにとって、人間との違いは何かと考えさせられてしまう。

 原題は "Daisy Bell(デイジー・ベル)" 又は "A Bicycle Built for Two(二人乗りの自転車)" といい、1892年にイギリスでハリー・ダクレによって作詞・作曲された。映画で歌われた部分の前後にも歌があり、オリジナルは結構長い曲である。「二人乗りの自転車」のフレーズは、ダクレが初めて米国へ行った時に持ち込んだ自転車に関税を払わされたと聞いた知人が「二人乗りの自転車でなくてよかったね。税金を倍取られるところだったよ」と言ったのにヒントを得たという。1961年にベル研究所のジョン・ケリーという技術者が史上初めてIBM7094というコンピュータに歌わせたのがこの歌だった。共同で脚本を書いたキューブリックとアーサー・C・クラークは、このエピソードを踏まえてHALに「デイジー・ベル」を歌わせたのだろう。


Daisy, Daisy
Give me your answer do
I'm half crazy all for the love of you
It won't be a stylish marriage
I can't afford a carriage
But you'll look sweet upon the seat
Of a bicycle built for two
 

デイジー、デイジー
どうか答えておくれ
僕は気が狂いそうなほど、きみへの恋に夢中
お洒落な結婚式にはならないかもしれない
馬車をしたてるお金はないからね
でも君はきっと素敵だろう
二人乗りの自転車に乗るその姿は


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98年9月15日作成
05年3月9日改訂