【GAMEWALKER 96年12月号 いまどきの次世代ソフト】

 太正桜に浪漫の嵐っ。
 と、昨日からすっかり頭が大正時代の大森ですが、いやあ最高っす、「サクラ大戦」。
 妖怪変化から帝都を防衛すべく結成された政府直属の対降魔組織、帝国華撃団「花組」。平時は歌劇団の団員として銀座の帝劇(大帝国劇場)で歌劇の舞台をつとめ、降魔出現の報とともにただちに蒸気駆動の霊子甲冑「光武」に搭乗して出撃する可憐な乙女たち……。
 時は大正――ならぬ幻想の「太正」時代。まあこれは、幻想の東京を舞台にした小野不由美『東亰異聞』と同じパターンだし、地下蒸気(って蒸気駆動の地下鉄ね)や蒸気自動車が走り回る蒸気文明の設定も、ギブスン&スターリングの『ディファレンス・エンジン』とか唐澤兄弟商会の名作『蒸気王』とかでおなじみのスチームパンク。
 じっさい、オリジナリティって面から考えると、このゲームに新しいものはほとんどない(宝塚持ってきたアイデアはコロンブスの卵かも)。華撃団の設定はパトレイバーだし、帝都の霊的防衛ってネタは「帝都物語」、各話最後の予告編はエヴァンゲリオン、女の子キャラのご機嫌とってパラメーター上げるシステムは「ときメモ」か「卒業」か。
 しかし、先行作品を縦横無尽に引用しながら世界を構築するのはおたく文化の基本。このゲームの場合、メディア横断的にあらゆるところから拾ってきたパーツ群を、卓抜なセンスで一本にまとめあげてるわけですね。
 ゲーム的にも各種要素が盛りだくさん。戦闘は「スーパーロボット大戦」型のシミュレーションなんだけど、各話の前半はかなり長いアドベンチャーパートがつき、女の子キャラとの会話やアニメーションが楽しめる。隊員の女の子のだれと仲良くするかによってラストが違うマルチエンディングは「ときメモ」だとしても、それを「スパロボ」と組み合わせる発想の妙がおたくのツボを心地よく刺戟する。
 要所要所ではミニゲーム(コイコイや射的はともかく、ボルシチお料理ゲームには爆笑)も遊べてサービス満点。その分、戦闘は異常に難度が低く、ふつうにやってればキャラが死ぬことはまずない(し、死んでもペナルティはない)。
 一話完結の全十話、一話一時間少々として、十数時間つづけてやればだれでもクリアできちゃう、その意味ではヌルいゲームなんだけど、これはむしろ1クール完結のTVアニメがCD-ROM2枚に焼いてあるようなソフトとして楽しむのが正解でしょう(テイスト的にはむしろRPGに近いかも)。
 田中公平の起用がずばり的中して、歌と音楽だけ聞いてても幸せな気分になれるし、藤島康介のキャラデザも気合いバリバリ。脚本のあかほりさとるが「ある意味、画期的なTVシリーズだと思ってるんです」とコメントしてるとおり、名作アニメをビデオで一気見する感覚がある(ちゃんとアイキャッチもある)。その意味ではゲーム界の「トップをねらえ!」って感もあるな。
 なにも考えずにさくさく進めて絵がきれいで音楽がいい――ってタイプの次世代ゲームは、本来わたしの憎悪の対象のはずなんだけど、「サクラ大戦」に限っては文句を言う気になれない。やっぱりセンスの問題ですか。敵役の設定(唐突なキリスト教ネタはちょっと勘弁してほしかった)と戦闘のゲームバランスには不満が残るものの、非声優おたく向けに音声オフのモードがあったり、マップ上での移動をスピードアップできたり、細部にも配慮が行き届き、ひさしぶりに心地よくハマらせていただきました。そうそう、クリア後のサービスも充実してるし(うっかりすると無限にコイコイをプレイしつづけることになるかも)。それにしてもカンナで終わるとは一生の不覚。まあかすみでクリアはかなわぬ夢だからいいんだけどさ。とりあえず八話からリプレイしよっと。

 今月のもう一本、「スマッシュ・コート」はテニスゲームの老舗ナムコの新作。PCエンジンの「プロテニス・ワールドコート」に思い切りハマったのは、もう十年以上前のことか――と思わず遠い目になりますが、今回の目玉はテニスクラブモード。試合に勝って賞品のアイテムを獲得し、それを使ってオリジナルコートがつくれるシステムで、物欲中枢が鋭く刺戟される。しかし昔はもうちょっとうまかった気がするんだけどなあ。くそっ。

【近況】
 世界SF大会では「マジック・ザ・ギャザリング」タイプIIトーナメントに出場、小学生に惨敗する(笑) しかし対外国人デュエルはトータルで勝ち越して凱旋。こうしてカード地獄に堕ちてゆくのだった……。