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【3月1日(日)】

 半分で止まっていた藤木稟『陀吉尼の紡ぐ糸』読了。これって本質的に京極夏彦とは全然違うのでは。全然ダメってわけじゃないけど、あんまり趣味じゃないかも。
 そう言えば『13』も読みかけで止まったままだが、つい近藤史恵の新作を読んでしまう。『ねむりねずみ』よりは多少不満が残るけど、この文章は好きっす。


【3月2日(月)】

 毎日ムック『みんなのマンガ '98コミックランキング』が届く。『このミス』形式だとばかり思ってたら、週刊文春形式だったのでびっくり。
 しかも成年コミック系は、表以外ではあっさりカットされて、コメントも載ってない。まあ、オレ以外では、村上知彦氏が陽気婢、香山リカ嬢が中島史雄入れてるくらいだけどさ。東幹久とか木田とかのコメントとるくらいなら、せめて一ページ、成年コミック状況を概観するコラムを入れてもよかったんでわ。成年コミックは対象外と最初にはっきり言ってくれたら、天竺浪人や大暮維人のかわりに、こどちゃとか「夜叉」とか入れたのに。
 あとはやっぱり、投票数が少なすぎですね。「地雷震」の票がいしかわじゅんの一票だけだったり。あ、「マサルさん」も一票しか入ってないのか。編集部はずいぶんマメに被投票作品をフォローしてるんだけど、「わたしの「この一冊」」コラムのおかげで、年間総括本としてはやや中途半端になっちゃってる印象。オールタイムベスト本とは一線を画してほしかったす。

「ザ・ヒューマン」ディレクターの溝上さんから、「今日の放送ですから」と電話がかかってきたのでフジテレビを見る。もうとっくに流したと思ったのに、二週間遅れだったのね。『鉄道員』の話で呼ばれたはずが、使われてるコメントは全然べつのところでした。思いきり眠そうな顔してるのに爆笑。やっぱりサングラス重要かも。

 書泉西葛西に行ったら『京極夏彦の謎2』(コアラブックス)が出ていたのでつい買ってしまう。いやあ、ここまでひどいとそれだけで存在価値があるかも。第二部なんか、ほとんど「京極夏彦が登場するヘタな小説」だもん。ここまで中身がない本は珍しい。京極謎本なら、ネタはいくらでもあると思うんだけどなあ。情報量は、活クラ京極特集の十分の一以下でしょう。まあ二十分で立ち読みできるので、あははと笑ってそれでおしまいかな。少しは世の中のまともな謎本の苦労を見習っていただきたいものである。第三書館で「京極夏彦スタイル」とかどうすかね。


【3月3日(火)】

『語り手の事情』の書評を書くため、『一万一千本の鞭』その他の資料(ってどんな資料だ)をさがしに江東区南砂図書館へ。図書館では見つからず、たなべ書店でゲット。ほんとは『若きドン・ジュアンの冒険』がほしかったんだけどなあ。すでに家にある本をさがすより、図書館や古本屋に頼る人間になってしまっている。
 メタフィクション系の小説なので、ついメルヴィルの引用からはじめたら、なんか学生のレポートみたいな書評になってしまう。やれやれ。


【3月4日(水)】

 書店その他向けプレスリリース用に、『イエスの遺伝子』の書評。ほっといても売れそうな本ですが、一応、ゲノム関係の本とか買ってきて参考に読む。「遺伝子が十万種類」ってのがいまいちよくわかんないな。DNA関連の話はむかしけっこう好きでよく読んでたんだけど、すっかり忘れてるのだった。ちょっとまじめに科学ノンフィクション読まないとなあ。とか言って本読んでると一日が終わってしまう。


【3月5日(木)】

 フレッシュネス・バーガーで仕事をしてたら、隣席に30歳前後の夫婦者らしきカップル。それぞれ図書館で借りた本を持ってて読みはじめたんだけど、これが『秋の花』(妻)と『斎藤家の核弾頭』(夫)。向かい合って本を読む夫婦ってマンガ喫茶では珍しくない光景だけど、北村薫と篠田節子ですか。やるなあ。


【3月6日(金)】

 小野さんが送ってくれたらしい『ゴースト・ハント』のドラマCDを聴く。「宮村優子の直球で行こう!」でやってたラジオドラマのCD化。宮村の麻衣はちょっと意外なくらいうまくハマってますね。音楽もいいっす。真っ暗な部屋にヘッドホンで聴いてるとけっこうこわいかも(素直なわたしは、原作者がそうしろと書いているとおりにしました)。でも効果音のボリュウムが大きすぎる気がしなくもない。
 シナリオは會川さんだけあって、ほとんど無理を感じさせず、原作読んでなくてもOK。けっこうズルしてるんだけど、そう聞こえないところがさすがですね。


【3月7日(土)】

 ひさしぶりにユタ@高田馬場。めずらしく福井健太が来たと思ったら、倉阪鬼一郎氏がいっしょで、どういう風のふきまわしだろうと思ったら、女性連れで、これがなんと巽昌章氏の奥さん(初対面)。なんと倉阪さんに会うためだけに上京したらしい。倉阪ファンクラブ副会長とか。今夜はカプセルホテルに泊まって明日帰るんだそうで、噂にたがわぬ行動力の持ち主である。
 福井健太からは、例の嶋田荘司×佐川一政事件の顛末を根ほり葉ほり(でもないけど)取材する。あまりにも面白い話しなのだが、書きはじめると長くてめんどくさいのでパス。どこか佐川投稿原稿を採用しないかなあ。(後期:と思ったら、けっきょく10日発売の『噂の真相』4月号に掲載されてました。いやはや。関係者のコメントが待たれる)。

 ユタから天天飯店に流れて、最近のミステリ話。話題の的はやっぱり『A先生の名推理』でしょう。すごすぎ。わたしは「遊星からの物体X」で腰を抜かしましたね。堺三保や菊池誠に読ませたい(笑)。
 しかしなあ、冒頭の謎ばかりおおげさにすればいいってもんじゃないでしょう。オレ的には解決の意外性のほうが重要。A先生モノは、『奇想、天を動かす』症候群の極北ですね。この方向性の行き詰まりは、すでに『銀河列車の悲しみ』が証明してると思うんだけど。「物体X」の逆パターン(?)の「メニエル氏病」とか、やっぱ解決が思いきり意外なほうがずっと面白いと思うけどな。ってくらべるのも申し訳ないですが。

 最近、「いまの新本格はカンブリア紀である」説を唱えてるんだけど、最近の講談社ノベルスを段ボールにつめて10年後に開封すると、さながらバージェス頁岩ではないかと。『コズミック』『六とん』『歪んだ創世記』『Jの神話』『A先生』……。
 しかし形態的に優れているからといって生き残るわけではないので、この多様性の爆発からなにが後世に残されるかははかりがたい。こうなったら、だれか本格ワンダフル・ライフを書くしか。

 しかし我孫子さんはなぜか『A先生』を誉めてる(ように見える)んだよな。『六枚のとんかつ』とくらべてどこにアドバンテージがあるのか、わたしにはよくわかりません。
 我孫子日記と言えば、『本の旅人』3月号の座談会の件だけど、オレがいちばん「そりゃないよ」と思ったのは、北上次郎。こないだまでずっと「SF的エンターテインメント」と称して、『ソリトンの悪魔』でさえ、「あれはSFじゃなくて、SF的エンターテインメントだ」と言い張ってたくせに、この座談会ではいつのまにか、みんな「SF」になってるのね。

実はぼく、最近、SFがおもしろくてしようがなくて、盛んに読んでいるんです。世間ではSFと言われていないけれど、SF的な要素やマインドをもっている作品がここ数年、多いんです。もしかすると、SFのプロパーの人たちからするとSFじゃないって言われるかもしれないけど、大沢在昌とか宮部みゆきとかの小説を読んできた層がおもしろがるSF的な要素をもった小説が非常にふえていると思う。
 たとえば、瀬名秀明がそうですね。完全にSFです。『ソリトンの悪魔』の梅原克文もそうですね。ちょっとさかのぼれば北村薫の『スキップ』と『ターン』もそうだし、大沢在昌の『天使の牙』『B・D・T』もそう。
 どこにもSFと打たれていないから、読んでいる人たちはおもしろい小説として読んでいるかもしれないけど、紛れもないSFなわけですから、そういうものが底流としてあるならば、もっと違うかたちをとればSFは、二十年ぶりに一つのブームになりうるということは十分に考えられます。

 って、二年前に書いた小説すばるの「現代エンターテンメントの新しい波」と、言ってることが全然違うぞ。その後反省したんだろうか。(引用文中の強調は引用者)。
 だからずっと、「SF的なエンターテインメント」なんてものは存在しなくて、それはSFだとゆってるのに。

 茶木さんのミステリーの定義は簡単で、冒険小説とハードボイルドとサスペンスと警察小説がミステリーなんでしょ。芥川はミステリーじゃないと。あるいは「面白かったらミステリ」とか。
 ま、よそのうちの話なので、オレ的には「ミステリー」って言葉がどう使われてもあんまり気になりませんが。しかしおなじような話はミステリマガジンの座談会で2年ぐらい前にしたような気が。

 家に帰ってダイナスティ・カップ中国戦のビデオ。川口は得失点差を考えたプレイしなきゃだめでしょう。優勝かかってるんだから。ってそういう問題じゃないか(笑) あれで3−0とか4−0じゃないんだからまだツキがあるね。
 ついでに「こどちゃ」と「大運動会」を見る。
 後者の新展開、「行き先はエリア51だっ」に茫然。いつのまにこんなことに。先週見とけばよかった。


【3月8日(日)】

 週刊文春用に、遠藤徹『ポスト・ヒューマン・ボディーズ』の書評。どうしてこの本を週刊文春でとりあげるのか、けっこう謎。いや、面白かったからいいんですけど。
 ただし、細部にわりとまちがいが多いような。「カプリコン1」のタイトルとか、まりちゃんずに関する記述とか、まあどうでもいいことだけどさ。
 ロバート・ロンゴのインスタレーションに同名のがあるそうですが、ハインラインのAll You Zombiesってタイトルになんか元ネタがあったんだっけ。

 嘘部三部作の完結編『闇の中の哄笑』のハルキ文庫版解説用に、『系図』『黄金』『哄笑』とまとめて再読。これってスパイ大作戦だったのね。構成がよくできてるのにびっくり。『黄金』なんかほとんどメタフィクションでしょう。


【3月9日(月)】

 夕方起きてミストラル。『哄笑』の解説に着手。ヒトゲノム解析プロジェクトで嘘遺伝子を同定――というネタを考える。
 ネタにするために明和書店で『平気でうそをつく人たち』を立ち読み。三冊セットだからまとめて買ってもらわないとね、と店長に脅される(笑)。『他人を誉める人、けなす人』と、もう一個なんだっけか。そういえばデザイナーは西葛西在住とか聞いたな。
 ついでに近所の古本屋を三軒まわり、新刊で見送ったハードカバーを十冊ほど。ブックオフなんかだと、著者名別に整理された文庫本より、やや古めの雑本ハードカバーのほうが安かったりする。アゴタ・クリストフ200円とか。
 ミストラルにもどって仕事してると、酒井昭伸父娘が登場。奥さんと息子は石井竜也のコンサートに行ってるそうで。チケットが同じ日に4枚とれなかったから、父・娘組は昨日行って、今日は母・息子の日だって。子供たちは生まれたときからすでに米米ファンを義務づけられているのか。
 酒井家の半分はミストラルの串揚げを食べて去り、オレはフレッシュネス・バーガーへ。
古本屋で買った『しゃべれども、しゃべれども』を読み出したらとまらなくなり、とうとう最後まで読んでしまう。こりゃハマる人が多いのも当然でしょう。設定だけは知ってたけど、こんな恋愛小説だったとは。子供の話は『慎治』よりうまいかも。

 MAG TIMEでちょっと仕事して、家に帰って辻真先の講談社ノベルス新刊。この設定は『完全無欠の名探偵』を意識したわけじゃないの? まあ話は全然似てないけどさ。
 最近の講談社ノベルス長編群ではもっともまともな本格ミステリですが、特殊設定が生かし切れてないのは残念。バス消失の動機はちょっと無理があるような。解決に驚きがないので、読後感的にはいつもの(最近の)辻真先。
 しかし本ばっかり読んでて仕事が進まん。


【3月10日(火)】

 起きたら6時だった。鬼太郎とかるろ剣とか「ボキャブラ天国」とかつい見てしまう。ダメな感じ。フレッシュネス・バーガー→MAG TIME→ロイヤルホストとまわって朝まで仕事。『闇の中の哄笑』の解説を仕上げ、二百ページで中断していたリチャード・レイモンの追い込みにかかる。


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