【2月23日(月)】

 8時に起きて荷づくりして、すべりこみで10時に新宿駅。スーパーあずさで一路白馬へ。このへんの経緯は、マンガ家・河内実加さんの日記にくわしい。
 クヌルプ到着は2時ぐらい。笠井潔・翔親子はフロント前のソファで待機中。明日は雨かもしれないってことなので、徹夜組のマンガ家ふたり(喜国雅彦&河内実加)を残してゲレンデへ。
 K木さん@講談社文三は、『塗仏の宴』の入稿作業のため、白馬入りを延期。さいとうよしこは宝島社のPHS本の校了が延びたためドタキャン、二階堂さんも所用で来られなくなり、京都組(我孫子夫妻&法月綸太郎@新婚)は未着なので、メンバーは、笠井親子とC塚K子@小説すばる、国樹由香、貫井徳郎にオレの6人。カケルくんとは初対面なんだけど、ウワサ通りパワフルな小学生。NINTENDO64を持ち込んでるらしくて、ゲームとマンガの書き方の話題が中心。スキーはどんどんリフトに乗ってどんどん滑る。この親にしてこの子ありである。しかし父親のほうは徹夜が祟って疲れ気味らしく、しめしめな感じ。
 男性陣だけで黒菱まで上がって降りてきたけど、死ぬような目には遭わずにすむ。回数券で二時間滑って適度な疲れ。オレ的には、一日にこのぐらい滑ればじゅうぶんだな。

 クヌルプにもどると、いきなり喜国さんが事件に遭遇している。河内さんは喜国さんの名誉を慮って事件を伏せているが、外部のないオレはどんどん書く。というか、どうせ喜国さんが自分でネタにするだろうけどさ。
 スキー組がゲレンデに行ってるあいだ、喜国さんは近くの「おもしろ発信地」(って名前なんだからしょうがない)までジョギングし、ひとっ風呂浴びてくる予定だったらしいのだが、番台のおばちゃんに案内された先が女湯。男湯に入りかけたら、
「そっちじゃないですよ。こっちこっち」とわざわざ女湯に押し込まれたそうで、そうか、今の時間はこっちが男湯なのか……とのんびり浸かってると、壁の向こうからおやぢたちの声。本人に責任はないんだから、裸のおねえちゃんが入ってくるまでゆったり女湯を楽しめばいいのにと思うけど、プライベートでは意外と気が小さい喜国雅彦は、せっかくおばちゃんから購入した入浴セットを使うヒマもなく、そそくさと出てしまったらしい。
 ギャグマンガ家だといってもギャグマンガの登場人物のようには行動できないわけですね。ってあたりまえだけど。
 しかし言葉まで交わしてるというのに、やっぱり髪の毛の長さだけで判断されちゃったんでしょうか。長野五輪でやってきたパツキンガイジンギャル(死語)と思われた説も出ました。まあ、夜なら黙ってうしろ向いて入ってればバレなかったかもしれないが、昼間だからなあ。
 ……というようなエピソードを聞くと、反射的に広瀬正の『鏡の国のアリス』を思い出す人は少なくないと思う。あれも本人の責任じゃないんだけどさ。

 ところで最近のインディーズ系AVに、草津の巨大露天風呂を舞台にした「盗撮・露天風呂」ってシリーズがあるんですが、合法的レンタルビデオ屋に並んでるにも関わらず、(ヘアはともかく)顔にモザイクがかかってない。盗撮物も明日なきサバイバルの時代なのか。これだけアナーキーなインディーズ系が増えてくると、ビデ倫も存在意義がないんじゃないかって気がするけど、最近のAV業界のことはよくわからない。

 喜国雅彦女湯体験を聞いているうちに京都組が到着。笠井さんのクルマと我孫子さんのクルマに分乗し、近くの温泉銭湯、倉下の湯へ。
 もどって食事してから12時近くまで雑談。徹夜組が多いせいか、おとなしく寝る。


【2月24日(火)】

 雨だったら池袋の西武の古本市だね。今日は初日だから。という喜国さんの願いもむなしく、曇天なりに天気は持ちこたえている。
 クヌルプの愛川さんに送ってもらって全員でゲレンデに向かい、とっとと黒菱まで上がる。今日のテーマは喜国雅彦との対決。やっぱりスキーは勝負でしょう。笠井潔とか貫井徳郎とか、違う世界で滑っている人と勝負しても無意味なことは学んでいるのだが、喜国さんなら……勝てるかも
 卑怯にもスピード勝負を拒否されたので、コブ斜面コケない勝負。緩斜面直前で油断して思いきりコケてしまったが、敵はもっとコケていたのだった。はっはっは。

 スキースクールに入っていた河内・法月、下で滑ってた女性陣と咲花のロッジで合流。朝飯しっかり食って、上のロッジで休憩したときひとりだけ豚キムチ丼食ったのに、さらに腹が減ってカツカレーを食ってしまうオレ。過食症かも。

 今日のアフタースキーはなぜかゲーム。「ニャントロ星人の陰謀」は意外と盛り上がる。カードゲームやったことがないとインスタント系のカードの使い方が把握しにくいみたいで、イベントカードとアクシデントカードは減らしたほうがよかったかも。

 ゲーム一段落後は、「法月綸太郎、結婚までの道のりを語る」のゆうべ。……のはずだったが、我孫子武丸が絶好調。法月綸太郎が結婚できるはずがないことを鉄壁の論理で証明する。だって結婚してるじゃん。とかそういう些末なことは問題にしてはならないのである。10パーセント理論とか、もう爆笑でしたね。なにしろ18年におよぶ観察結果から導かれた論理なのでめちゃめちゃ重みがあります。
 それにしても法月綸太郎の結婚がそんなに悔しいのか>我孫子武丸。
 ま、この日のネタは、きっと河内さんの「我孫子くんと法月くん2」にまとめられるにちがいない。


【2月25日(水)】

 今日も曇り空。いつのまにかゴンドラリフトに乗ることが決定されているので、しかたなくリフトで山頂まで登る。ほぼ五輪滑降コースを降りてくわけですが、いやあ、こんな長いコースをあの人たちは2分とかですべりおりちゃうわけね。いやはや。
 しかし我孫子武丸は滑る前からもう疲れている。やはりゆうべ飛ばしすぎたのが祟ったのか。前回、笠井潔・桐野夏生・貫井徳郎のうしろについて必死で最後尾を滑ってたときは、オレは世の中でいちばん体力のない30代かもしれないと絶望的な気分に陥った大森だが、今回でわかりましたね。この三人のほうがまちがっている。今年は、喜国・我孫子コンビがへろへろ状態でオレのあとを追ってくるので全然疲れない。よしよし。
 いちばん最初に下まで降り、我孫子武丸がやっと追いついたとたん、「じゃ、行こうか」と滑り出す鬼畜な笠井潔。
「えー、まだあるのー。ここで終わりだってさっきゆったじゃーん」と泣きそうな我孫子武丸。
 しかしもっと鬼畜なのは笠井翔。小学生なのに、いちいちきちんとした敬語でしゃべる子供なのだが、はあはあ息をはずませている我孫子武丸をふりかえってひとこと。
「ゆっくり滑りましょうね。景色を楽しみながら。ずっと待ってると飽きちゃいますから
 ……。

 下のロッジでお昼に全員集合したあと、今日帰るC嬢、仕事が残ってる法月綸太郎といっしょにクヌルプにもどり、風呂に入ってから、部屋で小説すばるの書評用に『不幸の遺伝子』をのんびり読む。が、あんまり気持ちよくて昼寝してしまうのだった。原稿を各期力がまったくなく、パソコンの電源入れて3行書いたところであきらめる。催促メールも催促電話もないからまあいいや。

 夜はロッジのほうで、カケルくんに命じられた「我孫子武丸とのスターフォックス64」対決。
「じゃあ大森さんと我孫子さんで戦ってください。はい。いいですか。はい、そこでAボタン押してください。はい、それでいいです。あ、だめですねえ。いまうしろです。はい、逃げないと。そうそう。いま右です。そうじゃなくて反対」
 と小学生に操られるオレ。64版はまったくやったことがないので全然わかんない。だいたい笠井さんが「大森さんと我孫子さんはゲームの名人だからね」とか言うのがいかんよな。とほほ。

 カケルくんが寝ちゃったあとは、ふたたび我孫子節全開。無敵の「武士道」夫婦観が披露される。しかし、「自分ちの家事はぜんぶ妻にやらせたいが、社会的な男女差別に断固反対」って主張は、世間が許さないと思うな。逆ならともかく。


【2月26日(木)】

 朝食段階からすでにウェアに着替えて気合いばりばりの女性陣に引きずられるようにゲレンデへ。北尾根でカケルくんに勝負を挑まれ、当然受けて立つ。しかし直滑降でスピード出すといきなりコケる。3本滑ったうち2本は大転倒。
 最初にコケたとき、カケルくんはオレが起き上がるまでじっと待ってて、オレの再スタートと同時に滑り出す。ゴールに到着すると、
「同点でしたね」と言ってにっこり笑う笠井翔。しかしほんとはオレのほうが勝ってたと思うぞ――と心の中でつぶやいた「日本一おとなげない男」はオレだよ。「勝負は油断して敵に情けをかけると負けるんだよ」と教えてやろうと思ったのになあ。ちぇ。
 でもコケなかったときはちゃんと勝ったぞ。といばってどうする。でもまあ、そのカケルくんに20秒とかハンデを与えられていた喜国雅彦よりは情けなくないぞ。って情けないけど。でもロックな男はあんな小市民的な滑り方をしてちゃいかんでしょ。とかゆってたら、喜国さんはこれで恐怖心を克服してしまったらしく、最後にもう一戦した30男コブ斜面対決リターンマッチで、大森は一敗地にまみれたのだった。ああ、最後のよりどころが……。

 しかも、対小学生レース3本めの転倒でマイヤーのごとく吹っ飛んだ拍子に突き指をしたらしい。親指でよかった。というか、親指シフターじゃなくてよかった。

 お昼にクヌルプにもどってささっと風呂に浸かり、荷造りして宅急便出して、ふたたびスーパーあずさに乗って東京帰還。爆睡。


【2月27日(金)】

 スキーの後遺症であちこち痛む体にむち打って小説すばるの原稿を書く。頭が仕事モードにならなくて全然ダメ。『翻訳の世界』の書評をだらだらと仕上げ、途中で止まってた『街』をクリアして、隠しシナリオの「青ムシ抄」に入ったら、なんか頻繁にハングアップするようになってしまった。ま、オマケだからいいや。


【2月28日(土)】

 ゲームウォーカーの原稿を書き、『本の雑誌』用にSFの新刊を読みはじめる。『タイム・シップ』とか、『SFスナイパー』とか。




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