【12月11日(木)〜12日(金)】

 年末恒例、「キネマ旬報映画ベストテンのために、見逃してた映画をまとめて見るウィーク」に突入。月曜締切だから、それまでに最低20本見ないとね。
 ここ数年は洋画部門のみの投票にしてたんだけど、今年は夏エヴァを1位に入れるために(笑)、邦画部門にも参加することにしたから二倍たいへん。とりあえず、近所のレンタルビデオ屋が7泊8日190円のサービスデーだったんで、8本まとめて借りてくる。
 原稿は一段落中なので、起きてるあいだはひたすらビデオ見てるだけ。「うなぎ」「ウルトラマンゼアス2」「恋と花火と観覧車」「流れ板七人」「目撃」「THE DEFENDER」「イングリッシュ・ペイシェント」とか。


【12月13日(土)】

 ビデオ鑑賞を中断して、午前11時、黎会忘年会@六本木。フランス料理フルコースのランチを着席で、という珍しい忘年会。山岡さん@宇宙塵の弟さんがやってる《マキムシ》ってお店ですが、料理は四人前ずつ取り分ける形式で、お値段は非常にリーズナブル。
 伊藤典夫さんとおんなじテーブルだったんで、『塵も積もれば』をサカナに昔話を拝聴する。『本の雑誌』の書評は元気があってよろしいと誉められてちょっとうれしい(笑)。やっぱりケンカ売らないとダメなのか。
 そうそう、伊藤典夫×内田昌之対決もけっこう見物だったり(笑)。

 2時過ぎに解散してから、近所の喫茶店に十数人で流れ、一時間ほどお茶。さらにカラオケに流れる人々と別れて日比谷までもどり、シャンテで「ラヂオの時間」と「東京日和」をハシゴ。さすがに日比谷シャンテは混んでますね。映画はどっちもベストテンクラスで満足。
 家に帰ってビデオのつづき。


【12月14日(日)】

「瀬戸内ムーンライトセレナーデ」「傷だらけの天使」「岸和田少年愚連隊・血煙り純情篇」「誘拐」「ドラえもん のび太のねじ巻き都市」「人間椅子」「ファースト・コンタクト」「CLONEZ」「ファイナル・プロジェクト」と見て頭が爆発。
 ところで「誘拐」って、阿井渉介の『赤い列車の悲劇』と『Y列車の悲劇』が下敷きみたいな気がするんですけど。途中まで見て、この脚本は阿井渉介に違いないと思ったら、城戸賞受賞作なのね。シナリオのヒトは阿井渉介ファンでしょう。おかげで展開が完全に読めてしまったので、ミステリ映画としてはいまいちでした。いや、悪くないけど。
「岸和田」は前作とあまりにも変わっちゃっててびっくり。まさか、鈴木紗理奈出してこんなラブストーリーになるとわ。「傷天」は傑作。



【12月15日(月)】

 ビデオの残りを片づけてから新宿に出て「バウンスkoGALS」。「LOVE&POP」とモチーフが異常に共通してるのにベクトルが正反対でおかしい。やっぱ原田眞人のほうがおやぢなのか。

 JRで池袋に出て、サンシャインシティのナンジャタウンでアスキーの忘年会。水玉さんと落ち合って中に入ると場内は大混雑。藤原カムイさんご一行さまとか、GAINAXのてんちょさんこと佐藤取締役とか、武田本部長とか。須藤真澄さんや唐沢なをきさんも来てました。
 パスポートもらったのでアトラクション関係をざっと見て回り、あとは適当に飲み食い。人口密度が高すぎてなんだかよくわからない。昭和三十年代ふうのセット、福袋町だっけ、あれはちょっといいかも。イタリアンなフロアは謎ですね。

 11時過ぎに解散して、ギーゴ方面に去る水玉さん&カラオケ番長一行と別れ、電車で帰宅してキネマ旬報映画ベストテンを送る。こんなの。



●日本映画ベストテン

1 新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に
2 20世紀ノスタルジア
3 タイム・リープ
4 傷だらけの天使
5 東京夜曲
6 東京日和
7 ラヂオの時間
8 うなぎ
9 岸和田少年愚連隊・血煙り純情篇
10 鉄塔武蔵野線

「王立宇宙軍」から十年、ふたたびGAINAX作品を一位に選べて感無量。エヴァは、疑問の余地なく九〇年代最高の映像SFである。この傑作を一位に推すためだけに邦画部門への投票を決めたようなもんだ。とはいえ、「20世紀」の広末涼子も奇蹟のようにすばらしかった。「タイム・リープ」の成功は原作の功績が大きいが、国産SF映画の方向性としては圧倒的に正しい。しかしオレの場合、いまだに青春映画が邦画のツボかも。

●外国映画ベストテン

1 インデペンデンス・デイ
2 コンタクト
3 ロスト・ハイウェイ
4 目撃
5 マーズ・アタック!
6 スクリーム
7 ウォレスとグルミット、危機一髪!
8 ジャイアント・ピーチ
9 イングリッシュ・ペイシェント
10 スリーパーズ

外国映画監督賞 ロバート・ゼメキス

「ID4」の一位は出し遅れの証文だが、90年代最強のバカ映画である以上、出さないわけには行かない。割を食って二位に甘んじた「コンタクト」は、いまどきのSF映画に知性をとりもどしてくれたありがたい作品。「フィフス・エレメント」と「MIB」はほとんど笑えず、「マーズ・アタック!」も期待したほどのキレはなかったな。リンチとイーストウッドのがんばりは予想外。ベテランはしぶとい。


●日本映画個人賞

監督賞 庵野秀明
脚本賞 三谷幸喜
主演女優賞 広末涼子
助演女優賞 原田知世
主演男優賞 豊川悦司
助演男優賞 真木蔵人
新人女優賞 広末涼子
新人男優賞 圓山努

 九五年の十月からずっとエヴァで突っ走ってきたオレとしては、監督賞の庵野秀明は当然の選択。TVアニメの結末が劇場映画になったのはたんなる偶然だが、邦画にとってはつくづく幸福だったと思う。
 脚本賞は、さんざん悩んだあげく、穏当なセンで妥協。しかし劇場でお客があんなにくすくす笑う映画を見たのはひさしぶり。
 九七年もうひとつのマイブームは「二〇世紀ノスタルジア」なので、主演女優賞・新人女優賞ともにヒロスエ一点買い。「二〇世紀」の広末涼子は、「時かけ」の原田知世を越えている。同郷だから贔屓にしてるわけじゃないぞ。
 主演・助演男優は、「傷天」コンビ。走る豊川があんなに絵になるとはびっくり。この映画の原田知世を助演女優賞に選ぶのは反則すれすれだけど、使い方次第ではいまだにこの手の「マドンナ」が有効だという事実を証明しただけでも価値がある。その他、「ラヂオの時間」のモロ師岡、「岸和田少年愚連隊・血煙り純情篇」の中場利一も印象的でした。



【12月16日(火)】

 タニグチリウイチ氏から、米田淳一さんのページができてるよん、とメールで教えてもらって以来、スリリングな日記を毎日チェックしてたんですが、今日はいきなり大森が登場してて仰天。米田さんいわく、


 メールでは大森望さんが拙著のレビューを『アニメージュ』と『本の雑誌』に書いているとのこと。早速書店でチェック。
 はっきり言うと、大森さん、人の文章言う前に(以下削除(笑))。大森さんの日記は前から読ませていただいていたけれど、カラオケだの麻雀だのパーティだの、と大森さん自身の売れっ子ぶりが書かれていたけど、実際今大森さんの訳したインディージョーンズ見ると、あんまり(省略)。小説技術に難があるとか、異常なSFだとかさんざんに書かれていたけど、こういう具合な変わり身の素早さというのが出版界には求められるんですね。私はいいです。不器用でも、読んでくれる人たちを裏切るよりはマシです。まあ、でも、今年一番の異常なSFという評価はあたっているかも。ま、イイケド。

 文章をけなされたら、相手の文章をけなし返すってのは正しい態度でしょう。『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』(ハヤカワ文庫)の文章がどんなんだったか覚えてないけど、まあ、たいした文章じゃないことは容易に想像がつきますね。
 悪口っぽい部分に関しては確信犯なので、気を悪くしたんならごめんなさいと言うしかないんですが、「こういう具合な変わり身の素早さ」ってのはちょっと。
 だいたいつまんないと思ってたら書評ではとりあげないわけで、じっさい『プリンセス・プラスティック』は、SFマガジンの今年のSFベスト5に選んだくらい気に入ってるんですね。売れてほしいと思ってるからこそ、自分でページ持ってる書評媒体三つのうち二つでとりあげたんだし。
 ちなみに『本の雑誌』に書いた書評は以下の通り。

 誰からも愛されそうな『光の帝国』と対照的に、米田淳一の処女長編『プリンセス・プラスティック』(講談社ノベルス九五〇円)は、思いきり評価が分かれそう。
 キャンパス・クイーンに選ばれた美少女、シファ。でも彼女は、現代科学の粋を集めたBN‐X、次期主力突破戦闘艦だったのです。
 ……と、カバーも設定もコテコテのYA(ヤングアダルト)なのに、中身は山ほど註のついたガチガチのSFだもんなあ。ワームホールでつながった別宇宙に装備を格納する、戦闘総質量十一万トン、体重五十八キロの美少女兵器――エリアルかヤマモト・ヨーコかナデシコか、みたいな話が、思いきりミスマッチなシリアス文体で語られる。文章や構成には粗が目立つけど、今年一番の異常なSF。その意味では講談社ノベルスで出て正解か。

 一方、メインで扱った『アニメージュ』のほうはこんな感じ。

 またしても、自分で推薦文を書いちゃった本を紹介する。講談社ノベルスでコピー書くのはこれが二回目で、前回は清涼院流水の『コズミック』だったわけですが――と言ったとたん思いきり警戒する人がいそうなのは自業自得だとしても、米田淳一のデビュー作『プリンセス・プラスティック』は、そこまで凶悪じゃないにしろ、他に類似物がないって意味では、SF版『コズミック』と形容する人がいないともかぎらない。
 思いきりヤングアダルトなカバーイラスト(このキャラデザインはちょっとあんまりだと思います)が示すとおり、設定的には完全にヤングアダルト系SF。なにしろヒロインのシファとミスフィは、美少女型次期主力突破戦闘艦だもん。
 女の子=宇宙船の先行例には、マキャフリイの『歌う船』とか、長谷川裕一の『マップス』(はちょっと違うか)とかがありますが、この本のヒロインは体重五十八キロ。むしろ女性型の鉄腕アトムね。出撃時には華麗に変身するけど、戦闘機になるわけじゃなく、プラグスーツを蒸着するみたいなイメージ。いわば等身大の人型決戦兵器で、ワームホールでつながった別宇宙に十一万トン分の戦闘装備を格納、そこからとりだしたミサイルを敵めがけてぶん投げたりするんですな。
 舞台は22世紀の日本。新関西空港行き極超音速単独軌道往還旅客機(SSTO)、全日航AJA―997便が電子的にハイジャックされる事件が勃発。人工知能搭載のメガトン級核爆弾に支配された997便は、目的地を首都の新淡路特別立体都市に変更。衝突までのタイムリミットは一時間。
日本政府は次期主力突破戦闘艦・シファリス級のシファとミスフィの実戦投入を決意する……。
 このOVA的にとんでもない話を、ヘタな国際謀略小説みたいなガチガチのシリアス文体で書いたのが最大の特徴。雰囲気的には野阿梓+士郎正宗(山ほど註がついてる)なんだけど、小説技術的には欠点だらけ。登場人物は山ほどいるのに全然キャラ立ってないし(あ、悪の天才ハッカーが開発した女王様系のAI、クドルチュデスさんだけは別格ね。一人称は「チュチュ様」(笑)。えっちでお茶目で、けっこうツボです)。
 推薦コピーに、「ポスト・エヴァンゲリオン時代のラディカル・ハードSFが誕生した」と書いたら、「どこがハードSFやねん」的ツッコミを堺三保その他から受けたんだけど、オレ的にはこれって、「ラディカルなハードSF」じゃなくて、「ラディカルでハードなSF」のことなので、「正しい科学知識に基づくSF」は期待しないように。最近珍しい異常なSFとしておすすめ。

 好き放題にけなしてる……と読めなくもないけど、これは書評戦術の基本なので。だれにでも薦められる本じゃないことが(オレ的には)自明である以上、もてなしのよさを期待する読者に対して予防線を張っておく必要はあるでしょう、と。
 というわけで、推薦文書いた時点から評価が変わったとか、てのひらを返したとか、そんなつもりはないっす。

 キネマ旬報の増当氏より電話。
「ベストテンの投票ありがとうございました。それであの、ちょっとご相談なんですけど。ええっと、こちらで明文化してないのがいけないんですけど、今回、大森さん、主演女優賞と新人女優賞で、両方とも広末涼子に投票してますよね。じつは、キネ旬のベストテンはじまって以来、この二つの部門におなじ役者を選んだケースは今回がはじめてなんです」
 どうやらオレはたいへんなことをしてしまったらしい(笑)。しかしぜったいダメってわけでもないみたいなので、変更しないでそのまま通すことにする。いくらオレでも主演女優賞に「林原めぐみ」とか選べないしな(笑)。


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