狂乱西葛西日記96年12月8日〜12日


【12月8日(日)】

 今年最後の解説仕事、宮部みゆき『淋しい狩人』の解説に着手。とりあえず南砂町の田辺書店の話からはじめるということだけは決定してたんだけど、本論に入ったところで手が止まる(笑)
 困ったときに使う奥の手は、「返事はいらない」の解説で茶木さんがみんな使ってしまっているので、これは正攻法で行くしかないかも。ううむ。
 論座の原稿(「ラストマン・スタンディング」)を仕上げて送る。書くことが全然なくてすごい水増し。


【12月9日(月)】

『淋しい狩人』の解説のつづき。カラオケの話で行数を稼ごうとしたが失敗する(笑) しょうがないので作品論をめずらしくちょっとまじめに書いてみる。あまり冴えない。

 キネ旬ベストテンの封筒を開けて確認したら、締切が今週の木曜日。あわててベストテン候補作をリストから拾い出しはじめたら全然足りないことが判明。今年も日本映画は放棄することにして(ほんとは国内のほうが選ぶのは楽なんですけど)、レンタルビデオ屋に走る。一日五本ずつ見て話題作を十五本確認すればなんとかなるかも。
 って毎年おなじことしてるような気がするね。やれやれ。

 解説をえいやっと仕上げ、マラソン上映体制に突入する。借りたのは「イレイザー」「ロスト・チルドレン」「ベイブ」「セブン」「ストレンジ・デイズ」「デッド・ヒート」「9か月」「キングダム」(第一章・第二章)「ブロークン・アロー」「フロム・ダスク・ティル・ドーン」「ザ・インターネット」「コピーキャット」の13本。
 アジアカップのウズベキスタン戦が終わった12時から朝9時まででとりあえず四本半消化する。なんだ、「ザ・インターネット」でMUDみたいなシーンが出てきてたのね。それにしてもまあめちゃくちゃな話である。いまだに秘密のFDってのもなあ。「ストレンジ・デイズ」のMD(って中身は違うんだろうけど)のほうがまだしも。「イレイザー」もディスクをめぐる話で、モニタ画面に映るものを無視すれば、「イレイザー」がいちばんリアルかもね。


【12月10日(火)】

 昨日のつづきで映画マラソン。「ロスト・チルドレン」は、見るべきところがけっこうある映画なんだけど惜しい。しかしああいう女の子が出てくると抵抗できなかったりする。
「ベイブ」は悪くないんだけどなあ。しかしなぜパスワード(笑) 「9か月」はゴミ。クリス・コロンバスってわりと信用してたんですけど。「デッド・ヒート」もそれなりの出来なんだけど、やっぱり「九竜の眼」とか「ファイナル・プロジェクト」とかよりはかなり落ちる。パチンコの玉がでかすぎ。


【12月11日(水)】

 映画を休んでミステリー忘年会。もともとは早川系翻訳者の親睦忘年会からはじまったものらしいんですが、もはやなんだかわからないくらい人が増えている。ミステリ系翻訳者はそんなにたくさん知らないので、だれがだれなのかよくわからなかったり。編集者多数。
 バラードの新作版権の謎がちょっと解ける。柳下様におかれましてはご愁傷様でした。
 ご近所在住の翻訳家、金子浩氏とは初対面。小森収氏とも初対面――のはずだったが、挨拶しそこねる。嶋田さんの翻訳した「ネアンデルタール」はすでに7万部とか。風間健二氏のぼやきをいろいろ聞く。

 しかしこの日いちばんのハイライトは、やっぱり夏来健次氏でしょう。去年は有名な唾吐き事件があったんだけど、今年も見せ場をつくってくれました。HMMの布施くんとなんだか真面目な話をしているところに大森が通りかかり、
「夏来さん、最近おとなしいじゃないですか。なんか爆弾はないんですか?」
「いや、じつは戸川さんに一本わたしてある原稿があるんです」
「をを。それはなんのネタですか?」
「表面的にはトラベルミステリ論なんですけど……」
「その実体は?」
「茶木則雄論なんです」
 と、これには仰天あんど爆笑。さっそくその場を離れて、茶木さんを捜索する。
「茶木さん茶木さん、ビールなんか飲んでる場合じゃないっすよ。いま夏来さんと話をしてたんですけどね、なんか戸川さんにわたしてある原稿があって、今度は茶木則雄論なんだって」
 一瞬、顔面蒼白になる茶木則雄(笑)
「えー、なにー、なんでおれなのー。うそだろー。やめてよー」
「いやあ、これで茶木さんも一人前ですよね。関口苑生、池上冬樹につづいてターゲットになったんすから、もう隔離戦線でも大きな顔ができる(笑)」
「だっておれ、夏来さんケナしたこととかないんだよー。なんでー」
「んじゃご本人に紹介しましょう」
 ってことで、夏来・茶木対決が実現する。間に立って真面目におろおろする布施くん(笑) 茶木さんは顔がこわばっている。しかし個人的うらみがないせいか、夏来氏も冷静。新潟に帰る間際だったこともあって、流血の惨事は見られず。
 しかし茶木則雄氏は、
「あの原稿の件だったら、わたしも受けて立ちますから。ちゃんと書いてくれたら、反論しますよ。徹底的にやりましょう」
 とか宣言。そんな大見得切ってだいじょぶなのか、茶木りん。と心配しつつ遠くから見守りたい。しかし夏来原稿はほんとに創元推理に載るんだろうか。わくわく。

 とか書いてても、この事件がどういうことなのかわかる人は16人ぐらいしかいないかも。しかしこのこわさを説明するのはあまりにもこわいのでやめよう。

 マル鷹の岩田さんと評論家の西上心太氏につかまり、「関口××」について根掘り葉掘り聞かれる。が、口止めされたことについては口がかたいので(ほんとだってば)、敢然と口をつぐむ。西上さんの推理はけっこういい線行っているかも。

 二次会終了までだらだらしてたら、白石朗が早川書房のバニー岩井ちゃんをつかまえてきて、西葛西でカラオケだとか騒いでいる。新潮社の桜井京子から白石朗がタクシーチケットをせしめたので、三人で湾岸。道中、SFM新編集長の私生活の秘密をいろいろと聞き出す。いやあそうなんですか。人は見かけによらないねえ。びっくりびっくり。でも私生活と性生活に関わることなのでとてもここには書けないのだった。
 ベルボアでX2000を2時間。途中からさいとうよしこも合流。岩井ちゃんは明日も会社なのでおとなしく解散になり、大森は家に帰ってビデオのつづき。


【12月12日(木)】


 WOWOWをパスして映画とゲラ読み。「キングダム」は気持ちいいけどさすがにまとめて見ると疲れる。合わせて5時間ですか。「ブロークン・アロー」はよくできている。評判通り。
 今日が締め切りなので、なんとかキネ旬ベストテンをでっちあげる。こんなの。

●外国映画ベストテン

1 エスケープ・フロム・L.A.
2 キングダム
3 ファーゴ
4 ユージュアル・サスペクツ
5 ロスト・チルドレン
6 イレイザー
7 セブン
8 ブロークン・アロー
9 ストレンジ・デイズ
10 フロム・ダスク・ティル・ドーン

●外国映画監督賞 ラース・フォン・トリアー

「ID4」が97年に回ったおかげでベストワ
ン選びに四苦八苦。「エスケープ」は私が一
位にすべき映画ではないのだが、「だれかが
一位にすべき映画である」という無根拠な確
信により、無理やりハズレ一位に指名。「12
モンキーズ」の衰弱した立派さよりは、この
愛すべきくだらなさをとのが正しいSF映画
おたくの道だろう。「セブン」は七位に置く
しかないが、あとの順位は適当。なんか拳銃
ぶっ放す映画ばかり見ていたような気がする。

 映画が終わったのでゲラを読みつづける。なにを読んでるかというと、講談社の文三編集部から無理やり送ってもらった清涼院流水の第二作『ジョーカー』なんですね。京大推理小説研究会の会誌『蒼鴉城』に載った「華麗なる没落のために」、略称「華没」が原型。
 半分まで読んだ範囲では、『コズミック』よりずっとふつうに見える。が、小森健太朗絶賛なので、なにかあるにちがいない(笑)

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