【10月4日(金)】

 7時前に渋谷。東急BUNKAMURAオーチャードホールでクローネンバーグの「クラッシュ」。カンヌではブーイングとスタンディングオベーションで賛否両論まっぷたつ。無修正で上映できるのは映画祭だけかも――とか、まあさんざん前評判だけは盛り上がってたわけですが、なにこれ。だめすぎ。ただのクローネンバーグっす。こんなの2ヶ月もありゃいつでも撮れるんじゃないの。すっかりわかりやすいふつうの映画になってて、これならVRプランニングとかダイヤモンド映像で見たいって感じ。日本のAV監督ならはるかに破壊的な作品を撮るに違いない。
 これでシャロン・ストーンでもキャスティングしてりゃいいんだけど、デボラ・アンガーとかロザンナ・アークエットじゃね。おまけにベッドシーンは吹き替えだし、体位は後側位ばっかだし(車の中では対面座位主体)、ほとんど夜だからよく見えないし(笑)、いいかげんにしろっていうか。
 話題作だけあって知り合いがいっぱい来てましたが(アスミックの小川さんはゲームの部署から映画の部署に異動したらしい)、オーチャードホールのかたい椅子で尻がクラッシュしただけでした。柳下毅一郎はこの映画のどこがどう面白いのかちゃんと説明するように(笑)

 終わったあと、塩澤編集長、添野知生と竜の髭で台湾料理。仕事の打ち合わせと最近のSFの話を2時間して帰る。


【10月5日(土)】

 4時、高田馬場歌広場で、三村美衣、小浜徹也、山岸真、さいとうよしことBeMAX2時間。宮本浩次の新曲はどこにも入ってない。やっぱりギガかな。
 6時にユタに移動すると柳下毅一郎がひとりさびしく待っていた。5時ユタでデュエルの予定だったんで、ゆうべ遅く柳下家に電話して奥さんに伝言してあったんですけど、その後変更になって、連絡したけど自宅は留守電、PHSは通じず、どうせ来ないだろうからいいやと思ってたんですね。まあしかし携帯は通じたはずなので、とっとと電話しないのが悪い。ということにしておこう。
 柳下青赤デッキ対大森静止デッキの対決はインタラプトが飛び交う展開で全然気が抜けない。なんかすげえ疲れるかも。まあでもわりといい勝負かな。象牙の塔を出すタイミングがむずかしいと思いました。マナショート2枚カウンターされたし。
 あとはてんや→ルノワールのいつものコース。


【10月6日(日)〜8日(火)】

 天気が悪いので体調も悪い。だらだらしながら仕事。ジョン・クルートのIllustrated SF Encyclopediaの翻訳とか、『アウスラ修道院の惨劇』の解説とか、横溝賞の評価表とか。映画秘宝のウェイン町山氏から送られてきたビデオで「トォンキイ」を見る。ヘンリー・カットナーのわりと有名な短編が原作。未来からやってきたテレビ型ロボットの話ですが、なかなか愛嬌のあるテレビでお茶目。

 リトル東京がsdw.comからltokyo.comに引っ越すことになり、ホームページの更新は一時停止。伝言板に告知するのを忘れてたため、西上心太氏の書き込みがltokyo.comのlog.datに書き込まれてないetd.の不具合が生じている……が、まあこれはsdw.comのほうにデータが残っているので、あとでなんとかしよう。

 柳下毅一郎の映画的日記既報のとおり、8日火曜日の朝、洋泉社映画秘宝編集部のウェイン町山氏より架電。
「キネマ旬報の増当って知ってます?」
「添野の友だちだから名前は知ってるけど会ったことないなあ。どうして?」
「いや、ちょっと殺そうと思って(笑)」
 キネ旬10月下旬号の編集後記で映画秘宝最新号を罵倒されたのに激怒したらしい。
「いやあ、バカを怒らせるとこわいってことを教えてあげないと」とかゆってるけど、このときすでに稲中卓球部作戦(笑)が密かに準備されていたことなど、もちろん大森は知る由もないわけである。
 雨なので打ち合わせを順延して仕事場でちょっと働き、夕方家に帰り着くとふたたび町山氏より電話。
「やりましたよ。襲撃。編集部行って、増当の顔にパイをぶつけてきました。あ、この話はまだ内緒ですからね。あとで犯行声明を出しますから、それまでは黙っててください。いまんとこ実行犯グループと被害者以外で知ってるのは大森さんだけなんですから」
 なんでも、「インターネットのほうで告知しといてもらおう」と思って、イの一番でうちに電話してきた模様。しかし残念ながらサーバ引っ越しの最中でリアルタイム告知はできないのだった。
 襲撃班五人組(GONINだってさ(笑))のうちカメラ担当者はキネ旬の若い者(未確認情報によるとアルバイトの人らしい)につかまってハイキックを食らい、全治二週間の軽傷を負ったうえカメラを壊されたそうだが、ビデオには一部始終が収録されているとのこと。
 11時頃とどいたファックスの犯行声明には、そのビデオからとりだした「パイをぶつけた決定的瞬間」の写真がちゃんと(でもないか、えらい不鮮明だから)映ってました。
 いやあ近来にない快事というべきか。N木K次氏もこの徹底的なバカさかげんの明るさを見習ってほしいものである。
 映画秘宝ファンの人は、洋泉社に電話すればたぶんこの犯行声明をファックスしてもらえるでしょう。「インターネットで見ました」と言うと吉(笑)
 なお、一言つけくわえておくと、柳下とちがって大森は映画秘宝派(笑)とはたぶん見なされてないし(まだ原稿を書いたことがない。今度書くけど)、最近キネ旬でも年に一回仕事するかしないかなので、この事件に対してはニュートラルな立場です(笑)
 キネ旬編集後記における増当氏の映画秘宝罵倒は、内容においてはほぼ正当。それに怒ってパイをぶつけるという町山サイドの対応は、行為においては正当じゃないけど、その圧倒的バカバカしさがすべてを正当化しているので、これまたほぼ正当。あとは町山・増当の対決対談でもやって遊ぶのがいいんじゃないかと思いますね。


【10月9日(水)】

 5時、新宿三丁目のカフェラミルで翔泳社の編集者(妙齢の美女)と打ち合わせ。わりと怪しい本の翻訳の話。とりあえず返事は保留。しかし『神々の指紋』が140万部とわ。いや驚きましたね(と思ったら北上おやぢも驚いたらしく、あとで見た本の雑誌11月号の真空飛びひざ蹴りのネタになっていた(笑))。
 6時からは同じ場所で本の雑誌編集部の妙齢の美女、Y田N子嬢――じゃなくてY田女史だね、もう結婚しちゃったらしいから――にインタビューされる。「元気の出る本」ってことで大森が持っていったのはアーサー・ランサムの『海へ出るつもりじゃなかった』、金井美恵子の『恋愛太平記』、んでシモンズ『ハイペリオンの没落』。謎のとりあわせだけど、重い点が共通している(笑)
 小一時間で取材が終わり、Y田女史と同伴で、馳星周のデビューを祝う会(という名前かどうかはよく知らない)@池林房。噂の真相で正体がきっちり暴露されたので(というか、知ってる人はみんな知ってたわけだから、べつに隠さなきゃいけないことでもないだろうけど)、心おきなく坂東齢人のお祝いができるわけである。しかし噂の真相の「一見ソフトで、実は辛口の書評を書いている」というのは謎だな。
 パーティはいつもの太田トクヤ系チェーン店宴会なんだけど、会費は角川&馳星周のおごり。さすが10万部越えると違うね。しかし、聞いた話では、北上次郎が帯の推薦文を書くことは、坂東齢人は本が出るまで知らなかったんだそうで、このあたりは担当編集者・宍戸氏の手腕というべきか。タイトルも宍戸案だったそうで、バクチにハマりまくる破滅型編集者と見えてじつは優秀なのである。フットワークも軽いしなあ。
 宴会参加者はいつものメンバー+よく知らない人が半分くらい。編集者はわりと少な目だったかな。文春の女性編集者が自分の学生時代のスナップ写真アルバム(早稲田の女子バスケ部出身とかで、その関係の写真がほとんど)を持ってきてて、それがテーブルをまわってたんですが、あれはいったいなんだったんでしょう。でも香山二三郎氏とか食い入るように見つめてましたね。まあ考えたらイヌとかネコの写真を見せられるよりは女子高生・女子大生写真のほうがはるかにいいことははっきりしている。
 坂東齢人とここ3、4年ずっと喧嘩してるくせに『不夜城』は書評で誉めたS口E生の姿はなし。
「呼ぼうかと思ったんだけど、ファンタスティック映画祭で顔を合わせても無視されたから、やっぱり呼ばないほうがいいかと思って」
 とは馳星周の弁ですが、歴史的和解(笑)の現場に居合わせられなかったのは残念である。まあこうなったらずっと喧嘩しててもらってもいいけど。
 池林房から梟門に流れ、それから麻雀に向かう途中、ルルに寄ったら藤田善永・小池真理子夫妻がいたのでご挨拶。角川の大和さんとしゃべってて新潮社の話になり、
「そういえばアボさんって人はどうしたの?」
 と質問されて爆笑。SF業界はともかく、外部では無名の文庫編集者だったはずなのに。まあ新潮社を辞める人間は珍しいからそれだけで話のタネになるのかも。
 その大和さんと宍戸氏と三人で、北上おやぢとか茶木さんとかが先に打ってる雀荘に移動。待ってるはずの西上心太氏が逐電してたので、香山さんを無理やりルルから呼び出して東風戦を3局。赤五萬・赤五筒あり、ワレメあり、チップありのインフレ麻雀。香山さんが途中逃亡したため、3着、2着、4着にもかかわらず1時間で2万ガバス沈む。
 復讐戦のため、太田トクヤ氏が抜けたあとの北上・茶木卓に入り、午前6時まで8局。8局めにしてようやくトップをとる絶不調にもかかわらず、チップの貯金でなんとかマイナス1万ガバスに押さえて終了。
 店を出てから、「んじゃもう一軒行くか」という北上おやぢの悪魔の誘いを振り切り、家に帰って死んだように眠る。


【10月10日(木)〜11日(金)】

 体育の日はけっきょく16時間眠りつづけておしまい。最近は一回寝ると必ず12時間以上になるような気がする(笑) 16時間も寝ると、起きてしばらくは活動できないので効率が非常に悪い。
 というわけで、金曜日はそのまま寝ないで「インディペンデンス・デイ」の試写。字幕つきで一回見ようと思ったんだけど、さすがに忘れてるシーンはなかったな。戸田奈津子の字幕は珍しく出来が悪くてポイントをはずしてる。というか、やっぱりSFがよくわかんない人なのかも。
 試写にはガイナックスの佐藤てんちょさんとエヴァ副監督の摩砂雪さんも来てて、終わったあと盛り上がりました。兵隊エイリアンぶん殴りシーンとかで爆笑してたのはこの二人だけだったり(笑) 徹夜で試写に来た摩砂雪さんは駅からまっすぐ帰り、てんちょさんとふたりでアマンドでお茶。エヴァの劇場版をめぐるひみつの話とかいろいろ取材する。


【10月12日(土)〜13日(日)】

 重い腰を上げて、自宅と堺アパートの大量の本を仕事場に移動する作戦に着手。助っ人は、さいとう弟(和之)、藤元直樹、雑破業、小浜徹也、三村美衣、山岸真、添野知生、小江雅美、白石朗(だいたい到着順)。
 とてもぜんぶ一度にはできないので、自宅の和室にあるSF関係の本はとりあえずパスして、合計で本棚11本分の本を仕事場に移動。1時半から7時半まで、軽トラックを6時間借りて、箱に詰めた端から運んでゆく。仕事場の洋間を一部屋まるまるつぶして7段スチールラックを11本(三方の壁ぎわに7本、真ん中に4本)並べ、書庫にする計画。しかしもともと自宅のほうの本は収容能力の限界以上に詰め込んであるし、袋に入れて運んであった分が本棚2本分以上あるのでとてもこの部屋だけでは収容しきれないのだった。
 レンタカーの時間があるので、とにかく運ぶだけ運んで仕事場のリビングに本の山を築き、一段落したところで全員で焼肉。
 それからもどって、朝までかかって本の山をざっと仕分けして、右の壁ぎわに国内作家単行本、左の壁ぎわに翻訳単行本、中央にペーパーバックをざっと並べ、なんとか詰め込む。いやもうたいへんです。あとは廊下に3本、さいとう部屋に3本、大森部屋に3本でスチールラックが計20本。これで12000冊くらいかな。自宅に残ってる本棚が9本、さいとうの実家に送ってる分が10本分くらい。大森の実家に残ってるのが6本分くらいあるので、ぜんぶ合わせると25000冊くらいでしょうか。たいしたことないな。パソコン誌をまとめて捨ててしまったし(アスキー5年分、マックライフ3年分とか)、雑本もかなり処理したので、中心は70年代〜80年代の洋書と70年代以降のSF関連和書と90年代の国産本格ミステリ。
 あー堺のところにはまだ雑誌の山が残ってるけどこれはさいとうの分だから関係ないや。それにしても、東京の場合、本の購入代金より保管コストのほうがはるかに大きいのである。あーみんなデータ化してHDにぶちこめたら1000万以上節約できるのに。

 朝を待ってメトロセンターの中卯で牛丼食べて解散。ご協力いただいたみなさん、ありがとうございました。このご恩は一生忘れません。

日記の目次にもどる
ホームページにもどる
リトル東京ページにもどる