乳の詫び状(2005/08/21)から。

標題: 快挙「会話によるソフトウェア工学の開発実践」
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 私の恩師であり、先輩であり、友人(勝手にそう決めてる)でもある九州大学
教授の荒木啓二郎先生が監修された本の紹介です。
 つまらなければ荒木さんが監修したとはいえ紹介しないのですが、この本は
滅法面白くかつ役に立つ。あ、荒木先生に言い訳しておきますと、荒木先生の
ご著書を紹介してないのは、つまらないからではなく、プログラムの理論であ
り、意味論や公理系など専門性がとても高いので、私の頭がついていかないせ
いです。すみません。

 さて、その本とは、ハイパーソフト上海の代表取締役鐘友良(YOULIANG 
ZHONG)さんがお書きになった「会話によるソフトウェア工学の開発実践」で
す。中国上海訳文社より出版されています。
 この前、九大に教えに行ったとき、この本の校正原稿が荒木先生の部屋に転
がっていて、ちらちら見せたもらったときに、これはなかなか面白そうだと思
っていたのですが、荒木さんから本が出来上がったからと送ってもらって読ん
で、改めて期待以上に面白いと思いました。
 内容は、ソフト開発の案件の打ち合わせから、分析、設計、開発、テスト、
納品まで現場にいるような臨場感で会話が進んでいくものです。しかも最新の
話題やソフトウェア工学のエッセンスがふんだんに盛り込まれています。たと
えば会話には、Java, .NET, StrutsやAntなども出てきます。UMLのクラス図を
描く話も出てくるんですが、単に出てくるだけじゃなくて、最初は安易に継承
関係を使わないほうがいいなどと、ツボを押さえています。
 それから、鋭い指摘も随所にあって、たとえば、帳票設計。
 第9章「帳票の設計と作成」の「会話の背景」という導入部には、
「帳票の設計と作成は、多くのソフトウェア工学の教科書ではあまり論じられ
ていない。現実では、特に日本の開発現場では、帳票の設計と作成に関する工
数が大きく影響し、苦労することも多い」
などと、現場からみた真摯かつ立派なソフトウェア工学批判にもなっています。
 こういうものが、中国語と日本語の対訳構成になっていて、日本語の漢字に
は全部ルビがふってあるのです。
 ぼくが勤めるアンテナハウスも中国に別会社があるんですが、中国の人とは
もっぱらあちらの日本語ができる人を通じてやり取りしています。
 本書で中国人が勉強して、ますます、日本の開発が中国にアウトソーシング
され、日本人は失業しそうですね。\(^O^)/
 そのときは、中国語を学んで、上海に住んで福岡といったりきたりすればい
いだけのこと。\(^O^)/
 とかいいつつ、本書があれば中国語でやり取りできるようになるかな。おれ
の語学能力じゃ、いまさら難しいかもしれませんが、もちろん、それは本書の
責任でありません。

 帳票と聞いて、ここで突然宣伝しておくと、アンテナハウスでは、XMLベー
スの帳票設計ツールReport Designerや帳票印刷に使えるXSL Formatterを開発
販売しています。

http://www.antenna.co.jp/
アンテナハウス
http://www.antenna.co.jp/XSL-FO/
XSL Formatter
http://www.antenna.co.jp/designer/
XSL Report Designer

 みなさん、よろしく。\(^O^)/

 本題に戻ると、本書は、熊本の紀伊国屋では定価1500円で販売されてい
るそうですが(ほかにも交渉中のところもあるとのこと)、amazon.co.jpにも登
録されていませんので、なかなか日本では入手困難です。
 そこで本書を紹介するにあたって荒木先生に相談したところ、同じく監修を
なさった石塚正令氏からメールを頂戴しました。

--- ここから ---
わたしのところに、住所をお知らせいただいた方には、郵送による代金との引
き換えで、2000円(1500円+送料・手数料)ということで、販売した
いと思います。
この本の紹介ページは日本語が
http://www.hypersoft.com.cn/book_jp.htm
中国語が
http://www.hypersoft.com.cn/book.htm
にあります。
--- ここまで ---

中村注:(2007/05/30)
 kozawaさんが、
http://iiyu.asablo.jp/blog/2005/08/24/52841#c1540891
にコメントしてくださっています。
--- ここから ---
http://www.hypersoft.com.cn/book_jp.htm 
はnot foundになってますね。そのかわり、google検索したところ、 
http://www.hypersoft.com.cn/html_en/bookorder_jp.php 
というページがひっかかりました。まだ試してませんが、直接注文できるのかもしれません。
--- ここまで ---

 石塚さんのメールアドレスをぼくのウェブに載せるとスパムの標的になるの
を心配していたのですが、石塚さんからは、ほかに良い手がないのでやってく
ださいとのことですし、上記、日本語の紹介ページにも載っているので紹介し
ます。
ishizu@smate.jp
です。
 上記日本語紹介ページはぜひ一読を。前書きと目次をみただけで、面白そう
でしょ? 実際の内容は、第10章がWordのファイルとして掲載されています。
PDFだったらもっとよかったでしょうけれど。

 ここまで日本語・中国語入り乱れて開発現場のやり取りを本にしたもの、そ
れもソフトウェア工学入門にもなっていて、かつ、現場感覚もあるものは、世
界初というか人類の歴史上初の快挙と思うので、紹介した次第です。
 個人的には唯一不満があって、あとはこれにもっと生々しい金の話があれば
なあと。
 「予算がいくらで納期がこう」で、「いやそれだったらもっと出してもらわ
ないとこっちが赤字になる」などといったことがあれば、そして開発が滞って
責任のなすり合いになったときの会話、予算オーバーの金をどっちが負担する
んだなどといったことがあれば、完璧でしたね。\(^O^)/
 もはやソフトウェア工学の範疇を超えているけど。\(^O^)/
 そうはいっても、納期と予算の制約がない開発なんて、まずないんだから、
ソフトウェア工学でももっと生々しくテーマにするべきなんでしょうね。