■予兆(複雑系の気配とたたずまい)
『からむし織の里フェア』があった。
福島県大沼郡昭和村では、08年7月19日と20日に『からむし織の里フ
ェア』という、おまつりがあった。その村にある、昭和館という旅館での話で
ある。
女性ひとりで、3泊されるお客様がいる。
その方(とりあえずKNさんとしておく)は、昨年もいらっしゃって、3度
目の御来村だという。
自転車に乗ってきている。
近所のからむし引きの名人のおばあさんのところで習って、自転車を借りて
きたのだという。
からむし織の里フェア当日。わたしはこの村の出身であるが、『からむし織
の里フェア』を実際に見るのは実は初めてなのである。このフェア(まつり)
を見る(経験)為に、はるばる奈良から、はるばるとこの村まで3度も足を運
ばれる方がいらっしゃるのである。
からむし引きの実演、機織(はたおり)の実演、などがある。
KNさんも、からむし引きを実習体験をしている。
村の指導員の女性は「わたしよりうまい」という。
ただ、引き方が昭和村の引き方ではないのである。それでも、白い繊維だけ
を絶妙に引き出す結果は同じ。しかも手馴れている。
奈良で、野からむしを畑で育てていて、自己流で引いているという。
引いたままでは布にはならない。布になるまでには、その繊維を乾燥させて、
その繊維を縦にほぐして、そのほぐした繊維を一本一本縒(よ)りを掛けて、
繋いでいき、長い長い糸にするのである。
そして、その糸を縦と横に織り込むことによって布になるのである。
自己流といっても、そこそこの設備、からむし引き台なり、紡ぎ車とか
機織(はたおり)機などが必要であろう。
機織機といっても、糸を準備して掛けておけば、機械的にぱったんぱったん
とはたをる機械ではないのである。鶴の恩返しに出てくる機織機なのである。
縦糸を按配して並べ、按配してとは都合何尺の長さの布を織り出すかで、縦
糸の長さは自ずと決まる。「都合何尺」とさも事情通のふりしているが、実は
長さの単位も幅についても筆者はなんの知識も無いのである。
その縦糸を縫うように横糸が紡がれるのである。つまり、単純に説明すると、
偶数番目の縦糸群と奇数番目の縦糸群が、横糸を1回通すごとに、ぎっこんば
ったんと、反対方向に上下しなければならない。
この上下動は、木製で組み合わせられたからくりで、方向移動の伝達を足で
操作するのである。
そのようにして、縦糸を按配して、紡錘形に巻かれた糸(この場合は横糸)
を右から左、左から右と縦糸の間を通すためのケースに入れて、この左右の往
復運動もすべて人力で織っていくのである。
からから、とん、からとん、しゅっしゅ、からとんからりん、からから、
とん、からとん、しゅっしゅ、からとんからりん、からから、とん、からとん、
しゅっしゅ、からとんからりん、、、、
このからむし織りの機音(はたおと)は、1996(平成8)年に、環境庁
100選「日本の音風景」として選ばれ、登録されている。からからとんからとん。
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