きくししとう Listening


きくししとうからの続きの続き


〜最近聴いたCD(の一部)〜

*「攻殻機動隊」(V.A/SONY)
*「SUBLIME the ADOLESCENCE」(V.A/Sublime Records)


*「攻殻機動隊」(V.A/SONY)
 プレイステーションのシューティングゲーム「攻殻機動隊」のサントラです。ゲームとテクノ
は親和性が高いためか、それとも、クリエイターたちにゲーム好きが多いからか、このサントラ
「WIPEOUT」同様、テクノ・クリエイターたちが集合。石野卓球の監修で、マーク・ヴァ
ン・ダイク、ハードフロア、アドヴェント、ジョーイ・ベルトラムらが曲を提供しています。そ
して、注目すべきは、デリック・メイが新曲を出しているということです。
 デリック・メイといえばデトロイト・テクノのオリジネイターの一人、長いこと新曲を発表し
ていなくて(System7に1曲提供していますが)、ファンはそれこそ首を長くして待っていまし
た。そして、この新曲「TO BE OR NOT TO BE」がこのサントラの中で一番、異色作だったので
す。
 実は曲に関して言うと、少し、失望もありました。ひょっとして、旧曲でボツにしていたトラ
ックを繋いでリミクスしただけかも、と思うくらい、今までの作品のどれかを彷彿とさせるもの
だったからです。でも、それもデリック・メイ節のせいと思えば、「ああ、相変わらずだなあ」
などと言うこともできるます。
 ただ、それでも、この人はすごいな〜と思ったのは、他のクリエイターたちが、まがりなりに
もゲームを盛り上げるような曲を提供してきたのに、デリック・メイはまったく、ゲームのサン
トラだということを無視したかのような曲を出したことです。ゲームをやっていないので(けっ
こう難しいそうです)、この曲がどういった局面で使われるのか分からなないまま、こんなこと
を断定するのははばかられるのですが、まず、シューティング場面は、この曲では盛り上がらな
いと思います。エンディングやステージの繋ぎ目だったら、多少はいいかもしれません。
 こうなってくると、最近は特にゲームにはまってるわけでもないらしいデリック・メイが、な
ぜ、この企画を受けたのかも不思議に思うことがあります。あくまでも勝手な想像ですが、その
場のノリで引き受けておきながら、自分のやりたいようにやってしまった、みたいな感じもしま
す。
 まあ、ホントのところはどうであれ、この曲で久々に新しいデリック・メイ節を聞けたわけで
すし、なんだかんだ言っても、実は、サントラの中で、私の一番、お気に入りの曲なのです。

「SUBLIME the ADOLESCENCE」(V.A/Sublime Records)
 ベテランのDJであり、パーティーのオーガナイザーである山崎マナブさんは3年前、レコード
会社のノウハウを何も知らないまま、サブライムを立ち上げました。記念すべき最初のリリース
はケン・イシイとススム・ヨコタのドーナツ盤。この話をしてくれたとき、山崎さんが「ドーナ
ツ盤ってところがしぶいでしょ」といたずらっ子のように笑ったのが印象的でした。大好きなア
ーチストであり友人でもある彼らの曲を自分の手で世に出してみたかったのだそうです。それも
アーチストの出してきた曲のクオリティを、そのまま再生できるようなレコードにして。ところ
が、日本にアナログのプレス工場は一軒しかなく、大手にスケジュールを押さえられており、イ
ンディーズが入り込む余地はなかなかありませんでした。
 色々な人に紹介してもらって、ついに、イギリスのプレス工場と契約したそうですが、「今と
なっては、よく、僕なんかと契約してくれたなあって思いますよ」と笑っていました。海外の会
社と契約した人たちの契約書を見せてもらい、見様見まねで契約書を作ったりしたそうです。
 山崎さんを助けてくれたのは、「パーティーやイベントを組んでいくうちに親しくなった」友
人たちでした。それもそのはず、当時、日本のテクノ・シーンはクラブなどの現場では徐々に、
すそ野を広げつつあったのですが、日本のメジャーなレコード会社はもちろん、大手レコード店
などの流通関係も力を入れていなかったし、マスメディアも大きく取り上げることはありません
でした。誰もテクノが「商売」になるとは思っていなかったし(テクノのほうでも「商売」にな
るだろうとか、しようとか考えていなかったようですが)、それ以前に「テクノって何?」状態
だったのです。もっとも、テクノの現場をよく知っている山崎さんも大企業に助けてもらえるな
どとは思ってもいなかったでしょう。自分と友人たちの情熱だけを原動力にサブライムをたちあ
げ、運営してきたのです。
 「サブライムはそういう横のつながりで出来上がったんですよ」
 そして、サブライムは、ケン・イシイ、ススム・ヨコタ、ヨシヒロ・サワサキのような日本テ
クノの大者たちを抱え、4HERO、ダン・カーティン、マックス・ブレナンといった海外の俊英の
作品のリリースもするなど、日本を代表するテクノ・レーベルとなり、今年で3年目を迎えまし
た。
 3周年記念にと出されたのがコンピレーション・アルバム「SUBLIME the ADOLESCENCE」
です。レーベルの記念コンピというと、いままでリリースした旧曲を収録することが多いのです
が、これは、全部、新曲でお得です。アーチストはケン・イシイ、ヨシヒロ・サワサキ、スス
ム・ヨコタ、レイ・ハラカミ、オキヒデ、ツッチー、WHY SEEP?、Co-Fusion、ダン・カーテ
ィン、マックス・ブレナン、ディーゴとサブライムに縁のあるアーチストが集合。テクノという
一言ではくくれない、そして、いつもシーンの先端を突っ走っているメンツでありながら、アル
バムを聞くと、ばらばらという感じはなく、不思議なくらい統一感があります。それは、ブレイ
ク・ビーツを使用した曲が多いせいかもしれません。アーチストたちが示し合せたわけではない
ようなので、彼らがブレイクビーツの隆盛を敏感に感じ取っていたということでしょう。だとし
たら、これは、この97年だからこそできたコンピであり、テクノの最先端を示した未来的なコン
ピと言えると思います。

 私が山崎さんに話を聞いたのは、サブライムが出発して2年目のときでした。そのとき、山崎
さんは「2年経って、ようやく軌道に乗ったような感じです。レコードのプレスのこともそうだ
けど、僕の役目はアーチストとコミュニケーションをしっかりとって、彼等をサポートするこ
と。インディーズで、小回りが利く分、新しい技術やユニークなアイデアもすぐ試せるので、い
ろいろやってみたいですよ」と、意気込みを語ってくれました。
 山崎さんに会った人はたいてい言います。彼は渋い声でよくしゃべり、いつも明るくて元気だ
と。私も人に山崎さんのことを聞かれたら、そう答えるでしょう。軌道に乗るまでかなりの苦労
があったはずなのに、にこにこしながら「いろいろなことが経験できて楽しい」と言うのですか
ら。そのバイタリティとレーベル主宰者としての審美眼(耳?)には、感服します。
 「100万枚売るのも、1万枚売るのも、やることは同じですよ。自分の感性に共感してくれた
人が世界に1万人いたということがうれしいです。でも、死ぬ前に一度、ミリオンを出してみた
いかなあ」
 ミリオン出せるかどうかはともかく、いつまでも「青春期」の若者のような、みずみずしく
て、将来の可能性を感じさせる、わくわくするような音楽を出すレーベルでいてください。

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