9月の海(トビ)

 日の岬から眺めた9月の海はとても青かった。ひたすら挑戦的に照りつけていた夏の太陽がふっと力を抜き、風が変わる季節、子育てを終えた夏鳥達は誰に教えられたわけでもなく南下を開始していた。

 「日の岬でタカが沢山渡っていくよ。」と人から聞き、良く晴れた週末を待って岬に向かった。思えば昨年の今頃は和歌山の右も左も分からず、ただやみくもに走り回るだけで何の収穫もない、フウッと溜息が出る様な日々を過ごしていた。例えば通い慣れたフィールドなら、何時どこでどんな鳥がどんなことをしていて、光がどちらから当たるからどの角度でカメラを構えればどんな写真ができあがるというような計算もできるのだが、生まれて初めて足を踏み入れた「紀の国」はその広さ、深さ共なかなかのもので、切り口がみつけられずもがいていたのだ。

 「まただめかもな…」早くも弱気になりながら岬をめざした。岬の空はおだやかに晴れ渡り、海は優しく青かった。何種類ものタカや小鳥が南に向かって飛んで行った。何週間か通ったが、結局写真はトビしか撮れなかった。それでも気持ちは随分なごんでいるのが自分でも分かった。やっといいフィールドに巡り会えたなあ、と思った。

 今年、早くも和歌山を離れることになって、つくづく和歌山の海は良かったなあと思います。また、綺麗な海に会いに参ります。みなさんお世話になりました。表紙の連載はご好意により今年度一杯続けさせて頂くことになりました。もうしばらくお付き合いの程宜しくお願い致します。
                                   (紀の国 1993.9)
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